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これからすべきこと

 すっかり軽くなった──というか、中身が無くなった袋を片手に俺は朝帰り。

 袋の中身だった金貨を遊びで使い切った俺は身も心も財布も軽く、心穏やかな気分。

 それだけでも、十分なのに色々と面白い話を聞けたのも悪くないね。


 スカーレッドとサイスとゲオルクは元は同じパーティーにいて他のメンバーも別の冒険者ギルドに所属しているらしいというジョニー情報。

 サイス達が所属していたのはグラウドっていう名前の冒険者がリーダーをしていたパーティーで「くろがねのグリフォン」とかいう名前だったらしい。

 全盛期はフェルム周辺のダンジョンを全て制覇したそうだが、その矢先にリーダーだったグラウドが冒険中の事故で死亡。

 それが原因で仲違いしパーティーは解散したとジョニーは言っていた。その後、スカーレッド達は別のギルドに移籍し、サイスだけがグラウドの残した冒険者ギルドと、グラウドの娘のマリィベルちゃんを守るために残留したっていう話だ。

 スカーレッドもサイスも大陸冒険者ギルドの所属だったが、過去の一件から今はサイスとの関係は最悪だっていうのがジョニーの情報。

 グラウドの死の原因はサイスにあったとか、ギルドやマリィベルちゃんを見捨てて他のギルドに移っていったスカーレッド達にサイスが怒りを抱いているとか、そういう話もジョニーから聞いた。

 話を聞いた限りでは厄介事の火種はいくらでもありそうだが、さて俺はどうするべきかな? 色々と面白そうな話だし、自分なりに色々と調べてみるのも悪くないんじゃないか?

 他人の過去を詮索するべきではないけれど、過去の事件を調べるのは問題ないだろ?

 主観的な過去の出来事についてほじくり返すんじゃなく、客観的な過去の事実を整理しようとしてるだけなんだしさ。


 そうと決まれば、どう動くべきか。

 それを考えながら、俺はキャンプ地に帰ってくる。

 早朝に戻って来てみると、ゼティが剣の素振りをしている所に出くわした。

 別に挨拶をする必要もないし、邪魔をするのも良くないと思い、俺は何も言わずに自分のテントに入って昼まで寝ようと思ったのだが──


「ガウロンという冒険者がお前のことを探して、昨日の夜にここに来たぞ」


 ゼティは俺の方を見ずに手短に来客があったことを伝えてきた。

 なんだよ、寝ようと思ってたのにさ。


「寝る必要がないんだから、今から会いに行ってこい」


 そうは言うがね。

 俺らは眠らなくて問題ないけど、睡眠が無意味ってわけでもないじゃん。

 寝るとリフレッシュにはなるんだし、寝ておきたい気分の時もあるだろ?

 でもまぁ、急を要する用事かもしれないしなぁ。


「まぁ、まだ日も昇りきってねぇし別にいいか」


 朝の内に会いに行って、用件を聞いて帰ってきて寝ればいいか。

 俺はテントに入らずに街へと引き返すことにした。そんな俺の背中にゼティが声をかけてくる。


「本来の目的を忘れるなよ」


 分かってるよ。この世界を脱出するための手掛かりだろ?

 その内、見つけるから期待して待ってろ。


「テメェもちゃんと働けよ」


 ノンビリと剣術道場なんてやってんじゃねぇよという意味で言ったのだが、今の言い方だと道場を頑張って金を稼げっていう感じに聞こえなかっただろうか?

 そんなことを思いながら、俺は冒険者ギルドへと向かって歩き出した。



 ──ほどなくして大陸冒険者ギルドの建物に到着する。

 フェルムの街の片隅のこの地区は人の気配もまばらで、捉えようによっては身を隠しているようにも見える。

 何から身を隠す? 妄想の余地はいくらでもある。

 ここのギルドの代表はグラウドだった。グラウドはフェルムで一番の冒険者パーティーを結成していたわけだし、何かしらの遺産はあるはずだ。

 そしてそれは娘のマリィベルに受け継がれている可能性もあり、サイスはマリィちゃんを遺産を狙う奴らから守るために、こんなギルドとしての経営が成り立たなそうな場所に身を隠してるとか、そんな可能性もないかい? そう考えるなら、サイスがマリィちゃんを厄介事に巻き込んだり、ギルドを目立たせるのを嫌がるのも当然となるが、さてどうなんだろうか?

 まぁ、そういう可能性もあるって俺が妄想しただけで、事実は大したことが無いかもしれないけどね。細かい裏事情は無くて、サイスが単なる善意で世話になったリーダーの忘れ形見を引き取っているだけってこともある。


 そんな風に色々と妄想をしながら、俺はギルドの中に入る。

 入ってみると、困ったような顔で受付カウンターに座っているガウロンと、ガウロンと同じような困ったような顔だけ作りながら、内心の怒りを全く隠そうとしてないサイスが目に入った。


「おはようさん」


 俺は何気なく挨拶をすると、ガウロンは挨拶もせずに困った顔のまま、俺を受付に手招きする。

 なんだとうと思って、近づいてみるとガウロンはカウンターに座った体勢で俺を見上げながら言う。


「ちょっと困るんだがな」


 あぁ、顔を見れば困ってるのはわかるぜ。


「何に対しての話?」


「お前が勝手に依頼を受けたこと。困るんだよなぁ、依頼料とかの諸々の契約とか事務手続きをしっかりしておかないと後々、面倒なことになるから気を付けてくれよ」


 あぁ、そのことね。

 勝手に依頼を受けるのは良くなかったってことね。

 誰かに話を通しておくべきだったかい? ギルドマスターのマリィちゃんにでも言っておけば良かったのかな、サイス君?


「まぁ、初めての依頼だから、細かいことを言うつもりは無いが、今度からは気を付けてくれよ」


 ガウロンは仕方ないって感じで水に流してくれそうだが、サイスの方はそうでもなさそうだね。

 文句があるなら言った方が良いぜ? 下手に大きな依頼を受けて、このギルドが目立つことは避けたいってさ。でも、それを言ったら、サイスは事情を俺とガウロンに話さなきゃいけなくなるだろうし、それも嫌なんだろうね。


「それで報酬に関してなんだが、貰ってきたんだよな?」


「悪いが、それは使い切った。大した額じゃなくてな、酒を飲んでメシを食ったら無くなったよ」


「おいおい、勘弁してくれ。依頼主からの報酬はいくらかはギルドに納めてもらわないと困るんだ。これも次からは気を付けてくれよ」


 そうだねぇ、気を付けるよ。

 ギルドの取り分ってのは斡旋料とか仲介料とか、そういう手間賃なんだろうね。まぁ、ギルドがあるから冒険者は依頼を探しやすいわけだし、ギルドを存続させるための金は必要だわな。


「いやぁ、流石にそれはマズいっスよ」


 ようやくサイスが口を開く。


「ギルドの経営も火の車なんスから、ちゃんと金は払ってもらわないと」


 火の車? 嘘を言ってんなぁ。

 そんなに大変なら、マリィちゃんがあんなに健康な感じで過ごせるとは思えねぇけどなぁ。

 服も綺麗だったし、そういうのを用立ててるのはサイスだろう? 金に困ってる気配はねぇけどな。


「全額とまでは言わないっスけど、多少なりとも補填してもらわないと示しがつかないっス」


「依頼達成の報酬からギルドに払う分を用意しろって言いたいのかい?」


「話が早くて助かるっス」


 まぁ、構わねぇけど。

 とはいえ、どうやって金を稼ぐかって話になるんだよなぁ。


「急に用意しろと言っても無理だろう。冒険者としての依頼を達成していくことで相殺するってことにして、今回は見逃してやるべきじゃないか?」


 ガウロンはサイスの意見に異を唱える。

 俺の見立てだとガウロンは何も知らない感じがするな。


「アッシュもこれからは気を付けてくれ。ギルドがあってこその冒険者なんだから、ギルドの存続に力を尽くすのも冒険者の責務だぞ」


 了解、了解、分かりました。

 問題ねぇよ、ギルドを存続させればいいんだろ?


「でも、存続させるためには今のままじゃ駄目だと思うけどねぇ」


 俺はサイスを見る。


「今のままじゃ依頼も入ってこないし、それじゃ存続も危ういだろ? もっと、このギルドの存在感を増していかなきゃいけないと思うんだよね」


「お、いいぞ。そういう発想は大事だ」


「いやいや、うちらは地道にやっていくって話になってたじゃないっスか」


「だがなぁ、アッシュの言う通り、このままでは存続が危ういのも事実であるし、もう少し依頼者が増えるような状況にはしたいな」


 ガウロンは俺の意見に賛同してくれているようだ。

 さて、この状況でサイス君はどうするのかね? ギルドが目立つことになるのは避けたい様子だけど。


「……まぁ、皆さんがそう言うなら」


 おや、案外あっさり折れたね。目立つことは嫌なんじゃなかったか?

 まぁ、ここで変なこだわりを見せて勘繰られるの方を嫌がったんだろうけどね。


「でも、どうやって、お客さんを増やすんスか?」


「心配すんなよ、俺に考えがあるからさ」


 冒険者らしく、冒険者としての活躍で俺達の存在を宣伝していこうじゃないか。


「どういう考えだ?」


 ガウロンに訊ねられ、俺はハッキリと俺の計画を口にする。


「俺達はダンジョンに挑戦する」


 これが俺のシンプルで最高の計画。

 不安そうな顔になるなよ。勝算はあるから、俺に任せておけって。






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