人間時代(2)
結局、高校は途中で辞めた。
場面は変わり続け、今は退学届けを校長に提出する所だ。
校長は俺の退学届けを喜んで受け取る。辞める理由すら聞かないが、それも仕方ないだろう。
高校の途中で俺はとうとう警察と揉めて補導された。
その時に、とても人間性に優れた警察官がいて、武道を通して俺の性根を叩き直すという話になり、指導の名目で警察の道場に連れていかれた。
その後はいつものごとく、二度と俺の前に出てこれないようにボロ雑巾のようにしてしまった。その時に俺を指導しようとしていた警察官は何人もいて、そいつらも合わせて病院送り。
その後、色々と面倒くさいことがあり、俺は警察からマークされた。
警察官を病院送りにしたことは警察の面子もあって公にはされなかったが、俺が関わってると思しき暴力事件を警察が嗅ぎまわるようになったため、俺は身を隠すことにして、ついでに学校も辞めることにした。
晴れて高校中退の身の上である。
その後もマトモに働いたりすることはなかったので俺が何らかの集団に正式に属していたのもこれが最後になる。
高校を辞めても、誰も俺を気にする奴はいなかった。
両親に関しては俺が十歳くらいの頃に死んでいて、後見人に叔父がいるくらい。
その叔父だって俺とは関わろうとはしないので、俺は実際には天涯孤独の身の上だった。
金銭的には両親が残してくれた莫大な遺産があったから生活するうえで困ることはなかった。
困ることと言えば、警察が嫌がらせのように俺をマークしていること。俺の場合、見られて困ることしかなかったので、警察の存在は厄介だった。
俺は警察の目から逃れるため、素性を隠して、日本中を転々とした。まぁ、俺にとっては悪い時代じゃなかったよ。気楽だったし、自分を鍛え上げることだけに全てを注ぎ込む毎日ってのは心穏やかに過ごせる日々だったように思う。
だからだろうか、夢見の水晶はその場面をカットして、次に俺に見せたのは、そうした日々を終えて都会に戻ってきた俺の姿だった。
結局、俺は心穏やかな日々に飽きてしまったってわけさ。
だって、この当時の俺は二十歳にもなってないガキだぜ? そんな奴がスローライフなんか送れるかよ。
まぁ、千歳を超える今でもスローライフなんかは性に合わないんだけどね。
都会の路地裏の光景が俺の前に広がる。
この場面はいつの時だろうか? それかなんの時だ?
思い出そうとしながら、人間だった頃の俺が路地裏を歩いているのを眺めていると、俺が二人の男が取引らしきことをしている所に出くわす場面になった。
あぁ、そうだ。
スポーツ選手とか格闘家とか普通に戦える相手がいなくなって、この時期の俺は暴力団とか半グレ連中に手を出すようになっていたんだった。
──で、これは覚せい剤の取引の場面だったかな?
人間だった頃の俺が問答無用で売人を殴り倒している。
買おうとしていた奴が逃げようとしたので、そいつの襟首をつかんで地面に引きずり倒す。
あーあ、両方から金を奪ってるし、他の売人の情報を聞き出してやがる。
一般人を殴ると警察が煩いから、この当時の俺は痛めつけても騒ぎ立てないような後ろ暗い連中を狙っていた。
そういう連中はスポーツマンとか格闘家と比べると個人のスペックでは劣るけれど、こういう連中は得物を使うことを躊躇わないし、手段も選ばなかったから、当時の俺は新鮮な気分で楽しく戦ってたな。
──またもや場面は変わって、今度はとあるクラブの中。
半グレ集団がパーティーをやるって話を聞いて、乗り込んだんだっけか?
クスリで稼いだ金の癖に派手に使ってるなぁって思って、ちょっと懲らしめてやろうと思って乗り込んだ結果、相手は何十人もいて凄く大変だったこと覚えているし、今も、その場面が俺の目の前で繰り広げられてもいる。
今見るとスゲェ動きが荒い。
一発で十分な相手を何発も殴っているのに、何発もいれないと駄目な奴には詰めが甘くて普通に反撃を食らってやがる。
この当時の俺って弱かったんだなぁって、つくづく思うよ。
チンピラ相手に息を切らしてる時点でお話にならないってのに、そんな雑魚の癖にイキりちらしてたんだから、恥ずかしくて仕方ねぇぜ。
俺が戦っているのを眺めていると、やがて半グレ集団のリーダーらしき奴が拳銃を持ち出して俺に向けてきた。これが俺が人生において初めて銃を突き付けられた瞬間だ。
この時に撃ち殺されていれば、俺も今こうしてはいなかったのかもしれないけど、残念ながら銃弾は外れて、俺に銃を向けた奴は俺に殴られて病院送り。
──また場面が変わる。
今度はヤクザの事務所。特に理由が無くカチコミをかけた俺の姿を眺める。
ドスや拳銃を向けられるが、全く臆することなく俺は殴りかかり、全員をぶちのめしていた。
──次はヤクザの親分の屋敷の中。
事務所を幾つか潰し、最終的に辿り着いたその場所は俺を待ち構えていたようで、拳銃だけでなく自動小銃まであった。
人生で初めてアサルトライフルを向けられるという初体験を迎えた人間だった頃の俺を眺める。
この時になると銃の避け方というものなんとなく身に着けていたんだろう。拳銃だろうが自動小銃だろうが、使っているのが素人であれば当たることは無くなっていた。銃口から弾の軌道を計算するってことも大事だが、それよりも視線と体の向きを重視する方が良いって気づいたのが良かったんだろうな。
アサルトライフルを向けられたのも初めてだけど、人を殺したのもこの時が初めてだった。
特に殺したいわけでもなかったけれど、結果的に俺はヤクザの親分とその場に同席していた幹部連中を殺してしまった。
ヤクザにも面子があるからガキ一人に組織のトップを殺されたとかは世間には言えず、公にはならなかったけれども『葦原一樹』という名とその顔は日本の反社会的勢力の間に知れ渡り、俺は裏社会ではお尋ね者となってしまった。
その結果、日本にいられなくなった俺は海外に高飛び。
ヤクザ以外にも、警察からの監視の目も厳しくなってたし、公安組織なんかも俺のことを監視し始めたので、俺は良い機会だと思って海外に飛び出し、アメリカに渡った。
俺は両親は日本人だけど、俺が生まれたのはアメリカだし、中学生くらいになるまで住んでいたこともあって、とりあえずの逃亡先としてはアメリカが最適だった。
──場面がどんどん切り替わる。
行く当てもなくアメリカを放浪し、テキサスでバイカーギャングと揉めて銃撃戦。
ロサンゼルスで騒いでいたNFLのトップチームの選手達と喧嘩になって相手を半殺しにし、チームを壊滅状態にさせ、シーズンを終わらせる。
ヤクの売人と見れば、だれだろうと構わず喧嘩を売って麻薬の販路を崩壊させる。その結果、麻薬組織の殺し屋に襲われたり、麻薬組織とのガチの殺し合いをしたり。
自分の限界を知るために戦い続けた結果、個人ではなく集団だったり組織だったりに相手が変わっていく。
一応、血なまぐさいことばかりじゃないぜ?
切り替わった場面はニューヨークのとあるレストラン。
20歳を越えたくらいの年頃の俺が喚いている。
「こんなクソマズい物を食わせるくせに三ツ星とは驚きだぜ! 俺の方が遥かに美味い物を作れるぜ!」
そんな風に騒いで、その店のシェフと料理勝負して勝ったり。
さらに場面が切り替わり、次は陸上競技場。
それは100m走を金メダリストと勝負し俺が世界新記録を出して勝ったところだ。
「俺の方が速くてお前は遅い! それが全てだぜ」
別に殺し合いだけで、俺は自分という人間の限界を測ろうとしていたわけじゃないからな。
色んな物に挑戦しては見たんだけど、結局俺が一番だった。
こうして色んな人間や集団、組織に喧嘩を売り、そして倒しながら俺はアメリカを放浪していたんだが、そうしている内についにアメリカにもいられなくなった。
その時の記憶が蘇ると同時に俺の視界にラスベガスの光景が広がる。
それはラスベガスで行われるボクシングのタイトルマッチの時のこと。
俺はチャンピオンと挑戦者のどちらにも闇討ちで喧嘩を吹っ掛け、その両方を倒して試合をおじゃんにしてしまった。
色々と場を整えるのが大変だったぜ。常にボディーガードが張り付いているわけだから、そいつらも倒さなきゃならなかったしな。
そんな手間をかけたかいもあってか、チャンピオンや挑戦者との喧嘩は最高に楽しかったのを覚えてる。
まぁ、楽しい喧嘩が終わった後は最悪だったけどな。
その試合はとんでもない額の金が動いていたせいで、大損をこいた人も多数。
日本円で百億円に近い金額が動いていたらしいが、それが俺のせいで全て台無しになった。となれば、俺に恨みを抱く人も大勢いたわけで、そういう人たちは俺を捕まえるか殺すかしないと気が済まなかったので、俺の首に賞金をかけ、そうして俺は晴れてアメリカで誰もが知るお尋ね者になってしまった。
運が悪いことに──その当時、俺は一部では相当に有名だったので『カズキ・アシハラ』という名前も顔をもバレていたため、アメリカにはいられなくなり、中南米へと逃げ込むことに。
中南米のことを思い出すと、またもや場面は変わり、今度は火に包まれる畑の中。
麻薬の原料になる麻畑を俺が焼き払った時の光景だ。
アメリカから逃げ込んだ先の中南米でマフィアやギャングが幅を利かせてると聞いた俺は早速、そいつらに喧嘩を売ろうと決め、資金源となる麻薬の原料を生産している畑を見つけ出し問答無用で焼き払った。
続いて今度は工場の前、人間だった頃の俺の隣に並んで立ち、工場を眺めていると次の瞬間、工場が大爆発する。原料を潰したら今度はそれを作る工場を破壊したってわけだ。
別に麻薬が憎かったわけじゃないぜ? 薬物撲滅の使命に目覚めたわけでもない。
単に麻薬関連の施設やら何やらを破壊するのが、一番相手がキレて本気を出すと思ったからだ。
どうせやるなら本気の相手の方が良いと俺は思ったから破壊工作を行っていただけで、薬物撲滅とかには全く関心が無かった。
後は大義名分が成り立つっていう理由もあったな。麻薬ビジネスを潰すっていうお題目を掲げていれば、世間は俺の行動に対して比較的寛容になってくれたしさ。
まぁ結局の所、俺には正義感とかそういうものは全く無く、俺は俺のためだけに世界中のありとあらゆる個人、集団、組織に喧嘩を売っていただけなんだよな。
その結果、自分以外の人間がどうなろうと構わなかった。全ては俺が何者であるか知るため。そのために俺は俺の限界を教えてくれる何かを探していた。
そして、俺は更に暴走していくことになる。
個人、集団、組織、それですら俺を打ち負かすことができなかったら、俺はどうするか。
より強い敵を求めて喧嘩を売るだけだ。そうして俺は更にろくでもない方へと転がり落ちていく。




