就活中
「それで全員ぶちのめして帰って来たって?」
冒険者ギルドで揉めた俺はおとなしく戻ってきて、門の前でジョニーと話している。
俺の居場所は街の中には無さそうだってことを理解したぜ。
「全員じゃねぇよ。受付の女の子は殴らなかったし、冒険者しか殴らなかったぜ」
「たいして変わらねぇよ、馬鹿!」
そんなに怒んなってジョニー君。
あそこで殴り合いになったら、俺が悪者になるかなぁって思ったけど、よくよく考えたら右も左も分からない新入りが生意気なことをやったくらいで袋叩きにしようとしたアイツらの方が悪いと思うんだ。
「おまえ、本気で死ねよ。お前が市内に入って良いって許可を出したのは俺なんだぞ。俺の責任になったらどうすんだよ!」
「そしたら、お前に責任を取らせようとする上司をぶん殴ってやるよ。そんでもってお前を守ってやる」
ちょっとキュンと来ただろ? 頼りがいのある俺って素敵じゃないかい?
惚れても良いんだぜ?って言おうと思ったけど、俺が口を開く前にジョニーは俺に蹴りを入れてきた。
割とガチでキレてる気配もあるんで甘んじて蹴りを受けて、俺は地面に倒れる。
「失せろ、クズ!」
罵倒に喜ぶ性癖はないんだけどな。
俺は何事も無かった感じで立ち上がる。実際ノーダメージだしな。
「どっちに失せれば良い?」
俺は門の前に立ち市内と市街を両手の指さしながらジョニーに問う。
「話しかけんなクズ。俺はお前のことなんか知らねぇ」
知らないってことは俺が何をしても構わないってことだよな。
俺に好き勝手にしていいって許可をくれるとかジョニー君は良い奴だなぁ。好きになってきたぜ。
俺はジョニーの厚意に甘え、再び市街を目指す。
「さっきのギルドは俺に合わなかっただけで、俺を必要としてる所もあると思うんだ」
俺の独り言にジョニーが無視しようとしてもピクピクと震えているのを感じる。
大丈夫だって心配すんなよ、キミのことも考えてるからさ。迷惑にならないように気を付けるよ。冗談ではなくね。
俺みたいに自由気儘に生きられる人間ばかりじゃないんだから、そういう所は気を付けないといけないってことくらいは俺にも分かるからさ。
──俺は再びフェルムの市街に入る。
時間は昼過ぎ。仕事に出ているのか、街中に冒険者の姿が少ない。
まぁ、冒険者が少なかろうが、冒険者ギルド自体はあるだろうから、気にすることじゃないけどさ。俺が用があるのは冒険者じゃなくてギルドの方なわけだし。
冒険者になるにしても、俺はちょっと民営のギルドとは相性が悪そうなんで、それ以外のギルドを探してフェルムの市街地をぶらぶらする。
民営って言っても結局はどこかの有力者の後ろ盾でやってるだけだし、それってあんまり健全じゃないと思うんだよね。純粋に市民のためとかだったらまぁ、考えても良いけどそういう感じではなさそうだったしな。
「資本主義の豚にはなりたくねぇんだよな」
だからといって共産主義の犬にもなりたくないね。俺は自由主義の鷹でありたい。ちなみに、ここまでの思考に特に意味はないし、全部適当だ。
人間だった時の俺はありとあらゆる主義主張を持つ人たちの敵だったわけだしさ。CIAとかFBIにガチで憎まれているのに、中東の反米主義者からも最優先の殺害対象になっていたとか俺だけだと思う。
「でも権力の犬は悪くねぇんだよなぁ」
CIAから指名手配されていたけど、CIAから仕事を頼まれることも良くあったんだよね。
CIAは良いぞ。なんだかんだで義理堅いし、最終的には現実的な利益を計算して動くっていうアメリカ的思考だからさ。そういう連中だから俺の方も色々と計算しやすいのよ。
「ぶつぶつ喋ってんじゃねぇよ! 気持ちわりぃぞ、おっさん!」
おっと浮浪者のガキに怒られてしまったぜ。
迷惑を謝罪する気持ちを表すために銀貨を一枚上げようじゃないか。
こういうことをしてるから金が無くなるんだよなぁ。まぁ、金が無くても死なないから良いんだけどね。俺はメシも食わなくていいからさ。
──とりあえず公営の冒険者ギルドにでも入ろうかな。
詳しくは知らないけど、フェルムはカリュプス侯爵領だし、侯爵が公的機関として冒険者ギルドでも作ってるんじゃないだろうか? そういうのもあるって話を聞いてるしさ。
「そこのガキ、公営の冒険者ギルドってどこにある?」
「話しかけてんじゃねぇよ、おっさん! アンタが探してる場所はそこの角を曲がったところだ!」
銀貨を投げ渡した浮浪者のガキに尋ねると、分かりやすい答えが返って来た。
おっさんって見た目じゃないと思うんだけどね。まぁ、体感時間はともかく実時間では実際に1000年以上生きてるからおっさんって言われようが何も思わないけどさ。
それに子供は大人の年齢とか分かりづらいから、そういうので目くじらを立てるのも良くない。
「気ぃ付けろよ、おっさん! この辺りで金を見せびらかすんじゃねぇぞ!」
口調はアレでも俺のことを心配してくれているようだし良い子じゃないか。
そういう暖かい人間性とかいいよな。好きになりそうだぜ。
浮浪者のガキに言われた通りの道を歩くと段々と下町の雰囲気になっていく。
大通りにあった民営の冒険者ギルドとは場所からして違うね。名前からすると民営の方が庶民の味方のような雰囲気だけど、どうやらフェルムの街は違うようだ。
雑然とした街並みをしばらく歩いていると、ほどなくして『カリュプス領営冒険者ギルド──フェルム支部』という看板が掲げられたこじんまりとした建物が目に入った。
「なんだか雰囲気がよろしくねぇなぁ」
冒険者の街の冒険者ギルドの割に活気がねぇなぁ。名前の感じだと、侯爵の後ろ盾を使ってぼろ儲けしてそうだが、そうでもなさそうだ。
ちょっと様子を見てみようか?
まぁ、見る必要もないか。とりあえず突撃して、揉めたら帰ってくればいいや。
そう結論を出して、俺は躊躇なく建物の入り口に向かおうとした、その時、ギルドから見知った顔が出てきた。
「お疲れさまでしたー」
中にいる人に向けて挨拶をしながら出てきたのはカイルのお仲間のクロエちゃん。
ローブにとんがり帽子のいかにも魔女って格好をしたクロエちゃんは、ギルドから出て帰ろうとしていたのだろうけど、そこで偶然ギルドの中に入ろうとする俺と出くわす。
「あぁ! 邪神じゃん!」
声がでけぇなぁ。まぁ元気がないよりは良いよな。
それに俺は元気のあるやつは好きだぜ。
「こんなところで何してんの? もしかしてこの街を滅ぼす下調べとか?」
物騒なことを言っている割に期待してる感じが見えるのは気のせいだろうか?
いや、気のせいじゃないよな。割とマジで俺が邪神的なムーブをすることを期待してやがるぜ、この子。
期待されている以上、それに応えないわけにはいかない。邪神たるもの信徒の願いに応えるのも務めだ。
「まぁ、そんなところさ」
「おぉ、流石は邪神。やっぱり常日頃から悪事を考えてるんだ」
そんなにワクワクした表情をするなって。期待されるとマジで滅ぼしたくなるだろ?
まぁ、本気で滅ぼしてほしいわけでもないだろうけど。
クロエちゃんの場合はおとぎ話の存在みたいなのが目の前に現れてちょっとテンションが上がってるだけだろうし、俺が本当に邪神だったら面白いなぁって思ってるだけで、邪神に願いがあるわけじゃないん。
ファンじゃないし良く知らないけど、とりあえず芸能人らしいからサインもらいに行く女子高生みたいってのが一番近い感じだと思う。
「とりあえず街を滅ぼす第一歩として、そこの冒険者ギルドに入ろうと思うんだが」
俺がクロエちゃんが出てきたギルドを指しながら言うと、クロエちゃんは顔をパァっと輝かせる。
「本当!? 私たちもここのギルドに入ってるのよ」
カイル達も公営のギルドなのね。
ラザロスでは民営だったようだけど、宗旨替えでもしたのだろうか?
──まぁ、俺の勘だと民営の方に入れてもらえなかったからだと思うがね。
「うわぁ、邪神が仲間とか凄いことになりそう。カイルも喜ぶかも」
いやぁ、喜ばないと思う。むしろ割とガチで嫌がられると思うぜ?
まぁ、カイルが嫌がろうが俺に影響があるわけじゃないんだけどね。
「じゃあさ、ここの冒険者だって言うなら、ちょっとギルドのお偉いさんに俺を紹介してくれねぇかな。俺の腕が立つってことはクロエちゃんも知ってるだろ?」
「もちろん良いわよ。イクシオンで助けてもらった恩もあるしね」
実際に助けたのはカイルだし、俺は城を燃やして殺しかけた側なんだけどね。俺がしたのはカイルが城に潜入しやすいように騒ぎを起こしていたってことだけ。
まぁ、言わなけりゃ分からないだろうし、命の恩人だと思ってくれてるなら、そっちの方がいい。
なんにせよ、これで冒険者ギルドのお偉いさんに渡りはついたわけだし、ようやく俺も冒険者。
正直、もう冒険者にならなくても良いような気もしてるが、仕事をして金を稼いでゼティの鼻を明かさねぇと気が済まねぇんだから仕方ないよな。
「それじゃあ、ギルドの中に入りましょ。ギルドマスターに会わせるわ」
速攻で責任者との面接かよ。
こいつはもう、俺が冒険者になるのは決まったようなもんだぜ。




