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コルドールの地下迷宮

 

 コルドールの地下迷宮。

 アウルム王国、建国時の英雄デモニス・コルドールが修行をしたことから、その名前が付けられている。

 かの英雄はこの迷宮で己を鍛えながら、多くの伝説の武具を手に入れたという。


「──って話をそこら辺にいる連中から聞いた」


 どう思うとシステラに聞くが、システラは不機嫌そうな顔で俺の言葉を無視している。

 その理由は周囲から向けられている眼差しのせいで、俺の仲間ということが周知された結果、冒険者たちからは俺の同類だと思われ、奇異の視線に晒されているせいだ。

 システラ的にはもっとチヤホヤされる予定だったんだろうね。「あの美人は誰だ?」とか噂されたかったのに、「アッシュの仲間のヤバい奴だ」って認識になってるのは面白くないんだろう。一度も口を開いていないって言うのにヤバい奴扱いされるのは納得いかないって気持ちも分かるぜ。

 まぁ、分かるけど、俺は何もしないんだけどさ。


「早く行きません?」


 どこに行くんだい?

 さっさとダンジョンに潜って、ここから離れたい?

 まぁ、ちょっと落ち着いて空を見てみようぜ?

 荒野の空は何時の間にかオレンジ色に染まっているってことに気付くかい?


「でも、もう夕方だぜ? どっかに一泊した方が良いと思うけどなぁ」


「一泊して、その間ずっと噂されてるのは我慢できないんですが」


 人の噂なんて気にすんなよ。人からどう思われようが関係ないだろ?

 俺は人からどう思われようが気にしたことは無いぜ。まぁ、そのせいで世間一般の感性だとマトモじゃない人生を送ったわけだが。とにかく、人からどう思われるかより、自分を貫くことが大事って話さ。


「我慢できないから、さっさとダンジョンを攻略しようって? いやぁ、積極的でいいねぇ」


「貴方の言葉を借りるなら、今はそういう気分というだけです」


 気分で行動を変更できるってのは素晴らしいぜ。

 人造生命体のプログラミングされた思考回路から気分って言葉が出てくるとか成長を感じられて良いね。


「オーケー、さっさと攻略ってのには賛成だから、キミの気持ちを尊重してあげようじゃないか」


 俺はさっさと攻略したいとやる気を出してくれたシステラの気持ちを尊重して、ダンジョンに向けて歩き出す。

 そうして街道を進んでダンジョンの近くに辿り着いたのだが、到着してみるとダンジョンの前は当然というか、ダンジョン攻略のための前線基地という様子で無数のテントが立ち並び、冒険者がたむろしている。

 テント以外には石を積み上げて建てた建造物があるようだが、それはダンジョンでは無いようで入り口には衛兵が立っていた。

 俺とシステラはその建物を横目に見ながら通り過ぎ、乱立しながらも円形に立ち並ぶテントの中央に向かう。

 雰囲気的に中央にダンジョンがあると思って進んでいたのだが、その直感は正しく、さほど時間もかからずに俺達はダンジョンの入り口を見つけることが出来た。


「雰囲気あるなぁ」


 ダンジョンの入り口は地下へ降りる階段だった。

 幅は十メートルくらいあり、長さや段数は……数えるの面倒くさい程度。

 辺りを見回すと夕方ということもあって人影もまばらだが、昼間ならそれなりに人も多いんだろう。

 まばらに見える人影も俺と目が合うと、さっさとこの場から立ち去ってしまう。


「どうするよ、勝手に入って良いのか?」

「誰も止めようとしていませんし、良いんじゃないでしょうか?」


 お互いに疑問形なんだが、正しい答えを持ってる奴はこの世界にはいないのだろうか。

 まぁ、誰も止めないから大丈夫だっていうシステラの意見には俺も賛成だし、さっさと入ってしまおう。ちなみに入ったらまずくても俺は気にしないんだけどね。


「じゃあ、早速ダンジョンに突入」


 俺とシステラは二人で並んで階段を下りる。

 段数を数えるのが無理なくらいの長い階段を下りた先には門があり、俺とシステラは特に何の感想も無く、その門を開く。いやまぁ、装飾とか凄かったよ? でも、その程度の感想しか出てこないんだから、何の感想も無いってのと同じだし、感想は無しってことで。


 そうして扉を開けた先は巨大な石柱が立ち並ぶ回廊。

 石畳の床が回廊の先まで遠く続き、両脇を見ると見事な細工の石像が並んでいる。

 石像がかたどっているのは普通の獣もあれば、いかにも魔物といった見た目の物ある。中には人や翼の生えた天使らしき石像も回廊の両脇の壁に飾り付けられており、そのどれもが、どことなく神聖な気配を放っている。


「売れば高そうだよなぁ」


 俺は壁の石像を眺めながら回廊を奥へと進んでいく、魔物や罠の気配も感じないので、まだ入り口なんだろう。回廊を抜ければ本格的にダンジョンが始まるって感じか?


「なんで誰も手を付けないんだろうね」


 まぁ、売れば良い値段がつきそうな石像を冒険者が放置している理由はだいたい想像つくけどさ。きっと、罠とか何かがあるんだろうさ。触るか持ち出そうとしたら石像が動き出して、撃退しようとしてくるとかそんな感じじゃないかな?


「余計なことはしないでください」


 どうやら俺はいつの間にか石像の方に向かっていたらしい。システラが声をかけて俺を正気に戻してくれたようだ。

 いやぁ、マズいね。罠だって予想がついているのに無意識に石像を触りに行こうとしていたとか、石像が俺に何かしらの暗示をかけていたんだろう。

 ほら、今もシステラに止められたってのに石像に操られて俺は近づいて行ってしまうぞ。


「俺が悪いわけじゃないんだ~。石像に操られて~」


 俺の意思じゃないんで許してほしい。

 そう思いながらシステラを見ると、その表情は俺への殺意に溢れており、ちょっと怖い。

 おいおい、俺が悪いんじゃないぜ? 石像が俺を操ってるのが悪いんだ。

 そりゃあ、俺もせっかくの罠なんだから全て踏み抜いて、どんな罠なのか試してみたいっていう気持ちが無いわけじゃないけど、そんな俺の本心を見抜いて、何の疑いも無く俺が悪いという確信を持った眼で俺を見るのはちょっと傷つくぜ。

 どんだけ、俺への信用が無いのかって話さ。


「はい、タッチ」


 システラの殺意を受け流して、俺は石像に操られて石像を触ってしまう。

 すると、石像の目に光が宿り、回廊に置いてある全ての石像が動き出した。やはり俺の予想通りって奴だね。


「いいね、面白そうだ」


 形は色々とあるようだけれど、動く石像ってことでガーゴイルって定義していいかな? まぁ、ガーゴイルって名称にしておいたほうが面倒が少ないしな。


 俺が触ったのは分かりやすい悪魔の形をしたガーゴイル。

 俺が触ったのと同時にそれが動き出したので、真っ先にそいつの頭を左手で殴りつけて粉砕する。

 思ったより硬くないな。気を纏わせた拳で殴れば簡単に壊れる程度の強度だ。俺は砕けたガーゴイルの破片を拾い上げ、口に含み、噛み砕く。


「石かと思ったけど、土かコレ?」


 噛み砕ける程度の強度の石もなくはないだろうが、良くわかんねぇな。

 魔力で作った土なら性質も色々だし、判断に困るね。


「遊んでいないで、こちらも何とかしてください」


 システラの声が聞こえて俺はそちらを見ると、いつのまにかシステラは回廊の中央で複数のガーゴイルに囲まれていた。

 天使や鳥を模したガーゴイルが羽ばたきながら、上方から急降下しシステラに襲い掛かる。それを横に飛んでシステラは躱すものの、そこを狙って猪の姿をしたガーゴイルが突進してくる。

 システラは突進してくる猪に動きに対し軽やかな身のこなしで、猪の頭を飛び越えるが、そこに狼の姿をしたガーゴイルが飛び掛かる。


 良い連携だね。ただ、システラもそこまで弱いわけじゃないから、それじゃ仕留められねぇな。

 システラは飛び掛かって来た狼に対し、跳躍したままスカートの裾を翻しながら蹴りを放ち叩き落とす。ただし、威力の方はそこまででもないようで、蹴りを受けても狼のガーゴイルは平気な様子で起き上がる。


「戦闘をしても構いませんか?」


 システラは周囲の敵を見据えながら、冷たい声音で俺に訊ねる。


「どうぞ、ご自由に」


 俺の方も戦う相手がいるんでね。

 システラの方にばっかり集まっていると思っていたガーゴイルは俺の方にも集まって来た。

 どうやら敵に対して平等に人数を振り分けいるようで、俺の方が倒す敵が少ないなんてことがないようにしてくれているようだ。気遣いのできる連中で好きになりそうだぜ。


「武装の使用は?」


 戦闘の許可に続き、システラが俺に訊ねる。


「やりすぎない範囲内で」


 敵やこの世界のレベルに合わせてくれりゃ、まぁ大概のことは許すよ。


「了解」


 俺の言葉に応えると同時にシステラの手元に微かな光が灯り、次の瞬間にはその両手に武器が握られていた。その武器とは見紛いようもなく拳銃の外見であり、システラは両手に拳銃を持ち、その銃口を自分を取り囲む敵に向ける。


「では、加減をしつつ殲滅してみせましょうか」


 メイド服で銃を装備とか狙いすぎじゃないだろうか?

 そんな言葉を必死で飲み込みながら、俺は自分の周りの敵へと殴りかかった。

 



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