効率的に行こう
ガーゴイルの罠があった回廊を抜けると、そこは城のエントランスホールのような広い空間となっていた。
部屋の中に入ると真っ先に目につくのは、部屋の中央に鎮座する巨大な女の像だ。
「女というか女神か? ただの女の像を飾っておく意味もないだろうし、置かれているってことは何かしら特別な存在であるはずだから、女神って可能性が高いかもしれない」
そこんところ、どう思う?
俺はシステラに聞こうとしたのだが、システラは全く興味を示さず、女神像の後ろある、幅広でなだらかな階段を下ろうとしていた。
「ただの飾りでしょう。特に意味は無いのでは?」
俺が声をかけたのは聞いていたようで、こちらを振り向きはしないものの俺の疑問に答えてはくれる。
「そうかなぁ」
意味が無いってことは無いと思うがね。
俺は部屋の両脇の壁を見る。そこには壁画が描かれており、片方の壁は女神が人々に敬われている構図。もう片方は女神が翼の生えた男に率いられた人々に取り囲まれている構図で描かれている。
「神話か、それとも過去の事件か……」
まぁ、まったくの無意味って可能性もあるけどさ。
とりあえず今は心に留めておくだけにしよう、先にやらないといけないこともあるしな。
俺はそれ以上、考えることは止めにしてシステラの後を追って階段を下ることにした。
城なんかだと下るのではなく上がっていく感じなんだろうが、ここはダンジョンなんで建物が地下へ伸びていく感じなんだろう。特にこのコルドールの地下迷宮は城が逆さまになったような構造であるような気がする。
階段を下った先にある扉を抜けると廊下のような通路に出る。
石畳の地面に通路の両脇の壁には松明が立てかけられている。誰が置いたものなのか気になったので、松明に触れようとすると、不可思議な力で弾かれたので、人が置いたものではなくダンジョンの方で設置した物であると分かる。
「至れり尽くせりじゃねぇか」
人間が探索しやすいように松明を置いてるってことだろ?
侵入者をダンジョンの奥深くまで招こうって意図があるように思えるね。
だが、人を呼ぶ意図ってなんだろうか? まぁ、考えれば答えは出そうだが、俺が考えて答えを出すまでシステラは待ってくれそうにないんで、余計なことを考える前に先を急ごうか。
「なぁなぁ、ところで何でメイド服なんだ?」
俺は通路を歩くシステラの横に並んで歩きつつ、敵が出る気配もないので疑問に思っていたことを訊ねる。
敬語はまぁ、昔はもう少し砕けた感じだったけど、昔と違って主従関係ってのを理解しているから敬語になったのかなって推理はできるんだけど、メイド服は全く分からねぇな。
「別に私が何を着ていようが構わないと思いますが?」
「そりゃあ構わねぇけどさ。でも、だから気にしないってのは別の話じゃない?」
ゼティも気になっていたしさ。俺も気になるよ。
好きな格好をすればいいって思うけども、好きな格好をどうしてしているのかは気になるじゃない。
「……こっちのほうが受けが良いと思ったからです」
ぼそりと何か言ったようだけど、聞こえなかったなぁ。
「なんて言ったの?」
「メイド服の方が召喚した人の受けが良いと思ったって言ったんです!」
はぁ? 何を言ってんの?
「異世界に転移した冴えない男が、最初の仲間を召喚したらメイド服のミステリアスな美女が出るのは定番なんですよ。そういうシチュエーションをきっと多くの人が期待しているだろうと思ってメイド服を着てきたら、召喚したのはまさかのマスター。召喚者の期待に応えようと準備していた私の努力は全て無駄になったというわけです」
なんだか変な情報を鵜呑みにしているなぁ。
異世界にやってきた一般人が最初の仲間を召喚するなら良く分かんないメイド服の女の子より、見た目の時点で頼りがいを感じられるマッチョな男の方が良いと思うけどなぁ。
実際に似たような実験をした神もいて、マッチョとメイドのどちらを最初の仲間にしますかってやったら、マッチョを選んだ奴が七割を超えていたんだよね。
サブカル的な定番と現実的な選択を混同してはいけないってことを思い知らされたよ。
「それでも、ちょっと我慢すれば帰れるかと思っていたのに話を聞けばまさかの帰還不能ってどういうことですか? なんで遭難者が遭難者を増やすような真似をするんですか?」
人間ってのは足を引っ張り合う生き物だからさ。
そんなことを言おうと思ったけど、言ったら怒りそうだから黙ってることにした。
システラは数十年しか生きてない子供みたいなもんなんで、精神に余裕が無いからね。余計なことは言わないのが良いってことで俺は口を閉じている。
すると、システラは自分が一方的に喋っていることを理解し、それを格好悪いと思ったのか、俺に呆れた感じを装いながら、大きく溜息をついて冷静なふりをする。
『ところで、思ったんだけどさ。メイドをするなら髪が長いのは良くないぞ。つーか、肉体労働系なのに髪を結ばないって危ないから止めた方が良いな』
余計なことを言わないようにと思っていたのに、余計なことが気になって口を開こうとしてしまう。だって、メイドなのにシステラは長い銀髪を結びもせずにいるんだもん。そういうのって気にならないか?
まぁ、気になっても我慢して言わないようにしたけどさ。多感な年頃の女の子と話す際は我慢が大事だぜ。
そうして会話をしている内に、通路が枝分かれする場所に到着した。
ダンジョンらしく迷わせようとしているんだろう。進める通路は四つほどあるが、どれが正解だろうか? 調べる方法は幾つかあるが──
「……シェパード、ドーベル、レトリバー」
俺の隣に立っていたシステラが呟くと、システラの背後に淡い光が生じる。
俺が光の方に目をやった時には既に光は消えており、そこにいたのは──
「犬?」
システラの背後には犬の形をしたロボットが三匹お座りの姿勢でシステラの命令を待っていた。
「ロボット犬って奴?」
「機鋼猟犬と言うらしいです」
はぁ、猟犬ねぇ。
犬の形って言っても形だけで見た目は完全にマシンだ。四足歩行で牙を備えた口を持っているけど、全身が金属の装甲で覆われているしな。
SF映画で主人公を追跡する悪役側の兵器的な感じで可愛らしさは何処にもない。
三匹いるけど大型のがレトリバー、細身なのがドーベル、中間のがシェパードか? 分かりやすくて良いね。
「兵器なのか?」
「兵器です」
まぁ、だからシステラが取り出せるんだろうけどね。
システラは武器や道具の管理が仕事なんで生き物を呼ぶの無理だしさ。
「シェパード、ドーベル、レトリバー、散開して、この先を調べてきて」
システラが命令すると三匹の猟犬は弾かれたように動き出し、それぞれに枝分かれした通路へと駆け出した。それを見届けたシステラは自分の近くに何かの装置を取り出して設置し、「それはなんだい?」と俺が効くよりも先にシステラがそれについて説明をする。
「転送装置です。猟犬にも同じ装置を持たせていますので、彼らがそれを設置したら、ここに置いてある装置との間でワープが可能になります」
便利だねぇ。
俺らが探索しなくても猟犬に探索させて、正解っぽい道にワープ装置を置いてもらえば良いってことか。
俺としては、自分の足で正解の道も不正解の道も踏破してダンジョンを制覇したいって気持ちもあるけれど、同行者がそれを嫌がっているんだから、俺は我慢しましょう。
「それとドローンを出して偵察させます」
そう言うなり、システラの背後に十数機のドローンが現れ、ダンジョンの奥へと飛んでいった。
システラの周りには立体投影されたディスプレイが幾つも浮かんでおり、ディスプレイには猟犬やドローンのカメラの映像がリアルタイムで映っている。
「ダンジョンの攻略ってこんな感じだったかなぁ」
システラの周囲に浮かぶディスプレイと、そこに映るダンジョンの様子を眺めながら俺は呟く。
「レトリバーのルートが正解だったようです。転送装置を設置したのでワープしましょう」
そう言ってシステラは自分が設置した転送装置を起動させる。
急いでいるのは分かるが、なんだか面白みが無くないかい?
そんなことを思いつつ、俺はシステラについていく形でワープするのだった。




