お叱り
システラがリィナちゃんと出て行った翌日。
朝、目を覚ますとキャンプにゼティはおらず、空を見上げると太陽がだいぶ高い位置まで登っていた。
寝坊したとかは思わない。だって時間に縛られる生活をしてないしな。自然に目が覚めた時間が最適な起床時刻なんだよ、俺にとってはね。
「今日は何をしようかね」
とりあえずサイスが探してたって言うし、ギルドへ行こうか。
そう決めて、俺はキャンプから出る。
そうして、ちょっと歩いている草原でゼティが十数人ほどの子供に剣を教えている場面に出くわした。場合によってはシステラを始末するとか言っていた奴とは同一人物と思えないくらい、子供には丁寧に剣を教えているし、穏やかな雰囲気を纏っている。
まぁ、普段からゼティは普通の人間には甘いから、俺はおかしいとも思わないんだけどね。ゼティが冷酷になるのは俺に不利益をもたらす存在や、悪人に対してだけだから、普通に生きている人間にとっては人畜無害な存在なんだよな。だからまぁ、人の中に入っても、それなりに上手くやれるわけで、ついでにモテるんだよな。
俺は子供に剣を教えるゼティを熱のこもった眼差しで見つめる母親たちを横目に、そんなことを思いながらフェルムの街中へ向かう。
その後は特に何もなく、ギルドへ到着。
今日の門番はジョニーじゃなかったんで、無駄話に興じることも出来なかった。
そうして真っ直ぐギルドに向かい、その扉を開けると、受付カウンターにはサイスが座っていた。
「どうも」
サイスは俺を見ると笑みを浮かべて軽く頭を下げるが、眼は笑っていない。
ちょいちょいと俺を手招きするサイス。俺は素直に従ってサイスのいる受付カウンターに行くと──
「なんで、おとなしくしていられないんスかね?」
サイスは素早い動作で俺の胸倉を掴んできた。
俺の方が身長が高いのでサイスは俺を見上げながら睨みつけてくる。
「自分、おとなしくしてて欲しいって言ってた思うんスけどね?」
おいおい怖いなぁ、お説教かい?
いやーん、こわーい、僕ちゃん、ビビっちゃう。
「おとなしくしてたと思うけどねぇ。誰にも迷惑はかけてないぜ?」
「目立つことは避けろって意味なんスけどね」
俺がいつ目立つことをしたよ?
「分かって無いようだから言うっスけど、メイド服の女の子と二人だけでダンジョンを攻略をしたのは充分目立つっスよ?」
サイスは俺から手を放し、溜息を吐きながら受付に置かれた椅子に腰を下ろす。
「どうするんスか? たった二人でコルドールの地下迷宮を攻略する冒険者がいるなんて知ったら、他のギルドも黙ってないっスよ? 有望な冒険者は味方に引き入れるか、それが出来ないなら妨害する。それがフェルムの冒険者社会っス」
嫌な社会だねぇ。
まぁ、パイの取り合いってことになるから仕方ないんだろうね。
ダンジョンから取れる宝だって、優秀な冒険者がいたら総取りされる可能性もあるんだし、そういう奴のせいで、おまんまの食い上げになるんだったら、邪魔をするのだって仕方ないよな。
「所属しているギルドの力が強ければ守ってあげることも出来るっスけど、この通りウチは弱小っスからね」
「俺が守ってもらう必要があるように見える?」
「全然。むしろ、死んでほしいくらいなんで、最初から守る気は無いっス」
おいおいスゲェ嫌われてるなぁ。まぁ、理由は分からなくもねぇけどさ。
サイスにとって、俺は平穏やら何やらをぶっ壊す厄介者なわけで、そんな奴には死んでもらった方が良いと思うのも当然だよな。
「自分としては貴方が、そこら辺で野垂れ死んでくれるのは望む所なんスけどね。とばっちりがギルドにまで及ぶの勘弁して欲しいんスよ。分かります?」
分かるよ。
俺みたいな超有望な冒険者が所属してるってことで、このギルドの評判も高まり、そうなるとフェルムにおける内のギルドの存在感も増す。
だけど、そうなると、他のギルドは面白くないだろうし、俺だけじゃなくギルドの方にもちょっかいをかけてくるだろうから、ここのギルドにも色々と面倒なことが起こる。それが嫌なんだろ? サイス君はさ。
「ウチのマスターに危害が及ばないとも限らないんスから、目立つ行動は自重して欲しいっス」
ギルドよりもマリィベルちゃんのことが大事ってことかね。
先代のギルドマスターの忘れ形見だから? 同じパーティーに所属していた時に事故死を防げなかったことの償い?
まぁ色々と理由があって、マリィちゃんを大事にしているんだろうね。それが健全とは俺は思えねぇけどさ。
「今回はまぁ仕方ないっス。でも、今後は気を付けて欲しいっスね。あんまり目に余るようなら、自分も手を下さなきゃならなくなるっスから」
「なんなら今すぐ、お仕置きしてくれても良いんだぜ?」
お前とは楽しく戦れそうだしな。
目に余るようなら、なんて言わずに気に食わねぇから、ぶっ殺すってかかって来てくれりゃあ良いのにね。
そうしたら俺も気兼ねなく戦れるのに。
「そう言ってくれるのは、ありがたいっスねぇ。……本音を言えば今すぐ、ぶち殺してぇ気分だからなぁ!」
サイスは急に殺意を露にする。
じゃあ、戦ろうぜ? 殺意に応じて俺も戦闘態勢を取る。
しかし、俺が拳を構えた瞬間、サイスの殺意は消え失せ、サイスは肩を竦める。
「冗談っスよ。今はまだ殺す時期じゃないっス」
「俺に迷惑をかけられてるのに?」
イラついてるなら戦ろうぜ? 我慢しないでさぁ。
しかし、俺の言葉に対するサイスの反応は鼻で笑うにとどまった。
「迷惑っていっても、まだ許容範囲っスからね。運が良いことにアンタの活躍はそれほど目立たずに済んでいるんで、今日の所は見逃すっスよ」
俺の活躍が目立ってない?
昨日今日、冒険者になった奴が少人数でダンジョンを攻略してきたっていうのに話題にならない? 期待のルーキーって感じで話題になると思うんだけど、どういうことだろうね。
「ちょっと大通りに行ってみると良いっスよ」
そう言うとサイスは俺をフェルムの大通りに連れだす。
サイスに連れられて大通りに出ると、そこにはどういうわけか大勢の人が集まっていた。
「こいつらは?」
「見物人っスよ」
なんの?
それを聞こうとした瞬間、歓声が通りに響き渡る。
何事かと思い、俺が歓声の向けられた方を見ると、そこには大通りの中心を観衆に讃えられながら堂々と歩く冒険者たちの姿があった。
あいつらはなんだろうか? 俺がサイスに聞こうとすると──
「ダンジョン制覇者っスよ」
じゃあ、俺と同じじゃないか。なら、俺も讃えられて良いんじゃない?
そう言おうとしたが、サイスの言葉には続きがあり──
「フェルム周辺の四つのダンジョンの内の三つを制覇した冒険者達っス」
はぁ、そうっすか。
四つ中三つってことは王手ってことだから話題にはなるよな。
今回は三つ目のダンジョンを攻略した凱旋ってことで、人が集まってるってことか?
「ダンジョンを三つ目まで制覇したパーティーは数年ぶりっスから、それなりには話題になるんスよ。たった二人でコルドールの地下迷宮を攻略したっていう期待のルーキーが相手にされなくなるくらいにはね」
ふーん、そうですか。
タイミングが悪かったってことね。ただ、それだけのことだから、誰かに文句を言うことでもないし、言えることでもない。アイツらにダンジョンを攻略すんなとも言えないしな。
そんなことを考えながら、俺は大通りの真ん中を歩く冒険者パーティーを見る。
五人組のそれなりに強そうな連中だ。
喧嘩を売られれば買うけれど、積極的に売りに行きたいと思えるほどの魅力は無い。
装備から見て前衛が三人に後衛が二人。バランスは良さそうだが、それだけかな?
「なかなか腕が立ちそうっスね」
「そうだねぇ」
冒険者を眺めている俺の隣でサイスが感心したように言う。
良く言うぜ、テメェの方が強いくせにさ。
俺の見立てじゃ、サイスの方が遥かに強い。あの五人の冒険者とサイスが戦った場合、間違いなくサイスが勝つだろう。
それくらいの実力差があるように俺は感じるが、さて実際はどうなのかね?
「ああいう本当に期待できる人たちがいるんで、アンタのことは誰も見向きもしないんスよ。まぁ、結果的には目立たずに済んで命拾いをしたってことになるんで、あの人たちに感謝した方が良いんじゃないスか?」
俺が目立っていたら、殺してたって言いたいんだろうね。
それを聞くと残念だぜ。もう少しタイミングが良ければ、サイスと戦れてたってことだろ?
「ま、目立つようなことは避けてほしいってことっスよ。この街は目立つ冒険者には厳しいっスからね。早死にしたくなければ、身の振り方を考えることっス」
現在進行形でクソ目立ってる連中がいるんだが、そいつら良いんだろうか?
そんなことを考えながら、俺は観衆に讃えられながら大通りを歩く五人の冒険者の背中を見送る。
そして、見送った五人の冒険者が殺されたという話を俺が聞いたのは、その翌日のことだった。




