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背中を預ける

 

 俺は扉を開け、迷路のようなエリアから次のエリアに移動する。

 扉を開けた先にあったのは荘厳な雰囲気の広い部屋で、部屋の中央には石で作られた巨大な騎士の像があった。


「動きそうだなぁ」


 そう思って近づくと案の定、動き出したので俺は素早く踏み込んで騎士の像を足を蹴り飛ばし、その場に転がす。大きさは5メートルくらいか?

 でもまぁ、人型である以上、足を狙えば転がすことは問題ないんだよね。見た目だけ石だったガーゴイルと違って、騎士像はちゃんと石で出来ているようで軽く蹴った程度では壊れる気配はないし、倒れても問題なく起き上がる。


「良いね。楽しそうだ」


 硬いのを殴り倒すのは面白いんだぜ?

 簡単にぶっ壊れないのを壊すってのは工夫のしがいがあるからさ。

 俺は騎士像に向かって拳を構え、次に繰り出す一撃を考える。だが、俺が考えていた一瞬の隙に俺の背後からの放たれた砲弾が騎士像を一発で粉砕する。


「遊ばないでください」


 背後にいたシステラの方を振りむくと、システラの隣に砲塔が転送されており、それから放たれた砲弾が騎士像を破壊したんだろう。


「つまんねぇなぁ」


 システラちゃんは早く攻略したいんだもんね。

 俺が戦いに時間をかけるのは面白くないんだろうな。


 了解、了解、分かりました。

 さっさと最深部まで行って、ダンジョンを制覇すれば良いんでしょう。

 嫌だねぇ、余裕が無い奴と一緒だと余興を楽しむことも出来やしねぇ。


「何か不満でも?」

「有るけど言いません。俺は大人なもんでね」

「本当に大人なら、それも言わないと思うのですが?」


 怖いなぁ、反抗期のガキかよってくらい突っかかってきやがる。

 まぁ、それも可愛いと思って暖かい目で見守ってやろうじゃないか。でもって、とりあえず今は黙って先へ進んだ方が良いかな。そう思って、騎士像の破片の脇を通り、先へ行こうとすると──


「……ところで、右腕を使われていないようですが、どうかしたのですか?」


 先を歩く俺の背中にシステラが声をかけてきた。

 今頃気付いたのか、感づいてはいたが確信を抱いたのは今なのか? それとも気付いていたけど、改めてこの場で確認したのか。

 まぁ、俺が戦ってるのを見て気付いたなら、システラの見る目はこの世界の冒険者であるスカーレッドより劣るってことになるんだけどね。ちなみにゼティは間違いなく気づいていただろうけど、付き合いが長いからか何も言わない。


「それと業術カルマ・マギアも使われていないようですが、それにも何か理由があるのでしょうか?」



 システラは続けて俺の背中に疑問を投げかけてくる。

 俺は振り向くことなく、背後のシステラに質問を返す。


「どうしてだと思う?」


 質問に質問を返す形だが、システラは俺の問いに確信をもって返答する。


「使わないのではなく、使えないのでしょう」


 ご名答。

 雑魚に武器を使って倒したせいで、俺が自分にかけてる手加減の呪いは俺に罰を与えた。

 その結果、俺はしばらく右腕は使えないし、それに加えて業術も使えない。

 なので、使わないのではなく、使えないってのは大正解だ。


「──で、それを確認してどうするんだい?」


 戦力の確認のつもりなら、俺は何も言わないよ。いや、システラちゃんは慎重で偉いねぇって褒めるかな?

 でも、そうじゃないだろ? システラは俺が弱くなってるってことを確認したかったんだろう。でもって、そんなことをする理由は──


「こうするんです」


 俺は声が返ってくるより早く、横に飛ぶ。

 直後に銃声が聞こえ、俺が一瞬前まで立っていた場所を銃弾が貫く。


「良いねぇ」


 俺がシステラの方を振り向くと、システラは両手に拳銃を持ち、その銃口を俺に向けていた。

 こんなことをする理由は一つだけだ。


「俺が弱くなったと思ったから反旗を翻したとか、そんな感じかい?」


 そのために俺に業術が使えないとか確認を取ったんだろう?


「怒らないんですね」


 誰が怒るかよ。むしろ偉いと褒めたいくらいだぜ。

 俺がお前らを飼ってる理由がなんだか理解してたら、俺が怒るわけねぇって知ってるはずなんだけどね。でもシステラの場合、仕方ねぇか。


「お前は俺に挑戦したのは初めてだもんなぁ。きっと、これが反逆になるとか思ってんのかも知れねぇけど、そうじゃないんだよなぁ」


 俺の使徒なんか、何回も俺のことを殺そうとしてくるぜ?

 昔も今も俺に隙があれば、殺しにかかる連中ばっかりだ。でもまぁ、それで良いんだよ。

 突然の裏切り? 裏切ってねぇよ、こうなることは俺の狙い通りさ。


「俺に対して本気マジで挑み、そして俺が本気マジになって戦えるような最高な奴を作るのが目的でお前らを飼ってるんだから、俺に戦いを挑むってのは間違いじゃないぜ? 反逆? むしろ、俺の期待に沿って生きてやがるんだから、忠孝両全、素晴らしきかなって褒め称えたいくらいさ」


 システラは俺の言葉を聞きながらも警戒を緩めない。

 銃口は俺を向いているし、砲塔も戻していない。

 創造主相手にも関わらず容赦なし。殺意が溢れきっていて良いねぇ。好きになってきそうだぜ。


「貴方の掌の上で踊っているだけだと言いたいのですか?」


 結果的に俺の思い通りになっていることが気に食わない?

 でも、思い通りってのは俺に思考の全てをコントロールされているってことだろ? でも、システラが俺が弱ってると思って仕掛けてきたのは、自分の意思なわけで、それは俺や他の誰かがプログラミングしたことじゃない。


「さぁ、どうだろうね」


 さて、システラとの問答はどうでもいい。

 システラの方はどうでもいいと思ってないのかもしれないけど、俺はどうでもいい。

 会話ってのは相手をぶっ殺すための準備の時間だ。会話に頭なんか使う奴は俺の使徒には一人もいない。答えなんてのは自分の中にあるもんだと確信しているから、相手に答えは求めない。


「キミはどういう理由で俺を殺したいのかな?」


 俺はズボンのポケットに右手を入れながらシステラに訊ねる。答えを聞く気は無い。

 会話? これから殴り合いをするのにキャッチボールをする必要はねぇだろ?

 ドッジボールだよ。言葉を相手にぶつけて、隙が出来た瞬間に殴りに行くだけさ。


「俺を殺した奴には俺の力の全てが継承されるって話を聞いたんだろう? ちょっと野心を抱いちゃったパターンかな? まぁ悪いことじゃないぜ、使徒連中だって、俺をぶっ殺して俺の力の全て──神としての権能と支配している世界の全てを手にすることを狙ってるからな」


 ゼティですら最終的には俺をぶっ殺して俺の権能を奪うことを狙ってるしな。

 まぁ、システラは一大決心で俺に反旗を翻したようなツラをしてるけどね。他の連中が普通に俺を殺すことを狙っていると知ったら、どんな表情になるんだろうか?


「それの何が悪い?」

「全然。何も悪くないよ」


 どうしてキミがそんな野望を抱くようになったのかっていう理由は聞きたくもあるけれど、話したくないことかもしれないから、俺は聞かないよ。俺を殺して、俺の力を奪いたいって言う使徒連中にも聞いたことが無いしな。


 システラが俺を睨みつける。良いね、楽しくなってきた。

 いつかは俺を殺しにかかるとは思っていたけど、今ってのが凄く良い。

 使徒連中は俺と長い付き合いだから、今の状態の俺には絶対に手を出してこない。右腕が使えないうえ業術も使用不可っていうハンデつきなのに絶対に仕掛けてこないんだよなぁ。

 どう見てもチャンスだってのにさ。フェアな条件で勝負とかいうスポーツマンシップとは無縁の連中でも手負いの俺とはらないんだぜ? これってどう思うよ?

 その点、システラは良いよな。今の状態の俺と戦ってくれるからさ。それだけでも褒めてあげたいくらいだぜ。


「──問答はもう良いです」


 システラの殺気が溢れて俺に突き刺さる。

 直後に両手の拳銃から銃弾が放たれ、俺に襲い掛かる。

 速度は軽く超音速。弾は2発。軌道は一発は俺の頭を狙っていて、もう一発は胴体を狙ったもの。

 俺は2発の弾丸を横に飛んで躱す。直後に、システラの背後にあった砲塔が俺に向けられるが、それはフェイクだ。一瞬だけ砲の方に視線が向いた俺に向けて、システラが両手の拳銃を撃つ。

 だけど、俺が向けたのは眼だけだぜ? 意識はシステラの方にあるんだから、システラが銃を撃つタイミングも何もかも把握できている。

 俺は放たれた弾丸に向けて左手を向けると、掌を振って弾丸を弾き、同時に前へと踏み出す。

 飛んでくる弾丸は音速を軽く超えているが、見えない速さじゃない。まぁ、実際には見えてないのかもしれないけど、戦闘に際して最高効率で働き始めた脳味噌が、銃弾の軌道の予測映像を視神経に逆流させ、見えていると錯覚させているのかもしれない。

 とにもかくにも、俺は弾が見えているから避けられる。そして、入念に闘気を込めた肉体は銃弾を通さない。それがどんなにSFな科学技術で作られていても、威力が足りなければ頑丈な相手に効かないのは当然だろ?


「パワーもスピードも足りない」


 俺は弾丸を弾きながらシステラの懐に飛び込み、腹にパンチを叩き込む。

 その一発でシステラは崩れ落ち、膝を突く。


「そのうえタフさもない。要するに弱いってことさ」


 今はシステラも制限がかかっているから、強力な武器が使えないんで火力不足もしょうがないんだけどね。

 でも、強力な武器が使える場合は俺の方も戦闘能力の制限が緩和されるから、やっぱり効かなかったりするわけで、武器とか道具頼りの奴はここで限界が来るんだよな。


「もう少し鍛えなきゃ、駄目だぜ?」


 一番頼りになるのは自分の肉体と原始的な武器だからね。

 使徒の上位連中にまでなってくると、気や魔力で補強できる物の方が最終的には威力が高くなるし、そいつら以上の強さの俺の場合も同じなんだからさ。


「攻防の引き出しが少ないのも良くねぇな。もともとの戦闘技術がそれほどじゃないんだし、即座に武器を交換しながら戦えるほど器用じゃないんだから、間合いの取り方は考えるべきだったな」


 俺の身のこなしを警戒して大型の銃器より、小回りの利く拳銃にしたんだろうけど、それだって俺と接近戦になったら不利が出てくるんだから、もっと考えるべきだったね。それと、もっと色んな武器を使えると良かったんだけど、それを咄嗟に使い分ける判断能力に問題があるんだろうな。

自分だけの収納空間から武器や道具を取り出せるんだから選択肢は多いんだろうけど、選択肢が多すぎて咄嗟に選びづらいってこともあるのかもな。まぁ、なんにせよ──


「今回の戦闘結果はイマイチ。もっと努力しましょう」


 俺はそう言いながらシステラに手を差し伸べる。

 システラは膝を突いた姿勢で、俺の手を掴むが──その瞬間、空いた手に持った拳銃で至近距離から俺に銃撃を仕掛けようとしてくる。

 ──でもまぁ、だからって困ることも無く、銃が向けられると同時に俺はシステラの腕を引っ張って立たせる。その勢いで銃撃のタイミングを逃したシステラに俺は言う。


「もういいだろ? さっさと攻略しようって言ったのはキミなんだか先を急ごうぜ」


 システラは何か言いたげだが俺は気にしない。

 別に怒るようなことでもないしな。俺を倒せるくらい強くなって欲しいと俺が願っている連中の内の一人が俺を倒そうとしたってだけのことなんだし、怒るようなことでもないだろ?

 仮に俺がシステラに対して怒りたいことがあるとすれば、それはシステラが弱いってことくらいかな。もう少し強いと良かったのに、このザマじゃあね。もっと鍛えておけって思うよ。


 とりあえず、俺を背中から撃とうとしたシステラに対して俺が言いたいのはそのくらい。

 これにめげずに、もっと強くなって欲しいところだね。俺が期待するのもそのくらいかな。


 さて、思いもがけない戦闘があったが、先を急ごうか。

 さっさとダンジョンを攻略しないとシステラが怒ってしまいそうだしね。





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