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攻略の証

 

 遠い間合いから石弾が飛んでくる。

 放ったのは、このダンジョンのボス格の魔物である黒曜将軍オブシディアンジェネラル

 俺に蹴り飛ばされて起き上がった位置から、空中に魔法陣らしきものを浮かべて、そこから石の弾丸を高速で撃ち出してくる。


「そういう攻撃も嫌いじゃないぜ」


 遠距離戦も出来る方が戦う相手としてはバランスが良くて面白いからな。

 対する俺は遠距離攻撃が今は出来ないが、まぁそっちの方がハンデになって良いだろ?

 近接戦では俺の方が圧倒的に強いんだから、敵の勝ち筋は遠距離からの一方的な攻撃か、遠距離攻撃と近接攻撃の組み合わせに頼るしかないんだから、俺が遠距離攻撃が出来たら、それを殺しちまうし勝ち筋の無い敵を一方的に嬲り殺すのは趣味じゃねぇんだよなぁ。


「ほら、どうする?」


 俺は飛んでくる石弾を躱しながら、距離を詰める。

 軌道は読めるし、速度だってそれほどじゃない。もっとも銃弾と比べればって話だけどな。

 でもまぁ、俺は銃弾だって見切れるわけだし、問題はない。


 俺が魔術をものともせずに距離を詰める様子を見て将軍は魔法陣の数を増やす。

 だが、それは自分の周りではなく俺の周り。

 俺の周囲全方向に配置された無数の魔法陣から一斉に石弾が発射される。


 逃げ場はない? そんなわけはない。

 一斉に放たれたからって一度に同時に着弾するわけじゃないんだから、逃げ道はあるものさ。

 俺が前に出れば前から迫る石弾は、他の方向から来るより早く俺に着弾し、逆に後ろからの弾は一瞬でも遅れる。一秒にも満たない時間差の着弾。だが、それが絶対的な差になる。


 ──全方向から迫る石弾に対し、俺は即座に前に出て、目の前から来る石弾を左手で叩き落す。

 魔法陣は俺の中心に円周を描くように配置され、中心にいる俺に向けて放たれたのだから、俺が中心点から動けば、それだけで俺に当たらない軌道を描く弾も出てくるので、対処しなければいけない弾は見た目よりずっと少ない。


 見栄えだけの攻撃だ。

 俺は最短距離で飛んでくる弾を姿勢を低くしながら叩き落とす。左右から来る弾は姿勢を低くしたことで、何発は俺の頭の上を通り過ぎ、俺は当たりそうな弾だけを判断して叩き落とす。最後に背後から飛んできた弾を蹴り落とし、俺は全方向から来た攻撃を無傷で切り抜ける。


「悪くねぇぜ」


 結果的には無傷だったけど、当たってた可能性もあるしな。そういう攻撃を仕掛けてくる相手は悪くない──いや、良いってしておこうか。もっとポジティブに評価してやらないとな。


「でも、まだあるんだろ? もっと見せてくれよ」


 楽しくなってきてんだからさぁ、出し惜しみはなしだぜ?

 俺は魔術の発動準備をする将軍に向けて、一気に距離を詰める。

 俺の動きを見て敵も後ろに下がる。魔術を使った遠距離戦がしたいっていう狙いが見え見えだ。

 直後、前へ出ようとする俺の足元から石の杭が出現して、俺を突き刺そうと伸びてくる。だが、それも想定の内に入れていたので、俺は苦も無く躱して、足を止めず敵に向かう。


「そんな寝ぼけた攻撃が俺に届くかよ!」


 俺が近づくと将軍は剣と盾を構える。

 だが、それもフェイク。俺は咄嗟の判断で横に跳ぶと一瞬前まで俺がいた場所に真上から石弾が降ってきた。俺の注意を引いたつもりなんだろうが、その程度なら無理だ。

 そして、俺が横に跳び、着地した隙を狙って剣を振り下ろしてきたことも、予想できていた。

 俺は振り下ろされた剣を左手の指先で掴み、反撃の蹴りを放つ。俺の蹴りを食らった将軍が衝撃で後ろに下がりながら、石弾を放ってくるが、それを叩き落としながら、俺も前に出て追撃を放つ。


 真っ直ぐ放つ正拳。

 それを盾で受け止めながら、将軍は剣を振って俺を斬り払おうとするので、その場にしゃがみ込んで、躱しながら俺は脛に蹴りを入れる。

 魔物の痛覚がどうなのかは知らないが、脛を蹴られたことで体勢は崩れた。俺は体勢の崩れた将軍の顎先をかち上げるような掌底を放つ。

 フルフェイスの兜が陥没するが、それで脳震盪がある様子もなく、ダメージなど気にせずに将軍は剣を振り上げて反撃に移ろうとする。


 だが、俺は反撃しようとする将軍ではなく、背後を振り向きながら回し蹴り放つ。

 俺の放った蹴りは背後から飛んできた石弾を叩き落とす。

 そうして背後からの魔術を防いでも、将軍の攻撃は残っている。背後からの攻撃を振り向いて防いだせいで、今度は将軍の攻撃が背後からになった。

 流石に俺も真後ろは見えない。だから、直感で避ける。俺は直感に従い、その場にしゃがみ込むと俺の頭の上を将軍の剣が通り過ぎる。

 俺はその状態からの反撃としてしゃがみ込ん姿勢のまま円を描く軌道で背後の敵に向けて足払いをしかける。すると、それを食らい将軍の体勢が大きく崩れる──が、なんとか堪えて転倒まではしない。しかし膝はついた。


 俺はすかさず膝を突いた敵に対し、円を描く足払いから連続し、螺旋を描くような軌道で上段回し蹴りを放つ。それもまともに食らって将軍が吹っ飛ぶが、すぐに立ち上がって俺に魔術を放つ。

 無数に飛んでくる石弾を受け流し、距離を詰めると放たれる剣撃と魔術のコンビネーション。


 一つ受けるたびに、一つ躱すたびに、そして、一つ返すたびに──


 俺の中の錆びついたものが輝きを取り戻されていく。

 やっぱり、ハンデがあるってのは良いよなぁ。自分を追い込まなきゃ取り戻せない物ってのがあるのを気づかせてくれるぜ。


 俺は剣と魔術を躱し、中段突きを放つ。

 その衝撃で敵の体勢が崩れる。

 苦し紛れに放たれた剣を掌で受け流し、返す刀で顔面に拳を叩き込む。

 俺の攻撃を受けた将軍は即座に後退の選択を取ろうとするが、その背中が壁にぶつかる。


「追い込まれてることも気づかない程、追い込まれてるって気づいた時の気分はどうだい?」


 俺はワクワクがするがキミはどうだい?

 答えは返ってこないと分かっていたので、俺は詰みに入る。

 逃げ場がない将軍が魔術を放とうとするが、その瞬間、スナップを利かせた俺の左手が頭を捉えて仰け反らせる。それによって魔術の発動は失敗。ならばと考えたのか剣を振るおうとするが、俺は足を跳ね上げて、剣を持つ腕を壁に押し付けて剣を振るわせない。

 盾を使って俺を押しのけようとするが、そうしようと腕を動かした瞬間、俺は将軍の懐に入り込んでおり、盾を振り回せるような間合いを取らせない。

 後ろに下がろうにも背後は壁であるから逃げようがない。俺は密着したゼロ距離からボディブローを何発も叩き込み、続けて膝を踏み砕く。そして体勢が崩れた所に頭を掴んで飛び膝蹴り

 黒曜将軍の頭を守る兜が大きく陥没すると同時に、その衝撃で首が千切れ飛ぶ。


「さぁ、どうだい?」


 今までの同系統の敵は首が飛んだら倒せたけど、ダンジョンのボスはこのくらいじゃ倒れないだろ?

 そう思って、頭を失って崩れ落ちた黒曜将軍を見るが、将軍は何も反応を見せずに、やがて現れた時と同じ黒い霧となって散り、消え去ってしまった。……どうやら、これで終わりのようだ。


「……まぁ最高に面白いわけじゃなかったが、つまらなくもなかったぜ」


 戦いになっただけでも感謝、感謝。

 もっとポジティブに評価しないとな。


「……強すぎだろ、一発もマトモに食らってないぞ」


 俺の戦いを見ていた冒険者たちが俺の戦いの感想を呟く。

 結果だけなら一方的な戦いになったせいもあって、俺に対しては賞賛よりも畏怖の感情が強いようだ。

 まぁ、仕方ねぇわな。ちょっとはしゃぎすぎた感もあるし、俺にドン引きなのも仕方ない。


「それで、この後はどうなるんだい?」


 俺は怯えを隠せていない冒険者たちに訊ねる。

 システラは俺の活躍を見ても、ちっとも楽しそうな顔をせず、むしろ俺がやられなかったのが不満そうな顔のまま会話に加わろうとしない感じなんで、俺はシステラは放っておくことにする。

 会話に加わらないのは俺のことが嫌ってのもあるけど、実はシステラは人見知りだから初対面の冒険者連中と関わり合いになりたくないんだろう。


「えーと、ダンジョンを攻略したら、その証が現れるっていう話で──」


 おっと冒険者連中が大事な話をしてるな。

 システラのことは置いといて、ちゃんと話を聞こう。まぁ、ちゃんと聞くまでもないような内容だけどさ。

 それに、その話を聞いている最中に言っていた通りのことが起きてしまったので聞く必要もなくなってしまったんだけどさ。


 俺が見ている前で部屋の中心に光の粒子が集まりはじめ、それは一か所に集中すると同時に強い輝きを放つ。そして、その輝きが収まって消えると、そこには掌に収まるサイズの琥珀色の宝石が転がっていた。


 こうして現れたのがダンジョン攻略の証。

 俺はその宝石を拾い上げて眺める。綺麗な琥珀色をした只の宝石だが、これが証になるってのが良く分かんねぇな。いくらでも偽造できそうなもんだけど、そんなもんが証になるか? 変な魔力を感じるが、そんなに貴重な物なんだろうか?

 俺は気になったので、そのことを冒険者たちに聞こうとしたのだが──


「どうした?」


 俺が冒険者たちの方を振り向くと、冒険者の目が、さっきまで怯えて目を逸らしてさえいた俺に釘付けになり、俺から視線を外そうともしない。

 まぁ、正確には俺の手にある宝石に対して目が釘付けになっているみたいで俺自身には目もくれていないんだけどか。


 なんか変な気配だぜ。

 そんなに特別な石かと思って俺も改めて見てみるが、特に何も感じない。

 いや、なんか変な感覚はあるな。心の表面を羽でくすぐられるような違和感がある。綺麗な物を見れば、心に何らかの影響が生じるのは当然だが、そういう影響とは違うような気がするな。


「あ?」


 俺は嫌な予感がして宝石をズボンのポケットにしまい込む。すると、冒険者達は間の抜けた声を上げて正気に戻ったが、その視線は名残惜しそうに俺のポケットに向いている。行動を見るに、宝石に心を奪われていることは明らかだ。


 ダンジョン攻略の証?

 見たものを虜にする宝石とか、どう考えても厄介事の種じゃねぇか。

 俺は構わねぇけど、普通に攻略しに来た冒険者がこんなもんを手に入れたら碌なことにならねぇぞ。


 これはダンジョンを攻略しに来た者に対するダンジョンの最後の抵抗なのか。それとも何か別の目的があるのか分からねぇが、とりあえず今はさっさとダンジョンから出てしまおう。考えるのはそれからでもいいだろ。

 まずは、ちゃんとダンジョン攻略を終わらせる。話はそれからだ。



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