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必殺の一撃

 

 ──しかし、業術を発動したは良いけど、イマイチ熱くなれねぇなぁ。

 やっぱり相手がアンデッドだったりするのが良くないのか? あんまり強くないのが数だけいても、そんなに楽しくねぇよな。


「オオオオォ」


 リッチが唸り声をあげるとそれが号令になったのか、スケルトンの群れが俺達に向かって襲い掛かってくる。


「どうすんのよ!」


 そんなに声を上げなくても大丈夫だってリィナちゃん。

 問題ねぇよ。楽勝だ。

 俺は突っ込んできたスケルトンの先頭の一匹に前蹴りを叩き込む。俺の業術カルマ・マギアによって、俺の気や魔力は熱を帯び、熱は火を生み出す。気合いが入りきらないせいで火力はイマイチだが効果は充分。

 俺の蹴りが当たったスケルトンは砕けるよりも先に灰に変わって飛び散る。


「火ってのは古来より、どこの世界においても死者を浄化する役割を持つ。聖なる力が使えないなら火で焼くってのがアンデッドには一番さ」


 それも純粋な火じゃなく魔力を変質させて生み出しているものだから魔術的な性質がタップリと入った特別な火なんでアンデッドには効果抜群だぜ。


「もっと早くやれよ……」


 リィナちゃんがいなければできたんだけどね。

 まぁ、それを言っても仕方ない。過去を悔やむより、今を何とかすることの方が重要だと思わないかい?

 さっきまで怠けていた分、こっからは俺が働こうじゃないか。


 俺は向かってくるスケルトンに対して、自分から突っ込んでいく。

 走りながら飛び蹴りを放ち、敵の先頭の数匹を粉砕しながら集団の中に突入すると、俺はしゃがみ込みながら、円の軌道を一周するように足払いを放ち、それを受けたスケルトンの足が砕け散り、その場に倒れこむ。

 倒れたスケルトンを踏み越えて数匹が俺に手を伸ばしてくる。その手を叩き落し、返す刀で掌底を頭部に叩き込み粉砕。横合いから別の手が伸びてきたので、そちらの方向に胴蹴りを放つと一匹のスケルトンが仲間を巻き込んで吹っ飛んでいった。

 直後に背後に気配を感じ、俺は後ろ足に力を込めると、その足を軸足にして振り向きざまに中段を突く正拳を放つ。

 俺のその一撃は背後から迫っていたスケルトンの胴体に直撃すると、衝撃でそのスケルトンを粉砕し、その背後の敵もまとめて闘気の熱波が焼き払う。


「弱い、弱い。なんでお前らがそんなに弱いか、何がお前らに足りないか教えてやろうか?」


 スケルトンが無警戒に俺の間合いに入り、その瞬間、俺の上段蹴りが頭蓋骨を粉砕する。


「カルシウムが足りねぇんだよ。骨が脆すぎる」


 ヤケクソなのか何も考えて無いのか、何匹かのスケルトンが俺に手を伸ばしてくる。

 それを俺が手で叩き落として防ぐと、それだけで骨が砕ける。

 俺は手を失ったスケルトンの顔面を手首のスナップを利かせた高速の裏拳で叩くと、それだけで頭が砕けてスケルトンどもは崩れ落ちる。


「日光浴をしろよ。ビタミンDが足りてねぇと骨が脆くなるぜ?」


 太陽光を浴びると人体はビタミンDを生成して、ビタミンDはカルシウムの吸収を助けてくれるから骨が頑丈になるんだぜ。


「おっとアンデッドに日光は無理か。出来ないことを言って悪かったね」


 無理なことを言うのは良くねぇよなぁ。

 体質的にできないことを強要するのは良くないことだぜ。


「黙って戦えよ……」


 リィナちゃんのウンザリした声が聞こえてくる。

 おっと、そういえばリィナちゃんの方に行ったスケルトンは無視していたけど、大丈夫だったかな?

 振り向いてリィナちゃんの方を見ると、リィナちゃんが剣で近づいてくるスケルトンを斬り捨てていた。


「喋らねぇ敵との戦いはテンションが上がらなくてさぁ、気持ちを高めるために一人で喋るようにしてるんだよ」


 テンションが上がらないと業術の熱量を維持できないしさ。

 そのことをリィナちゃんに詳しく説明するつもりはないけれどもね。だからまぁ、ただの変な奴と思われていても構わないかな。

 リィナちゃんは俺の言葉に対して何も言わず、黙々と自分の周囲のスケルトンに対して剣を振るうことに集中している。


「集中してるのは良いんだけどねぇ」


 俺の視界の端でリッチが魔力を練っているのが見える。

 狙いはリィナちゃんのようなので、俺は自分の周りのスケルトンを殴り飛ばし、蹴り倒しながら移動して、リィナちゃんを狙う魔術の射線に割り込む。

 リッチは危険度はリィナちゃんの方が上と判断しているようで、俺のことなど気にも留めずに魔術を放つ。それは闇を集めたような漆黒の球体でリィナちゃんが使った《ライト・バースト》の色違いのようだった。

 名付けるなら《ダーク・バースト》って感じだろうか?

 リッチは射線に割り込んだ俺ごと吹っ飛ばせると判断したんだろうが、俺はリィナちゃんを狙って放たれた魔術を殴って弾き飛ばす。


「どさくさ紛れは良くねぇなぁ。正々堂々と行こうぜ?」


 俺は再度、魔術を放とうと魔力を練るリッチに対して一気に距離を詰めて、その顔面を殴り飛ばす。

 俺の攻撃は効かないと高を括っているようで防御のそぶりも見せないが、さっきまでとは違うってことを身をもって理解してもらおうじゃないか。


「オオオ――ッ!?」


 俺の拳が直撃したリッチは吹き飛び、部屋の壁に激突する。

 激突のダメージは無いようだが、俺の拳のダメージはあったようで殴られた顔面を抑えつけ、声にならない悲鳴を上げている。


「俺を舐めすぎだぜ?」


 相性やら攻撃手段が無かっただけで最初から俺の方が強いってことは分かってたろ? それとも分かってなかった? だとしたら、見る目が無いね。

 そんな奴はあんまり好きになれねぇなぁ。まぁ、そもそもの話、意思疎通の出来ないアンデッド自体、俺は好きじゃないんだけどね。


「オオオォォォァァァァッ!」


 リッチが絶叫すると、スケルトンの群れが俺に向かって一斉に襲い掛かってくる。

 数を頼みにするってのは悪くないんだけどね。だからといって、そうするのがいつだって正解とは限らない今回に関しても、俺に集中するってことはさ──


「《ライト・バースト》!」


 俺に殺到している以上、リィナちゃんの方は手薄になるし、一か所に集まるからリィナちゃんの魔法の良い的になるんだよなぁ。

 リィナちゃんの放った光球がスケルトンの群れの中に叩き込まれ、爆発が群れを呑み込みスケルトンを消滅させる。


「マジでキツイ……」


 リィナちゃんは魔力切れで満身創痍って感じか?

 それでも一生懸命、頑張って仕事を全うしてくれる所は好きだぜ。

 だからまぁ、もう少し頑張ろうぜ。俺も応援するからさ。言葉だけじゃなくて実際に力を貸すからさ。

 リィナちゃんは俺の邪神像を受け取っているわけだし、俺の信徒なんだから俺が力を貸すのも悪くないだろ? それにリィナちゃんのことは好きだし、良いんじゃない? 加護をあげちゃってもさ────俺がそう思った瞬間、俺の中からリィナちゃんに向けて僅かに力が流れ込む。


「キツくても、もう少し頑張ろうぜ」


 この瞬間、俺の──邪神アスラカーズの加護がリィナちゃんに施される。

 この世界では俺も大した神じゃないから加護も大したものじゃないけど、無いよりはマシだろ?


「さぁ、ぶっ飛ばそうか?」


 俺はリィナちゃんのおかげで数が減ったスケルトンの群れを突っ切り、リッチの顔面に飛び蹴りを叩き込む。

 腕を振り回して俺を払いのけようとするが、俺は逆にその腕を払いのけ、追撃の拳をリッチの胴体に叩き込む。俺の業術の熱で焼かれてリッチの体が崩れ始める。

 主を攻撃されたことに腹を立てたのか周りのスケルトンが俺に襲い掛かって来るが──


「……ぶっ殺す!」


 邪神アスラカーズの加護を受けて、最高に良い気分になってる感じのするリィナちゃんが俺に近づくスケルトンの群れの中に飛び込むと、眼を爛々と輝かせながら視界に入る敵を滅茶苦茶に斬り伏せる。

 俺の加護は弱い段階だと、ちょっと好戦的になって接近戦の戦闘能力が上がるって程度なんだけど、リィナちゃんとは相性が良かったようだね。相性が良すぎてイっちゃってる感じがするけど、それもまぁ最初だけだから、まぁ大丈夫だろ。

 ……俺の加護があるってことは業術や瑜伽法を習得する条件を満たしたってことになるけど、それは今、気にすることじゃないよな。


「来い、来い、来い! 全部、私がぶっ殺してやる!」


 悪いけど、全部は任せられないなぁ。

 リッチの方は俺がるぜ?


「来いよ、まだれんだろ!」


 俺の言葉に反応したわけじゃないだろうけどリッチが背中から生える腕を俺に向けて魔術の発動準備をする。そんな予備動作が大きい攻撃が当たるかよ。

 俺は魔術の発動を防ぐために、距離を詰めて殴りかかる。そんな俺の攻撃に対してリッチは残っている二本の腕で俺を迎撃しようとするが──


「素人が!」


 慣れていない近接戦闘の工夫に思考のリソースを割いている時点でテメェの負けだよ。

 そんなことをするくらいなら自分の得意で相手に勝つ方に頭を使え。もっともアンデッドにそんなことを期待している俺の方が間違いなんだろうけどな。

 俺は、俺を迎撃しようと振るわれたリッチの腕を掴むと、即座に投げ飛ばし壁に激突させる。リッチが発動しようとしていた魔術はその衝撃で発動が失敗する。


「さぁ、トドメだ」


 俺が壁に激突したリッチに向かって駆け出す。

 だが、その瞬間、どういうわけか業術が解かれる。まだ、気持ち(テンション)は上がりっぱなしなのにどうして? そう思って周囲を見回した瞬間、リィナちゃんと目が合った。

 リィナちゃんは俺を見てウットリと笑っている。楽しそうなので、それに関しては良いと思うが、リィナちゃんの周囲のスケルトンが全滅しているのはよろしくねぇな。

 数の不利が無くなり、逆に数的には俺とリィナちゃんの二人に対してリッチ一体ってことで有利になったせいで業術の使用が禁止されたようだ。

 これだと俺がリッチにダメージを与える手段は無くなってしまうわけだが──


「──《エンチャント・ライト》」


 俺と目が合ったリィナちゃんが魔術を発動する。

 その瞬間、俺の拳に魔力の光が付与エンチャントされる。

 これなら高位のアンデッドだって問答無用で殴れる。そんな確信をもって俺は起き上がろうとしたリッチの顔面に拳を叩き込む。

 光属性の力で多少は効いているようだ。完全に俺の一撃が通っているわけじゃないが、それはまぁ仕方ないと思おう。


「オァァァァァッ!」


 俺を迎撃しようとリッチが巨大な腕を振り下ろす。

 俺はそれを左腕で受け止めると、右手の手刀で振り下ろされたリッチの腕を叩き折り、引きちぎる。

 声にならない絶叫を上げ、もう片方の腕で俺に殴りかかってくるが、俺は両手で、その腕を掴み取ると力任せに引っ張り、もぎ取る。


「アァァァァァッ!?」


 リッチは叫びと共に背中側から生える腕を俺に向ける。だが、どうせやることは魔術だろう。

 俺は魔術の発動準備をするリッチの胸を蹴って、その勢いで飛び退く。跳躍して離れていく俺を狙ってリッチは魔術を発動しようとするが──


「──邪悪を滅するため、白神の加護を此処に」


 俺ばっかりを見るのは良くねぇよ。

 俺のファンなら歓迎だが、そうじゃないなら只の間抜けだぜ。


「裁きの槍は輝き、魔は貫かれる──《ホーリー・ランス》!」


 俺に狙いを定めていたリッチはリィナちゃんの方に気付かなかった。

 その間にリィナちゃんは必殺の発動準備を整えていた。

 渾身の魔力を以て放たれた白い槍は一直線にリッチに向かって飛翔し、回避する間も与えずリッチの胴体を貫く。そして、直後に白の光の奔流が炸裂し爆発が敵を呑み込む。


「良い威力じゃないか」


 ──そして後には何も残らない。

 リィナちゃんは自分の攻撃で敵が消滅したのを確認すると限界を迎えた様子で膝をつく。

 俺の加護で能力を底上げしても限界が近い状態だったから、魔力切れも当然だわな。


「終わったの?」


 誰にというわけでもなくリィナちゃんが訊ねる。

 俺がどう答えるべきかと思い、すぐに返答しないでいると──


「え?」


 俺達の目の前に再び瘴気の塊が姿を現す。

 敵を仕留めたか疑問を持つ時点で仕留めきれてないと思った方が良いって言おうかなと思ったら、案の定、敵は生き残っていたようで、敵の核らしき物体がフワフワと俺達の前に浮いている。

 リィナちゃんの攻撃で吹き飛ばせたのは外側の部分だけだったようだ。


「そんな……」


 リィナちゃんが絶望した表情で肩を落とすと、それを嘲笑うかのように瘴気の塊は俺達の前で脈動し、それに合わせて部屋の中に散乱する人骨が瘴気の塊に向けて集まっていく。

 すぐに集まっていく骨の波に飲まれて、瘴気の塊は見えなくなり、続けて集まった大量の骨が組み上げられ、見上げるほど巨大な骨の巨人が形作られる。


「オォォォォォ!」


 完全復活ってことかね?

 それはそれで俺は構わねぇけど──


「もう、本当に無理……」


 リィナちゃんは本格的に限界を迎えたようだ。

 こうなったら、俺が一人で倒すほかないだろうけど、さてどうしたもんか。

 リィナちゃんが役立たずの状態になっても、業術が使用できる感じは無い。俺の呪いは目の前の骨の巨人に対して業術を使うのを許してくれないようだ。

 それはつまり見た目ほど強くはないということなんだろうが──


「リッチと性質が同じだと有効打が取れないんだよなぁ」


 見た目は骨だがリッチが元になっている以上、性質は近いものがあるだろうし、核に関しては瘴気の塊なんで、間違いなく俺の攻撃は効きにくい。


「敵が弱すぎて効く攻撃が使えないってのが一番面倒くさいんだよな」


 さて、どうするか。

 見た目ほど強くないにしたって攻撃が効かないんじゃ倒しようがないんだが、そう考えている俺の表情が少し困っているように見えたのか、リィナちゃんが俺に対して急に声をかけてきた。


「これを使えば倒せるわ……」


 俺の加護がかかってるからって友好的になるわけじゃない。

 しかしながら、リィナちゃんは俺が苦境にあると察して、俺に助けの手を差し伸べてきた。

 リィナちゃんは俺に剣を差し出す。それは聖なる力が宿ったリィナちゃんの剣であり、それを使えば目の前の敵を倒せると思い、俺に剣を託したのだろう。


「アンタなら使えるでしょ? 任せたわ」


 俺が剣を受け取ると同時にリィナちゃんはそう言って意識を失い、倒れこむ。

 リィナちゃんの考え方は間違っていない。確かに、この剣を使えれば骨の巨人も瘴気の塊も楽勝だろう。だが、それにはただ一つ問題がある。


「武器はなぁ……俺ちょっと使えないんだよね」


 リィナちゃんから託された剣を持っている右腕をジリジリと俺の呪いが蝕む。

 武器はちょっと良くねぇんだ。武器の使用に関しては俺の呪いは許してくれない。

 俺が武器を使ってマジで戦うとなると、それは手加減がどうとかってことじゃなくなるんで、下手すると魔術的な特殊能力の使用よりも制限が厳しくて、俺の呪いは俺が武器を使うことを許さない。


「オオオオオオオオオッ!」


 だけどまぁ、背に腹は代えられないよな。

 それ以外に攻撃手段は無いわけだし、ちょっと我慢する以外ないよな。

 手加減無しの殺し合いと考えれば──って考えそうになるけど、こんな相手にそんな気分にはならないし、諦めるしかねぇよな。

 気分さえ上手くコントロールできれば呪いは解除できるんだが、そんな器用なことが出来ないから、こんな生き方をしてるんだと思い、俺は呪いの解除を諦める。


「お互いついてねぇよな」


 俺は骨の巨人に同情するように言う。

 俺は攻撃が効かないんで、こんな手段に出るほか無く。そっちはそのせいで俺に絶対に勝てない。お互いつまらない結末だよなぁ。


「まぁ、運が無かったと思って諦めようぜ?」


 俺はジリジリと焼かれるような痛みを感じながら、軽く一歩を踏み出し、剣を振る。

 ……それだけで終わりだ。

 俺が剣を振り抜き終えたと同時に、目の前にいた骨の巨人はその核となっていた瘴気の塊と共に何の抵抗も無く消滅していた。


「本当につまらねぇ幕引きだぜ」


 今度こそ後には何も残らない。

 呪い騒動の元凶は消滅し、瘴気は完全に消え去った。



 ──とりあえず、それで良いってことにしておこうか。

 その程度のことのために安くない代償を支払う羽目になったけど、仕事はこれで完了だ。







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