新エリア
システラは気まずそうに俺の後ろを歩いている。
俺に反逆したのに何もできずに負けて、そのうえ情けをかけられ命を見逃してもらった。とか、思ってるんだろうね。そりゃ、気まずくもなるし、自分を情けなく感じるのも仕方ない。
でもまぁ、使徒だって、そんなもんなんだから気にすることは無いんだけどね。ちょっと手合わせしたとでも思ったら良いんじゃないだろうか?
俺の方は特に何も思ってないんだから、システラの方も気にしなくていいのにな。俺の使徒共の話になるけど、アイツらは俺を殺そうとすることを当然のことだと思ってるし、俺の方もアイツらの最終的な仕事はそれだと思ってるから、俺との殺し合いを悪いことだとは思ってないぜ?
だから、殺し合った直後に普通にメシ食いに行くしな。システラにもそれくらいの図々しさを身に着けてほしいもんだぜ。
「…………」
何も言わずに俺の後ろを歩いているシステラ。
もともと俺と話したい感じでも無かったから別に良いんだけどね。
ただまぁ、もう少し陽気に生きてもらいたいもんだぜ。陰気なままだと長く生きるのは辛いからさ。
俺が弱ってると思って反逆したのは良いけども、それをミスったからって気に病むんじゃなく、自分の失敗を自分で笑い、次こそぶっ殺すって笑いながら俺に話しかけてくるくらいじゃないと、俺とは長く付き合っていけないし、そうなれない奴とは俺だって仲良くするのは御免だぜ。
「なんか言えよ」
「……言うことはありません」
はぁ、拗ねてやがる。ガキと一緒だね。
まぁ、良いけどさ。そういう態度も可愛いもんさ。
「次はもう少し上手く仕掛けてくれよ」
それだけ最後に言って俺はシステラから、いま歩いている通路に意識を向ける。
通路は最初に通って来た石畳と石を積んだ壁だけで作られた殺風景な物とは打って変わって、ダンジョンの床は石畳に規則的な模様が描かれた物に変わり、壁も模様や彫刻が施された物になっている。
そういった変化の結果、ダンジョンの通路は神殿や宮殿のような趣を感じさせるものとなっている。
まぁ、そんな見た目でもダンジョンではあるから、魔物は出るんだけどね。
「一応は負けたんだから、言うことは聞けよ?」
「そんな約束してません」
俺は後ろを歩くシステラの方を振り向かず、前を見ながらシステラに言う。
前からは魔物の群れが侵入者である俺達を始末しようとやってきていた。
魔物は砂ゴブリンに泥人間、それと初めて見る犬型の魔物だ。犬型の魔物は砂ゴブリンと同じような体表だが、体の一部を石で覆われているという違いがある。
とりあえず石犬と名付けておこう。石犬は俺達を発見するなり、大きく口を開ける。遠吠えをしているようにも見えるが、音は何も聞こえてこない。発声器官が無いから当然だろう。
口を開けた時に石の牙が見えたので、それを武器に戦う魔物なんだろうと思って見ていたら、石犬は駆け出し、俺に向かって飛び掛かって来た。
「魔物でも戦い方が犬と変わりないなら困らねぇよ」
俺は飛び掛かって来た石犬の首根っこを左手で掴んで捕まえると、そのまま床に叩きつけた。
動きも素早いし、攻撃力もあるんだろう。ついでに石の装甲があるから、少し頑丈か?
「って、そうでもねぇか」
俺が床に叩きつけた石犬はその衝撃で砕け散っていた。
砂だけなら衝撃吸収も出来るんだろうけど、石で体を覆っているせいで衝撃の逃げ場が無くなっているせいか、床に叩きつけられた衝撃も殺しきれておらず、簡単に砕ける。
「犬の相手は得意だぜ?」
人間だった時に散々、警察犬や軍用犬に追いかけられてたからな。
そんで逃げ切れずに噛まれたことも何度かあるし、撃退したことも数えきれないくらいあるからな。
おそらく俺は人類で一番、犬と喧嘩した男だぜ? それだから犬の相手なんか楽勝ってもんよ。
「まぁ、もっと得意なのは人間相手だけどな」
まぁ、大きな括り人の形をしてる奴ならだいたい得意だけどね。
俺は距離を詰めて、砂ゴブリンと泥人間に殴りかかる。一度、戦ったことがある相手なので倒すのは問題ない。一分もかからず、俺の前から敵はいなくなった。
「キミも働けよ」
拗ねてないでさぁ。
俺は敵を倒すと後ろを歩いていたシステラを見る。
システラはツーンとした感じで俺から顔を逸らしていた。
メイド服を着てるんだから、メイドらしい態度を取ってくれないもんだろうかと思いそうになるけど、コスプレだから仕方ないと思って俺は納得することにした。
「増援が来ていますよ」
システラは通路の奥を指さす。
その指の先を見ると、確かに魔物の増援がいた。石犬の遠吠えを聞きつけたのだろうか? 音はしなかったが、何かの信号でも発していたのかもしれないな。
増援でやってきたのは石の鎧を身に着けた兵士だ。中身は泥人間のように見えるので、石犬と同じ感じで魔物に装備を身につけさせて強化した上位種って感じなんだろう。
「このダンジョンの内装的にはそっちの方が正解って感じもするしな」
神殿や宮殿みたいな内装のダンジョンに石の兵士はしっくりとくる。
しかし、砂だったり泥だったり、果ては石とか土属性って感じが強いね、ここ。
何か理由はあるんだろうか?
俺は考えながら、石の兵士との戦闘を始める。
石の兵士だから石兵士で良いかな? とりあえず、そう呼ぶことにして、俺は石兵士の腕を掴むと投げ飛ばして床に叩きつける
石の鎧を着ているから表面は硬い上に、中身は泥人間だから衝撃も通りにくい。でもまぁ、鎧は関節の可動域を確保する関係で間接までは覆っていないし、首も見せている。となれば、転がして首を踏み折り引きちぎれば良いかなと思い、俺はそれを実行し、石兵士を始末する。
とりあえず襲ってきた魔物はこれで終了だ。では、考え事の続きをしよう。
土属性っぽい魔物が多いこと、神殿みたいな場所であること、それとダンジョンの最初にあった女神像を見るに、ここは土の女神か何かを祀っていた神殿なのかもしれない。今は廃墟でダンジョンって感じだけどさ。
不思議なこともあるもんだよなぁ。
リィナちゃんが言うにはフェルムの地はずっと白神教が強い影響力を持っていたっていうのに、土着の神様か信仰かは把握できないけど、その痕跡は残っている。そのうえ、教会の地下には異端審問をした痕跡のような拷問部屋がある。
誰かが何かを隠している?
隠している物は何だ? 信仰の痕跡か?
それは徹底的に弾圧して、存在した歴史も消さざるをえないような物なのか?
だけど融和も不可能なことってあるのか? 融和が不可能な要素があったということだろうか?
邪教だったとか? いや、入り口の壁画には、そんな要素は無かった。人々に敬われる女神の存在があったはずだ。あれが噓偽りの歴史だとも考えられるが、そうでない可能性もある。
その場合、土着の信仰を白神教が弾圧し、歴史から抹消。そして土着の信仰に成り代わり、この地の宗教的な支配者になった?
だけど、そこまでする必要があるのか?
リィナちゃんの話や他の連中の話を聞く限りでは、白神教は他の神を否定していない。赤神や青神といった存在に対しても思う所があるという雰囲気ではなかったし、となれば何故、白神教が弾圧をしなければならなかったのか?
「──考え事している最中に失礼します」
システラの呼ぶ声が聞こえて俺は思考を中断する。
まぁ、ここまでのことは全て俺の妄想だし、今は考えることでもないかな。
「何か用か?」
俺が訊ねるとシステラは通路の先に見えている部屋への入り口を指さし──
「人がいます」
そりゃいるだろうね。
ダンジョンなんだし、お宝を見つけにきた連中もいるでしょうよ。
「それじゃ、先客に会いに行こうか」
俺がそう言うとシステラは露骨に嫌な顔になる。
人と関わり、面倒ごとに巻き込まれ、そして時間をロスするとかが嫌なんだろうね。でも、俺は嫌じゃないから、人とは積極的に関わるぜ。
人と関わらなきゃトラブルに巻き込まれることもねぇし、そういうのは俺は退屈なんでね。俺が人と関わるのは厄介事や揉め事といったトラブルのためと言っても過言じゃねぇぜ。
「やぁやぁ、元気かい?」
俺は部屋に入るなり、人の姿も確認せずに声をかける。
すると、即座に殺気が俺に向けられ、俺は殺気が飛んできた方を見る。
そこにいたのは満身創痍で今にも死にそうな一人の冒険者と、それを囲んで必死の治療をしている冒険者たちだった。
数は死にそうなのも含めて五人。強さ的には俺がこいつらと戦りてぇなぁとはならない程度の強さかな? 立ち振る舞いとか気配で何となくわかるんだよね。こいつらと戦っても面白くならねぇだろうなぁってのがさ。
「誰だ!」
「俺が誰か知らねぇのかよ、素人か?」
俺は近頃フェルムで有名なアッシュ・カラーズさんだぜ?
有名人にあえてうれしいだろ?
「お前は誰だ!」
「アッシュ・カラーズ。キミらと同業だよ」
名乗ってみるが、反応は特にない。
いや、無くは無いか。俺の名前を聞いてもピンとこない様子だったけれど、同業って聞いた瞬間、俺に対して警戒の気配を出してきたしな。
「まぁまぁ、落ち着けよ。死にそうな奴とそのお仲間と喧嘩をするような趣味は無いからさ」
俺がそう言っても、冒険者たちは警戒を緩めない。
俺は両手を挙げ、戦闘の意思は無いことを示しながら近づく。
「近づくな!」
「そんなに怖がるなよ。お仲間が死にそうなんだろ? 手を貸してやろうか?」
俺は武器を構える冒険者たちを気にせずに死にかけの冒険者に対して近づく。
手を貸すって言ってもトドメを刺す手を貸すわけじゃないぜ? 助ける手を貸してやろうって話さ。
俺はなるべく人間は生かしておきたいんでね。助けられる命は助けてやるのさ。
まぁ、殺すときは殺すんで差し引きは結局プラマイゼロになることも多いんだけどね。
「うーん、腹をぶっ刺されてるのか? 四肢は繋がってるけど、内臓はズッポリ逝ってるね。こりゃ死ぬわ」
ちょっと距離があるところから見て、それなんだから近くで見れば、もう少し酷いかもね。
俺は武器を向けて経過している冒険者たちに訊ねる。
「誰も治せねぇの?」
「この傷を治せる治癒術が使える奴は自分たちの中にいない」
そうか、そりゃ大変だね。となれば、薬か何かを使うしかないんじゃない?
こういう世界なんだもん、魔術薬とかあるでしょ? もしかして、それも持ってなかったり?
まぁ、何も出来ていないってことはそう言うことなんだろうね。
「──となれば、俺が助けてやるしかないじゃない」
俺は後ろを振り向き、嫌々ながらって感じを隠さずに俺についてくるシステラに向けて言う。
「エリクサーあるだろ? エリクサーじゃなくても傷を治せる薬をくれよ」
倉庫番のシステラは俺や俺の使徒が集めた武器や道具を預かり、それを取り出すことが出来る。
色んな世界を冒険してる連中から物を預かっているんだから、どんな傷でも治せる薬くらいはあるだろ?
俺が知る限りでは不老不死になれる薬だって在庫が数千はあるんだから、単純に傷を治すだけの薬なら無限に近いくらい在庫があると思うし、ケチケチせずに出してやってくれよ、人助けだと思ってさ。
まさか嫌だとは言わねぇよな。
俺に負けたんだから、これくらいの頼みは聞いてくれるだろ?
他の連中は俺と喧嘩して負けたら、おとなしく俺の言うことを聞いてくれるのに、システラちゃんだけ、嫌だって言うのは無しだよなぁ。
そこのところどうだい? 俺の頼みを聞いてくれるかな、システラちゃん?




