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フェルムに戻って

 

 とりあえず無事にダンジョンを攻略したんだし、結果オーライだよな。

 収穫って言えるものは怪しげな『地命石』とかいう石と、攻略したっていう証明になる紙切れ一枚だけだけど、まぁ金儲けがしたいってわけでもないし、別に戦利品とかはどうでも良いんだよね。


「その石をずっと持っているつもりですか?」


 隣を歩いていたシステラが話しかけてくる。

 俺達はダンジョンからフェルムへ戻る街道をチンタラと歩いている最中。

 コルドールの地下迷宮の周囲にあった屋台で売っていた甘い飲み物をあげたらシステラの機嫌は多少回復し

 、俺に話しかけてくるようになった。

 甘い味の飲み物は派手な赤紫色のジュースっぽいんだけど正体は不明。でもまぁ、店主が美味しいって言ってたんで、俺もシステラに「これ美味いよ」って言って飲ませたらシステラも「美味しい、美味しい」って満面の笑みで飲んでるんで実際に美味しいんだろう。俺は元が何なのか分からないジュースは飲めないんで飲まないけどさ。

 まぁ、そういうのは置いといて俺が石をずっと持っているつもりかって?


「さぁ、どうしようかね? 貴重な物みたいだし、これを目にした奴らの様子からも売る相手には困らなそうだよな」


 皆がこれを何なのか知ってる程度には貴重品だし、売れば金にはなるだろう。

 でもまぁ、これがダンジョンを攻略したって証だとすぐに分かって証明書を用意できるくらいにはコルドールの地下迷宮を攻略した奴はいるみたいだし、そんなに儲けにはならないとも考えられるけどさ。


 まぁ、そういうことをするにしても、これが何なのか詳しく知るところからだよな。

 幸い、俺の身近には詳しそうな奴がいるわけだし、そいつから聞けば良い。フェルム周辺のダンジョンを全て制覇したパーティーの一員であったサイスがいるんだから『地命石』についても何かしらの情報が得られるだろ。


「売るくらいだったら私にくれても良いんですよ?」


 えぇ、こんな石が欲しいの?

 俺は、もっと良い宝石持ってるから、欲しいなら言ってくれればいいのにさ。

 すげぇ綺麗だけど、ちょっと衝撃を受けると直径数万キロの範囲を飲み込むブラックホールを発生させる宝石とか持ってるし、それをやるよ。


「一応言っておきますが、私はそれが欲しいので、他の物を渡そうとしないでくださいよ」


 なんだよ受け取り拒否かよ。

 使徒連中にもシステラが宝石を欲しがってるって連絡しようと思ったのにさ。

 アイツらもいっぱい持ってるぜ? 光が当たると宝石を通して数千度のレーザーを無差別に放射する宝石とか、置いとくだけ周囲が絶対零度になる宝石とか、触れた人間を火種に太陽を作り出そうとする宝石とかさ。

 システラが宝石を欲しがってるって聞いたら使徒連中も持て余してる…宝石をシステラにプレゼントしてくれると思うんだけどね。


「まぁ、気が向いたらあげるよ」

「絶対ですよ?」


『地命石』に関しては俺が絶対に持っている必要も感じないしな。サイスからこれが何か聞いたらシステラにあげてもいいだろ。

 しかしまぁ、甘い飲み物をあげただけで、こんだけ機嫌が良くなってくれるとか扱いやすくてスゲー楽だぜ。

 メイド服の美少女が幸せそうに飲み物を口にしながら道を歩いているのを見て、すれ違う人も笑顔になってくれるしさ。メイド服でお外を出歩いているってのは、この世界の常識からしても異常なのかもしれないけど、その異常の中心が間抜けな笑顔を浮かべていたら、警戒も緩むんだろうね。


「なにか?」

「美味しそうで良いねって思っただけ」


 俺がそう言うとシステラは鼻息荒く言う。


「えぇ、すごく美味しいですよコレ。今までに飲んだことのない味です。色んな世界の缶ジュースは貰ったことありますし、飲んだこともありますけど、それとは違った新鮮さがあります! しっかりと甘みを感じさせながらも後味はスッキリ! 芳醇な味わいが最初に舌に感じられ、口の中にコクが広がり、最後に爽やかな柑橘系の風味が口の中をサッパリさせてくれます。いったい、どういうフルーツを使ってるのか、私には全く分かりませんけど、素晴らしい味です!」


 へぇ、そうなんですか。気に入ってくれたようで何よりです。

 でも、俺はそんな美味しそうなジュースでも何を使って作ったのか分からないものだから飲みませんけどね。グルメ気取りは良いけど、何を使った物なのか把握しないで、そんなに食レポしてると後で恥をかくから止めた方が良いと思うんだけどなぁ。


「なんですか、あげませんよ?」


 別にいらないよ。しかし、こんなに簡単にキャラが崩れて良いんだろうか?

 俺はまぁ、以前からを知ってるから良いんだけどね、格好をつけても食い物に弱いってことをね。

 俺やゼティと違って食わなくても問題ないってわけじゃないから、食にこだわることができるんだろうし、その点は羨ましいと思わないでも無いかな。

 俺達は食わなくても死なないから、食事とかどうでも良くなってくるしさ。食わないでいると人間性が失われる気がするから食ってるって感じだし、意識しないと味も分かんない時があるんだよな。


 そんな風に食のことを考えながらフェルムまでの道を歩いていると、到着する頃には夕方になっていた。

 俺とシステラは真っ直ぐキャンプに向かう。きっとゼティが俺達の帰りを首を長くして待っているだろうし、早く顔を見せてやろう。

 そう思ってキャンプに戻った俺達を待っていたのは──


「駄目だ、奥さん。こんなことは……」

「いいじゃないですか、先生。ちょっとした間違いは誰にでもあるものです……」

「貴女の旦那さんに悪い……」

「いやだわ先生、主人のことはおっしゃらないで……」


 ──人妻に言い寄られるゼルティウスの姿だった。


「不潔……」


 あぁ、システラちゃんが両親の夜の営みを覗いてしまった思春期の女の子みたいになってる。

 許してやれよ、システラちゃん。俺達は適度に三大欲求を満たしてかないと人間性を失っていくから、こういうことも必要なんだ。


「忙しいようだから、今日は町で宿を取ろうぜ?」


 見なかったことにするのも大人への第一歩だしさ。今日の所は忘れてやろう。そして見逃してやろう。


「誤解だ! この人は俺に剣を習いに来た子供の母親で──」


「人妻の上に子持ちかよ。良い思いしてんなぁ、ゼルティウス君」


 剣術道場を開いて自分だけ楽しい思いをして、そのうえ道場に通ってる子供の母親を食っちまうとか、スゲェよゼルティウス君。

 人が一生懸命働いている時にキミは趣味の延長の仕事をしながら、人妻を寝取っているとか、どういう神経をしてたら出来るんだろうね、尊敬するぜ。


「キモッ、もう私に話しかけないでくださいね」


 あーあ、システラちゃんがパパを嫌う思春期の女の子みたくなっちまったぜ。どうやって責任取ってくれるんだろうねぇ、このクズはさ。


「弁解の機会をくれ!」

「いやだわ、先生。他の奥さんとはもうシてるのに、今更言い訳なんて……」


 あ、初犯じゃないんですか。

 まぁ、ゼルティウス君はモテるからねぇ。

 知ってます、奥さん? その男、剣で百人斬り、女も百人斬りなんですよ?


「まぁ、冗談はここまでにして、申し訳ないんだけど奥さん。そういうのはまた今度にしてもらえます? 見られながらヤる趣味もないでしょ?」


 女も百人斬りってのは冗談じゃないけどね。

 色んな世界を回っての合計じゃなく、一つの世界でそれだからね。合計すると経験人数一万人は軽く超えてるんじゃないかな。


 俺が話しかけると奥さんは今日の所はって感じで大人しく帰っていった。

 しかし、入れ違いに町娘って感じの女の子が籠を片手にやって来て──


「あの先生。ちょっと料理を作りすぎてしまって、良かったらどうぞ」


 これが一人だったら、まだ良いんだけど──


「先生、メシを作って来たから食いなよ。こんな所にいたんじゃ、碌な物を食ってないだろ?」


 二人目が来て、それで済めば良いんだけど──


「ゼルティウス先生。残り物で申し訳ないのですが、お食事を持ってきました」


 残り物の割には誰も手を付けた気配のない、まだ湯気の出てる料理を持ってきた三人目が現れる。


「人妻の次は穢れを知らない町娘ですか。凄いねぇ、ゼルティウス君は」


 やっぱりモテる男は違うねぇ。

 何か弁解はあるかい? 無いよね?

 俺はモテるんだぜっていう自慢なら聞くけど?


「アスラァ!」


 アッシュ・カラーズな。俺の名前を叫んだって状況は変わらねぇよ。

 とりあえず、女の子が持ってきた料理をさっさと食っちまおうぜ?

 幸い、女の子たちは食う所まで見てるつもりはないようで、さっさと帰っちまったしな。

 初心うぶなこったぜ。後で感想を聞こうと思ってるんだろうけど、残念ながら、キミらの作ったメシはシステラの胃袋に消えるんだぜ? 感想はゼティでなくシステラに聞いてくださいってな。


「あ、美味しい」


 俺とゼティはそんなに食わなくても平気だから、システラちゃんがいっぱい食べると良いよ。しかし、いつもメシを作って来てもらえるなら食費が浮いて良いね。やっぱりモテると得だよなぁ

 ほら、また人がやってくる気配がするぜ? 人妻、町娘の次はいったい何が来るやら。そう思ってこちらにやって来る気配に意識を向けると──


「──アッシュゥゥゥゥゥッ!」


 俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

 どうやら、今度の来客はゼティではなく俺を求めているようだ。

 まいったね、俺にもファンか何かができちゃったってことかな?

 俺はゼティと違って来るもの拒まずのスタンスだからね。

 躊躇せずに俺の胸に飛び込んでくると良いよって感じで、やってくる女の子を待ち構える。しかし現れた女の子は──


「テメェ、ぶっ殺す!」


 現れたのはリィナちゃんであった。

 リィナちゃんは怒りの形相で俺に向かって突進し、そして殴りかかって来た。

 俺はその拳を躱し、リィナちゃんをなだめようとするが──


「お前、マジでふざけんなよ!」


 リィナちゃんは聞く耳持たずといった様子だった。


「私の任務を台無しにしやがって、どうしてくれんだ!?」


 台無しって何の話だろうね。俺は訳が分からないって感じで首を傾げる。


「お前、マジふざけんなっ!」


 リィナちゃんは再度、俺に殴りかかってくるので、それを躱す。

 はて、何をそんなに怒ってるやら。俺はリィナちゃんを怒らせるようなことをしたかな?

 俺がしたことと言えば、酒場でリィナちゃんがどこかの組織のスパイだってことを大声で叫んで、街中の噂になるようにしたくらいかな?


「悪気はなかったんだよ、許してくれよ」


 リィナちゃんが教会に潜入を続けるのは不可能になるだろうって確信はあったけどね。

 さて、ここからどうやってリィナちゃんをなだめようか。どうして、そんなことをしたかって理由を説明する?

 まぁ、理由らしい理由はないんだけどね。でもまぁ、俺がリィナちゃんの邪魔をした結果、リィナちゃんは俺に会いに来てくれたじゃない?


「キミに会いたかったから──そんな理由じゃ駄目かい?」


「………………ぶっ殺すっ!」


 駄目でした。

 俺の言葉が気に食わないリィナちゃんは長剣を抜き放ち、俺に斬りかかる。

 さて、この状況で、どうやって俺の言い分を聞いてもらえばいいやら。

 さぁ、どうしようか、困ったことになったぞ。






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