ダンジョンへ行こう
俺達は召喚したシステラに俺達の置かれている状況について説明する。
この世界に閉じ込められたこと。
脱出は現状では無理なこと。
誰かが俺達を嵌めた可能性があること。
とりあえず、この世界の神を倒してみようかということ。
そのために情報収集をしていること。
まぁ、この世界にやって来てからの色々を話してみた結果、システラは──
「馬鹿なのですか?」
直球だね。まぁ、賢く生きてきたっていう自信はねぇよ。
俺はお勉強は誰よりも出来たけど、人生設計に成績をつけたとしたら間違いなく0点だしな。
マトモな人生を送れない奴を馬鹿というなら俺は自信をもって自分を馬鹿と言えるぜ。
「全く関係の無いことを考えていませんか? もう少し真剣になるべきでは?」
真剣になれだってさ、聞きましたゼルティウスさん?
メイド服のコスプレ女に真剣に生きろとか言われちまったぜ。スゲェ面白いんですけど。
「俺は真剣だ」
ゼティが真面目な表情で反論するが、システラはその反論を聞くなり目を吊り上げながらゼティに詰め寄る。
「真剣な人が、現地人に剣を教えるなんて道楽をするはずがないと思うんですが?」
そうだねぇ。ゼティも遊んでるから、文句を言ってやった方が良いぜ。
ゼティが俺の方を見るようにシステラに促すが、システラは諦めた様子で俺の方を見ることもせず首を横に振る。
「マスターに関しては何も言いません。言ったところで無駄ですから」
システラは俺をマスターと呼ぶ。
その時点で使徒とはちょっと違う立場だってことが分かる。
なにせ、使徒連中は俺のことは呼び捨てだからね。使徒と俺の間には厳密な主従関係は無いから、使徒は俺を主だなんて滅多なことが無い限り呼ばない。基本的に俺と使徒の関係はビジネスパートナーのそれに近いしさ。
対して俺とシステラの間には厳密な主従関係が存在するんで、システラは俺を主と呼ぶ。主従関係の理由はまぁ色々とあるんだが、結局はシステラは俺が作ったっていうそれに尽きる。創造主と被造物の関係から生じた主従関係ってのは覆すのが中々難しいものなのさ。
人間みたいに見えるし、感情も個性もあるがシステラは人間ではない作られた存在であり、役目を持たされて俺に作られた。だから俺に従うの仕方ないってわけ。
「俺に何か言うのが無駄だって分かってるなら話は早いな。これから俺はダンジョンに行くから、一緒に行こうぜ」
余計なことを言わなくて済む相手ってのはありがたいね。
「そういう遊びをしている暇がないと言いたいんですが」
遊びのつもりは無いんだけどねぇ。
「お二人の話を聞く限りですと私もこの世界に閉じ込められているのですよ? 私は貴方がたと違って、すぐに脱出したいので、そんな遊びに付き合いたくはないんです」
「あのなぁ、俺が本当に遊びのつもりで、こんなことをやってると思ってんのか? 全部、脱出に必要なことだからやってんだよ。流石の俺も今の状況はヤバいってわかってるから真面目にやってんだぜ? もうちょっと、お前の神を信用しろよ」
邪神だけど、お前の創造主だぜ?
創造主を疑うってことは、お前の存在も疑うことになるとか思わないか?
「具体的にどうしてダンジョン攻略が必要になるのですか?」
「ダンジョンを攻略すると俺のモチベーションが上がる。俺のモチベーションが上がると色んな活動が捗り、それによって、この世界を脱出する手掛かりを見つける可能性も高まる。でもって──」
「はい、却下します」
「おいおい、俺のやる気は重要だぜ? 俺のやる気を高めるってのが一番の近道だって分からないか?」
そう思うよな、ゼティ?
俺はゼティを見るが、ゼティは我関せずといった感じで、イヤホンをつけてそっぽを向いている。
俺の面倒はシステラに任せようって魂胆なんだろう。
「とにかく行こうぜ、ダンジョン。俺が行くって決めたんだから、システラも来るよな?」
拒否するつもりなら──まぁ何もしないけどね。
俺の意思を見て、システラは諦めたように溜息を吐く。
「付き合えば、やる気を出してくれるんですね?」
やる気を出したからって何とかなる問題ばっかりでもないけどな。
「人を無理やり呼びつけ、そのうえ帰る手段もない。この責任は取ってくださいよ」
「まぁ、任せておけって」
俺は安請け合いをしてしまったわけだが、この世界を脱出できる目途は全く立ってないんだよね。さぁ、どうしたもんか。
──とにかく、俺は今やりたいことをやっていくことにした。
ダンジョンに行って、そこを制覇して名を上げる。俺の名が売れれば、俺の所属しているギルドの名声も高まるからな。そうすればフェルムでのうちのギルドの評判も高まり、存在感も増して仕事も増えるだろう。
「で、そんなことをして何になるんですか?」
俺はダンジョンへ向かう道すがら、俺の計画を同行するシステラに話したのだが帰ってきたのは、真っ当な疑問。
「それをすることが私たちがこの世界を脱出することにつながるんですか?」
そして真っ当な指摘。
「さぁ、どうだろうねぇ」
全ての物事は繋がっているからね。
こういうことも後々になってみれば意味があったって分かるかもよ。
あと一応、俺はこの行動が正しいって確信を持っているんだよね。根拠はないが俺は正解の道を歩いているという確信があるんだが、それじゃ駄目かい?
「自信満々な顔で意味深なことを言わないでくれますか? 腹が立ちます」
システラが人形めいた容姿に僅かに怒りの色を浮かべる。
俺の適当っぷりが気に食わないようだ。これがゼティとかの付き合いの長い使徒連中だったら何も言わないで付き合ってくれるんだけどね。まぁ、システラとは数十年程度の付き合いだから仕方ない。
それとも、あれかな──
「怖いなぁ、反抗期かい?」
造ってから数十年の人造生命体だから、そういう時期に入ってもおかしくないのかもしれないね。
反抗期の子供には無闇に干渉しないのが一番。
俺は口を閉じて、システラと並んで街道を歩き、ダンジョンを目指す。
メイド服姿のコスプレ女と並んでチンタラ歩いてるとか、傍から見たら結構変な感じだろうな。
すれ違う人々が俺達のことをジロジロと見てくるが、俺は人に見られることに慣れてるんで気にならないが、システラは気になるようで、周囲の視線から気を紛らわすために俺に話しかけてきた。
「ところでどこを目指しているのですか?」
「ダンジョン」
俺の答えにシステラはイラっとした表情になる。
おっと、反抗期の女の子にこういう答えは良くないね。
「フェルムの冒険者から、コルドールの地下迷宮ってダンジョンのことを聞いたから、そこに行こうかと思ってんの」
この間の酒の席で聞き出したんだ。
「そうですか。そこはどういった場所なんですか?」
「さぁ、知らねぇ」
俺の答えで再びシステラの表情に苛立ちが浮かぶ。
「場所を聞いて、地図を書いてもらった以上のことは聞いてねぇんだよね」
酒の席だったし詳しく聞く気にもならなかったんだよね。
「もしかして、私はこれから何の情報も無い場所に乗り込むということですか?」
「そっちの方が楽しいだろ?」
俺の答えにシステラは頭を抱える。
そんなに心配することもねぇよ、俺とシステラなら何の問題も無いさ。
それから黙ってしまったシステラと一緒に道を進んでいくと、ほどなく周囲の景色が変わっていく。草原から段々と緑が減っていき、荒れ地に変わり、周囲が乾燥した土とまばらに岩の転がる荒野になる。
俺達は荒野に敷かれた道の上をしばらく歩いていると、段々と武装した人々とすれ違うようになる。見たところ、冒険者のようだ。
冒険者が増えてきたってことはダンジョンが近いってことだろう。
「ダンジョンまで近い?」
俺はそこら辺を歩いている冒険者に近寄り話しかける。
声を掛けられ、俺の方を向いた冒険者は、俺の顔を見るなり表情を引きつらせ──
「げ、アッシュ!」
げ! ってなんだよ。俺に会うのが嫌なのかよぉ。
俺は逃げようとする冒険者の首根っこを引っ掴み、引き寄せ肩を組むとマブダチって感じで馴れ馴れしく尋ねる。
「ダンジョンって近いの?」
「近いぜ。あと十数分って所だ」
そう言って冒険者が指さした先には荒野のど真ん中に幾つものテントが立ち並び、その中央に比較的大きな建物も見える。どうやら、それがダンジョンのある場所らしい。
「そうかい、ありがとね」
俺はお礼を言って冒険者から離れるとシステラの方に視線を向ける。すると、案の定というか何というか、いつの間にか冒険者たちがシステラのことを遠巻きに眺めていた。
まぁ、システラの見た目は美人だから気になっても仕方ないよな。
「そいつは俺のパーティーメンバーだぜ」
俺は遠巻きにシステラを眺めている冒険者たちに声をかける。
そうして声をかけた瞬間、冒険者たちはシステラに対して恐怖の視線を向ける。
「アッシュとパーティーを組んでるとか、絶対頭のおかしい女だぜ」
「そもそもメイド服ってのが正気じゃねぇよ」
「美人だけど、アッシュの仲間って時点でマトモじゃねぇしな、関わらねぇ方がいい」
「アレと仲良くやれるとか絶対にキチガイだ。近寄らねぇようにしようぜ?」
この辺りにいる冒険者はフェルムから来てる奴も多いんで、俺のことを知ってる奴が殆どだ。
俺がフェルムでやらかしたことを知ってたらマトモな感覚をしてたら関わることを避けるのは当然だわな。
システラが何か言いたそうに俺を見てるが、鬱陶しい連中を追い払ってやったことに対する感謝の言葉は必要はないぜ?
そんなことを気にするより、さっさとダンジョンに行こうじゃないか。俺達の目的地は目と鼻の先だぜ。




