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ちょっとひといき

(第80話 3章としては第1話になります)


ユキ『次のゴブリン侵攻の時、カナってどっち陣営なんだ……?』







 無事にイベントも明けた、その日の夜。


 家で一緒にご飯を食べて、お風呂も済ませた私たちは就寝前のうだうだ雑談タイムと洒落こんでいた。


 かなり広めのベッド。そのいつもより端にいる私の隣には、カナがスマホを片手に寝転んでいる。


 普段はそんなに触れることじゃないけど、ほんとスタイル良いんだよね。

 体重はそこまで変わらないんだけど、向こうの方が身長高いからかな。かなりスラッとして見える。


 カナは運動も得意なんだよねー。

 勉強はさすがに負けないけど、それでも学年で上位一割くらいには入っている。

 運動も、勉学も、ひいては趣味まで。さも自然な様子でハイスペックを叩き出す。それが、私の親友(カナ)

 ま、裏では結構な努力をしているんだけどね。知っているのは私と、家族だけじゃないかな。


 何となく、その整った横顔をぼーっと眺めていると、不意に彼女がスマホを脇に置いた。

 こてんと顔をこちらに傾け、目と目が合う。


「なんやー?」


「んー。綺麗だなーって」


「はっはっは。

 で、本音は?」


 む。


「悔しい」


「私は、気持ちええで」


 にかっと笑う。

 むっとしたので、その両頬をむにむにとつまんでやった。


「そりゃそうでしょうね! そっちは勝ったんだからさ!」


「いひゃいひゃい」


「そもそもなんなのさ最後のあれ! 絶対倒せたと思ったのにーー!!」


「んー? 気合い」


「き、気合いって、まさかまさかの精神論!?」


「あー、違う違う。技能の、【気合い】。

HPがMAXの時に限り、どんな攻撃でも1耐えるんよ」


「ほえー」


「1でも減ってたら発動せんかったり、多段攻撃の前には完全に無力やったりと欠点はあるけどな。

 打たれ弱い魔法職にはうってつけの保険ってところや」


 そして、私を相手にするならこの上なく突き刺さる……と。

 ほんと、的確すぎる対策をしてくれたものだと思う。


「まあでも、目標は達成出来たんやろ?」


「そうだねー。悔しいけど、トップテンに入りたいって思ってたから充分な結果ではあるかな。悔しいけど!」


「どんだけ悔しいんや。なら、すぐにでもまたやるか?」


 ニヤリと、親友は好戦的に笑ってみせる。

 私はよいしょっと身を起こすと、ゆっくりと首を横に振った。


「いやーいいかな。

 ほら、こういうのって、しかるべき場面で全身全霊を賭けるから熱くなるのであって」


「違いないな」


「まぁ、また機会あるさー。思いっきり対戦するチャンスがね。 次のイベントは違う形式みたいだけど……あ」


 不意に、さっきの疑問が頭をよぎる。

 カナをみると、何処か楽しげ。


 あー、これ、多分聞きたいこと読まれてるね。


「どっち側?」


「どっちやと思う?」


「うわぁーーそう返すんだ。うわーー」


「あっはっは。まぁ、普通に考えて人間側やとは思うけどな。

 ……もっとも、あんなふざけた奴が表にでてきよるんやから、どうなってもおかしくはないけど」


「あー……なんかリスで出てきたんだっけ。

 守口さんって、確かイベントの告知文出してた人だよね」


 放送をしっかりみたわけじゃないけど、公式配信でスタッフがリスになったのは有名だ。

 放送の序盤からSNSを介して広まり、『リスタッフあらわる』とかいうタイトルで記事になったらしい。


 公認にならないかと誘ってくれた人……カワグチさんだっけ。あの人はすっごいまともそうだったのにね。

 まあでも、実況自体はとても盛り上がったらしいし、リスで出てきたことで話題性もさらに増したと思うと……仕事はむしろ完璧にこなしたといえるのかな。


「そうそう。あの人に限らず、このゲームの運営はノリがぶっとんどるからな」


「称号とか、狙ったように生えてくるスキルとかね……」


 苦笑いを浮かべながら、この二週間程度のことを思い返す。

 やっぱり、一番叫ばされたのは、【聖女の咆哮】のくだりだろうか。

 手に入れた杖が思いのほか重くて、次の瞬間には説明文に煽られたこともあった。


 ……そういえば、レベル50になったらまた地下墓地に行かないといけないんだっけ。

 もうすぐ超えるし、忘れないようにしないとね。


「ま、なるようになるやろ。私は仮に魔物側にまわることになっても歓迎やけどな。楽しそうやし。

 魔物を焼き尽くすか、プレイヤーを焼き尽くすかの違いや」


「スケールが大きいよほんと」


「ユキだって山一つ消し飛ばすレベルなんやから大概よ」


「消し飛ばしてまではいないし」


「そうやったかー?

 ああ、山といえばやけどな」


 ふと思い出したというように、カナが話題を変える。

 わたしは、ぽすっとカナのおなかの上に頭を乗せた。


「ドゥーバの東、ずっと奥まで行くと残り三方が巨大な山脈に覆われている地形に行き着くらしいで」


「東のずっと奥っていうとゴブリンたちが来てる方向?」


「そうそう。あっち側にはエリアボスが居らんのをいいことに、有志が死に戻り前提で限界まで偵察に向かったらしくてな。

 それによると、道中から両サイドに険しい山が並び始めて、最終的には前方も巨大な山で閉ざされるらしい」


「へぇーー」


 じゃあ、ゴブリンたちはその山を越えてきてるってことかな?

 それとも、大きなトンネルとかがどこかにあるんだろうか。


 どっちにせよ、山脈とやらを越えたら魔物さんたちの領域……ってことはありうるかもね。

 ゴブリンやオークたちによる国が興っていたりして。


「遠目に見ただけでも、山の上は真っ白やったらしいで。

 まぁ、山を越えるなら、その前に敵さんの本拠を叩かなあかんわけやが」


「本拠?」


「そう。さっき山に囲まれた地点が最終やって言ったやろ?

 どうも、そこに大掛かりな砦が目撃されたらしい。警備が厳重で、かなり遠目から見ただけみたいやけどな」


「なるほどねー。そこからゴブリン達が攻めてくる……もしかしたら、押し返した後その砦まで制圧してイベントクリアかな?」


「ありうるな。そしたら、占領した巨大砦を起点としてイベントなり探索範囲が広がるなりって展開に繋がりそうや」


「なるほどねー。まぁ、今度のメンテナンスの時くらいには明らかになるかなー?」


 せやなー。と彼女は頷き、少しばかりの沈黙。

 これで話も一段落かなと思った次の瞬間、不意にカナが起きあがった。

 軽く弾かれるようにして、ころんと布団を転がる。


「メンテと言えば、次回でギルド機能が実装されるー言うてたよな?」


「あー、そうだね。言ってたような……」


「いや、ユキが告知したんやんか」


「えへ」


 そっかぁ、ギルドかー。あまり考えていなかったな、

 簡単に言えば、目的を同じとするものや仲良いもの同士の集まり、チームってところだっけ。

 カナいわく、今後のイベントとかでもギルドの所属がキーになってくるだろうと。


 さて。随分と唐突に、ワクワクが抑えられないといった表情をしているけれど、いったい何を思いついたのか。

 布団に投げ出される形となった私がぽけーっと見つめるなか、親友(カナ)は小さく、けれどはっきりと呟いた。


「決めたで」


「ほほう?」


 よいしょっと身を起こして、カナと目線を合わせる。

 にんまりと笑った彼女は、得意気に言い放った。



「魔王軍、作るわ」












「ユキには魔王軍参謀を務めてもらう」

「入る前提!?」

「いっそ私が大魔王で、ユキは魔軍司令になってもらうか。6つくらいの軍団に分けて……」

「それ最終的に三人くらいに裏切られて崩壊するやつだよ」



先週は投稿できなくて申し訳ありません。

3月10日まで身内のことで立て込んでますので、もしかしたら次回も遅れちゃうかもしれない……!




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2023年1月20日に、第1巻発売されます!➡︎告知https://twitter.com/komaru0412/status/1584742818631012352?t=No8qGuhtVt37w2Jk0SwIKg&s=19
― 新着の感想 ―
最後の隕石の無差別攻撃はどうやって防いだんだろ?
[一言] 魔王軍に裏切られても嬉々としてそいつらを爆殺するカナ&ユキ(幻覚)
[一言] 更新お疲れ様です! さらっとのろけるくらいの距離、尊い。 気合、、気合のたすき、、頑丈のテーマ、、かたきうち、、ミルタンク、、ころがる、、うっ頭が 砦ですか?また吹き飛ばしますか?(GAMA…
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