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どこでも揉める男

 

 そもそも冒険者とは何なのか?

 色々な世界を旅して回ってる俺は色んな世界で冒険者なる職業を耳にし目にするが未だにどういう職業なのかハッキリと説明できない。

 そもそも色んな世界で聞く冒険者って言葉自体が俺が理解しやすい形に意訳した結果であるため、それぞれの世界ごとにニュアンスが少しずつ違うかもしれないし、冒険者って呼び方自体が間違っている可能性もある。

 まぁ、そんな話はどうでも良いか。

 とりあえず、どんな世界でも冒険者ってのは魔物なんかを退治してる。この魔物って呼び方も、世界によって異なるんだけどな。

『モンスター』だったり『デモン』とか『堕魔ダーマ』みたいに世界によって呼び方は色々とあるんだが、どれも似たようなもんだし、俺は面倒くさいんで『魔物』ってことで統一してたり……また、余計なことを考えてたな。本題に戻ろう。つっても、本題なんかは無いんだけどね。


「とりあえず冒険者になりたいんだけど」


 なんだか正体がハッキリしない職業でも金になるなら、まぁ良いかって感じ。

 そんなに金を稼ぐ必要もないんだが、ゼティに稼ぎで負けっぱなしってのは面白くないからな。ここらで一攫千金といきたいのよ。


「でしたら、こちらの用紙に名前と出身地を記入してください」


 受付の女の子は俺に対して興味なさげな様子で一枚の紙を手渡してきた。

 うーん、お役所仕事というか何というか。字が読めなかったり書けなかったりするやつはどうするんだろうね?

 俺はこの世界の言葉を覚えたから問題ないけどね。俺は語学は得意なのよ。

 ちょっと勉強すれば大体の国の言語は出来るようになるんで、人間だった頃には10ヶ国語は読み書き会話には困らなかったし、それ以外の国も話す程度なら問題無かったりもする。

 そういう下地があるから言語習得は得意で、俺はこの世界の言葉に関しても簡単なものなら書くことは出来る。


「名前はアッシュ・カラーズ。出身は……」


 地球の出身地を素直に書くべき? いやまぁ、書くんだけどね。

 でも書いたところで分からんから地球って書いとこう。


「……チキュウとはどこですか?」


 俺の書いた用紙を見た受付の女の子が怪訝な顔で俺を見る。


「俺の故郷。良いところだよ。まぁ悪いところもあるけど」


 俺の答えに釈然としない表情を浮かべつつも、受付の女の子はそれ以上追求しなかった。

 別に出身地とかは一応書かせているだけで深い意味はないんだろう。


「それではアッシュ・カラーズさんを冒険者として仮登録します」


 受付の女の子はそれだけ言うと、俺に金属製のカードを一枚渡してきた。


「それは仮登録証です。現在のアッシュさんの冒険者としてのランクはFです。一か月以内にEランクに上がれば、冒険者として正式登録されます。では頑張ってください」


 いやいや、もう少し説明してよ。まぁ、なんとなく分かるけどさ。

 とりあえず、冒険者ギルドとしては冒険者として働けるかも分からない奴を冒険者にしたくないから、試用期間みたいなのを用意してるんだろう。

 それがFランクって奴で、冒険者として一か月真面目に働けばEランクって奴に上がれて、Eランクからが正式な冒険者ってことなんだろうね。

 ランクがアルファベットなのは変な気もするけど、これもまぁ脳味噌の中の翻訳術式が俺に分かりやすい形に変換してくれてるおかげだろう。あんまり馴染みのない言葉で表現されても困るしな。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 話を打ち切りたそうな受付の女の子を俺は呼び止める。

 露骨に嫌そうな顔をしているが、俺は他人の都合とか気にしない男なんで全く気にならない。


「Eランクって下っ端なの?」


 俺の疑問に女の子は何を当たり前のことを言っているんだって表情に出る。

 笑えないレベルで感じが悪くて好きになってきちまうぜ。


「俺、下っ端って嫌なんだけど。最初から一番上のランクになる方法とか無い?」


 俺って人生で一度も人の風下に立ったことのない男だから、下っ端とか無理なんだけど。

 つーか、組織の構成員ってこと自体が無理だわ。


「そこら辺にいる冒険者をぶちのめして、俺の方が強いって証明できたら俺を一番上のランクに出来たりしない? ちなみに最上位のランクって何?」


「最上位はSランクです。ちなみに、貴方が言ったシステムはありませんので地道に頑張ってください」


 そいつは残念だな。でもまぁ、Sランクになっても組織ギルドの手足になって使われる側だろ?

 俺はそういうの嫌だし、最初っから眼中にないかな。


「じゃあ、今すぐここのボスになる方法とか無いかい?」


 やっぱ男たるものトップに立たないとな。

 地道にやっても良いけど、冒険者として頑張るってのは俺の好きな地道さじゃないんでね。

 人に使われるのは何だか嫌だし、最初っから使う側に回りたいんだよね、俺は。

 冒険者ギルドのボスって何て言うんだろうか? やっぱりギルドマスターか? それなら俺はギルドマスターになりたいって思うわけよ。


「…………」


 受付の女の子が冷たい目で俺を見る。


「ギルドマスターをぶっ飛ばせば、俺がギルドマスターに下剋上げこくじょうとかいうシステムないですかね?」


 下剋上って言葉が通じるかどうか不安だけど、良い感じ翻訳されるだろうから通じるだろ。

 ──しかし、受付の女の子は冷たい目のままで、どうやら俺の言葉は通じていないようだ。いやまぁ、実際の所は舐めたことを言う俺にイラついているだけだろうけどね。


「冷やかしなら、お帰りください。ついでに仮登録証もお返し頂けると助かります」


「まぁまぁ、落ち着こうぜ。俺もふざけて言っているわけじゃないんだ」


 俺をギルドマスターにした方が良いと思うってことに根拠がないわけじゃないんだぜ?


「俺はこう見えて優秀な男だから、俺に任せておけばギルドの運営も完璧になると思うんだ」


 ここの冒険者ギルドの業務って何をやっているか知らないけどさ。


「……回れ右して、お帰りください」


 まいったな、取り付く島もない。

 まぁ、普通に考えて俺の提案を受けるはずが無いってのは当然だわな。

 そういうことを分かってても言ってしまうのは、どういう精神の働きによるものなのか自問自答したくなるぜ。


「まぁまぁ、もう少し俺の話を聞いてくれても良いんじゃないかい?」


 ちょっとしつこいか?

 でもまぁ、これくらいが良いとも思うんだよね。


「いい加減にしてください。人を呼びますよ?」


 あんまり良くなかったようだね。

 人を呼びますよって警告をしてるようだが、俺の背後のテーブルにいる冒険者たちにアイコンタクトしてるのは丸分かりだ。


「おい、何をしている」


 俺の背後から冒険者が声をかけてきた。

 俺はその声を無視して受付の女の子に言う。


「下剋上のシステムに関して検討をしてみてくれないか? とりあえず今から、この場にいる冒険者を全員ぶちのめすから、そうしたら俺がSランクってことでよろしく」


 まぁ、無理だろうけどな。

 倒すのは無理じゃないが、何処の世界にそんなことをする奴を最高の待遇で雇う阿呆がいるんだっての。

 もっとも、そういうことを出来る阿呆の方が勝つことが多いんだけど。


「おい!」


 背後から声をかけてきた冒険者が俺の肩を掴んできた。よし、それは宣戦布告だな。

 先制攻撃される前に先制攻撃をしなきゃなってことで俺は肩を掴んだ冒険者の手を振り払いつつ、逆にその手を掴んで投げ飛ばす。


 やっちまったなぁ。やっちまったぜ。いきなり肩を掴んできたから反撃しちまったぜ。

 まぁ、冒険者になる気も無くなってたし、別に良いんだけどね。

 やっぱ駄目だわ。組織に属するって俺にはキツイみたい。

 Eランクとかの説明を聞いた瞬間に冒険者をやる気がなくなったしな。下っ端スタートとか俺には無理。

 最初っから俺をギルドのトップに置いてくれるんなら我慢も出来る気もするが、それだってそこまで乗り気にはなれないんだよなぁ。


 俺が投げ飛ばした冒険者がテーブルに吹っ飛んでいき、ギルドの中が俄かに騒がしくなる。


「やべぇぞ、キチガイがキレた!」


 放送禁止用語が聞こえてきて、何人かの冒険者が我先にとギルドから逃げ出し、残った何人かが殺気立った眼差しで俺を見てくる。


「こういう荒事は好きなんだが、ここで暴れると、どう考えても俺が悪者なんだよな」


 さて、どうしたもんかね。

 別に悪者になろうが、どうでも良いって気持ちもある。だけど、何にも悪いことをしてない連中をぶっ飛ばすってのも、ちょっと抵抗がある気分。

 冷静になって考えたら、俺がされた嫌なことって受付の女の子に冷たい対応をされただけだぜ? それだって俺が悪い部分も多かったし、それでキレるってのはちょっとなぁ。肩を掴んできた奴は投げ飛ばしちまったけど、そいつだってなるべく怪我させないように気を遣っちまったし、どうにも荒事をする気分になれてねぇよな。


「俺が悪かったって言ったら、許してくれたりするかい?」


 俺の質問に対して、冒険者たちは武器を抜くことで返答としてきた。


「こいつはまいったね。る気満々じゃないか」


 俺の方はどうにもる気が無くなってきた。

 さて、どうしようか。それで気が済むっていうなら二回か三回くらいなら、殺されてやる用意もあるんだが──


「何の騒ぎだ!?」


 俺が困っていると不意に声が聞こえて、冒険者たちと共に声のした方を見る。

 そこにいたのは太った男で、ギルドの上の階から急いで降りてきたのか鼻息荒く俺達を睨みつけている。

 俺の勘では、そいつがギルドマスターなんだが、ぶん殴って下剋上するか? まぁ、殴っても俺がギルドマスターになれるとは思えないけどさ。


「そいつがギルドの中で騒ぎを起こしたんです!」


 冒険者たちが俺を指さす。まぁ真実だから弁解の余地もない。


「なんだと? なら、そいつを早くひっ捕らえろ!」


 いきなりかよ。そういう横暴に対しては抵抗したくなるね。

 ちょっとだけだが、る気が出てきたぜ。

 どうやら、ここにいる連中は俺が一方的にやられると思ってるようだし、そういう思い上がりにも反抗したくなるよな。


 俺が悪いにしても、ちょっとくらいの抵抗は良いだろ?

 なるべく怪我はさせないようにするから勘弁してくれよ。




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