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激闘 【悪魔】

少々毛色の異なる一話となっております。

 




 これは、ある日のこと。動画投稿サイトに匿名で掲載された、とある動画である。

 



 暗雲の立ち込めた草原を、四名から構成されたパーティーが進行していた。

 彼らは揃って、恵まれた体格に鍛え抜かれた肉体を誇る。

 最も大きな特徴は、やはり額から生えた二本の角であろう。


 大鬼オーガ族。

 そのなかでも極めて有望な若手四名を選りすぐって構成された、希望の星──

 それこそが、彼らであった。


 そんなパーティーが先を急ぐように草原を駆けているのは、理由がある。

 【悪魔】が──出た。


 


 ほんの数日ほど前の話だ。憎き人族の街を、今度こそ攻め滅ぼしてやろうと準備を重ね。

 ようやく、計画に目処が立ってきた矢先のこと。

 密かに前線に建設していた基地が、粉砕されたという情報が入った。


 本部は騒然となる。当然だ。

 重要な前線基地の名に恥じず、強固な壁を築き上げ。防衛用の施設も数多く用意していた。

 そんな砦が、援軍すら間に合わず破壊されたという。それも、僅か一瞬で。

 

 たった一人で歩いてきた、人族の少女。

 報告されるのも面倒なので、適当に始末しておこうと思った、その瞬間だった。

 突如としてまばゆいばかりの光が溢れたかと思うと……まばたきの間に、砦が消えた。


 目撃者は口を揃えて言った。

 【悪魔】が現れたのだと。




「おい、本当に悪魔が出たってのかよ!」


「確証はない。だが、実際ゴブリンどもに物凄い被害が出ているんだ」


「聖の魔力を纏った、ビームによる虐殺。これは、ほぼ黒と見て良いと思うわ」


「チッ……好き放題やりやがって。悪魔なんて俺が止めてやらぁ!」


 いかにも尤もらしい字幕が流れるが、真偽のほどは定かではない。



 力強く吠えた一体のオーガが、目前の丘を駆け上がる。

 頂点にたどり着くと同時に、凄まじい雷鳴が辺りを襲った。

 

 光が晴れた先。丘の反対側のふもとに、人影が映し出される。

 ただの村娘にしか見えない衣服に、派手とは言えない大きな長杖。

 少女の眼が、オーガを捉えた。


「ッ!」


 全身を襲った震えを誤魔化すかのように、サムライ・オーガが突貫する。

 あっという間に肉薄してみせた彼は、突き出された杖を掻い潜るようにして少女の身体を切り裂いた。


 刹那、彼女の足元を中心として、大爆発がまきおこる。

 流れるような動作で仲間と合流してみせたオーガのサムライは、味方の援護を確信していたのだろうか。

 

 煙がもうもうとたちこめ、少女の姿は視認できない。

 しかし、そんな状況であっても、鬼たちは最適解の行動を起こすのだ。


 全体的に軽装な中、唯一の重装備。全身鎧を着込んだ大鬼。

 オーガ・パラディンが自身の体ほども大きな盾を構え、三体の前に出る。


 更に、彼ら全体を覆うようにして、黄色く光るドームが出来上がった。

 オーガ・ドルイド。このパーティにおける重要な支援役だ。


 念には念を重ねた、鉄壁の備え。

 ──しかし、悪魔はその上を行く。


 煙が晴れた、その瞬間。

 強烈な光の奔流が、展開されたバリアに襲いかかり、数秒のせめぎ合いを経て完膚なきまでに打ち砕く。

 そのまま勢い衰えることなく到来した光線を、大きな盾が受け止めて。


 なんとか凌ぎきったと、そう思わせた直後だった。


「がおーーッ!!!」


 緊迫した場面に不釣り合いな、間の抜けたセリフ。

 大音量のそれが響き渡ったと同時に、オーガ側の動きが完全に硬直する。


 一気に趨勢が決まるかに思えたその絶大な隙に、少女は畳み掛けなかった。

 無理を嫌ってか、回復アイテムを使用。

 改めて、両者はにらみ合う形となった。


 ここでもまた、サムライが均衡を破る。

 刀を抜き放ち、大きく踏み込んで全力の一太刀。

 防ぐことができず、身体を斬り裂かれた彼女はその場でよろめいた。


 オーガの側は、生じた隙を逃さない。

 先程も爆発を起こしてみせた最後の一体。ソーサラ・オーガが杖をかざす。

 爆炎が吹き荒れ、少女の身体を呑み込んだ。


 このまま決着が付くかと思われたその瞬間、カっと彼女の身体が光り輝く。

 状況的に、正真正銘、最後の切り札であろうか。

 みるみるうちに、その魔力が膨れ上がっていって。


「グオオオオオオッ!」


 いまにも放たれようとしたそのタイミング。強烈な雄叫びが響き渡った。

 野生を全解放したかのような咆哮に、一瞬の硬直が生じる。


 そしてその刹那の硬直が、千金に等しい時間を産み出した。


「ッ!?」


 突如として、少女の足元より産み出された大量の鎖。

 動揺する彼女を雁字搦めに拘束し、全ての動きを封じ込んだ。


 ダンッと地面を力強く踏み込んで、サムライ・オーガが飛び込む。

 鎖は間もなく消え失せたものの、少女に何かを起こすことはもう叶わない。


 寸分の乱れもない、真っ直ぐな太刀筋。

 歯を食いしばって睨みつける【悪魔】の身体を、きらめく刃が切り裂いた──。



   


???『【悪魔】の称号を修得致しました』





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2023年1月20日に、第1巻発売されます!➡︎告知https://twitter.com/komaru0412/status/1584742818631012352?t=No8qGuhtVt37w2Jk0SwIKg&s=19
― 新着の感想 ―
[一言] plがモンスター側にカメラ付けられると他のplの戦闘からボスのパターンを盗めてしまうから運営なんだろうなとは思うけど…w
[一言] これが敵モブ視点か……ちょくちょく入れてもいいのよ?
[一言] おーあしゃんがんばえー
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