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クローネ大聖堂

 

 馬車に揺られ、フェルム市の旧市街に辿り着く。

 旧市街並みは新市街とは異なり、古く厳めしい佇まいの建物が立ち並んでいる。

 歴史を感じられるが、発展性ってのは感じられないね。まぁ、変える必要が無い場所ってのもあるから、良いんだろうけどさ。


「まもなく到着いたします」


 相変わらずメレンディスは目を閉じているが、周囲の様子を完全に把握しているようだ。

 時折、馬車の窓から見える建物を俺に紹介してくれるので、それは間違いない。いわゆる心眼って奴なんだろうと推測するけど、どうなんだろうか?


「ここがクローネ大聖堂でございます」


 馬車が止まる寸前にメレンディスが言う。

 窓の外には石造りの巨大な建物が見えるが、それがクローネ大聖堂って奴なんだろう。

 聖堂を中心に他にもいくつか建物が見えるので、そこで僧侶が修行とかしているんだろう。


「挨拶は不要ですので、どうぞこちらへ」


 内密に進めたいから、他の奴らには知られたくないんだろうね。

 メレンディスは俺を先導して進んでいき、俺の後ろをメレンディスの従者が俺のことを監視しながら歩く。相当に警戒されているようだが、俺がメレンディスに何かすると思ってるんだろうか?

 まぁ、何かあったらするかもしれないけどさ。


「へぇ、立派な建物じゃん」


 案内されて俺は聖堂の中に入る。入り口の大きな扉を抜けた先にあったのは広い礼拝堂であり、奥にはステンドグラスと神像が立っている。両脇の壁にも見事な彫刻が施され、上の方に視線を向けると天使の像があちらこちらに並び、巨大な壁画が天井にまで伸びている。

 ……ただまぁ、チラッと見た感じだと壁画はでかいだけでメッセージ性は弱い印象があるな。

 神らしい存在がいて、天使がいて、人間が何かを受け取っているくらいか? それと神と天使が並んでるくらいの構図しかないみたいだな。

 神が実際にいる世界の割にそれくらいの構図しか出てこないとか浅い(・・)よな。神話が少ないのか? 神が実際にいるのに神話が少ないってのも変な話だよな。


「こちらへどうぞ」


 メレンディスに促されて、俺は神像の前に立つ。


「この御方が白神ヴァイスライツ様でございます」


 メレンディスとその従者が跪き白神の像にこうべを垂れる。

 俺はメレンディス達の動きを気にも留めずに神像を観察する。

 綺麗な顔の男の像だ。長い髪を肩に流し、薄い布を身に纏い、背中からは天使のような翼を十枚生やしている。


「これが白神ねぇ」


 本当にこの姿なのかはともかく、顔くらいは憶えておいていいだろ。


「俺は礼拝に来たわけじゃないんだし、さっさと仕事をしようぜ?」


 俺は跪いているメレンディス達に声をかける。

 この神像からは何も感じねぇし、興味がねぇんだわ。

 そんなものより、仕事の方が楽しくなりそうだから、そっち優先で行こうぜ?


「そうですな、早くに問題を解決せねばならないのですから」


 従者の方は俺の言葉にイラっとした様子を見せているのに対し、メレンディスはシレっとした様子で立ち上がり、俺の案内を再開する。

 物分かりが良い奴だぜ。教区長っていうそれなり以上らしい地位にいるくせに俺みたいなどこの馬の骨とも分からないやつに信仰を軽んじられても平然としているんだからな。俺を神の一人だと認識しているから、俺の言動を見逃してくれてるのかもしれねぇけどさ。


「まずは何から調べますかな?」

「呪いの兆候が見られるって僧侶に会ってみたいね」


 会えるかい? 俺が視線で問いかけるとメレンディスは僅かに考える様子を見せるが、すぐに了承の頷きをして見せる。


「問題ないでしょう。彼らは意識を失っておりますゆえ」


 呪いの兆候じゃなくて完全に呪われてねぇか、それ?

 意識を失っているって結構な重症のような気がするんだがなぁ。


「では、彼らを休ませている部屋まで案内しましょう」


 そう言ってメレンディスが案内したのは聖堂の地下の一室であり、場所からして人目を避けているのは明らかだった。


「治療に従事している修道女が一人おりますので、彼女から話をお伺いください。それと申し訳ありませんが、私は他の仕事がありますので、一旦席を外させていただきます」


 呪われた僧侶たちが休んでいる部屋の前に着くなりメレンディスは俺にそう言うと、一礼しその場から立ち去っていった。

 一旦なのか、このまま戻ってこないのかは判断がつかねぇが、とりあえず僧侶の様子を見るか、僧侶の世話をしているらしい修道女から話を聞かねぇとなぁと思い、俺はドアをノックする。

 いきなり入るのもよろしくねぇだろうなぁとノックすると、部屋の中からすぐさま返事が返ってくる。


「どうぞ」


 ……不思議なことに部屋の中から聞こえてきた声は、どこかで聞いたことがあるものだった。

 おかしいね、俺には教会で働くような知り合いはいないはずなんだが?


「どうぞ」


 困惑して、ドアを開ける手が止まっていると再び部屋の中から声がした。

 やはり聞いたことのある声で、俺はどういうことかと思い、ドアを開け、部屋の中に入ってみる。部屋の中にいる奴から入って良いって言われたのだから問題ないだろう。

 そう思って躊躇なくドアを開けると──


「はぁ?」


 俺が部屋の中に入ると、俺よりも早く部屋の中にいた奴が俺の姿を認識して声を上げた。

 それに遅れて、俺も声の主の姿を確認すると、そこにいたは──


「リィナちゃんじゃないか」


 部屋の中には修道女の服を着たリィナちゃんがいた。

 イクサスで別れた、冒険者のリィナちゃんがどういうわけか、フェルムにいて修道女としてクローネ大聖堂にいる一体全体どういうことなんだろうね?


「やばっ!」


 俺の姿を見て、一瞬呆然としていたリィナちゃんだったが、すぐさま意識を取り戻すと即座に逃走の態勢を取る。だけどまぁ、逃げようにも部屋を出るためのドアは一つしかないし、そのドアに前には俺がいるんだよね。つまり何が言いたいかというと逃げらんないってわけ。


「おいおい、何を逃げようとしてんだよ」


 俺は両手を広げリィナちゃんの行く手を塞ぐ。

 その動作だけで、リィナちゃんは諦めたのか、肩を落とし溜息をつく。

 どうやら観念してくれたようだ。じゃあ、ちょっと話をしようか?


「何してんの?」

「アンタに言う必要ある?」


 言わなくても何となく分かるけどね。

 俺は自分の推理をリィナちゃんに聞かせてみる。


「キミはどっかの密偵だろ? 王女ラスティーナのことも知っていたみたいだし、密偵ではないにしてもそれに近い立場な筈。それで、ここへも何かの調査とかに来てるんじゃないか? そんでもって調査ってのは呪いか何かかな? 呪いの原因を調べるとかそんな感じだろ」


 俺の推理に対してリィナちゃんはイラっとした表情になる。

 どうやら図星のようだね。表情に出やすいのは密偵としてあまりよろしくないね。


「ゼティにくっついて回るのは中止かな? それで今は教会関係の仕事をしないといけないとか忙しいねぇ。いや、もしかしたら教会関係の方が本職だったりして──」


 俺が喋ってる途中でリィナちゃんがナイフを投げつけてきたので、それを指で掴み取る。

 どうやら、それ以上、余計なことを言うなってことらしい。だったら黙っていようじゃないか。俺は優しい男なんでね、触れてほしくないことには触れないくらいの気遣いはできるよ。


「なんでアンタがここにいるの?」


 リィナちゃんが俺を睨みつけながら訊ねる。

 残念ながら凄んでみせても怖くねぇよ。キミは自分の顔の可愛らしさを自覚した方が良いね、殺気を出されてもキミのツラを見たらビビるのは無理だぜ?


「俺は冒険者になったのさ」


 俺は脅しをかけてくるリィナちゃんにビビッてしまって素直に事情を話してしまった。

 怖いよー、殺されちゃうよーって感じに? ははっ馬鹿みてぇだぜ。


「メレンディスに呪いを解くことを依頼されてね。冒険者としての仕事でここにいるわけ」


「教区長の依頼?」


 ご理解いただけましたか?

 俺の言葉を聞いてリィナちゃんが思考を巡らせている。リィナちゃんが教会関係者だったら、俺の言葉を聞いて色々と思う所もあるんじゃないかな?

 教区長っていう立場にある奴が冒険者風情に自ら依頼をするって違和感あるよな? いくら知られたくないからってそんなことするかい?

 それなりの立場にあるんだから裏方仕事をしてくれる奴くらい部下にいるはずじゃない? 

 それなのに、わざわざ部外者を呼ぶとか変な気もするよね。仮に頼るにしても最終手段だろうし、そこまで切羽詰まってる様子はないよな?

 リィナちゃんも色々と考えている様子で俺の方に向ける殺気が弱まっている。話を切り出すタイミングとしては今が良いだろう。


「そこで提案があるんだけど良いかい?」


 急に何を言っているって顔をしてるが、俺は気にせず話を進める。


「俺達は目的が同じみたいだし、ちょっと協力しないかい?」


 正確には違うんだろうけど、俺もリィナちゃんも呪いについて調べているってことは一緒だと思うんだ。

 だから協力するのも悪くないと思うんだよね。


「アンタと協力?」


 露骨に嫌な顔をしているが、合理的な判断は出来るだろ?


「俺はキミも知っての通り能力は非常に高く、大抵のことは出来る。だけど、教会の事情については詳しくないんでね。リィナちゃんから教会のことについて話を聞ければ非常に助かる。リィナちゃんとしてもちょっとした情報を提供するだけで、俺の協力が得られるってのは悪い取引じゃないだろ?」


 俺の協力を得て一緒にクローネ大聖堂の呪いについて調べるってのも悪い選択じゃないって分かるだろ。

 さぁ、リィナちゃん、俺と協力して呪いを解こうぜ?


「……チッ、まぁ良い。協力してあげても良いわよ」


 少し考え込むようなしぐさを見せるもリィナちゃんは素直に俺の提案に応じてくれた。

 リィナちゃんの事情を俺は詳しくは知らないが、俺と一緒にいた方が得だと判断したんだろう。

 場合によってはリィナちゃんは裏切る──っていうか間違いなく、裏切るだろうけど、それもまぁ良いかなって感じ。最初から相手が裏切るってわかってる関係ほど気楽なものは無いからね。目的を達成するまでは協力するって確証はあるだけマシさ。

 リィナちゃんが知りたいのはクローネ大聖堂の呪いとメレンディスが冒険者に依頼をした理由。それが分かるまでは俺と協力して問題の解決に動いてくれるだろう。それだけ分かってれば充分。

 さぁ、呪いを解きに行こうか?



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