新たな仲間
ダンジョンへ行こう。
結局の所、ダンジョンを攻略することが名を上げるには一番だと思うんだ。
サイス君もそう思うだろ? フェルム周辺のダンジョンを全て制覇して、フェルム最高の冒険者パーティーって呼ばれるようになったらしいパーティーに所属していたんだからさ。
そういうわけで俺はダンジョンの攻略を提案したんだけど、その結果はというと──
「つまらねぇなぁ」
結局、俺の提案は却下され、地道に頑張っていくことになりましたとさ。
却下された理由? ダンジョンを攻略するには人手が足りないんだってさ。
『三人でダンジョンの攻略は無理だ』ってガウロンが弱気なことを言い出したら、その意見にサイスが賛同し、結果、多数決で俺の意見は却下されました。
まったく多数決ってのは人類が生み出した最悪の発明だぜ。多数派が絶対に正しいってことはねぇってのによ。
「ちんけに働き、しょぼく稼ぐなんて俺にはあわねぇぜ」
「失敗する人間はみんな同じようなセリフを吐いてるぞ」
道の脇に座り込んで、ひとり言を呟いていたら隣に座っていたクソガキに正論を言われてしまった。
「ここは俺の縄張りだから、どっか行けよ」
「昨日、一緒に酒を飲んだ仲なのに冷たいガキだぜ」
「ほとんど誘拐みたいだったけどな。ついでに俺は酒じゃなくジュースを飲んでたから」
「ジュースも酒も同じようなもんさ。酒の席に一緒にいたってことが重要なの。一緒の席で騒いだなら俺らはもう友達さ」
「友達なら相手の迷惑にならないようにしようぜ? 俺はここで今日も物乞いをしなけりゃならねぇんだから」
物乞いねぇ。
俺は通りを歩く人々を見る。見たところ、フェルムの人々はそれなりに豊かなようなので、哀れな子供に施しを与えるくらいは出来るように見える。
物乞いをするしかない状況ってのは哀れかもしれないが、盗みに走らないで済むって言うなら多少はマシか? でもなぁ……
「ずっと物乞いをやってるわけにもいかねぇだろ」
ガキの内は良いぜ? 哀れに思ってくれる奴もいるしな。
「そう言ったって、どうしようもねぇだろ。俺は親も何もねぇんだから」
その割には言葉もしっかりしてるし、世の道理をわきまえてるようにも見えるけどな。
話をしてると俺よりよっぽど上等な人間に思えるぜ。
「冒険者とかにはならねぇの?」
俺の感覚だと冒険者とかが存在する世界だと、にっちもさっちもいかなくなった奴は冒険者になって自分の命を賭け金に最後の大勝負に出るってイメージなんだが、そういうことはしねぇんだろうか?
「あのさぁ、俺は10歳のガキだぜ? 冒険者みたいな荒事できるわけないじゃん。ついでに言っておくと、フェルムの冒険者ギルドってのは、食い詰め者を雇ったりしない。冒険者の質を維持するために、実力が無い奴は冒険者になれないんだよ」
へぇ、そうなんだ。
でも、それって規則で決まってるわけじゃねぇだろ? 法律で決まってるわけでもないんじゃない? それぞれのギルドが自分たちで勝手にルールを決めてるだけだろ? だって、俺は実績も何もなくても冒険者になれたわけだしさ。
「あ、なんか良いことを思いつきそうだ」
俺がそう言うとガキは俺から逃げようとする。
俺は逃げようとするガキの首根っこをひっつかむと、俺のアイディアを話す。
「俺のギルドは人手が足りないんで、そこら辺にいる貧乏人とか食い詰め者を冒険者にして人手を増やそうと思うんだが、どう思う?」
「駄目だと思う」
そうかい。でも、俺はやると決めたから、お前の意見で判断を変えたりするようなことはしねぇよ。
「とりあえず、お前も冒険者になろうぜ。いつまでも物乞いをやっていても将来性ないしな」
「冒険者になったら、将来以前に明日の命の不安があるんだけど」
大丈夫だって、ヤバくない仕事を探してやるからさ。
地道に頑張るって仕事はこのガキみたいな連中にやらせりゃいい。冒険者の仕事なんて雑用みたいなもんだってあるんだし、そういう仕事はフェルムには溢れてるんじゃねぇかって俺は思んだよな。
実績とか実力のある奴らしか冒険者になれないとして、そういう連中が地味な仕事を積極的にやるか? 俺はやらねぇと思う。だからこそ、俺達はそれをやるのさ。
隙間産業って言葉あるように、誰もやらないやってないニッチな所をターゲットにしていくことも俺のギルドみたいな弱小組織には必要だぜ。
「悪くない作戦だと思うんだが、どう思うよ?」
「その作戦を聞いてないから、なんとも言えない」
そりゃそうだ。作戦は俺の頭の中にあるし、喋ってないからな。
「とりあえず、俺の中でキミは冒険者になったから、そこんところヨロシク」
俺はガキを放す。すると、ガキは胡散臭いものを見るような眼差しで俺を見るが、やがて呆れたように溜息を吐いて、その場を後にするのだった。
あのガキとは会って二日か三日だが、どうやら俺への対応の仕方を学習したようだ。相手にするだけ疲れるから、関わらないようにしようって判断なんだろう。だけど分かってねぇな、そっちが相手にしなくても俺は絡みに行くぜ。
具体的に数日後辺りにな。俺もちょっと用事があるんで、今すぐに色々と出来ないんだよな。
────ガキと話をして、今後の計画を思いついたけど、それとは別に俺にもやることがある。
俺はチマチマとやるのが苦手でね。一発デカいのを当てる方が好きなのよ。そうなるとやっぱりダンジョンに行くのが良いと思うんだよね。
ガウロンたちは少人数だと無理だと言っていたが、それは常識の範囲内での話だろ? 俺みたいな常識外れの人間はセオリー通りにやる必要はないんだよね。
とはいえ、俺がどれだけ凄くても一人では難しいこともあるんで、人手はちょっと欲しかったりするんだよね。なので、俺はフェルムの市外へと足を運ぶ。
ゼティに手伝ってもらおうと思い、奴が道場と称して人を集めているところに向かったのだが──
「俺は行かないぞ」
今日は休みだったようで、道場にしている場所にいなかったゼティを探すと、ゼティはキャンプで音楽を聴きながらダラダラと過ごしていた。
俺が近づいてもイヤホンを外さずに音楽プレイヤーで音楽を聴いているゼティ。俺が神力を使って出してやった音楽プレイヤーはお気に入りのようで、最近は俺の話は聞かずに音楽ばかりを聴いていやがる。
俺はイヤホンを奪い取ると、ゼティにダンジョンに行こうと提案したのだが、その答えが「俺はいかないぞ」という返答だった。
「俺は明日も道場があるんだ。俺から剣を教えてもらうことを楽しみにしている連中を置いて、お前の道楽になど付きあってられるか」
この野郎、殺されてぇか。
俺が道楽? 馬鹿にするんじゃねぇよ、ちょっと本気でやってやろうじゃないかって気持ちになってるんだぜ、俺はさぁ。
「一応、言っておくが、本気でやってるなら尚更、お前には付き合えないぞ」
「なんで?」
「お前が本気な時は大概、厄介なことになる。そのうえ、疲れるんだよ。今の俺は厄介なことも疲れることも遠慮したい気分なんだ。分かるだろ?」
気分なら仕方ねぇな。
俺も気分で動くタイプなんだし、そんな奴が自分以外の奴の気分による行動を否定するのはおかしいよな。
それに今の生活が気に入っているようだし、無理に俺の都合で働かせるってのも可哀想か。でもなぁ……
「じゃあ、俺はどうすんの?」
「一人で行け」
「一人じゃつまらねぇだろ」
俺の答えにゼティはウンザリしたように溜息を吐き、俺に一つの案を提示してきた。
「それなら誰か召喚しろ。それくらいの余裕はあるだろ?」
ゼティに言われて俺は気付く。そういえばリッチを倒した際に奴の体に残っていた怨念なんかの魂の残滓を吸収していたことに。
吸収した魂の残滓は再利用が難しいくらいに劣化しているので、俺の力としても問題は無いだろう。これが綺麗な形で残っている魂なら転生なりなんなりしてリサイクルするんだが、それは無理そうだし、俺の方で有効活用させてもらおう。
魂ってのは莫大な資源だ。残り滓になっても、それは変わらない。
それを使えば、俺の僕を別の世界から召喚することも可能ではあるが──
「俺の召喚に応じると思うか?」
「逆に聞くが応じると思っているのか?」
まぁ。喜んで召喚されてくれる奴はいねぇよなぁ。少なくとも俺の使徒連中は俺に召喚されるのは嫌がるだろうね。でも、俺の使徒はどいつもこいつもツンデレだから結局は俺に召喚されてくれるだろうけどね。
使徒でない俺の僕の連中は簡単に召喚に応じてくれるけど、戦力的には心許ないし、ツンデレ連中と違って俺に従順だから面白くねぇから、ちょっと避けたいなぁ。
「まぁ、とりあえず召喚してみようか」
呼べば誰かしらは来るだろう。使徒が理想だが、使徒でなくてもまぁ良いや。
指名して召喚することもできるんだけど、その場合、指名された側も召喚に抵抗できるから、ランダムの方が良い。
指名召喚の場合は足を掴んで奈落に引きずり落とすイメージ。ランダム召喚の場合は足元に何時の間にか奈落への穴が発生するようなイメージ。そういうイメージの違いが抵抗できるかどうかに繋がっているんだろう。
「召喚、召喚、誰か来い。アスラカーズが呼んでいる。できれば使徒来い、一人来い。俺の近くにすぐに来い」
クソ適当な詠唱だが、これでも召喚は出来る。
カッコつけた方が安定するんだけども、安定よりも速度重視の召喚。
これは俺だからできるんであって、他の奴らは俺の使徒とか僕を呼びたい時はもっと丁寧にやらないとダメだぜ?
「ひどい召喚だ」
ゼティが絶句する。これで呼ばれたくはないと本気で思っている顔だ。
この召喚に応える奴はいるのかとも思っているようだが、幸いなことに詠唱は召喚対象には聞こえないんで問題ない。俺の使徒を呼ぶ際の詠唱は召喚者のモチベーションを上げて召喚の強制力を高めるくらいの役割しかないんで適当でも良いんだよね。
「でも、応えてくれた奴はいるぜ」
俺が召喚の詠唱に合わせて魂を資源に神力を補充し、召喚の術式を組み上げると、神力が地面に紋様を描き、召喚陣が形成される。すると、すぐさま金色に輝く召喚陣の中央に光の柱が天から降りてくる。
光の柱はこの世界と別の世界をつなぐ橋で、これを使って異世界から俺の僕たちがやって来る。
それなら、これを使えば脱出できるのではないかって? それが無理なんだよなぁ。実を言うと、橋って表現は俺の僕たちを納得させるための表現で、実際は水洗トイレと変わらない感じ?
水で排泄物を押し流していくように、光の柱も俺の使徒を押し流して力技で異世界に落とすような感じなんだよ。だからまぁ、一方通行なんで光の柱を使って、この世界を脱出するのは無理なわけ。
そんなことを考えているうちに光の柱は徐々に消え始め、それによって召喚陣の中心の人影がハッキリと姿を現す。
誰が来たかと思い、俺とゼティがその人影に釘付けになっていると、ほどなくして光の柱は消え、ハッキリと召喚された人物の姿が俺達の目に飛び込んできて、その瞬間、俺達は目を丸くする。なぜなら、召喚されたのはメイド服姿の女だったからだ。
人形のように寸分の狂いもなく計算された美貌を持つ長い銀色の髪、そしてクラシックな雰囲気のメイド服。
「システラ・シニストラと申します。以後、お見知りおきを」
召喚された存在はスカートの裾をつまみ、優雅に一礼をする。
それだけ見たら、メイドっぽくはあるのだが姿だけだ。人間離れした美しい容姿と、形だけは似せてあるが、良く見ずとも誰が見ても分かるレベルでむやみやたらに仕立ての良いメイド服を見れば、目の前にいる存在をメイドと思うことは難しい。
「どうかなさいましたか?」
システラと名乗ったメイド服の女は何の反応を見せない召喚者を訝しんでなのか、俺達の方に視線を向ける。その時の表情は天使のような笑顔であったのだが、その表情は俺達を見た瞬間に歪み、取り繕うこともできずに硬直してしまう。
「久しぶり」
俺は硬直したシステラに親し気に声をかける。
だって知らない相手じゃないし、というかそもそも俺の僕だからね。
「システラか。まぁ当たりだな」
「そうだなぁ。今の状況を考えれば大当たりって言っていいかもな。少なくとも外れってことはないぜ」
女の子を眺めながら当たり外れを評価するとか割と最低な絵面だけど、俺達は気にしない。
まぁ、そんな俺達でも気にすることはあるわけで、ゼティが硬直しているシステラを指さしながら俺に訊ねる。
「ところで、こいつはなんでメイド服なんだ?」
さぁ? 俺に聞くなよ。
「趣味なんじゃね? コスプレに目覚めたとか」
メイドだったことなんて一度だってないのにメイド服を着てるとかコスプレ以外の何物でもないと思うんだが、そこんところどうなの、システラ?
俺達がそうして話していると硬直していたシステラが急に「あぁ~~っ!」とわめきはじめ、そして叫ぶのだった。
「チェンジ!」
残念ながらチェンジは出来ない。
これから、お前は俺と一緒にダンジョンに行くんだよ。




