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初めての仕事

 

「私は白神教会、フェルム市教区長のメレンディスと申します」


「アッシュ・カラーズだ」


 応接室のソファーに向かい合って座り、俺達はとりあえず互いに名乗る。

 爺さんの名はメレンディスということ、それと教区長っていう立場だってことが分かった。

 まぁ、白神教会について全く知らないから、その教区長ってのがどれくらいの立場なのかは分からねぇんだけどね。

 教区って響きから地区とか地域を連想するし、なんとなくだけどエリアマネージャーとかそんな感じだろうはとは思うけどね。

 一気に安っぽくなってしまうがフェルム市全域の教会を監督してる立場とすれば、それなり以上には偉いんだろうね。


「それで用件は? 仕事の依頼があるんだろ?」


 俺の物言いが気に障ったのか、メレンディスの後ろに立っていたお付きの二人が俺を睨む。

 睨むだけじゃ人は殺せないし、相手を止めるのは難しいぜ? 言いたいことがあるのならハッキリと言って欲しいもんだぜ。


「これ、やめなさい」


 メレンディスが気づいたようで、自分の従者たちを諫める。

 まるで見えているような振る舞いだな。目は開いていないし、視力があるようには見えないのに、メレンディスの動きには盲目の人間らしさが全く無い。

 やはり、只者じゃなさそうだ。


「失礼、弟子たちのご無礼をお許しください」


「構わねぇよ」


「彼らの無礼は未熟ゆえのこと、彼らは貴方様がその身に宿す神気を見極めることができぬのです。それが見えていれば、貴方様にこのような態度は取らぬと思うのですが……」


「だから構わねぇって、気にすんなよ」


 やっぱり俺が神であることは分かるようだな、この爺さん。

 その割には態度が堂々としてやがるのが気になるがね。俺の神気が見えていると言っているくせに、俺への態度はそこまでへりくだったものになっていない。

 神に仕えているらしい聖職者の癖に神への敬いの気持ちが足りないような気がしないでもないが、まぁ聖職者だから信仰心が篤いとは限らないし、白神教会ってくらいだから白神ってのだけを信仰してるんだろうし、他所の神である俺への敬意が物足りなくてもそれはそれで仕方ないか。


 さて、そんなことを考えているより、もっと大事なことがあるよな。


「さっさと仕事の話をしようぜ?」


「貴様っ!?」


 俺の言葉にメレンディスのお付きの一人がキレる。

 だが、メレンディスはそれを許さない。スッと手を上げ、自分の従者を制止すると有無を言わせぬ口調で言うのだった。


「少し席を外しなさい」


 静かな怒りのこもった言葉を受けてメレンディスの従者は不満気な顔を隠さずに部屋から出ていく。


「二人ともです」


 俺に対して我慢した方も出て行けということで、俺を睨みつけながら応接間から退室する。

 これで俺はメレンディスと二人きり、誰も邪魔する奴がいねぇが、さて、爺さんはどうするつもりだろうね。


「お時間を取らせてしまい申し訳ありません。それでは依頼の話をしましょうか」


「俺のことは良いのかい?」


 二人きりになったんだし、俺のことについて聞いても良いんだぜ?


「尊き御方のなさることについて詮索することは無礼と承知しておりますので私は何も問いません」


「それは白神教会の方針なのか、アンタの方針スタンスなのかどっちなんだい?」


「私自身の物です。私は神々のなさることに口を出すような不遜な行いはしないと心掛けておりますので」


「俺がどんな神かも聞かないのかい?」


「えぇ、当然、そのような詮索もいたしません」


 俺が完全に神だと理解してやがるな、この野郎。

 その上で何も訊ねない? 良くわからねぇな。この世界には六神って神しかいないようだし、俺が神だってことを理解しているなら、その内のどれかだと誤解しているのか?


「仮に貴方様が、この世界の神々ではなかったとしても、その事を私が追及することはないでしょう」


 すげぇな、この爺さん。そこまで分かるのか。だけど、分かっていて知らんぷりとかはどういうつもりなんだろうね。

 神様のすることに口を挟まないにしても、素性も目的も分からない俺のような存在を放っておいて良いとか本気で思ってるのか?


「なんか企んでたりする?」


「まさか、滅相もございません。ここを訪れたのも偶然ですので」


 たまたま冒険者に頼みたいことがあったのでギルドを訪れてみたら、この世界の神々ではない神がいたって? それで、そんな存在に偶然出会ったのに、アンタはさほど驚く様子もなく淡々と話をしていると?


「まぁ、そういうことにしておこうか」


 偶然ってのはあるもんだからな。

 アンタが平然としてるのも、色々と修羅場をくぐってるからかもしれないしな。


「それで? 俺が神と分かっても冒険者としての仕事を頼むのかい?」


「その方が御心にかなうと思いますので」


 神様が冒険者のふりをしてるなら、人間としては余計なことは言わずに、その遊びに付き合ってやるのが義務とか思ってくれてるんだろうね。

 メレンディスの本心は読めないが、とりあえず冒険者としての俺に依頼したいことがあるのは間違いないようで、メレンディスは淡々と依頼の説明を始めた。


「お願いしたいことは呪いの解呪です」


 呪いねぇ。どうぞ、続けてと身振りで先を促す。


「近頃、我々の聖堂に呪いの気配があり、また聖堂にて修行をする僧侶たちにも呪いの兆候が見られるのです」


 修行をする僧侶?

 それだけじゃなくてアンタも呪われてるように見えるけどね。


「聖堂ってどこの?」

「フェルム市の中央に建つ、クローネ大聖堂です」


 どういう場所かは知らないが、神聖な場所っぽいのに呪いとか困った話だね。


「どんな呪い?」

「特別何かがあるという呪いではないのです。ただ、少し体調が悪くなるようなもので」


「それを解く手伝いを俺らにしてほしいってことか」

「えぇ、その通りございます」


 まぁ、構わねぇと思うよ。

 白神教会の神聖な僧侶たちが呪いに手も足も出ずに冒険者に頼らざるをえない状況ってことだろ?

 外聞が悪いからコッソリと動いているし、大手の冒険者ギルドに行ったら、どこから情報が洩れるか分からないから、こうして『鉄の牙』みたいな小さくて目立たない冒険者ギルドに依頼を持ってきたとかそんな所だろう。

 そのことの説明はメレンディスはしないだろうが、なんとなく想像がつくよ。


「まぁ、良いんじゃねぇかな。依頼を受けるよ」


 困ってるみたいだし助けてやっても良いじゃないかな。

 俺も冒険者ギルドの一員なわけだし、依頼を受ける権利はあるよな。


「助かります。では、詳しい話はクローネ大聖堂で──」


 現場を見るのは大事だからね。

 そういうのは必要だ。そういえば報酬の話はしてないが、まぁ後ですればいいか。


「すぐに行くのか?」

「出来ることならば、早急に解決したい問題ですので」


 そういえば、ゼティが白神教会の聖騎士団って連中がアンデッド退治にフェルムにやって来るみたいな話をしていたな。

 メレンディスとしては聖騎士団に聖堂が呪われてるって知られたくないとかそんな事情があるから、内密にさっさと解決したいとか、そんな思惑があるのかもな。


 俺はメレンディスに連れられてクローネ大聖堂に向かう前にマリィちゃんに声をかける。


「俺も仕事で出かけてくるから、気を付けて留守番してなよ? 出来れば鍵を閉めてサイスとかが帰って来るまで誰も入れない方が良いと思うね」


 俺の言葉を聞いて表情を強張らせながら頷くマリィちゃんに見送られながら、俺はメレンディスに連れられて呪われているというクローネ大聖堂に向かうのだった。












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