頼りになる仲間たち
サイスからの命令でダンジョンへ行くことになった。
まぁ、体のいい厄介払いだよな。俺がいると面倒なことになると判断してサイスは依頼ってことで俺を追い払うことにしたようだ。
俺がギルドを盛り立てるみたいな感じで積極的にダンジョンを攻略したいと言っていたのを逆手に取った形だ。俺の方も自分でダンジョンに行きたいとか言っていたわけだから、行けと言われて嫌だとは言いづらいんだよね。
「まさか、こんなに早くダンジョンに挑戦できるようになるとはな。俺の目は確かだったようだ」
ついでにサイスは何も事情を知らないガウロンを俺のお目付け役にしている。
ガウロンは純粋に俺がダンジョンに挑戦すると思っているし、自分がその手助けをする役立って思って張り切っているので、俺としてはその期待を断りづらくもある。
自分が勧誘した新人が想像していた以上に活躍して鼻高々って感じだし、そういう気持ちを裏切るのもちょっとね。
「ダンジョンを攻略するには二人では心許ない。もっと仲間を集めるべきだ」
ガウロンは先達として俺にアドバイスを送ってくる。
純粋に親切心で言っているとわかるので、反抗心が沸き上がることもなく、俺はガウロンのアドバイスを素直に受け入れる。そうして、ガウロンに言われた通り集めた仲間は──
「あぁ、行きたくないなぁ」
カイル君とその仲間たちだ。
フェルムにいる数少ない俺の知り合いだし、コイツらに頼むのは当然だよな。
「よろしくな、アッシュ!」
「ふふん、冒険者としては私たちの方が先輩だからね。頼ってくれても良いのよ?」
「……任せて」
ギド、クロエ、コリスの三人は俺がダンジョンに行こうって誘うと二つ返事で了承してくれたし、モチベーションも高い。しかし、カイルはというと──
「帰りたい、帰りたい……絶対に嫌なことになるだろうし、本当に帰りたい」
最低にモチベーションが低い。
ダンジョンへ行こうって誘いに了承して此処にいるはずなのに、このモチベーションの低さはおかしいって? そりゃあね、だって無理やり連れてきたんだもん。やる気がないのも仕方ないさ。
俺がどうやってカイルを連れてきたか。
まぁ、別に何かドラマがあるわけでもなくて、カイルの実家を訪ねて一緒に行こうぜって誘っただけなんだけどね。
カイルは俺との接触を避けるように行動していたせいで一緒にフェルムに当直したのに今まで顔を合わせることが無かった。
でも、ギド達とはたまに会ったりしていたので、ギド達からカイルの居所とか住んでいる所を聞いた結果、フェルムに滞在中はカイルは実家暮らしなんだと教えてもらい、住所まで教えてもらえた。
まったく個人情報の保護っていう観点が無い世界は楽で良いぜ。
そうしてカイルの実家を訪れると、そこは新市街にあるそれなりに繁盛している宿屋だった。
俺はそこでカイルに会って一緒にダンジョンへ行こうと誘ったんだけども、なかなか良い返事は貰えなかった。
まぁ、それはともかくカイルの実家は良い宿屋だったんで、寝床を街の外からそこに移そうかなって話をしたら、カイルはすぐに俺と一緒にダンジョンへ行ってくれることになった。
「ご両親から、よろしく頼まれてるし心配することはねぇって、何かあっても俺がなんとかしてやるからさ」
顔色の悪いカイルを励ますように俺は言う。
カイルの実家を訪ねた時に、俺はカイルの両親とも顔を合わせて、仲良くなったからね。
一緒にメシを食って和気あいあいと話をした結果、「息子を頼む」って頼まれちまったんで、頼まれた以上はカイルのことは助けてやらねぇとな。
「うーむ、なかなか良い仲間が揃ったな! いいか、ダンジョンで生き残るためには仲間同士の強い信頼が必要になっていく。お互いを信じ、背中を預ける仲間として大切にしていくという心構えを忘れてはいけないぞ!」
ガウロンが俺達を前にして真っ当すぎてクソの役にも立たなそうなことを言う。
それを聞いてギド、クロエ、コリスの三人は元気よく「はい!」と返事をするのだが、カイルだけは俺に対して不信感を隠しもしない視線を向けてくる。
「それでは出発──と行きたいところなんだが、一体どこのダンジョンに行くんだ?」
ガウロンが俺達の先頭に立って出発しようとするが、肝心なことを思い出して俺の方を見る。
そういえば言っていなかったね。まぁガウロンが聞かなかったんだけどさ。
「悪夢の森に行ってこいってさ」
良く分かんねぇけど、そこがダンジョンらしい。あまりにも直球な名前だけれど、もう少し捻った名前をつけたりしないんだろうか、この世界の住人は。
ガウロンは俺の答えを聞いて、「ほうほう」と頷くと、もっともらしい顔をして──
「そのダンジョンには行ったことが無いな。そもそも俺はフェルムの周辺のダンジョンは何処にも行ったことが無いんだ」
「お、それなら俺の勝ちだな。俺は一か所は行ったことがあるぜ」
「ほう、それは凄いな! それなら俺の方がお前を先輩と呼ばなければいけないか?」
「まったくだぜ。もっと敬ってくれて良いんだぜ? ダンジョン攻略の先輩としてさ」
ははは、と俺とガウロンは爽やかに笑い合う。俺達の笑い声につられてギドとクロエとコリスも笑い、場に和気藹々とした雰囲気が生まれる。そんな中、一人だけ唖然とした表情としているのはカイルで──
「笑いごとじゃなくない?」
そんな呟きが聞こえてきたような気がするが、気のせいってことにしておこう。
いやぁ、面白くなってきたぜ。これから行く場所のことを誰も何も知らないとか、笑えて来るんだが。
まぁ、先のことが何も分からない方が楽しいから、俺は構わねぇんだけどな。
「まぁ、いいじゃねぇか。とりあえず当たって砕けろ精神だ」
さぁ、悪夢の森って場所に出発しようぜ。
地図は貰ってるし、先のことは辿り着いてから考えりゃいいだろ。
──そうしてフェルムを出発してから三日。
俺達はフェルムの北にある悪夢の森へとたどり着いた。
「良いですか? 悪夢の森というのは、世間的にも珍しい屋外型のダンジョンです」
説明をしてくれたのはカイル。
意外なことにカイルはフェルム周辺のダンジョンについて詳しかった。
まぁ、地元民だと分かった以上、詳しいこと自体はさほど以外でもないんだけどな。
カイルの実家とか知らなければ、何故カイルはダンジョンのことに詳しいんだろうって、それだけで物語りが出来そうだけど、地元民で客としてやって来る冒険者から話を聞いていただけだから、特に何か秘密があるわけでもない。
「悪夢の森の手前には集落はないですが、冒険者たちのキャンプ地にもなってますし、冒険者の需要を狙って行商人が訪れているので、物資の補給も可能です」
そういう説明を受けながら、俺達はテントが並んでいるキャンプ地を抜けて、悪夢の森の入り口に辿り着く。
「悪夢の森は、広大な森全体がダンジョンとなっていて、森のそこかしこで魔物が湧き出ます。このダンジョンでは主に動物系の魔物が出て、それらの死体は森の外に持ち出せば消えないので、魔物の剥製なんかを依頼された冒険者が訪れることが多いです。それと魔物の肉、骨、皮といった素材を求める冒険者も多いですね。
あとは一応、貴重な薬草も自生していますけど、危険な魔物が多いので、採集目的で訪れる冒険者は少なく、基本的には実力のある冒険者しかここを訪れません」
へぇ、そうなんですか。
俺はカイルの話を聞きながら、森の入り口を見る。
森と言ってもダンジョンであるせいか、入り口自体はしっかりと作ってあり、二本の大きな柱が立っていた。柱の間の地面には石畳が敷いてあり、そこを通って中に入れってことなんだろう。
「この森は全体に魔術的な仕掛けが施されているため、正しい道順で進まなければ先へ進めないようになっています。道を間違えると何時の間にか魔術で別の場所に転移させられていたりとか、そういったことがあるみたいです」
まぁ、良くある話だよね。
ゲームなんかでは食傷気味なほど良くある仕掛けだから、特に驚きは無いかな。
それを実際にやってるのも俺は結構、見たことがあるから新鮮さは薄い。
「最後に一番重要なこととして、このダンジョンは心に闇がある者しか最深部に辿り着けないと言われています。心の闇というのが具体的に何なのかは分かりませんが、そのことは理解しておいてください」
心の闇ねぇ。
そんなもん誰だって持ってるだろうに、それが条件になるとか楽勝じゃねぇか。
なぁ、お前らもそう思うよな?
「闇!? 私の中に眠っていた闇の力が目覚めしまうの!?」
闇という言葉を聞いて真っ先に反応したのはクロエちゃん。
闇というキーワードに心惹かれるものがあるんだろうね、すっごくワクワクしていらっしゃるぜ。
「闇かぁ。良く分かんねぇけど、俺は大丈夫だろ。任せておけ!」
ギド君は何も分かっていない様子だけども自信満々。
「……問題なし」
コリスちゃんは少し考えたけれども、顔に自信を漲らせながらカイルに向けて親指を立てて見せる。
「心の闇か……。ふっ、俺も長年、冒険者をやっているんだ。闇の一つや二つは抱えている。何の心配もいらん」
ガウロンはベテランの風格を漂わせながら、格好をつけて言う。
……なるほど、すげぇパーティーだ。
みんな、自分には心の闇があるって自信満々に爽やかな笑顔を浮かべていやがるぜ。
心の闇がある連中しかいないのに、闇が一つも感じられないとか、スゲェよ、マジで。
「あ、これは駄目だ」
仲間たちを見つめたカイル君の諦めたような呟きが俺の耳に残る。
まぁ、メンツはどうにもならねぇんだから、とにかく挑戦してみるしかねぇ。
さぁ、悪夢の森に乗り込むぜ。




