システラ・シニストラ
ダンジョンの中に銃声が響きわたる。
システラは両手に持った拳銃を構えて、近づくガーゴイルに向けて続けざまに引き金を引く。
放たれた弾丸がガーゴイルの体を粉砕する。ガーゴイルの材質が石なのかは判断がつかないが、多少の材質の違いは問題じゃない。
なにせ、システラの使う銃は星間戦争を繰り広げられる文明を持つ異世界から持ってきてる銃だからな。
鉄だろうが何だろうが、簡単にぶち抜ける。ましてや俺が軽く殴っただけで、ぶっ壊れるような材質ならお話しにもならない。
「おっと」
システラの方に意識を向けていたら、俺を取り囲んでいたガーゴイルが襲い掛かってきていた。
俺は人間の形をしたガーゴイルが振り下ろしてきた剣に向けて蹴りを放ち、それを叩き折ると、続けて左の掌底を頭部に叩き込む。
右腕は呪いのせいで使えないが問題は無い。むしろ、片手が使えないってのが新鮮な感覚で凄く良い。
「まぁ、新鮮な感覚を楽しめるほど相手が強くないってことが問題だよな」
ガーゴイルの動きは単調極まりない。
連携自体はあるが、その連携も決まったパターンでしかできないようで、動きに工夫が見られない。
慣れると余所見をしていても問題は無いくらい退屈な相手だ。
俺は攻撃を仕掛けてくるガーゴイルを躱しながら、システラの方を見る。そっちを見てる方が面白そうだしな。
システラは先程と変わらず銃を撃ち続けている。
システラの使っている銃は黒鉄色の大型拳銃で、形状自体は俺が地球で見てきたものと大差は無いが、特徴として長めの銃身の下部に小さな箱状のパーツが取り付けられており、それが性能上の特徴においても重要な役割を果たしている。
どのような役割かというと弾丸の加速のためのバッテリーだ。バッテリーから銃身に電気を流しコイルガンと同じ要領で加速させる。システラの使っている引き金を引いた時に放たれる弾丸は火薬によって最初の加速を得て、直後に電磁的な加速を得て、俺が人間として生きていた時の拳銃とは比べ物にならない弾速を得る。
「見ていないで、手伝っていただけますか?」
大きな音を立てているのと多くの敵を倒しているせいで、システラの方が俺よりも敵の注目を浴びているようで、ガーゴイルはシステラの方に数を割き始める。
戦う敵のいなくなった俺は、システラとシステラを取り囲むガーゴイルの戦いを見物することにした。
そうしていたせいで、見ていないで手伝って欲しいとか言われたわけだが、俺は右腕の使えない怪我人みたいなもんだから、ちょっと無理かな。
「悪いけど一人で頑張って」
最初は罠だからって感じでワクワクしていたんだけど、蓋を開けてみれば大したことがなくて俺は興味が無くなってしまっていたり。まぁ、それを言うと怒られそうだから黙ってるけどさ。
「だと思いました」
システラは俺の加勢が望めないことを予想していたようで、吐き捨てるように言うと、おもむろに両手に持っていた銃を手放す。
システラの手から離れた銃は床に落ちる寸前で掻き消え、消えると同時にシステラの手元が淡く光り、次の瞬間には巨大な機関銃が握られていた。
大型のドラムマガジンを備えた、自分の背丈ほどもある機関銃をシステラは両手を使い、腰だめに構えると、自分を取り囲むガーゴイルの群れに向けて薙ぎ払うように射撃を行う。
直後に聞こえてきたのは銃声というより爆音。その音が轟くよりも早く着弾した弾丸が一瞬でガーゴイルの群れを文字通り粉砕する。
「……まぁ、こんなところでしょうか」
ものの数秒でガーゴイルの群れは消滅し、立っているのはシステラだけになった。
荘厳に立ち並んでいた石柱は無残に破壊されて、たったっ数秒で回廊は廃墟ような有様になっていた。
「それは初めて見るなぁ」
俺は周囲の惨状よりもシステラの持っている武器に興味があったので、システラの持っている機関銃に視線を向けながら話しかける。
「つい先日、いただいたものですからね。確か名前は『巨人殺し』だったかと」
名前と威力の感じからするに、巨人とかが実際にいる世界の武器か?
魔法があるからって銃器が発展しないとは限らないんで、魔法がある世界にも銃はあったりする。でもって、そういう世界の銃は割と頭の悪い性能になりがち。
銃の発射の衝撃は身体能力強化の魔法で耐えれば良い。威力に銃身が耐えられないなら魔法で銃身を強化すれば良いみたいな力技で解決するから、クソみたいなバランスになるんだよね。
「では、行きましょう」
システラは持っていた大型の機関銃を手放し、歩き出す
放り捨てられた銃は地面に落ちる寸前で淡く輝く粒子となって散っていく。
それだけ見たら武器が消滅したように見えるが、実際には異空間にしまっているだけで、銃を出した時も収納している物を異空間から取り出しただけだ。
俺やゼティは色々と面倒な手続きをしないと、異空間に物を収納するような能力が使用できないのに対し、システラが自由にその能力を使えるのには、システラが持つ役割に理由がある。
──システラ・シニストラ
その素性は俺が制作した兵装管理用の人型インターフェースユニット。自分で作っておいてなんだが、ホムンクルスようなアンドロイドのような精霊のような、まぁ良く分からない生命体だ。
様々な世界の人造生命体を作れそうな技術を参考にして、俺とこの手の技術に明るい使徒の何人かの協力を得て作ったので完成度自体は並みじゃないし、機能的にも優れている。
その役割は俺や俺の使徒が手に入れた武器や道具を預かり、管理し必要があれば俺や使徒に貸し出すといったもので、口さがない連中からは『倉庫番』と呼ばれている。まぁ、俺も呼んでるんだけどさ。
俺や俺の使徒が手に入れた武器や道具は一度は必ずシステラだけが持つ、俺が与えた特別な空間領域に預けられる。システラは管理者としての権限で、自分に預けられた物を自由に取り出して使うことができ、純粋な戦闘能力では使徒に及ばないシステラの強みはそこにある。
使徒が集めてシステラに預けたままにしている武器や道具は数にしたら数万点は下らない。中にはシャレにならないレベルで強力な兵器もあったりする。
そういった物を管理し、それぞれの使徒の要望や要請に応じて必要な物を転送するというのもシステラの仕事であり、そういう役目であるため、システラは俺達が収納空間と呼ぶ能力の使用に制限が無い。
まぁ、倉庫番が倉庫を開けられないんじゃ困るってことで、俺が特別扱いしてるだけなんだけどね。
「なんですか?」
俺がジロジロと見ていることが気に障ったのか、システラは俺を睨みつける。
作った当初は従順だったんだけどね。今じゃ反抗期だよ。でもまぁ、俺の命令には文句を言いながらも従うんだけどね。そこら辺はキッチリ主従関係があるのさ。
「早く行きましょう」
システラはさっさとダンジョンを攻略したいようで、俺を急かす。
まぁ、やる気があるのは有難いことだよなと思いつつ、俺は先を急ぐシステラの後を追って歩き出した。




