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貧乏ギルド

 

「申し訳ないが、貴方を冒険者として認めることはできない」


 クロエちゃんの紹介でギルドマスターと顔を合わせることができたものの、俺を冒険者にすることについての回答は即答での拒否だった。

 まいったね、冒険者ってのは食い詰め者が最後になれる職業ってことで誰でもなれると思ったが、そういうわけでもないようだ。


「理由を聞かせてもらっても?」


「我々は冒険者ギルドではあるが、一応は侯爵からの承認を受けた公的な機関なので、素性が怪しくと素行の悪い者を加えることはできない」


 そういうことね。

 公営の冒険者ギルドは公務員みたいなものだから、問題のある人物を加入させることはできないってことか。


「イクサスでの話を私の耳には届いている。カリュプスにまで手配書が回ってこない時点で、色々と事情があるようだが、こちらとしては尚更、そのような人物に関わりたくない」


「いやいや、関わった方が良いと思うぜ? 俺と仲良くしとけば大勝利間違いなしだからさ」


 俺は言いながら案内された部屋を見回す。

 どうにもぼろっちい建物で、ギルドの運営が上手くいっていないのは一目瞭然だ。

 俺の目の前に座っているギルドマスターも顔色悪く痩せこけていて激務がうかがえる。見た目は真面目で誠実そうな男なんだけど、不幸そうな雰囲気が体にへばりついていて、ちょっと関わりたくない感じを醸し出している。

 このままいけばあまりよろしくない末路が待っているだろうし、俺を味方にしといた方が良いと思うんだけどな。


「何に対して勝利するというのか? 我々の仕事は問題を抱える人々を助けることにあり、そこに勝ち負けは無い。仮に勝利があるとしたら、それは人々が出した依頼を達成し、彼らの問題を解決することで彼らがより良い生活を送れるようになることであり、我々が利益を得ることが勝利であることなどは断じて無い」


 そういう考えだから、経営が苦しそうなんじゃないかな?

 まぁ、クロエちゃんを見た感じだと、大変そうな感じはなかったから、苦労は全部こいつが引き受けてんだろうね。


「ご立派な考えだけど、そういうことを言っているから、こんなザマになってると思うんだが、それに対しては何も思う所はないのかい? 一応は侯爵様の肝いりで建てられてるんだろうが、侯爵様の後ろ盾があるのにパッとしないってのはどうなんだろうね」


 庶民を大事にするって考え方は立派だと思うよ。

 実際に見たわけじゃないから推測になるけど、ここは金を持ってない庶民を助けるために依頼料を多く取らないようにしてるんだろうね。こまごまとした雑用も引き受けたりしてるのかも。

 対して、大通りにあった冒険者ギルドは金持ちからの依頼しか受けないとか、そんな感じなんだろうね。ついでに、向こうは商業組合がバックについてるみたいだからコネもあるだろうし、身内で仕事を融通し合ったりしてるのかも。


「侯爵閣下は人々を助けることに力を尽くすように私に言ってくださった」


 だからって、公営の機関で儲けがあまりにも少ないってのは……いや、別に侯爵にとっては問題ないのか?

 この国の法制度とかを把握していないから確信はないが、公営の冒険者ギルドの儲けは扱いの上では領地の収入になって、直接侯爵のポケットにいかないとなるとしたら、どうだろう?

 そんでもって民営の方が侯爵に賄賂でも送っていたら? 別に公営の冒険者ギルドに儲けてもらわなくても侯爵の懐は温かくなる。

 冒険者関係で利益を得られるルートが他にあるなら、公営のギルドの儲けなんて気にしなくても良い。むしろ、侯爵が後ろ盾をしている公営のギルドは欲や利益に走らず、民衆のためにに尽くしているって印象を植え付けた方が後ろ盾をしている侯爵にとっては都合が良いだろう。


「そいつは素晴らしいね」


 俺の目の前にいるコイツは裏事情とかに気付いているんだろうか?

 気付いていないかもなぁ。そうだったら、良いように使われているコイツは可哀想かもな。


「そうだろう? 侯爵閣下は民を想う慈悲深き御方であってだな。私はそんな閣下の想いを無視して利益に走る他の冒険者ギルドが許せないのだ」


 キミは許してなくても、侯爵様は許してると思うぜ?

 キミは知らないかもしれないけど、そいつらの稼ぎは侯爵様の懐に入っているわけだしね。

 まぁ、だからと言って何も知らずに侯爵を尊敬しているコイツを愚かだとか思うのはちょっと良くないよな。コイツは真面目なだけだしね。

 真面目な人間が馬鹿を見るのを怒るのは良いけど、真面目な人間が真面目であるが故に不利益を被ったことで、真面目であることを馬鹿にするのはよろしくない態度だと俺は思うね。


「私としても貴方の実力のほどを疑うわけではないが、些か問題行動が多すぎる」


 言葉を選んでくれたんだろうね。

 そのせいでちょっと言葉を間違えて、些かなのに多すぎるって変な言い方になってる。

 問題行動が多すぎるって言うのは良くないかと思ってくれたのか、ちょっと控えめにしようと思って些かって言葉を頭につけてくれたんだろう。

 ちょっと言葉を柔らかくしようっていう優しさを感じるぜ。


「まぁ、それならしょうがないな」


 ゴネても仕方ないと思って、俺は諦めることにした。

 事情を推測すると、ここで揉めるのは可哀想だしな。


「どっか別の所を探すことにするよ。他に俺が入れそうな所はあるかい?」


 なんかもう冒険者にならなくても良いんじゃないかって気もしてきてる。

 あと一回駄目だった諦めようと思う。


「商業組合の冒険者ギルドが駄目なら、ギュネス商会かピレー商会が運営している冒険者ギルドがあるが……」


 不意に言い淀んだので、俺は訊ねる。


「その二つの商会って何かあるのか?」


「ギュネス商会とピレー商会は両者ともにカリュプス領を代表する大商会だ。どちらもフェルム市に存在する商業組合全てが合わさっても敵わないほど巨大な組織なんだ」


「その二つが対立していたり?」


「その通り。ギュネス商会もピレー商会もどちらがフェルムでの冒険者利権を独占できるか争っている。そのため、奴らは常に有力な冒険者を求めているんだ」


「なら、俺は入れるな」


「実績が無いと入れず、新人は受け入れていない」


 じゃあ、駄目だね。

 俺は冒険者になるの初めてだしさ。となると、俺が行けるところとか無くない?

 これはもう冒険者とか諦めてもいいかもな。別に金を稼ぐ手段は冒険者だけじゃないし、そもそも金が無くても俺は困らないしさ。俺が困るのはゼティの鼻を明かせないってことだけなわけだし。


「一応、他にも冒険者ギルドがあることはあるが……」

「もういいよ、充分だ」


 そんなに必死に冒険者になりたいわけでもないからな。


「いや、待ってくれ。我々は規則上、素行の悪い者を冒険者として受け入れることはできないが、今の状況ではどこの所属であろうとも冒険者が一人でも増えるのはありがたいことなんだ」


「今の状況って……なんか問題でもあるのかい?」


 ちょっと気になるワードが出てきたね。

 なんか厄介ごとかい? それなら良いんだが。


「あぁ、最近どういうわけかアンデッドが大量に発生していて、その駆除に追われているんだ。あまり稼ぎにはならないのだが、誰かがやらなければならない。冒険者が少しでも増えれば、そういった依頼に手を付けてくれるものも増えるかもしれないし、何かが起きた時には貴方のような実力者が控えているのは安心できる要素となる」


「なので、冒険者にはなっておいて欲しいって?」


 アンデッドの駆除は構わないけど、それって対処療法でなんとかできる問題なんだろうか?

 詳しい事情は知らないんでなんとも言えないが、アンデッドが大量発生する原因を突き止める方が良いと思うんだが──


「まぁ、考えておくよ。色々とね」


 ──そういうことを目の前のギルドマスター言うのは無理そうだな、そんな余力は無さそうだし。

 他のギルドはアンデッド退治とか金にならなそうだからやらなそうだし、折を見て俺も調べておいてやるかな、厄介事の匂いもするしな。


「えーと、名前はなんだっけ?」


 今まで話していたわけだが、ギルドマスターの名前を俺は覚えてなかった。


「ゲオルクだ」


「オーケー、ゲオルクな。ここには入れねぇが、何かあったら話にくるよ」


 苦労しているようだし、ちょっとは手助けでもしてやろうじゃないか。

 一生懸命生きている奴には、ご褒美の一つくらいあげたってバチは当たらないだろ?


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