黙っていられない男
「──で、そいつは何て言ったと思う?」
酒場は俺の独演会で大盛り上がり。
お酒を飲めば、誰も彼も何が何だか分からなくなっちまう。敵か味方かも定かじゃなくなり、みんな仲良しお友達ってね。
「テメェらみたいな雑魚共に俺が負けるかよって、そんな風に大見得を切ったのさ。何千人もの敵を前にしてたった一人でな」
俺の話に冒険者共が歓声をあげる。
さっきまでは殺気立ってた奴らもタダで酒が飲めるとなれば、遺恨を水に流してもくれたりするのさ。
テーブルの上に立って、酒の勢いに任せて延々と続く俺の話を飽きもせずに聞く冒険者連中。
面白い話のネタはいくらでもある。俺の冒険、俺の使徒たちの冒険。俺が旅した色んな世界の物語。その気になれば1000年ぶっ続けで話し続けられるくらい、色んな話があるぜ。だけどまぁ──
「今日はここまで。続きは今度だ」
俺は惜しむ声を無視してテーブルの上から飛び降りる。
何時の間にか酒場の客は数えきれないほどに増えている。その原因は俺がタダで酒を飲ませるって言ったからで、タダ酒を飲めると聞いた連中が次から次へとやってきているせいで酒場は大繁盛。
「よう、飲んでるかい?」
客と客の間を抜けて俺は適当に声をかける。
誰に話しかけようって考えてるわけじゃないんで、まるっきり適当だ。
それでも、話してりゃ楽しい気分になるぜ。
「おう、飲んでるよ」
「いいねぇ、その勢いでどんどん飲んでけ」
俺はテーブルに置いてあった人の飲みかけが入ったコップを手に取り、中身を飲み干す。
「テメェ、俺の酒だぞ!」
「ケチケチすんなよ。俺の奢りだぜ? 女将さん、コイツにもう一杯エールを」
もっと楽しくやろうぜ?
頭おかしくなるくらい騒がねぇと楽しくねぇぜ。
「女将さん、コップなんてセコイことしてねぇで樽ごと持ってきてよ。おい、テメェら、女将さんの細腕じゃ持ってこれねぇだろうから、代わりに持って来てやれ」
そこら辺にいた連中の尻に蹴りを入れて、俺は店の奥に走らせる。
女将さんが俺に対して、当初の威勢はどこへいったのか、若干怯えの入った眼を向ける。
「心配すんなよ。金はあるんだ。そして酒もある。最高の夜じゃねぇか」
店の奥からエールの入った樽が酒場のホールに運ばれてきて、それを見た冒険者たちが歓声を上げる。
俺が運ばれてきた樽の上面を叩き割り、そこから樽に詰められたエールをコップですくい上げて一気に飲む。
「どう思うよ? なんかチマチマしてねぇか?」
どうするべきだと思う? こうするしかねぇよな?
俺は樽を運んできた冒険者の頭を掴んで、エールの中に突っ込み、そうして10秒くらい、エールの海で溺れさせる。
「やっぱこれだよなぁ!」
頭おかしくて楽しくなってきちまうぜ。
俺が頭を引き上げると、冒険者は結構な量を飲んだようで、だいぶ楽しそうだった。
「ワインはねぇの、ワイン! ウィスキーでも良いぜ?」
俺は女将さんに近づきながら訊ねる。
「ワインなんか無いよ。ああいうのは、この辺りじゃ、お貴族様の飲み物だからね」
「それなら、お貴族様の所にはあるってことじゃないか。じゃあ、誰か取りに行ってこい」
金ならあるんだから、貴族から売ってもらってこい。楽勝だろ?
俺が冒険者たちを見回して、誰か行ってくれる奴はいねぇかと聞くが、酔っぱらってるくせに。どいつもこいつも、それはマズいと思ったのか立候補する奴はいない。
「しょうがねぇなぁ、牛の小便みてぇなエールで我慢すっか」
無茶振りして場をシラケさせるのも良くねぇからな。
俺はコップの酒をあおりながら、更に混雑してきた酒場の中をブラブラと歩いて回る。
「よう、楽しんでる?」
そして適当な奴に声をかけるのを繰り返す。
そうしていると、俺の姿を見るなり喧嘩を吹っ掛けてくる冒険者もいる。
先日、俺にぶっ飛ばされた奴らだ。
「テメェ、アッシュ! ぶっ殺してやる」
テメェにゃ無理だよ。
俺はコップを持っているせいで左手が塞がっているので、喧嘩を売ってきた奴には頭突きを叩き込んで黙らせる。
「イエーイ、カンパーイ!」
別の奴が突っかかって来たので、そいつの頭にコップを叩きつける。
こういう喧嘩も酒場らしくて良いよね。楽しくなってきたぜ。
次は誰だい? 俺と楽しくやろうぜ?
「アッシュ、ちょっとこっちに来な!」
おっと、お呼びがかかってしまった。俺を呼んだのは誰ですかってね。
俺は声が聞こえた方に眼を向けると、スカーレッドがジョニーと一緒に酒場の隅の席に座っているのを発見したので、俺はそこへ向かう。
「なんか用かい?」
「ちょっと座りな」
おいおい、怖い顔だねぇ。
酒の席なんだから、楽しくやろうぜ?
ジョニーも、それとガキもいるな。お前らも飲んで騒いで楽しくやろうぜ?
おっと、ガキの方は酒を飲んじゃ駄目そうだな。成長期の飲酒はよろしくねぇし。
「面倒ごとは嫌なんだよ」
「俺もなにがなんだかわかんねぇから関わりたくない」
ジョニーもガキも枯れてるなぁ。
若いんだから、もっと積極的に行かなきゃだめだぜ?
まぁ、人には人の生き方や考え方があるから、俺が勝手に良くないと決めつけるのは駄目だから何も言わんけどさ。
とりあえずジョニーたちの方はそれで良いとして、スカーレッドの方は俺に何の用なんだい?
「女将さんが心配してんのさ。アンタが本当に金を持ってるのかってね」
なんだよ、そんなことかよ。
それなら心配いらねぇぜ。論より証拠、言葉より現物を見せて納得させてやろうじゃないか。
そう思い、俺は腰に吊り下げた袋を手に取ると、その中身をテーブルの上にぶちまけた。
「どうよ、これで大丈夫だって分かったろ?」
袋の中に入っていたのは大量の金貨。
それを見たスカーレッド達は歓声をあげ──なかった。
それどころか逆に沈黙して、信じられないといった感じで俺を見て、硬直する。
そうして一瞬の間があき、最初に口を開いたのはガキだった。
「ヤバい金か?」
ヤバい金のわけねぇだろ。真っ当な仕事で稼いだ金だぜ。
「おまえ、マジで本当のことを言えよ。何をして稼いだ金だ?」
ジョニー君からの信用はゼロだから気にしない。
「いや、実際、何をしたら、こんなにもらえるんだい?」
スカーレッドは呆れた調子で大量の金貨を見て言う。
騒ぎに釣られて、冒険者連中も俺達の方を気にしだす。
「普通に冒険者として働いただけだよ」
盗み聞きをしている連中が、そんなわけあるかって感じの視線を俺に向けてくる。
その視線に耐えかねて、俺は思わず仕事の内容を言ってしまうのだった。
「教会からの仕事でさぁ。呪いを何とかしてほしいって依頼が来たんだよ。その達成報酬って奴?」
いやぁ、酒の力って怖いね。
隠しておいた方が良いようなことが立て板に水のごとく、スルスルと俺の口から零れ落ちてしまうぜ。
「知ってる? メレンディスって奴に頼まれて、内密に呪いを解いて欲しいって言われたんだ。あいつら隠してたけど、僧侶で呪いの被害にあってる奴もいてさぁ。
それで呪いの解呪をしようとクローネ大聖堂を探っていたら、地下に拷問室があったんだ。そんなもんあるとか、ビビるだろ? 俺はビビらなかったけどさ。でもって、そこにはリッチがいて、それが呪いの元凶だったみたいだな。信じられるか? 大聖堂っていう神聖な場所の地下にアンデッドが住んでたんだぜ? 神の御加護ってなんなんだって話になるよなぁ!」
お酒のせいで俺の声が大きくなってしまい、俺の声が酒場中に響き渡り、酒場にいた全ての客の耳に俺の冒険の話が届く。
お酒って本当に怖いねぇ。真実を伝えてるつもりでも、説明の面倒くさそうな瘴気がどうとかいう話は全部スルーしてしまったぜ。
「それとリィナちゃんっていう修道女知ってる? あの子さぁ、実はどっかの諜報組織の密偵っぽいぜ? 実はリッチを退治するとき手伝ってもらってさぁ。その時の動きを見るに、素人じゃなくてちゃんとした組織で戦闘訓練を受けているのは明らかだったぜ。きっと潜入調査でフェルムの白神教について嗅ぎまわってるんだと俺は推理するね!」
思わずリィナちゃんのことも酒場にいる全員に聞こえるように話してしまったぜ。
「おっと、余計なことまで話しちまったぜ。酒の力って怖いねぇ。悪いけど野今の話は忘れてくれ」
酔っぱらうと何をしでかすか分からねぇから気をつけねぇとなぁ。
「アンタ、酔ってないだろ」
何をいうんだいスカーレッド。
「アンタの動きを見てたけど、アンタは人に酒を勧めたけど、自分は殆ど飲んでないね。さらに飲んでいても量を計算してるようだったしね」
さぁ、そいつはどうだろうね。キミの目が節穴なんじゃないか?
だって、酔ってないとなると俺は素面で隠しておいた方が良いことを場もわきまえずに喋ったってことになるじゃん? そんなことを俺がするわけないだろ?
「……まぁ、いいさ。アタシには関係のないことだからね」
そう言うとスカーレッドは立ち上がり、俺に背を向ける。
「アタシが心配してたのはここの支払いが大丈夫かってことだけさ。そんだけ金があるなら問題ないさね。女将さんにも心配しなくて大丈夫だって伝えておくよ」
そう言うとスカーレッドは俺の返事も待たずに、俺から離れて冒険者たちの中に加わる。
「スカーレッドって何者だ?」
俺はウンザリした感じでチビチビと酒を飲んでいるジョニーに訊ねる。
「あの人はフェルムで五本の指に入る冒険者だ。フェルムで最高の冒険者パーティーを結成していたこともある」
「過去形なんだな」
「あぁ、そのパーティーは解散したからな。パーティーのリーダーが冒険中の事故で亡くなり、それが原因で仲違いし、喧嘩別れって顛末さ。これについてはお前の方が詳しいんじゃないか?」
なんで俺の方が詳しいんだよ?
「だって、そのパーティーメンバーの一人ってお前の所のサイスだぞ?」
人と人ってのはいろんな繋がりがあるもんだねぇ。
そこんところ、ちょっと詳しく教えてもらいたいもんだぜ。




