聖女暗殺作戦(偽)
ついに始まった第一回公式イベント。
説明の読み飛ばしっぷりが幼児すぎると外野からツッコミを受けつつも、ユキは総合優勝を目指すことを決意した。
俺はクロード。暗殺者だ。
所謂特殊ジョブと呼ばれるものの一つを早々に引き当てた自分は、相当にツイていると言って差し支えないだろう。
ましてや、隠密行動を得意とし、一撃の攻撃力も申し分無いというこの特徴。
まるで、このイベントを優勝してくださいと神が言っているかのようにさえ思えてくる。
ただ闇に潜み、順位を上げていくだけでも悪くはないが……折角だ。
ジョブの特性を活かし、ひたすら暗殺に勤しんでみようと思う。
目標は、ただ一つ。総合優勝だ。
さて、いともたやすく優勝を狙うとは言ったが、もちろんそれは容易なことではない。
最後まで生き残るのは当然として、撃破数でもしっかりと上位に食いこんでおかねばならない。
しかし、ここで問題がある。
暗殺者というジョブは、不意打ちにおける一撃の威力と、隠密能力に長けている。
だがその反面、多数を同時に相手することは非常に苦手なのだ。
優勝候補と称される面々と比べた場合、面制圧力……つまり、キルの能力で大きく劣ってしまうことが考えられる。
それは即ち、たとえ最後まで生き残ったところで、撃破数により逆転を許してしまいかねないということだ。
これに関して、俺には唯一の策がある。
稼がれる前に、殺る。
そう。キル数に差をつけられる前に、そうした範囲殲滅に長けた連中をこちらから屠ってしまうのだ。
そうすれば、最終ランキングで一位にくいこめる確率が非常に上がる。
幸い、こちらには暗殺という唯一無二の手段があるわけだからな。
いかに手早く、確実に優勝候補らを屠っていけるか。
俺の腕に全てがかかっているという訳だ。燃えるな。
さて、一言に猛者どもを狙っていくとは言ったが、具体的には何をターゲットとするか。
結論から述べよう。聖女と、魔王だ。
理由は非常に単純。相性が良い。
戦士系の職業で有名な面々……例えば聖騎士シルヴァや侍のシグマと言った奴ら。
彼らはきっと二つ名持ちとしての攻撃力だけでなく、前衛職に相応しいだけの耐久力を兼ね備えていることだろう。
それに対して、聖女や魔王に関しては後衛職業である。
殲滅力は凄まじいものを誇るだろうが、反面耐久性には欠けるはずだ。
対個人である限り、戦士系の相手であっても倒しきれるとは思うが……より確実なのは後衛組だろう。
ただの魔法使いであるはずが魔王とまで称されるようになったというその破壊力も、発揮できなければ意味が無い。
聖女の方は、少し不可解。
悪魔だの、破壊魔だの、殺戮者だのと聖職者とは到底思えない二つ名が並ぶ。
まぁ恐らく、情報が錯綜しているのだろう。
やけに硬いという噂も良く聞くが、俺の個人的な分析ではこうだ。
魔法使い顔負けの火力を聖魔法により発揮し、また防御力に凄まじいバフを掛けることも可能という、極めて厄介な存在だと。
だがこれも、俺にかかれば全く問題は無い。
暗殺者のスキルを用い気配を完全に消すことで、先手は必ず打つことが出来る。
そして何よりも、俺の攻撃は貫通属性……つまり、相手がいくら防御力にバフを盛ろうが大した問題ではないという訳だ。
『凄女の耐久性はHPのゴリ押しだ』とかいう滑稽極まりない噂がとびかっているのが少しだけ気にはかかるが、それこそ荒唐無稽というものだろう。
聖女とかいうthe後衛な職業で、盛ることが出来るHPなんて高が知れているだろうからな。
長くなってしまった。
要するに、優勝候補と噂される面々の中でも聖女と魔王は俺にとって狙い目。いち早く撃破しておきたいという訳だ。
彼女ら2人の配信を直接見たことがないというのは少し気がかりだが、条件は向こうも同じだろう。
相性が確実に圧倒的有利である以上、負ける理由もない。
迅速に、二人を撃破する。
広大なフィールドで例の二人を見つけることに関しては、何ら問題は無い。
なにやら、聖女は白い光を、魔王は猛烈な炎を。頻繁にその場から打ち上げるらしい。
それを遠目にさえ嗅ぎつければ、あとは迅速に忍び寄って終わりだ。
そうそう、あんなふうに……って、まさに噂通りの、空高く立ち上る光じゃないかっ!
どうやら、天は俺に味方しているようだ。
こんなにも早く、ターゲットのひとりを見つけることが出来るなんて。
さあ、申し訳ないが……聖女とやらには、俺の毒牙にかかって頂こうか。
「【隠蔽】【気配消去】【加速】」
スキルを多重発動させ、身体を透明化。
常時発動型の技能と併せて、完全に気配を消した。
大丈夫だ。確実に、やれる。
微かに自らの震えを感じてしまうのは、武者震いというものだろうか。
暗殺者という職業は、『急所を』『不意打ちで』『最初の一撃に』攻撃することで攻撃力がそれぞれ数倍にも膨れ上がる。
それに併せて、一定割合の防御を無視するという[貫通攻撃]。
後衛職が耐えきれるはずもないのだから。
言い聞かせるようにして、聖女との距離を背後から急速に詰めていく。
彼我の間隔が2mを切り、短刀を握る手にぐっと力を入れた。
その瞬間だった。
「っ!?」
バッと、まるで何かを感じ取ったかのように。
聖女がくるりとこちらを向いた。
まさか。気付かれた?
いや、そんなはずはない。
スキルによる隠蔽は完璧。気取られるなんて、起こりうるはずがない!
額に冷や汗が流れる中、加速された思考が聖女の動きを掴む。
信じられないことに、彼女は何かを察したか。回避動作に出ようとしていた。
「っ……だが、もう遅いっ!」
『不意打ち』は潰された。しかし、もとよりオーバーキルだ。
聖女は回避行動にこそ出たものの、その動きは鈍い。
回避は、させない。
「っ、ぁ!!」
腹部に大きく短剣が突き刺さった少女が、ふらりとよろめく。
殺った。
俺が武器を引き抜くと同時に、彼女はガクっと膝を付いた。
そのHPを一気に減らして……減らして………………
──削り切れないっ!?
急速に減少していたHPバーは、3割を切ったところで停止する。
つまり、耐え切られたということだ。
まさか、そんな。
しかし、多大なリソースを使ってまで仕掛けておいて、ここで退くなど有り得ない。
激しい動揺を抑え込みつつ、追い討ちを掛けようと短刀を強く握り直した。
その、瞬間だった。
地面に片膝を付き、俯いていたはずの聖女の目が、こちらを射抜く。
彼女の手がすっとこちらに向けられると同時に、全身が総毛立つのを感じた。
俺は、手を出してはいけないものに手を出した。
それを理解したのは、溢れんばかりの光に全身を呑み込まれてからだった。
有力候補を早めに暗殺しようとするのは戦略としては間違っちゃいない。
しかし彼には、情報も実力も足りなかった。
※前回倒した兵士っぽい人の装備からみんなのHP推測できる?
→彼のレベルも職業も実態は不明なのでなんともいえない
※芋らないHP特化ってちゃんと本来通りタンクじゃん
→そうだユキちゃんタンクだったわ(違)
※ユキに看破系持たせたら無駄なく殴る凄女サマになるね
→それどこのキラーマシン
※4,000ダメでクロスしたハンマーのバッチはもらえますか
→もらえません
皆様あけましておめでとうございます。
昨年は皆様の温かい応援のおかげで本当に充実した一年間となりました。
今年ものんびりながら着実に書き勧めて参りますのでどうぞ宜しくお願いいたします。
実は当初からの最大目標がブクマ7000だったんですよね。目の前にみえてきた……!!!




