ウルフの丸焼き ユキを添えて
意気揚々と足を踏み入れた新ダンジョンは、なんといきなりの大草原であった。
浮ついた気持ちのままウルフの群れを見つけたトウカは、一人誘われるように突っ込んでしまう。
激闘むなしく(脚色あり)散ってしまったトウカを迎えるため、ユキは一時撤退を決めたのだった。
「ご、ごめんなさいっ!」
ダンジョンを脱出し、セーフティエリアに入る。
その瞬間、淡い光に包まれながらトウカちゃんが復活した。
ぱちぱちと目を瞬かせると、私たちを認識。
そして開口一番にとび出た言葉が、さっきのものだ。
「別に、気にせんで」
「こっちこそ、カバーできなくてごめんね」
「いえっ! わたしがとびだしちゃったので……!」
丸っこい耳をぺたんとさせて、しゅんとした顔をしてみせるトウカちゃん。
なんというか、このゲーム、本当に芸が細かいね。
庇護欲を掻き立てる光景に衝動的に頭を撫でたくなるのを堪えながら、私も言葉を紡ぐ。
「ハンマーは詰めないといけないんだから、きにしなくていいんだよ。それに、惜しかったし!」
そう。あの時、たった一振りでたしかに三体のウルフを葬った。
格上相手にただの打撃であれだけ持って行けるのは、ものすごいことなはず。
「まぁ、1番無難な連携としては、壁役が敵の注意を引いたのを確認してからアタッカーが攻撃するって感じやけど……」
「うちのパーティだと、壁役ってやっぱり私だよね?」
「いや、ユキは体力が高いだけのアタッカーやろ」
「どーして!」
「タウント……ヘイトをとる系のスキルを一つも持ってないから」
「うぐ」
「最速で攻撃してヘイトをとるってタンク職の立ち回りも存在はするけど、ユキの場合は初動も遅いし」
「うぐぐ」
「あーあー最初は壁職業だったはずなのにどうしてこんなに脳筋になってしまったんやろな~!」
「あ、あれ? どうしてだろう。どうして私が責められているんだろう……」
「あわわわ。元気だしてくださいっ!
ユキさんは、えっとその、かっこいいですよ。ビーム!」
「うー、トウカちゃんありがと~~」
わたわたとしながらも、何とか励まそうとしてくれたらしいトウカちゃん。
その姿には思わず心が和んでしまう。
……まぁ、その言葉じゃあんまり慰めにはなっていない気がするけど!
うーむ。挑発系の技能……ねぇ。
確かに、現状できもしない支援行動を模索するくらいなら、この高い体力を活かせた方が良さそうだね。
トウカちゃんもカナも、耐久面はからっきしだから尚更。
うーん。一応、GAMANを始める時に、ちょっとだけ相手の気をひけたはずだけど。
……いや、このメンツでやっても焼け石に水だね。
カナとかトウカちゃんから感じる圧力とかで、一瞬でヘイトが散っちゃいそう。
ふむ。挑発、タウント、ヘイト稼ぎ、先制…………。
「…………あ」
「お?」
「やれる、かも」
「ほう」
そうだ。
ひとつだけ、思いついた。
要するに、初動で撃てて、かつ相手の注意をしっかり引き付けられるものなら良いんでしょ?
あるね。うってつけのものが!
「うん。いける。任せて!」
「おー!」
「ほんまか? 無理はせんでええんやで?」
口調とは裏腹に。どこかにやにやとした表情をみせるカナ。
これは、馬鹿にしてる……というより、読まれてる?
「ううん。問題ないよ。早速ためせる」
「おーけー。トウカはどうや?」
「わたしも、汚名挽回……あ、返上です!」
「よし。リベンジや!」
おー! と拳を突き上げて見せるトウカちゃん。
名誉挽回と汚名返上、たまに言い間違えるよね。わかるよ……!
◇◇◇◇◇◇◇◇
反省会? を終えて間もなく始まった、ダンジョン探索第二回。
隊列に変更はなく、わたしを先頭にトウカちゃん、カナと続く。
ダンジョン内の構造は、特に変わることはないみたいだね。
よかった。入るたびにがらっとかわる完全ランダムだったらどうしようかと考えてたんだ。
先ほどと同じ草原を、のんびりと歩く。
少し進むと、また前方からオオカミが走り寄ってきた。
「ふむ。今度は5体か。いけるか?」
「問題なし!」
力強く宣言して、二人をその場に残す。
要するに、軽く一当てして、敵さん全員のヘイトを買えばいいんでしょ。余裕よ余裕。
……私の自尊心さえ投げ捨てればねっ!!
すぅーっと、大きく息を吸う。
トウカちゃんたちから一メートルほど進んだところで、両手を握りしめた。
「がっおーーー!!!」
力の限り、咆哮を上げる。
【聖女の咆哮】が発動。五体のウルフに直撃した。
こちらのレベルは48で、相手は全員50。
向こうのほうが高いせいか、強力な状態異常は発生させられていない。
せいぜい、二体にスタンが入ったくらいかな。
でも、目的は果たした。
ショックを受け、動きを止めてしまった二体。
そして、残り三体も、明確にこちらに敵意を向けてきている。
「ふっふっふ。おいでーっ!」
勝ち誇ったように誘ってみれば、三つの影が一斉に襲い掛かってきた。
牙を突き立てられることにも構わず、堂々と二本の足で立ちはだかってみせる。
「その程度、私が対応するまでもないっ!
この身ひとつで充分よー!」
「できることがないだけともいう」
「余計なこと言わなくていいのーー!!」
「はっはっは。【ファイアウォール】」
カナが言葉を紡ぐと同時に、私の足元に熱線が走る。
そして次の瞬間、私の付近一帯から炎が噴き出した。
「ちょ、カナ!? 熱い、熱いって!」
「あっはっはっは! だいじょーぶやこのゲームにフレンドリーファイアは存在せん!」
「なんもみえないし、なんならめっちゃ熱く感じるんですけどーっ!?」
燃え滾る炎の、ど真ん中。
確かに、システム上ダメージは発生していないはずだけども!
なんかこう、炎の圧が。精神的プレッシャーが!!
きゃーきゃーと騒いでいるうちに、炎は跡形もなく鎮火する。
私の周りにまとわりついていたオオカミ三体は当然のこと、残り二体はトウカちゃんが容赦なくぶっとばしていた。
どうにも締まらない感じではあるけれど、作戦成功。私たちの大勝利というわけである。
……大丈夫? ほんとに服とか髪とか焦げてない??
敵より先に味方に燃やされる聖女……ん?これ今までで一番『聖女』っぽいんじゃない?(偏見の極み)
味方の爆炎に包まれるのは、味方のコースティックガスに包まれる程度と思ってもらえれば、わかる人はわかると思います。
今週3話め。とてもがんばりました(主観
今後ともよろしくお願いいたします。




