襲撃
称号【悪魔】の確認も終えたユキは、ログアウトをしてしまうことにした。
「さて、と。デスペナあるし、今日は終わっとこうかなぁ」
『せやね』
『経験値無しもそうやけど、ステ半分はキツ……きつい?』
『うーんw』
『凄女サマ、半分でちょうどくらいなのでは(』
『ま、まぁ休養も兼ねてね』
『夜はやらない感じ?』
「そうだねー。あんまりお勉強できてないし」
『ずっとインクリやってるもんな』
『レベル40は伊達じゃない』
『脳筋凄女サマの勉強、想像しづらいな』
『ま、まぁ外見だけは優等生系ですし』
『外見だけは清楚系なんだよなぁ』
『なお行動』
ちょっと油断したらすぐに好き放題言い始める視聴者さんたち。
いつか本当に焼いてやりたいと思わなくもないよね。
『じゃあ、次の配信はメンテ明けかな?』
「ん。メンテ?」
何気なく流れてきたコメントの中に、気になるものがあった。
メンテ? メンテナンスあるの?
『定期メンテだよ明日』
『午前からメンテ』
『いつまでだっけ』
『夕方までやね』
『公認のくせにメンテ把握してないのか(』
『勢女だからねしかたないね』
『セイジョのレパートリーを増やすなw』
「そっか。明日定期メンテナンスなのか~! 全然知らなかった。
あーうん。今調べてみたら、9時から16時までみたいだね」
そもそも、公式サイトとか全然確認してなかったもんなぁ。
それにしても、メンテナンスかぁ。
じゃあまあ、明日は図書館にでも行って長めに勉強しようかな?
メンテが明けるのに合わせて、準備をしておけば良いだろう。
「それじゃあ、今日はここまで。また明日ね!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
昨日、ゲームを終えてから。
いつものように食事とお風呂、勉強を済ませると早めに就寝。
そして今朝。早くから家を出ると図書館にこもって、最近滞りがちだったお勉強をみっちりと進めてきた。
現在時刻は11時50分。
さて、そろそろ……お、かかってきた。
「もしもし?」
『はろー。聞こえとる?』
「うん。ばっちり」
『よかったよかった。さてさて、いよいよやな?』
「あと10分くらいだね」
現在、インクリは第一回の定期メンテナンスの真っ最中。
朝九時に始まったそれは、午後四時に終了する予定となっている。
けれど、四時までなにもないってわけでも無いみたい。
正午。つまりこれから、アップデートファイルの配信と、それに並行して公式サイトが更新されるんだって。
メンテが明けると同時にログインするために、予めダウンロードしておく。
それが、まず今やっておくこと。
そして、わざわざ通話しているのにはこっちが本題。
これはカナの発案なんだけどね。
『そっちの準備はできとるん?』
「ん。告知もちゃんとしたし、公式サイトを表示もできてるよ。後はボタン押すだけ」
『オッケー。なにげに初めてちゃうか?』
「何が?」
『ほら。今までの配信って全部ゲーム内やったやろ?
声だけとはいえ、リアルで生配信するのは初体験ってわけや』
「あ、ほんとだ。言われるとちょっと緊張してきちゃうかも。
ま、別に普段と変わんないさ!」
そう。配信。
始めは、カナと二人でアップデート情報を眺めるつもりだったんだけどね。
公認実況者でもあるんやし、生配信で視聴者さんと一緒に見たほうがええんちゃうか……っていうカナの発案から、ライブをすることになった。
『よし。じゃあ準備よしって訳で……開けてー』
「はい?」
『玄関。開けてー』
「ハァっ!?」
あまりに唐突すぎる要求に、慌てて玄関まで向かう。
扉をあけると、にししっと笑うカナの姿があった。
「さんきゅー。おまたせおまたせ」
「いや待ってないし!? なんで今? 配信するんでしょ!?」
「せやで? だから来たんやんか」
ぽかんとする私に、ニヤリと笑ってみせる親友。
ビシっと指を付けつけると、彼女は高らかに宣言をした。
「さあ、突発的オフコラボや! ほら、時間は無いで!」




