表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/109

打撃系少女との邂逅

無事地下墓地の調査を終え、帰路についたユキ。

そんな彼女の前に、新たな風によってゴブリンが飛んできた。




「そこの方、大丈夫でしたか? ほんと、ごめんなさいっ!」


 背中から掛けられた声に、ゆっくりと振り返る。

 そこにあったのは、はたして少女の姿だった。

 九十度にまで頭を下げているので顔は見えないけれど、ピンクの髪にぴょこぴょこと動く丸っこい耳が目を引く。


「あ、いや、別になんとも無かったから大丈夫です……よ?」


 コレはあれか、犬耳ってやつか。

 ピコピコしていてかわいい。


 キャラメイクの時にあったような気もするけど、その辺りはスルーしちゃったからなぁ。

 思い返してみれば、ちらほらとこういうのをつけたプレイヤーも居た気がする。


「それなら、良かったのですけど…………ってうわぁっ!?凄女サマッ!?」


 おずおずと顔を上げたかと思えば、素っ頓狂な声が放たれた。

 うーん、その反応はちょっと胸に来るかなぁ!


『ビビられてて草』

『まぁこの子の気持ちはわかるw』

『知らない相手に迷惑かけたと思ったらそれが超大物だった』

『地獄じゃんw』

『芸能人みたいなもんだもんな』


「いや、そんな大袈裟な」


「あっ! すみません、失礼なことを」


 余計にあたふたとした様子に、思わず苦笑い。

 気にしないで、と伝える。


「えーっと、私のことはご存知なんです?」


「はいっ! 以前カナさんとお会いしたことがあって、その時にユキさんのこともお伺いしました。

 それから配信も観させてもらってますっ」


「わー。面と向かって観てるって言われるとちょっと恥ずかしいものがあるね。

 今も配信中なんだけど、大丈夫かな」


 配信で顔や姿全体が映るかどうかは、各プレイヤーの設定に委ねられている。

 配信を拒否するかどうかはアカウント取得の時に必ず聞かれ、その後はオプションでいつでも変更可能。拒否している時はカメラに映ってもモザイクがかかる…………だったかな?


 そんな訳だから、大丈夫ではあると思うんだけど……まぁ、一応ね。


「はいっ!全然問題ありませんっ」


 ぴこぴこと動く耳に、ちょっと目がいく。

 ちょっと失礼な感想かもしれないけど、なんだかこの子の後ろに尻尾が見える感じがするよ。


「それにしても、カナのことは知っているんだね」


 いつの間にか、敬語が抜けちゃっていることに気付いた。

 うーん。この子の持つ雰囲気かな。私より小柄な外見ってのも多少はあるけど、何より気配が柔らかい。


「あ、えーっと。知っていると言っても、昨日初めてお会いしたって感じですけれど。

 エリアボスにリベンジしようとしていたら、ちょうど移動中のカナさんに出会ったんです!」


 昨日…………あ、もしかして。


「ひょっとして、ハンマー使いだったりする?」


「はいっ! 初日は色々な武器を触ってみましたが、一番うきうきしたのがこれだったのでっ」


 笑顔を浮かべながら、武器を具現化して見せてくれた。

 バットのように太い持ち手をしっかりと握り、二本の足で堂々と立ってみせる姿。

 私よりも小さなはずのその身体からは、確かな威圧さえ感じ取れた。


「……凄い、ね。カッコイイ」


「そ、そんな! 筋力に沢山振ってるだけですからっ」


「私だったら振っても使いこなせない気がするなぁ。

 此処で会ったってことは……もうスライムは倒せたんだ」


 確か、カナから聞いた話では、キングスライムにリベンジするところだったはず。

 でもここは、S2どころかS4エリア。街の近くだ。


「そうなんです! リーチの長い触手がとてもキツかったんですけれど、なんとか……! その次の骨の巨人さんの方がまだ楽でしたっ」


「おおー! あのスライムさんの攻撃、強烈だよねー。私も、ものすっごい吹き飛ばされた記憶があるよ」


「私もあの配信のアーカイブ見ました! 最後、カナさんの前に立ち塞がる姿ほんとうにカッコよかった!」


「あはは……あの後はカナにカッコよく助けられちゃったんだけどね」


 聖都ドゥーバに向かって歩きながら、話に花を咲かせる。

 内容はもちろん、これまで約1週間程度のことについて。


 この少女、まず名前はトウカという。

 サービス開始後、登録だけ済ませてフィールドに突進した私と違って、彼女はまず色々と訓練場で武器を触って遊んでみた。

 そこで気に入ったのが、槌……いわゆるハンマーという武装だったらしい。


 対モンスター用にデザインされた大きなハンマーを使って遊んでいるうちに、芽生えた感情は『もっと大きなものをブンブンしたい』というもの。

 そんな矢先に出会った、生産を軸にしている人にも協力してもらった結果が、いま手にしている『自分の振り回せる限界の重さ大きさ』のハンマー……だそうだ。


 うん。やっぱり予想はしてたけど、なかなかにぶっ飛んでるね!


「じゃあ、今も結構ギリギリの重さを感じているってこと?」


「あ、えーっと……あれから結構レベルも上がりましたし、ハンマーの扱いにも徐々慣れてきたので今はそんなに苦労は感じないですね。

 向こうの方も結構ノリノリみたいで、無事街にたどり着いたら、また新しいハンマーを作ってもらえるそうなんです。

 そしたら、また慣れるまでは色々大変かもしれません……!」


「…………既に、顔の前に持ってきたら全く見えなくなるくらいに巨大だと思うけど、そこからまだ大きくするの?」


「はいっ! なんかこう、私、自分の身体が小柄な自覚はあるんですけれど、こういう子がでっかい武器ふりまわしているのってロマンだと思いませんか?」


「わかる」


「でしょっ! 私はそれを体現できるようになりたいんです。

 ちっちゃな体におっきなぱわー。それが私の目指す形!」


 そう言ってキラキラとした笑顔を浮かべる姿には、思わずこちらの表情も緩んでしまう。

 多分、話してる感じ、年齢はかなり近いはずなんだけど……それを超えるこの雰囲気。和むね。


「スタイルが確立できてると楽しいよね~。私も、とにかくライフを盛って盛ってそれで乗り越えるってのを掲げて始めたんだ。

 まさか本当にライフ自体で殴るようになるとは流石に思わなかったけど」


「あはは。ユキさんの場合は耐久力も攻撃力も全部、HPに委ねられていますもんね。『初心者』の看板どこ行ったーって感じです」


「ん~~確かに。ずっとタイトル変えてないけど、早くもちょっとズレて来たかなぁって思ってたんだよね」


「あっすみません。否定とかそういうつもりではっ」


 あたふたとし始めるトウカに、気にしなくて良いと苦笑する。

 そうだなぁ。もうちょっと今のスタイルに合った配信タイトル…………お。


「『ライフで受けてライフで殴る』これぞ私の必勝法…………どう、かな?」


「えっ私に聞くんですかっ!? ……えっと、その、すごく良いと思います。

 ユキさんのプレイスタイルをバッチリあらわせていると思いますし、必勝法ってのも独特の手法で最前線を切り開いているお姿にピッタリです!」


「えへへ。ありがとう。じゃあ決まりかな」


 そうと決まれば善は急げと、ウィンドウを操作。配信タイトルを変えておく。

 後で告知もしておこっと。 心機一転、これからも頑張ろう!



 内心で改めて気合を入れ直している私の傍ら。『わ、私とんでもないことしちゃったんじゃ……』と慌てている姿が、なんだか可愛らしかった。





渾身のタイトル回収。


宗教上の理由により、前衛を担う少女は桃髪ハンマーっ子になりました。

よく噛むとかそんな属性は一切ありませんのでそのあたり宜しくお願いいたしますね(威圧)



毎回予定より一日遅れてしまうのが申し訳ない。ほそぼそ頑張ります。ペース落ちようとも止まりはしませんので……!!


総合評価30000を突破致しました。ここまで来られるとは思わなかった。本当にありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2023年1月20日に、第1巻発売されます!➡︎告知https://twitter.com/komaru0412/status/1584742818631012352?t=No8qGuhtVt37w2Jk0SwIKg&s=19
― 新着の感想 ―
[一言] トウカさん、打撃系鬼っ子の複合キャラですかね? 主人公の武器とパワー極振りの鬼と仲間のお名前の融合っぽい感じがしますね
[一言] 他にもいるようですがピンク髪でSTRギャップキャラといえば斧使い。 talesシリーズの影響はデカイっす。
[一言] 宗教上の理由じゃ仕方ない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ