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人間時代(3)

 

 麻薬の原料を作る畑を焼き払い、麻薬を製造する工場を爆破したことは、それを扱うマフィアやギャングを激しく怒らせた。なにせ、麻薬ビジネスで得られる富は莫大だしな。それを失ったとなれば、怒るのも当然だ。


 まぁ、怒ったのはマフィアやギャングだけじゃなくて一般人もだったんだけどな。

 なんだかんだで、麻薬ビジネスってのは一般人にも利益を与えていたんだよ。犯罪組織だってメシを食ったり、服を飼ったりで金を使う。

 そうしてマフィアやギャングが麻薬で稼いだ金は一般人にも流れていっていたから、犯罪であってもそれで金が回り、世の中は潤っていた。


 俺がやったのは、それを台無しにすることだったわけ。

 マフィアやギャングから仕事を貰って暮らしていた貧民はもちろんだが、それ以外の一般人だって犯罪組織が金を回していたから食っていけた面もあるから、俺が犯罪組織の資金源を吹っ飛ばした影響は想像以上に大きかったようで、俺は凄まじく恨まれた。


 中南米じゃ俺はアメリカ以上にお尋ね者で、民間人ですら俺の顔を見たら、生死問わず捕まえようとするくらいだった。まぁ、それはそれで戦う相手がいっぱいだったから良かったんだけどね。

 アメリカにいた時よりも、みんなアグレッシブに俺を殺しにかかるから、俺も楽しくなって中南米の麻薬ビジネスをぶっ壊して回り、現地の犯罪組織に対して、ひたすらに喧嘩を売りまくった。


 麻薬組織をぶっ潰して回ってただけなのに、最終的には現地の政府に狙われたりもしたね。

 特殊部隊の人間にジャングルを追いかけまわされたり、殺し屋と大通りで銃撃戦をしたり。

 その時の光景が俺の目の前に広がっている。


 夢見の水晶はこれを悪夢だと判断して俺に見せているんだろう。

 まぁ、確かに命の危険はあったな。命の危険があったから悪夢だと判断したんだろうか?

 だとしたら、俺を理解できてねぇよ。

 命の危険があっても、俺はそれを楽しんでたんだぜ? 自分の限界を追い求めてありとあらゆる敵と戦う日々、俺にとっては最高だったよ。

 高校時代の方が精神的にはきつかったくらいだ。戦う相手がいない、自分の限界を追い求めることが出来ない、どこへも行けない閉塞感のある日々と比べれば、ジャングルで殺し合ってる方がよっぽど気が楽だった。だからまぁ、こんなものを見せられても俺は何とも思わないんだよな。


 俺にこの過去を見せても効果が無いと水晶が判断したのか、場面が切り替わる。

 今度はアメリカとメキシコの国境だ。

 散々やらかしたせいで、中南米のほぼ全ての犯罪組織から狙われることになった俺は中南米に行き場がなくなって、アメリカに戻ることにした。

 その頃、南米から難民がアメリカ大陸に押し寄せていたので、その集団に紛れて俺はアメリカ大陸に戻ることにした。まぁ、戻るって言っても不法入国の形になってしまったんだけどな。


 国境線に設けられた壁を俺は眺めていると、人間だった頃の俺が壁に向かってトラックで突っ込んでいくのが見えた。

 トラックで強行突破するつもりだと判断したアメリカ側が壁に備え付けられた機銃を斉射するが、装甲を取り付けた改造トラックは止められず、そしてトラックが壁に激突する瞬間、人間だった頃の俺はトラックから飛び降りる。

 直後、壁に激突したトラックが大爆発。荷台に大量の爆薬を詰め込んでいたんだよな。

 爆発の影響で壁は崩壊。崩れた壁を通って難民がアメリカ国内に侵入する。


「イエーイ!」


 人間だった頃の俺が破壊した壁を背景に自撮りしていた。


「国境なんて俺には関係ねぇぜ!」


 SNSにそんな書き込みをした。

 俺はその後も国境線で破壊工作を続け、その結果、国境警備隊からテロリスト認定され殺しても許されるって感じで追われることになった。まぁ、難民からは感謝されてたんでトントンって感じだろう。


 この頃から俺は本格的にアメリカと喧嘩をすることになってしまったんだよな。

 結局、犯罪組織くらいじゃ俺に限界を教えてくれる感じは無かったんで、もっと大きな存在である国家を俺は的にして戦いを挑むことにした。


 国防総省に忍び込んで機密情報を盗み、それをSNSにアップロードしたり、企業の不正を暴いたり。

 俺がそんなことをしていたら、大統領が怒って俺を挑発してきたんで、大統領が演説中の会場に乗り込んで、大統領の顔面にパンチを入れて、前歯をへし折ったりしてやった。

 テレビ中継で全世界に公開放送中の出来事さ。その結果、全世界にアメリカの大統領がぶっ飛ばされるところが映り、俺は全世界デビューでSNSのフォロワーも爆増。まぁ、速攻でアカウントは凍結されたけどな。


 知ってるか? 大統領の前歯をへし折るとCIAとかFBIに追われるんだぜ? それとテレビ中継中に前歯をへし折られると支持率って急激に下がるんだぜ? 殴られるような情けない大統領はアメリカ人的には嫌なのかもな。


 まぁ、そんなことをしたら当然、俺はアメリカと全面戦争。

 向こうも手段を選ばず、俺を殺そうとしてきたんで、俺も手段を選ばず反撃に出た。

 とてもじゃないけど、口に出しては言えないようなこともやったね、例えばホワイトハウスを爆破したりとか……。

 声を大にして言えるようなことと言ったら大統領を誘拐したことくらいだろうか?

 アメリカで滅茶苦茶やってたら、いろんな国のスパイが俺に協力するって言ってきたから、それなら協力してもらおうってことで、どっかの国のスパイの前に大統領を誘拐して連れてきたんだよ。

 おっと、そんなことを思いだしたら、その場面になってしまったな。


「貴様は何をやっているんだ!」

「何って、これがお望みだったんだろ?」


 何も頼まれていないけど、そいつらが嫌がると思って大統領を誘拐してきたんだよな。

 この映像はリアルタイムで全世界に流れていて、どっかの国のスパイは言語でどこの国かバレてしまい、その後はアメリカの防諜組織に皆殺しにされたとか。俺は普通に逃げ延びたけどさ。


 本格的にアメリカに喧嘩を売ったせいで、アメリカにいられなくなった俺はカナダを経由してアラスカに逃げ、冬の海を渡ってアラスカからロシアへと脱出した。


 ロシアの人は俺に優しかったぜ?

 到着するなり政府の人が来て、俺をスカウトしに来たくらいだからな。

 政府の人は俺に仕事を頼んできたので、その時の会話をSNSに流したり、案内された先の政府施設で手に入れた機密情報を俺を追っていたCIAの人にプレゼントしてみたりな。

 俺はアメリカという国に対しては喧嘩を売ったけど、別に嫌いになったわけじゃないんで連絡くらいは取るよ。この頃になると、日本にある俺の銀行口座とかは凍結されてたし、懐が寂しかったんで、CIAから追われながらもCIAの仕事を請け負い、お小遣いをもらっていた。


 まぁ、色々とあってロシアとも揉めた俺は、俺と同じようにロシアと揉めている国に身を寄せて、そこで抵抗運動を手伝ったりした。

 その結果、ロシアの特殊部隊に奇襲を食らったり、雪原で戦闘ヘリに追いかけられたり、戦車とタイマンを張ったりした。どれも良い思い出だと俺が認識しているせいなのか、夢見の水晶はその場面を俺に見せようとはしてくれない。


 最終的にはロシアと揉めていた国とも価値観の違いで揉めて、俺はヨーロッパに逃げた。

 ヨーロッパにいた頃は比較的、平和だったな。

 やったことと言えば、国連総会に乗り込んで議場を占拠し、国連の不祥事を暴露して国連批判をしたくらいか?


 その後も俺は色々とあって、最終的に俺──『アシハラ・カズキ』は国連で『世界の平和に対する敵』って認定された。

 この頃が俺の人生の絶頂期。ついに戦う相手が国から全世界になり、俺の首にかかった賞金は全世界共通の物となり、世界中が俺を狩るべき怪物モンスターと認識していた。

 死刑制度を反対していた国も俺に対しては裁判なしで処刑して良いって声明を出すくらい、俺は世界中から敵として認定されてしまったわけだ。


 そうして「世界の敵」認定されてからも俺は世界に対して喧嘩を売り続けて色々とやったもんだ。

 その時の場面は……俺には見せてくれないようだ。

 夢見の水晶は辛い過去を見せようとしてるんだろうが、その辛いって判断基準が一般的な人間を基準にした物だから、俺みたいな奴には精神的なダメージを与えることができないようだ。


「次は何を見せてくれるんだい?」


 俺は空間を作っている存在に呼びかける。すると、俺の目の前が歪み、次の場面が現れる。

 そこはどこかの宮殿の一室のようで、人間だった頃の俺が血を流しながら銃を片手に立っている。

 周りには死体が転がっており、部屋の奥の豪奢な椅子には仕立ての良い服を着た一目で権力者と分かる人物が額を射抜かれている。


「あぁ、これは……」


 俺の最後の日か。

 場所はアフリカのとある独裁国家の首都。そしてそこの最高権力者が住んでいた宮殿だ。

 俺は反政府勢力の代表に依頼されて最高権力者を暗殺しに行ったんだが、それは罠で、俺を待っていたのは世界各国の特殊部隊の連合軍で、そいつらと戦う羽目になったんだ。

 まぁ、結果は返り討ちなんだけどな。

 相手は百人を軽く超えていて戦車もヘリも何でもありだったけど、俺の方が強かった。この頃だと俺の方も色々と極まってたからな。人生の大半を戦いに費やして蓄積した経験値が完全に吸収され俺の血肉に変わった状態だったんだ。でもまぁ、だからといって流石に無傷では済まなくてな。俺は傷を負って虫の息だった。


「けれど限界じゃない」


 俺にとっての限界ってのは諦めることで、心が折れなければ限界じゃない。

 だから、俺は立ちあがって、その場から脱出しようとしたんだよ。けれど──


 ヨロヨロと歩いて脱出しようとした俺が突如、光に包まれる。

 何の光かって? 核の光だよ。

 アメリカとかロシアとか中国が俺個人に対して核兵器を使って首都もろとも、俺を消し飛ばしたんだ。

 邪神になってから知ったけど、俺一人に対して核ミサイルを合計七発だぜ? イカレてるよな。

 個人を殺すのに核弾頭だぜ? 死因:核兵器って書かなきゃいけないとかヤバいよな。


 俺と同じように人間から転生した奴に死因を聞かれた時とか説明がスゲェ困るんだよ。

 他の奴はトラックだったり過労死だったりなのに、核ミサイルで死にましたとか言いづらいんだよな。


 まぁ、こんな感じに俺は自分が死んだことに対しては何も思う所はねぇし、これも俺にとっては悪い思い出じゃないね。俺は殺されても仕方ないことをしていたわけだし、俺を殺したこと自体に文句はねぇよ。むしろ、派手に殺してくれたことに感謝したいくらいだ。

 核兵器でないと殺せないと思い込ませるような人間とかスゲェだろ? そう思わせた時点で俺は人間の頂点に立ったようなもんだから、核兵器で殺されたのはむしろ誇らしいぜ。


「……だからまぁ、死に際を見せられても何も思わねぇんだわ」


 気付けば景色は変わっていて、俺はいつの間にか神殿らしき場所の中にいた。

 目の前に立っているのは、これまでに見てきた女神像が生身になったような存在。

 それが俺に慈愛の眼差しを向けていた。





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