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出陣式

5/20より書籍第2館発売中!

そして本日より、とうとうコミカライズが連載開始されております!


久々の悪ノリ回。

 

「え、えっと。それはどういう……」


「そのまんまの意味よ。これを使って私たちが運ぶから、移動砲台兼うちの軍の象徴になってもらおうかと思って」


ほら、聖女様だし? 現地人も含めたみんなの士気も上がるでしょう。


 そう付け足したカナリアさんの顔は、とても冗談を言っているようには見えなくて。


「マジ、ですか」


「大マジよ。シンシアさんとトウカちゃんも両隣に付いてもらおうかなと思うんだけれど、どうかしら」


「あらあら〜。聖女様と、傍付きの従仕ってところかしら。あと、シンシアでいいわ〜。私達のリーダーってわけでしょう?」


手を頬に当てて微笑む彼女に続くように、ドレンさんやユリウスさんたち、皆が同意する。

たしかに、取りまとめ役が全員に敬称付けしていたら、微妙に格好がつかない気もする。

カナリアさんは多少戸惑ったものの、最終的にはそれを受け入れる形で話は進む。


「わ、わたしもお神輿に乗るんですかっ!?」


「ええ。ちゃんと理由はあるのよ。トウカちゃんのスキルは、たしか移動不可で能力をあげるものがあったでしょう? 力を溜め込んで、ボス戦開幕で超火力の一撃を挨拶代わり。楽しいと思わない?」


「わぁっ……! はいっ!」


 ぴこぴこと髪先と耳を動かしながら、目を輝かせるトウカちゃん。

 うーんたしかに。私としては、ゴブリンの群れに突っ込んでいく彼女も見て見たかったけど……耐久力、つまり結界の数値的にも、ボス戦用の隠し球枠が無難なところか。

 守護結界も、かなりの数値を誇るとはいえ前哨戦で無駄遣いする訳にも行かないからね。


「シンシアさん。いえ、シンシアは……」


「ええ〜。本陣に待機するよりも、再前衛の、しかも高所の方が回復を飛ばしやすくていいと思うわ〜。

 それに、ユキちゃんとのシナジーも期待しているのでしょう?」


「流石。話が早いわね」


「えっと……?」


 いまいち内容が掴みきれていない私に、カナリアさんが説明してくれる。

 つまり、今まで私は自らのポーションや自然回復で、耐久力にも火力にもなりうるHPを賄っていた。そうなれば、自ずとポーションの回復に時間もリソースも割かれるわけで。

(いやまぁ、おばあちゃんの特製ポーションのおかげで元々から随分と暴れていたんだけども)

 それを、シンシアさんが常にHPを管理してくれる状態となれば。


「なるほどっ! 高頻度で聖魔砲打ち放題!!だから、皆さんの移動砲台って訳ですねっ」


「そう。オマケにユキちゃんのスキルがあれば、最前線にシンシアが出て何かトラブルがおきても護れるでしょう? メリットしかないと思うのよ」


 カナリアさんの話は、たしかにもっともなものだった。

 私が高所から砲撃をばら撒き、減ったHPは都度シンシアさんが回復。コンビネーション作戦としては完璧と言えるだろう。

 私が目立ちすぎることを除けば……って思ったけれど、もう色んな意味で今更か。

カナリアさんとトウカちゃんに攻撃が飛んできた時に、両サイドの流れ弾からいかにうまく庇うかだけど……まぁ、そのあたりは何とかなるだろう。近いし、最悪結界出せばいいし。


「そ、れ、に! さり気ないけどものすごく重要な理由があるわ」


 少し身を乗り出すようにして、指を立ててみせるカナリアさん。

 これ以上に重要な理由があるだろうか。

 そんな思いは、続く言葉によって呆気なく四散した。


「貴女達……特に、ユキちゃんとトウカちゃん。信号弾に対して迅速に駆けつけるなんてできっこないでしょ」


「あ」


 AGI 0(現実と同じ程度の速さ)の私たちが即座に現場に駆けつけようと思えば、それなりに時間がかかってしまう。

 それに対して、お神輿を担ぐとはいえ、それなりにステータスのある運搬者たち。


 始めから、選択肢は無いようなものだったわけである。


 ◇◇


 ──で。


「どうしてこうなった?」


 2mほどの高所に作られた台座の椅子の上。小声で小さく呟くも、答えはかえってこない。

 隣のトウカちゃんは、緊張からかそわそわと忙しない様子。しっぽがゆらゆら動いているのが可愛い。

 反対側のシンシアさんに至っては、この場面でも動じていないのか、にこにこと微笑んだままだ。


 少し目線を下にすれば、即席の壇上で演説をしているカナリアさんの()()姿()

 そしてその前には、数えるのも億劫になるほどの人達が並んでいる。


『壮観すぎる』

『こっちが聞きたい』

『唐突に配信始まったと思いきや、演説始まっとる』

『いやカナリアの演説は知っとるよ。最初に決起集会みたいなことをするって話は出てた』

『アジーンでも同タイミングでやってるね』

『あっちは魔王様か。妥当だな』

『で、なんでこの視点なん』

『めっちゃこっち見られてて草』

『なにこれ玉座?』

『これあれや。出撃する騎士団を見送る国王の視点や』

『↑それだ』

『↑↑天才か??』

『祀り上げられてて草』


 あー。答えならいっぱい返ってきたわ。答えっていうか、困惑の声が多いけど。

 そう。配信を始めたのである。まぁそれ自体は別に特筆することではないし、元々会議が終わった時点で始めるつもりではあった。

 けど、この状況は聞いてない。


『承知と思うが、ゴブリンやオーガ達の軍勢が目前だ。だが、恐れることは無い。我々は今日ここで完膚無きまでに奴等を撃退し、街を防衛する』

 目の前で繰り広げられている演説を掻い摘むと、そんな感じ。

 これから行われるのは、プレイヤーにとっては初めての超大規模なワールドクエスト。現地人も巻き込んだ防衛戦だ。こういった景気付けみたいなのがあってもいいだろう。士気も上がるし。


 けど、けどもだ。

 なんで私がこんな目立つ場所で演説を見下ろすことになってるの!?

 象徴とか旗頭とか言ってたけど、まさかこんなところからそんな扱いになるなんて聞いてないんだけど!


 文句を言ったところで、状況は変わるわけもない。

 私はなんとか表情を取り繕って、数多の視線をただ受けるのみだ。

 まぁ、基本的には、話しているカナリアさんに視線が……


「そして我々には、聖女様がついておられる!」


 そう来るよね知ってましたぁ!!!!!

 どうする? 聖女ってなんだ? いや、何もないんだけど。

 取り敢えず、大人しく笑顔張りつけとこうか。


「数十年は居られなかった、聖女様がこのタイミングで降臨されたのだ!

 これは、神が我らに味方しているということである! よって我々には万の一つの負けも有り得ぬ!」


 わぁーなんか凄いこと言ってるよ……

 聖女が数十年現れてなかったとか、そんな舞台背景よく拾ってきたなぁ。私の配信でちらっと出た程度じゃなかったっけ?

 現地人の方を中心にものすっごい盛り上がってるみたいだからいいけどさぁ……


 凛とした佇まいで、カナリアさんは歓声が止むのを待つ。

 紅蓮の鎧を身にまとい帯剣する姿は、まさに威厳のある騎士そのもの。これが初見なら、歴戦の戦士だと言われても信じてしまうだろう。

 さっきとのあまりの雰囲気の違いに、ただ圧倒されそうになる。


 ……っていうか彼女、生産職のリーダーって言ってなかった?

 その立派な鎧、もしかして前線に出るの?


 そんなことを考えながら現実逃避。

 しかし、当然と言うべきか。そうは問屋が卸さない。


「最後に、聖女様からのお言葉である! 有難く拝聴せよ!」


 ちょっっとまって!? 聞いてないけど!?


 歓声が止んだ瞬間を見計らって、そうカナリアさんが叫んだ。

 すっとこちらに向き直ったかと思うと、彼女が跪き頭を垂れる。


 おい! いま頭を下げる瞬間こっそりこっちにウインクしたな!!

 確信犯だこれ!


 瞬間に突き刺さる、おびただしい数の視線。

 視線の熱だけで殺されそうな、そんな圧がある。


 古の指導者は、常にこんな視線の中で演説してたのか。嘘でしょ?


 えーーっとどうする。何もしない訳には……いくわけないよね。

 聖女。聖女か。えーー……仮にこう言う場で、聖女とか戦巫女とかが掛けそうな言葉…………


 すっと、目の前に剣が差し出される。

 少しだけ蒼のかかった、白く美しい剣。

 前を見れば、いつの間にかすっと前に出て、こちらに跪くシンシアさんの姿が。


 あぁそうかいそっちもかい!!

 いいよやってやるさ!


 剣を受け取り、言葉を探す。

 すすっとシンシアさんがまた隣に戻ったのをみて、口を開いた。


「……私が保証しましょう。皆様には、神の御加護があります。敵は打ち倒され、この街は無傷で護られるでしょう」


 歓声が上がりかけたところを遮るように、すっと立ち上がる。

 なるべく真っ直ぐ、堂々と見えるように。

 淡い神聖な光が、私を包み込んだ。


 これもシンシアさんだな? 回復魔法の応用か。演出が込んでいるこった!


 剣を抜き放ち、勢いのままに天にかかげる。

 こっそりほんの少しだけチャージした聖魔砲のオマケ付きだ。


「神意は我らにあり! 総員、出撃せよ!」


 瞬間、耳が割れるような雄叫びが辺りに響き渡る。

 地面が揺れているかのように錯覚するほどの、熱狂。


 その視線の先にいるのは、当然私なわけで。



 ああ、もう。どうにでもなれ!!



聖女様直々の鼓舞!

全軍の士気が30上がった!!(適当)



どうでもいいっちゃいいんですけど、このゲームのシステム上ユキが改まってステータスの詳細をまじまじと見ない限り気付かない(つまり当分は気づかない可能性が高い)のでチラッと小話。

覚え損ねたカバーリング、実は遥か昔にしれっと覚えてたりします。但し忘れてる限り当然使えませんし、『カバームーヴと合わせて初めて本領発揮される&至近距離なら結界でどうとでもなる』背景もあるため触れられることは恐らく無いでしょう。

哀れカバーリング。


さて!

いよいよ本日より、コロナEXにてコミカライズ版の連載が開始されております!

カタケイ様がそれはそれはもうものすっっごく素敵に書き上げてくださっておりますので、是非ご覧下さいませ……!!

URL等は、私もTwitter(@komaru0412)にて共有致します!


書籍と併せて応援頂けましたら幸いです!それ次第では、もしかしたら続いちゃうかも……?


ということで、今後とも本作品をよろしくお願い致します!



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2023年1月20日に、第1巻発売されます!➡︎告知https://twitter.com/komaru0412/status/1584742818631012352?t=No8qGuhtVt37w2Jk0SwIKg&s=19
― 新着の感想 ―
[気になる点] カバーリングについては『(103)妥当。』で触れているんで、後話の小話は作者様のド忘れかなと。
[一言] 新興宗教かな……?
[一言] 確かに重戦士時代にしれっと習得していましたね 今更肉壁になるよりも、肉砲になった方が美味しいな
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