ガウロンとの再会
色々と話はしたが、結局、何の成果も得られずに終わり、俺はギルドの外に出る。
仕事なんてすぐに見つかるとか思ってたけど、世の中ってのは案外上手くいかねぇもんだ。
まぁ、そういうのは俺だけじゃなくて、みんなそうみたいだけどな。
ほら、街中を歩いている連中の中にも肩を落として冴えない面で歩いている奴らがいるぜ。俺も傍から見れば、同じ感じなんだろうか? そうだとしたら一緒にすんじゃねぇって言いたくなるね。
俺は前向きでやる気にあふれてるぜ? 別に仕事が無くても構わないって感じに開き直ってもいるからな。俺はメシも寝床も必要ないんで、世間一般の連中よりかは余裕があるのよ。
「ちょっとそこのキミ」
ギルドの前に突っ立って道行く冴えない人々を眺めていたら、不意に声をかけられた。
俺に声をかけてきたのは俺が眺めていた奴らの一人だったが──
「もしやアッシュではないか?」
名前を口に出されて、俺は声をかけてきた奴の顔をしっかりと見る。
どこかで見覚えのある顔だが──
「俺だ、ラザロスで会った冒険者のガウロンだ」
あぁ、ガウロンね。
どういう奴だったかは忘れたが、確かそれなりに腕の立つ冒険者だとか誰かが言っていたような。
「こんなところで会うなんて奇遇だなぁ」
「いや、まったくだ」
ガウロンはラザロスでそれなりの地位の冒険者だったと思うけど、なんでフェルムにいるんだろうか?
それと、なんだか見た目が少しみすぼらしくなっているような気もするな。前は質の良い装備を身に着けていたようだが──
「なんでここにいるんだ?」
とりあえず何があったか聞いてみようと思い、俺は訊ねる。
親しいわけでもないが、そんなに知らない仲でもない。ラザロスにいた頃にガウロンには冒険者になるように勧誘されてるくらいだしな。
「なんでと言われると恥ずかしい話になるんだが──」
そう前置きしながらもガウロンはよどみなく、ここに至るまでの自分の身の上を話し始めた。
「簡単に言うと、ラザロスにあった俺の所属している冒険者ギルドが潰れた。ついでに大陸冒険者協会はイクサス領内にある冒険者ギルドの経営状態が悪いことを理由にイクサス領から撤退することになって、俺もイクサスにいられなくなって、ここまでやってきたんだ」
世知辛い話なんだろうか?
冒険者ギルドってのは基本的に三種類あって、民営のギルド、公営のギルド、そして大陸冒険者協会って組織が運営しているギルドがあるらしいってのはガウロンからも聞いていた。
ガウロン曰く大陸冒険者協会のギルドこそが本当の冒険者ギルドらしいけど、経営的には厳しいようだ。
「フェルムは初めてではないんだが、前に来た時とは様子が違っていてな。どうにも上手くいかなくても困っていたんだ。昔は公営のギルドがもう少し力を持っていて、街中の冒険者ににらみを利かせていたものだが……」
今は民営が強いみたいだね。ギュネス商会とピレー商会だっけ?
そこが資金力を武器に有力な冒険者を掻き集めているみたいだし、昔とは色々と事情が違うんだろう。
「昔はそこの建物のギルド──『鉄の翼』も、もう少し羽振りが良かったんだがな」
ガウロンが指さした先には、俺が先程までいた冒険者ギルドの建物があり、その看板には確かに『鉄の翼』と書かれている。まぁ、名前があるのは不思議じゃないよな。公営ギルドとだけ言うのも、なんか変な感じだしさ。
「昔の話はともかく、アンタは今なにをしているんだい?」
俺は延々と昔話を聞かされるのを避けるため、ガウロンに近況を訪ねる。
「何をしていると言われてもな。普通に冒険者をしているだけだ。この街にも冒険者協会のギルドはあるんでな」
大陸冒険者協会の冒険者の証明ってのは大陸全土で有効だとかも言っていたからガウロンはここでも問題なく冒険者として働けるってことか。他のギルドだと、そう上手くはいかないんだろう。
例えば、フェルム商業組合がどうたらっていう俺が最初に訪ねた冒険者ギルドだとフェルムの外では冒険者としての身分を保証するのが難しいとか、そういうこともあるかもしれない。
カリュプス領の公営のギルドだと、そこに所属している以上はカリュプス侯が認めた冒険者ってことだから身分が保証されてるってこともあるんだろうな。
「どうした?」
「別に」
余計なことを考えていたのがバレたようだが、まぁ別にいいや。
俺は気を取り直して、ガウロンの姿を上から下まで眺める。
「その様子だとあんまり儲かっていないようだな」
「言ってくれるなよ」
肩を落としながらガウロンは言う。
「ここのギルドも経営が厳しいようでな。フェルムまで来たのは良いが、他のギルドに仕事を奪われていて、どうにもならない。本来であれば、俺が受けるような……というか冒険者協会に属する冒険者が受けるような依頼ではない雑用のような仕事もしなければならない」
仕事の内容に貴賤はないらしいぜ?
どんな仕事でも、『こんな仕事』なんて言わずに真面目にこなすのが人として正しい道だったりするらしいぜ?
「せめて、もう少し人手があれば、色々とやりようはあるんだが……」
人手ねぇ。足りないって言うなら、俺に考えがあるぜ?
「それなら、俺をギルドに入れてくれよ。人手が足りないんだろ?」
俺の提案にガウロンは顔を輝かせ、俺の手を取ると期待のこもった眼差しで俺を見る。
「本当か! それは願っても無い申し出だ!」
「困ってるようだしな。そういう時はお互い様だ」
俺も仕事が見つかり、ガウロンは人手が見つかる。これこそWin-Winの関係って奴だ。
「そうと決まれば、早速ウチのギルドに案内しようじゃないか!」
ガウロンは小躍りしかねないくらいの様子で俺の手を引き、街の中を駆け出す。
ほどなくして辿り着いたのはフェルムの新市街の奥の奥、人の気配の感じられない奥まった場所にポツンと佇む一軒家。
「ここが冒険者協会のフェルム支部にして冒険者ギルド『鉄の牙』だ!」
案内された先にあった一軒家を指さし、ガウロンは誇らしげに言う。
俺にはただのぼろ家にしか見えないんだが、色々と思い出でもあるんだろう。
それはそうと公営のギルドが『鉄の翼』でこっちは『鉄の牙』か、もしかしたら大通りのギルドは『鉄の爪』だったりしてな。
「ギルドマスターは中にいるだろうから挨拶をして加入の手続きをしよう」
そう言うとガウロンは俺の前を歩いて、家の扉を開けると、俺に入ってくるように促す。
家の外観からして、あまり良い予感はしないんだが、どうしたもんかと思いつつ俺は素直にガウロンの後について家の中に入る。
──が、その直後、強烈な殺気が俺の胸を貫いた。
殺気を飛ばされただけでダメージは無い。だが、実際に武器を使っても俺に傷を負わせることは容易いだろう。俺が殺気を感じた相手はそれだけの腕を持っていると俺は確信する。
「どうした?」
ガウロンは気づいていないようだ。
もしかしたら、ガウロンが俺を嵌めるためにここに連れ込んだのかと思ったが、その可能性はないようだ。
となると、俺に殺気をぶつけてきた奴は家の中に入って来た俺に警戒心を抱いたので、殺気をぶつけて様子を見たってことになるか?
良いねぇ、俺の強さが分かっていて、仕掛けてくるとか随分と楽しい奴がいるじゃねぇか。
さぁ、様子見は済んだろ? 戦りたいなら、かかって来いよ。
俺の戦意が否が応でも高まる。シウスと戦って以来、マトモな奴と戦ってねぇんだもん、しょうがねぇんじゃん?
俺は臨戦態勢を整え、敵が来るのを待つ。だが、そんな俺に対して最初に届いたのは──
「……あの、どちら様ですか」
不意に声が聞こえ、俺がそちらを見ると、そこには10歳に満たないくらいの女の子が怯えた様子で俺の様子をうかがっていた。
何で、こんなところにガキがいるんだ?
俺の脳裏に疑問がよぎるが、俺が答えを出すまでもなく、ガウロンが答えを口にする。
「彼女がギルドマスターだ」
マジか?
ガウロンに疑問を返そうとする俺だったが、女の子の方から目を離すことができなくなる。
その理由はいつのまにか女の子の背後に立っていた青年にあり、俺は女の子の背後に立つ男から目を逸らすことができない。
──強い。その立ち姿と放つ気配だけで理解でき、俺は確信を持った。
この男こそが俺に殺気をぶつけてきた奴だという確信だ。
最後にやってきたギルドでとんでもねぇ掘り出し物を見つけることができたぜ。
いいねぇ、楽しくなってきた。




