表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/379

フェルムの街中

 

 さぁ、冒険者になろう。そう思い立った俺は酒場を出ると真っ直ぐ門へと向かう。

 そうして、門を抜けてフェルムの新市街を目指そうとしたわけだが、そんな俺の前に思わぬ壁が立ちはだかる。


「いや、入れられるわけねぇだろ。お前みてぇな怪しい奴をさ」


 俺の前に立ちはだかるのは門番のジョニー。

 数日前にフェルムに来てからの付き合いで、たまに話す間柄なんだが、そういう関係であっても職務上、俺に便宜を図るわけにはいかないらしい。


「何日も前から、門のそばで怪しい商売をしやがってよぉ。お前らのせいで、この辺りが騒がしくなって面倒くせぇんだよ。」


 野試合をやってる時に騒ぎになって、その時からの関係って奴なんだよね。

 門番としては門の近くで俺らがやってることを監視したり、注意したりしなきゃいけないわけで、そういう色々があって仲良くなったんだわ。


「まぁまぁ、俺とお前の仲じゃないか。細かいことは置いといて、中に入れてくれよ」


「だから駄目だっつってんだろ。お前のダチのゼティは冒険者だから、ギルドが身元を保証してるが、お前はそういうの無いじゃねぇか。それでも害が無さそうな奴だったらまぁ、多少の配慮はして通してやるが、お前は市外で怪しげな賭け試合をやってるんわけだし、そんな奴を簡単に通すわけにはいかねぇんだよ」


「だから、そういう俺の日頃の行いから来る人間性の疑わしさに関しては、俺とお前の友人関係で相殺できるだろ? 友達として俺は信用できる人間だってジョニーも知ってるはずじゃないか?」


「いつ、テメェと俺が仲良くなったんだよ! 冗談でもそういうのは止めろ! お前と付き合いあるとか知られたクビになりかねねぇんだからな! ついでに俺の名前はジョニーじゃねぇ!」


 じゃあ、お前の名前はなんなんだ? まぁ、それはどうでもいいや。


「じゃあ、どうしたら通してくれるんだ?」


 俺が質問するとジョニーは俺の方に手を差し出してくる。

 ほうほう、なんとなくわかったぜ、金だな? まったく、どいつもこいつも金、カネ、かね。世知辛い世の中になったもんだねぇ。

 ただまぁ、カネの価値ってのは信用で成り立っているとも言えるし、信用というものが通じ合う世界と考えるとそれはそれで悪くないとも思えるよな。


「身分証が無い奴は基本的に銀貨5枚だ。お前の場合は見るからに怪しく信用が皆無だから高くなって銀貨10枚だ」


 しょうがねぇなぁ。俺は文句も言わずにズボンのポケットから取り出した銀貨を10枚、ジョニーの手の上に乗せる。


「それじゃ通行証を発行するから、それを無くさずに持ってろ。街から出るときに通行証の有無を確認するから忘れんなよ」


 なるほどね。出ていくときに通行証を持ってなければ、不法侵入ってことになるのか。

 よっぽど、怪しげな奴を入れたくないってことか。冒険者とかいう、その日暮らしのゴロツキじみた連中が多くいる街の割には細かいな。むしろ、そういう連中が多いから、色々と規則を細かく設定しているのか。まぁ、何でも良いか。

 俺はジョニーから通行証を受け取る。

 通行証は何の変哲もない紙で偽造は簡単そうだったが、だからといって偽造しようなんて思わない。俺は人間だった時に偽札工場を爆破したことはあっても自分で作ったことはないし、公文書偽造は良くないぜ? まぁ、パスポートを偽造したことはあるんで、あまり偉そうなことは言えないんだが。


「じゃあ、さっさと入れ。そして、二度と俺の所に来んな。ついでに、お前のダチにも市街で道場を開くのは止めろ。それが無理なら、せめて俺の目の届かない所でやれって言っとけ」


 俺はジョニーに虫を追い払うようにシッシッと追い払われながらも、フェルムの市街に入ることを許された。まぁ、払った代償は大きくて、金が無くなってしまったけどね。

 でもまぁ、街の中に入れたんだから良いとしようじゃないか。何事も前向きに行こうぜ?


 さて、数日前から街の外に滞在していたが、ようやく訪れたフェルムの街中の様子はどうだろうか? 俺は門を抜けてすぐの場所にある広場を見回してみるが──


「……特に言うことねぇなぁ」


 門を抜けた先にあった広場はその場所を囲むようにレンガを積んで作った建物が立ち並び、石畳の床が敷き詰められている。

 そこから放射状に道が伸びていて、その中で一本だけ綺麗に舗装された石畳の道路がある。おそらくそれが大通り(メインストリート)って奴だろう。大通りを挟んで立ち並ぶ建物はレンガ造りで頑丈そうだし、見栄えも気にしてるんだろう。

 その大通り以外は土を踏み固めたような道路だったり、一部にレンガを使った木造の家屋だったりで、そこまで見栄えを気にしている様子はない。

 広場を行き交う人の様子は疲弊している様子も無く、生活が苦しい感じはない。流石に冒険者の街というだけあって、武装した冒険者らしい連中も多く見かける。

 あと、ラザロスやイクシオンの街中と違って、いわゆるホモサピエンス的な見た目の人間ばかりでなく、容姿に獣の面影を残す人々も街中を歩いている。

 動物の耳が頭から生えていたり、動物が二足歩行しているようにしか見えない連中もいる。もしかすると、この世界独特の呼び方もあるのかもしれないが、俺が知っている様々な世界だと獣人だとか亜人だとか呼ばれている連中だ。

 チラッと見た感じでは、そんな獣人たちの中にも首輪をつけられ、単純労働に勤しんだり、ペットのように引きずり回されてる奴らもいれば、武器を持った冒険者風の連中もいる。勿論、一般市民っぽい奴も多いけどね。

 首輪をつけられてるのは奴隷か何かだろう。まぁ、獣人以外に普通の人間も首輪をつけられ、こき使われているのがチラホラといるように見えるし、そういう文化やら社会体制が構築されてるんだろうし、それに関して余所者の俺がどうこう言うべきじゃないんで、俺に関わらないんであれば気にしないようにしておこう。


「さて、気を取り直して当初の目的地に行こうか」


 余計なことを考えてしまうのは良くないよなぁ。

 それだけ余裕があるってことなのか、それとも単純に集中できていないのか。

 別にどっちでもいいけどさ。


 とりあえずフェルムは冒険者の街と言われるくらいだから、冒険者ギルドも大きい建物のような気がするんで、俺は大通りを進んでみることにした。

 歩いていると、俺をチラチラと見る視線を感じるが、いつものことなので気にしない。どういうわけか、俺は何処にいても目立つ男だからね。普通にしてても存在感が際立っているから、すれ違う人々が俺を見るのも仕方ないって諦めてるんだよね。

 今は格好もちゃんとしてるから見られても恥ずかしくないから気にしないのが一番だ。

 今の俺の服装は上は素肌に薄手のベスト、下は裾がゆったりとした七分丈のズボンにサンダルって感じの涼し気な格好なので目立たないはずだしさ。

 ……まぁ、そう思っていたのは俺だけで、実際は街中の人はもう少し厚着をしていたからメチャクチャ浮いているけどね。


 街の人々の視線を気にせずに大通りを歩いているとほどなくして、冒険者ギルドと書かれた看板のある建物の前に辿り着く。

 正確には『フェルム市商業組合公認冒険者ギルド』って書かれているんで、ここはいわゆる民営の冒険者ギルドって奴なんだろう。民間の団体がスポンサーとかになっているのが民営の冒険者ギルドって話を聞いたことがあるしな。

 まぁ、フェルム市商業組合ってのが民間の団体とは限らないんで断定はできないんだけどさ。


「とりあえず、ここで良いか」


 独り言が多くなるのは歳のせいか。

 誰か隣にいれば、話すこともできるんだが、誰もいないしな。

 俺は独り言をつぶやき、自分の行動を確認しながら、ギルドの入り口の扉を開ける。


 開けた瞬間、独特の空気を感じる。

 それは荒事に携わる連中が放つ独特の気配であり、俺がギルドの中に入った瞬間、その気配は一斉に俺の方に向かってきた。


 いいねぇ、る気満々じゃねぇか。新入りイジメかい?

 ふふふ、お約束の展開だなぁ。そんなことされるの初めてだからワクワクしてくるぜ。

 さぁ、俺にかかってくるのは誰だい? 三下もチンピラもお断りだぜ。一番強い奴がかかって来いよ。


「……アッシュじゃねぇか」

「やべぇよ、目を合わせるんじゃねぇぞ」

「なんで、あの野郎がここに来るんだよ」

「どこの馬鹿だよ、奴に喧嘩を売ったの」

「あのキチガイをここに連れてくんじゃねぇよ」


 ……誰も俺に絡んでこないな。

 建物の中は酒場みたいな感じになっているんだが、その酒場みたいなテーブルにいる連中が最初の気配は何処に行ったのやら俺の姿を確認するなり、全員が目を背けてしまった。


「なに、コソコソしてんだよ」


 俺は俺から目を背けてヒソヒソ話をしてる連中のテーブルに乗り込み、話しかけながら冒険者と肩を組む。

 露骨に嫌な顔をしてくるのはボディタッチだけが原因ではなく、俺にぶん殴られたことがあるからだろう。

 ギルド内にいる冒険者の中には、市外で野試合をやってた時に見覚えのある奴らの顔もチラホラとある。


「な、何の用だよ」


 急に俺と肩を組み、話しかけられて冒険者が怯えた顔をする。


「そんなに怯えんなって、別に取って食うわけじゃねぇんだからさぁ。これからは仲間だぜ? 仲良くやろうじゃねぇか」


「な、仲間?」


 そう、その通り、俺とキミらは今日から仲間さ。


「俺はこのギルドに入ることに決めたから、以後よろしく!」


 俺の声はギルド全体に届いたようで、露骨に嫌な顔をする奴もいれば、状況が掴めていないやつもいるし、そもそも全く興味のない奴らもいる。


「ところで、手続きって何処ですればいいんだい?」


 俺が訊ねるとテーブルの対面に座っていた冒険者が俺の背後を指さす。

 その指の方を俺も見てみると、酒場のようなテーブルの奥に役所のような受付のようなカウンターがあり、その奥に女の子が座っている。女の子はギルド内の様子に関心を示さずに自分の手元の書類に視線を落としていた。


「あそこに行けば良いのかい?」


 確認すると俺に絡まれた冒険者たちは頷く。

 良い連中じゃない。新入りにも優しいとかさ。ちょっと感動だぜ。

 わざわざ語るようなことでもないで、あえて思い出さずにいたけど、俺に負けたのを八百長だとかインチキだとか言って夜中に襲撃をかけてきた連中だとは思えないね。


「サンクス。機会があったら、また遊ぼうぜ?」


 俺は礼を言って、その場から離れ、受付に向かう。

 さてと、それじゃあ冒険者の登録を済ませようか。そしたら冒険者になって一獲千金だぜ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ