状況報告
色々とあったものの、最終的には冒険者になることができた。
ギルドの建物を出る頃には既に日が落ちており、俺はその日はそれ以上出歩くことはせず、素直に寝床にしている街の外へ戻ることにした。
「ちっ、帰ってきやがった」
俺が市外へ出ようと門に差し掛かると門番のジョニーが俺の姿を見て、嫌悪感も露骨に俺に吐き捨てるように言う。だがまぁ、そんなことで怒るような俺じゃないんでね。
俺はチラッと冒険者カードをジョニーに見せる。これで俺は身分が保証された真っ当な人間だからね。文句はねぇだろ? いやぁ、人間だった時以来だぜ、マトモな身分証を持つのはさ。まぁ、人間だった時も、人生の大半は偽造の身分証で生活していたんだけどな。
「お前みたいな奴を冒険者に認めるところがあんのか!?」
嘘だろ?って顔で俺がチラッと見せた冒険者カードにジョニーは食いつく。
偽物かどうか疑うなら、ちゃんと見て確かめるといい。
俺がカードを突きつけると、ジョニーはそれを食い入るように見つめ、そして唖然とした顔で言葉を漏らす。
「嘘だろ、本物じゃねぇか……」
「当たり前だろ。世間には俺を必要としている連中がいるってことさ」
これで明日からはフリーパスだよな?
街の中は苦手だが、まぁ仕事なんで何往復もすることになるだろうが、そん時はよろしくな。
ジョニーと別れ、門から離れた俺は、フェルムに到着してからの拠点と定めた場所に帰る。
そこはフェルムの市街を囲む城壁から真っ直ぐ歩いて数分の距離にある川のほとりで、俺はゼティとそこにテントを張り、野営地としている。
「遅かったな」
俺が野営地に帰ると、ゼティは既に戻っていて、たき火の前に座って木剣を作っていた。
「何やってんの?」
木剣を作ってるのは分かるが、その大きさは大人が使うには小さいように見えたので、俺は気になり聞いてみた。
「子供用の木剣だ」
あ、この野郎。なんとなく分かったぞ。
明日は子供が剣術を習いに来るとか、そんな感じだろ。
野試合で稼ぐはずが、こいつ何時の間にか剣術道場を経営しようとしてやがる。
なんで、こいつは一人だけカタギっぽい仕事をしようとしやがるかなぁ、信じられないんだけど?
ここで俺が「俺が冒険者になったぞ!」って言っても、
ゼティには「そうか、俺は明日、子供たちに剣を教えることになっているんだ。お互いに自分の仕事を頑張ろう」とか言われたりしたら負けた気になるじゃねぇか。
……でもまぁ、そもそも勝負しているわけでもないんだけどね。
「ところで、俺は冒険者になったんだが」
「そうか、就職おめでとう。俺は明日の準備があるんで、その話はまた今度な」
ゼティは俺の話に興味が無いようで木剣を脇に置くと、懐から紙の束を取り出すと、そこに筆で何かメモを書き入れていく。
隠すつもりはないというか、俺に見せつけるようにゼティが書いているのは何人かの子供の名前と、その子供に対する指導方針やら何やらが書かれていて、指導計画も詳細に書かれている。
「本気じゃねぇか」
「そりゃあ、そうだ。こいつらの親から月謝を貰うからな」
月謝貰うの? ガチじゃん。
ガチで道場をやってんじゃん、この野郎。
俺が冒険者になって一獲千金とか、ギャンブラーみたいな思考に陥っている中で、こいつは真面目に地盤を固めて、カタギの生活を送ろうとしてやがる。
裏切者──そんな言葉が出そうになるが、別に何か約束してるわけでもないんだよな。なので、実の所どうでも良いことだったりする。
「そういえば街の中に行ってきたんだろう? 何か情報は手に入れてきたのか?」
何の話だ?
俺が首を傾げると、ゼティは大きく溜息を吐いた。
そういう態度は腹が立つなぁ。俺が本当に何も分かってないと思ってんの? この世界の神々についての情報を集めてくるって話だろ。
この世界の神々が俺達を、この世界に閉じ込めている可能性もあるから、そいつらをぶっ殺せば脱出できるかもしれないってことで、どこに神がいるのか情報を集めるってことになってたよな?
言っておくが、俺はそれなり以上に記憶力が良いんで、それくらいのことは余裕で憶えてる。まぁ、憶えてるのと、それを行動に移すのは別問題なんで、何もしていないんだがね。
「俺が真面目に働いていたのに、お前は遊び歩いていたのか」
ゼティが俺に対して呆れたような眼差しを向けてくる。
「そういうお前だって、剣を教えて遊んでたじゃねぇか」
「俺は金を取って剣を教えていた」
あぁ、それなら働いているし、遊んでないよな。
俺が間違ってましたね。すいませんねぇ。
「それと同時に俺に剣を習いに来た連中から情報収集もしておいた」
スゲェなぁ、ゼティ君。大活躍じゃないっすか。肩でも揉んでやろうか?
「で、何か分かったことでもあるのか?」
「特にめぼしい情報はないな。ただ、ここ数か月の間にカリュプス領ではアンデッドの発生頻度が増加しているようで、その対応のために白神教会の聖騎士団とやらが派遣されるということは聞いた」
「白神教会ってのはアンデッド退治が専門なのか?」
「それは俺も詳しくは知らない。ただ、白神というのは聖なる存在であるらしいからな。邪悪な不死の魔物の討伐も仕事の一つなんじゃないか?」
ふーん、そんなもんかね。
ただまぁ、アンデッドが邪悪って考え方はどうかと思うけどなぁ。不死の魔物だからって闇属性みたいな扱いをするのは良くないし、闇の弱点が聖なる力っての考え方としては間違って無さそうだけど、絶対に正しいと考えるのは危険だよな。
「まぁ、俺達には関係のないことだろう。この世界の問題は基本的には、この世界の人間が解決するべきだし、実際に解決のためにこの世界の組織が動いているのなら俺達のすることはない」
ゼティがそう言いながら俺を見る。
視線の意味はなんとなく分かるぜ。首を突っ込むなって言いたいんだろ?
言い聞かせるのは無理だって分かってるから、口では言わないが大人しく、この世界を脱出する方法を考えろともゼティは言いたいんだろうな。
「つまんねぇなぁ」
「面白いことばかりが人生じゃない」
そうかねぇ、俺は面白いことしかなかったけどな。
銃を持った連中に追っかけられてジャングルの中を走り回ったり、家で寝てたら特殊部隊が襲ってきたり、砂漠に全裸で放置されたり、全世界で指名手配されて世界中を逃げ回ったりしてたのも俺は面白かったぜ?
まぁ、面白いかどうかは人それぞれの感性なわけだし、俺の感性が異常なだけなんだろうけどな。
「お前はさっさと力を取り戻すなり新たに得るなりして、この世界の神を殺す以外の脱出方法も見つけ出せ」
無茶を言う奴だぜ。
確かに、この世界にやって来た時に失った俺の本来の力を取り戻せれば、この世界を脱出することは出来るかもしれない。だけど、そう簡単に力を得る方法ってのもなぁ。
俺の本来の力ってのは筋力とか体力とかと違って、鍛えれば手に入れられるものじゃなくて、神様としての力なわけだから、そう簡単に手に入らないんだよな。
まぁ、手段が無いわけでもないし、どうすればいいか良い考えも思い浮かぶし、実行の計画も思いつくんだけどね。だからと言って、すぐにやれるかというとやる気が出なかったり。
そんな俺の心情を読み取ってか、ゼティは呆れたように溜息を吐く。
「お前はまったく……まぁいい、お前が遊び歩いている間に俺が、それに関しても手を打っておいた」
「素晴らしいねぇ、ゼティ君。誉めてやろうか?」
「茶化すな」
ゼティは手元の紙に目を落としたまま、傍らに置いてあった袋から取り出した物を投げつけてきたので、受け取って確認してみると、それはゼティが暇を見て彫っていた邪神の木像であると分かった。
「俺に剣を習いに来た奴らにそれも配っておいた。ついでに毎日、祈りを捧げるようにも言っておいたぞ」
働いているなぁ、ゼティ君。
こんな手下を持って、俺は幸せ者だぜ。
「邪神の像をそんなに素直に受け取ってくれるもんなんだなぁ」
「そんなわけあるか、武神だとか闘神だとか適当なことを言って渡したんだ」
ゼティ君がそんな嘘をつけるようになるなんて成長を感じるね。
いやぁ、すごいすごい。
「馬鹿にしてないか?」
「全然そんなことないぜ」
割とマジで賞賛したい気分だよ。
「とにかくどんな形であれ、邪神(お前)の像に祈りを捧げれば、そいつは邪神(お前)の信徒になる。そうなれば、そいつらから少しずつ力も得られるし、信徒を増やしていけばいずれは力も戻るだろう」
それは分かってるって。
神々は神々を信仰する連中との間に魂の結びつきを作り、その結びつきを通して、魂のごく一部を力として信徒から吸収することで、神々は己の力を高める。そして、吸収した魂の代価として信徒に自分たちの加護を与えるんだ。
それもこれも俺がゼティに教えたことだよな。
「どうだ、少しは力が戻ったか?」
微妙だなぁ。
本気で祈らず、ちょっとしたお願い程度でも、俺の像に向かってしたなら、その瞬間に俺との間に魂の結びつきが出来る。
結びつき自体は明らかに増えているが、100人や200人程度の信徒の数じゃ、俺の力を取り戻すには全く足りねぇなぁ。
「もう少し増えねぇと、どうにもならねぇな」
力が流れ込んでいるのは感じる。だが、一人当たりの信徒から吸収できる力の量はたかが知れているので、明らかな増加は感じない。
吸収量を増やせばいいのかもしれないが、そうなるとこの世界の人間にどんな影響が出るか分からないので、増やすという選択はまだするべきじゃないよな。
現状では地道に信徒を増やして、俺の神としての力を高めていかないと、この世界を脱出できるとは思えない。
「信徒を増やすより、この世界の神々を見つけてぶっ殺す方が楽かもしれないぜ?」
まぁ、それをやって駄目だった時には、力を取り戻す方で行かなきゃならないんで、もしものことを考えたら、同時に進めるのは悪くねぇけどさ。
「別にそれだけが目的じゃないがな」
じゃあ、何が目的なんだよ。
俺がゼティに聞こうとするより早く、ゼティは俺の方を見もせずに手を出してきた。
その手の向きは、掌を真上に向けて、何かを寄越せと言っているようで──
「お前のために働いているんだから、褒美を寄越せ」
実際に寄越せと言ってきやがったよ。
あぁ、なるほどそのために頑張って信徒を増やしてくれてたのかって納得できたね。
普段使わない頭を使って俺のために働いてくれていたのは物欲のためだったとか、素晴らしい僕を持って俺は幸せだぜ。
「俺が集めた信徒で神力は充分な筈だろう」
神としての力ってことで神力。
信徒との魂の結びつきから力は得ているんで、神力は少しはあるぜ。
でもなぁ、ゼティが欲しがる褒美で、それを渡すために神力が必要となると嫌な予感しかしねぇんだよなぁ。
「じゃあ、能力拡張をしてやろう」
俺の神力を使って、俺達の封印されている能力を一つ解放しようじゃないか。
直接、戦闘力に関係する能力は俺の呪いのせいで使い物にならないが生活を便利にする能力くらいなら使えるだろう。
〈収納空間〉とか〈次元門〉とかどうだ? どっちも便利だし、他の世界にいた時は真っ先に使えるようにしていただろう?
「ふざけんな。そんなものいるか」
だよなぁ。収納空間が必要なほど俺達は物を持っていないし、次元門で移動しようにもこの世界の土地勘とか全く無いから、入り口は用意できても門の出口にする場所が無いしな。
「となると、あれかぁ……」
神力を使ってゼティの欲しいものを出せってことだろ?
俺は神力を使って色んな世界の物品を作り出したり、取り寄せたりすることができるんで、その力を使ってゼティの欲しい物を用意することができる。
取り寄せってことで、どこかにしまわれている物をこの場に転送するなら楽なんだが、ゼロから創造するとなると、神力の消耗が激しいんだよなぁ。
「何が欲しいんだ?」
「俺がこの世界に来る前の世界で使っていた音楽プレイヤーが欲しい」
なんで音楽プレイヤーを神の力を使って出してやらなきゃいけないのかと思うが、しっかり働いている奴には褒美をやらないといけないから仕方ない。
俺は神力を集中させ、ゼティが使っていた音楽プレイヤーを思い浮かべる。すると、神力が俺の手の中で形を持ち、次の瞬間にはゼティの音楽プレイヤーが手の中に現れる。
「音楽しか聴けない機械とか不便じゃねぇの?」
「それがいいんじゃないか」
俺が音楽プレイヤーをゼティに見せるとゼティは顔を輝かせる。
それだけ喜んでもらえるなら、こっちも出した甲斐があるってもんだぜ。
まぁ、そのせいで神力は減ったが、ゼティの不興を買わずに済んだと考えれば必要経費か。
「これでもう充分だろう。後は好きにしてていいぞ」
それは俺のセリフじゃないかな、ゼティ君? ちょっと稼いだくらいで偉そうにしてやがるぜ。
ゼティは俺の手から音楽プレイヤーを奪い取るなり、イヤホンをしてプレイヤーを操作し音楽を流すと自分の世界に入り込み、俺に対してシッシッと虫を払うようなしぐさをして見せる
まぁ、寛大な心で許してやろうじゃないか。
ゼティのおかげで神力が戻っているのも事実だしな。
なので音楽プレイヤーくらいのわがままは許そう。その代わり、俺も自分の欲しいものは出すけどな。
「とりあえずコーヒーが飲みてぇんだよなぁ」
なので、神力でコーヒー豆と抽出機を神力で作り出す。
作り出すといってもまぁ、記憶にあるものを再現しているだけ。とりあえず地球産の豆とパーコレーター、それと豆を挽くためのミルを出す。朝のコーヒーのあるなしで精神状態ってのは大きく変わるから必要な出費だよな。
これで神力が尽きたが、まぁ大丈夫だろ。
信徒から得られる神力ってのは毎日の物だし、使い切っても回復するから問題無いからな。
「無駄遣いはするなよ?」
ゼティはイヤホンをしたまま俺の方を見ると、こっちの声は聞こえない状態で言う。
ゼティの言葉にお前のそれが一番無駄遣いだよって言ってやりたいが、物の価値ってのは人それぞれだから、無駄と決めつけるのは賢い人間のすることじゃないね。
「神力を貯めれば、他の使徒を召喚することもできるんだろう?」
そういえばそうだったね。
ゼティではどうにもできなくても、俺の他の使徒なら、この世界を脱出する方法を思いつく奴もいるかもしれないな。
その場の欲に目がくらんで、貯蓄計画が最初から破綻しているんだが、さぁどうしたもんか。
まぁ、次に神力が貯まったら誰か呼んでみようじゃないか。
それまでは、ゼティと二人で頑張っていくしかないよな。




