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トラブルメーカー

 

 いやぁ、まいったぜ。フェルムとかいう所に行こうとしたんだが、道に迷ってさ。

 あっちに行ったり、こっちに行ったりでウロウロしてたら何日も過ぎ、それでも結局フェルムまで行く道のりが分かんなくてな。

 それで俺達は諦めて、道を知ってる奴が来るまでここで待とうってことになったんだ。山の中を歩いていたら、ポツンとこの店があったんで、邪魔しちまったわけなんだが、何もしないってのも手持無沙汰だし、店員の真似事をしてたってわけ。

 真っ当に働くなんて生まれて初めてだったから、ちょっと新鮮で面白くはあったぜ。だけどまぁ、少し飽きも来てたんで、そこにカイル君たちがやってきてくれて助かったよ。


「つーわけで、フェルムまで俺らを案内してくんない?」


 俺はカイル君たちは埃まみれのテーブルを囲んで座り、近況を報告しながら頼み事もしてみる。

 カイルは露骨に嫌な顔をしているが、どうして俺に対して、そんな態度を取るのか思い当たることはないんだけどね。

 いやまぁ、それは冗談で領主の城に忍び込んだ時に大変なことになったのを怒ってるんだろうってくらいは分かるよ。俺は人の気持ちが分かる人間なんで、カイルが俺と関わりたくないって気持ちも分かる。だけど、俺は分かるからって、気を遣う人間ではないんでね。


「えぇ……」


 顔だけじゃなくて口でも嫌だってのが分かる。でもまぁ、嫌がってるのはカイルだけで……


「いいんじゃない?」


 クロエちゃんは素っ気ない感じだけれど、俺に興味津々だってのは分かるぜ。

 そんなに話をしたわけじゃないけど、邪神とかそういう言葉ワードに心惹かれるお年頃みたいなんだよね。


「いいぜ。だけど、その代わりに俺と手合わせしてくれよ?」


 ギド君も構わないみたいだぜ?

 手合わせくらいならいくらでもしてやるから問題なし。


「どうでもいい」


 コリスちゃんはクールだねぇ。

 その割には俺のことをチラチラ見てるから、実は俺に興味津々なんだろ?

 まいったぜ、俺はガキに興味がねぇから、キミの想いには応えられないんだ。せめて八百歳になってから出直してきてくれ。一応、言っておくけど八百歳でも見た目はなるべく二十代くらいじゃないとダメだぜ?


 おっと、また余計なことを考えていたぜ。

 ほら、カイル君、お仲間はみんな俺のことを案内しても良いって言ってくれたぜ。ということは、つまり──


「多数決の結果、俺達をフェルムまで案内することに決定しました!」


 良かった良かった、パチパチパチパチ!

 俺が拍手すると、ギド、クロエ、コリスも拍手して賛成を表してくれる。


「えぇ……」


 成り行きについていけずカイルが唖然としている。ごめんね。でも、俺達をフェルムまで案内してくれるだけで良いからさ。

 カイルは色々と言いたそうだったが、仲間が構わないと言っている以上、強く拒否するのも抵抗があるようで、仕方ないといった感じに肩を落とす。

 だが、それでも言いたいことはあるようで、俺のことをキッと睨みつけ──


「みんなが良いと言っている以上、僕も嫌とは言いません。だけど、一つだけ言いたいことがあります」


 なんだい?

 俺が首を傾げると、カイルは俺を指さし──


「まず、服を着ましょうよ! なんで、半裸なんですか!?」


 それはアレだ。シウスと戦ってる時に上着が吹っ飛んで、上半身は裸で戦ってたからさ。ついでにズボンも膝から下が無いし、そのうえ裸足だったりする。

 ここに途中で衣服を調達するタイミングもあったんだけど、なんだか良いのが無くて、微妙なのを着るくらいだったら、裸でも良いかなって思ったんだ。


「そんな格好の人と一緒になんか歩けませんよ!」


「そうかぁ? こんな格好の奴とか結構いるだろ」


 上半身裸で、破れて短パンみたいになったズボンで裸足ってだけだろ?

 普通の奴が着てたら、みすぼらしいかもしれないけど、俺は裸を見せても恥ずかしくないどころか、誇らしさを感じるくらいに体は鍛えてるから問題ないね。


「いやぁ、なかなかいないぜ。そんな腹筋の奴とか」

「胸筋も鉄板みたい」

「上腕がすごい」


 上半身だけ褒めてないで、下半身も見てね。

 この体は俺の人間時代の十代後半辺りの姿だけど、ちゃんと鍛えてるからね。


「いや、そういう話をしてるんじゃなくて……いや、もういいです」


 諦めんなよ、もう少し強く言っても良いと思うぞ。

 冷静に見たらキミのお仲間はだいたいポンコツだし、厳しくするのも仕方ないんじゃない?


「服装はもう仕方ないにしても、貴方の手配書が出回ってるってこと理解しています?」


「そりゃあね。ここに来るまでに追っ手を何回も倒してるから、知ってるよ」


「手配されている人と一緒に出歩きたくないんですけど」


「それはイクサス領だけの話だろ? フェルムまで行けば話は変わるんじゃないかね」


 カイルが俺の言葉に考え込む。

 まぁ、王女ラスティーナが、俺をどんな風に利用したいと考えているかによって変わるだろうがな。

 俺と本気で関係を悪くしたいとは思っていないはずだから、俺の動きを完全に抑えつける方向にはいかないだろ。俺の強さを知っている以上、刺激しようと考えないのが普通だ。

 まぁ、俺としてはそういう普通の奴は面白くないんだけどな。むしろ、俺の強さを知って、俺にちょっかいをかけてこようとする奴の方が俺的には好きなんだけどね。

 そういうことを王女に期待するのは無理かな?


「でも、王族に喧嘩を売ったみたいですし」


「俺がいつ売ったのよ?」


「だって約束をすっぽかしたじゃないですか」


 うーん、だけどさぁ、会ってお話ししてたら、お尋ね者として手配されなかったかもしれないって可能性もあるし、逆にその場で捕まって監獄送りって話になってた可能性もあるんだよなぁ。

 そういうことにならなくても、面倒くさい話にはなっていたと思うし、会っても面白いことにはならなかったと思うんだ。


「そういうのも俺と王女の間では話がついているんで問題ないよ」


 話をした記憶は無いけど、話はついているってことにしようぜ。

 俺が逃げた方が都合が良いことも無くはないんだし、それを考えれば、それなりに義理は果たしていると思うんだがね。

 カイルが疑いの眼差しで俺を見るが、そんな目で人を見てはいけない。そんなことをしていると心が荒んでいくぜ?


「……はぁ、分かりました。案内しますよ」


「さっすがカイル君だぜ。これで断られたらどうしようかと思ってたんだ」


 やっぱり面倒見の良い男だぜ。俺の目に狂いはなかった。

 こういう奴は骨の髄までしゃぶり尽くせるんだよなぁ。まぁ、そんなことはしないけどね。

 カイルは良い人間だし、そういう人間が不幸な目にあうのは忍びないからさ。だから、本当に良かったぜ、断られなくてさ──


「なぁ、ゼティ?」


 俺は宿の奥に隠れて、俺達の話を聞いているゼティに呼びかけた。

 ゼティが俺の声に応えて、姿を現す。その瞬間、カイル達の表情が引き攣った。


「あぁ、本当に良かったな」


 ゆっくりと姿を現したゼティは右手に血の滴る鉈と、血で汚れた前掛(エプロン)をしている。

 色々とあって自前の服と武器を無くしてしまったので、宿屋にあったものを借りているわけだが、見た目はよろしくないよな。


「さ、殺人鬼……」


「失礼なことを言うな。ウサギを捌いていただけだ」


 鉈で捌くなよって突っ込みを期待したいんだけど、カイル君たちは何も言わず、宿屋の入り口とゼティを交互に見ている。


「まぁ、落ち着こうぜ。カイルは案内してくれるって約束したんだしさ」


 だよな? 俺がカイルの目を見るとカイルは青い顔で頷いた。


「よし、そうと決まれば、さっさと行こうぜ。こんなところとは、おさらばだ」


 何日も()()()()()()()、ウンザリしてたんだ。

 俺が椅子から立ち上がり、それに連鎖してカイル達が立ち上がると、不意に宿の中に声が響いた。


「お兄ちゃんたち、出て行っちゃうの?」


 声の方を見ると、そこにはいつの間にか、小さな女の子がいて、俺達のことを見ていた。


「この宿の娘さんですか?」

「まぁ、そんなところ」


 俺の答えを聞いたカイル達は、俺が世話になっていた宿屋の娘とお別れの挨拶をするとでも思ったのか、邪魔をしないようにと、先に宿の外へ出ようとするが──


「あれ、開かない?」


 ドアに手をかけ、開こうとしたカイルが首を傾げ、もう一度押すがドアは開かない。


「何やってんだ、ちょっとどけ」


 カイルを押しのけて、自分に任せろとギドがドアを開けようとするが、どれだけ力を入れてもドアは開かない。


「どうなってるの?」


 明らかな異常事態にクロエの言葉に警戒の色が浮かぶ。

 そりゃそうだよな。急にドアが開かなくなって出られなくなったんだから、ビビるのは仕方ない。


「どういうことだ?」


 カイルが俺を見てくる。まるで俺が何かやったみたいじゃないか。

 詳しい話は、そこの女の子に聞くと良い。もしかしたら、ちょっとドアの立て付けが悪いだけかもしれないぜ?

 俺は身振りで、カイルに女の子の方を見るように促す。

 そうしてカイル達が女の子の方を見た瞬間、カイル達の表情が驚愕で固まる。


『逃がさないよ、誰も』


 カイル達の視線の先にいたのは腐乱死体が親戚にいるのかな? と尋ねたくなる感じの小さな女の子。

 先ほどまでは可愛い見た目だったのに、いつの間にかゾンビにしか見えない女の子がいたら驚いても仕方ないよね。


『みんな、ずっと一緒だよ』


 声帯が腐り落ちているのに声が聞こえるのは思念を送っているからだろう。

 女の子の声が聞こえた直後、宿の中のあちこちの扉が開く音が聞こえ、宿の至る所からゾンビが姿を現し、俺達の前に集まってくる。

 ゾンビが集まってきたこと焦り、ギドが斧を構えながら叫ぶ。


「おいおい、何が起きてんだよ!」


 俺も知らねぇ。

 数日前に雨宿りのつもりで、ここに入ったら今と同じ感じで閉じ込められたんだよな。

 まぁ、道に迷ってたし、休憩ついでに宿だと思ってやってきた奴らの中から道案内を探そうと滞在していたんだが、そこにカイルがやって来たって感じ。

 滞在している間は、さっきの女の子とかゾンビが俺とゼティをゾンビ仲間に引きずり込もうとしてたんだが、まぁ特に害はなかったんで放っておいた。だって、俺達に危害を加えられるほど強くないしさ。

 閉じ込められても俺とゼティは飲まず食わずでも死なないから、特に切羽詰まった感じも無かったしさ。


『ここで、みんなで暮ら「顕現せよ(アライズ)、我がカルマ──」そう』


 業術カルマ・マギアを発動して、俺は目の前に集まったゾンビども焼き払う。

 その気になれば、一瞬で終わるんだわ。だから、そもそも閉じ込められてすらいなかったって話。

 フェルムに行くための道案内が欲しかっただけで、それを探すためにここで待ってただけだしさ。


『どうして──』


 さぁ、どうしてだろうね。

 巡りあわせが悪かったんじゃないか?

 それともバチが当たったか。キミがゾンビにしてるのってここに来た人たちだろ?

 なんでゾンビにしたのかは分からないけれども、そういうのは良くないんじゃないかね。


「悪いことをしたら懲らしめられるってのは、わりと良く聞く話だろ? 今回は運悪くキミがその番だったってことだ」


 全ての悪が裁かれるわけじゃない。だけど、裁かれる奴もいる。それはまぁ運が悪かったとも言えるね。

 それと俺の呪いが業術の使用を許可する程度には厄介と判断したのも運が無かったな。俺が業術を使えるってことは、ゼティもある程度は技を使えるわけで──


魔鏖剣まおうけん九の型──破魔九浄はまくじょう


 ゼティが鉈を振るうと、その軌跡に従って淡い輝きを放つ破魔の光が放たれ、光に触れたゾンビが消滅する。

 剣で切り払うの払うってのは魔をはらうに通じるってことで編み出されたこの技は魔に属するものに問答無用のダメージを与える。まぁ、ダメージで済まないんで消滅してるんだけどな。


「俺らに余計な手出しをしなければ、俺は放っておいたんだけどな」


 まぁ、何人も罪のない人間を殺してるみたいだし、俺は許してもゼティは許さなかっただろうけどね。

 結局のところ、俺達がここに来た時点で命運は決まっていたようだ。残念だったね。


「えぇ……?」


 わけもわからずにゾンビに囲まれたと思ったら、一瞬でケリがついてカイルは二転三転する状況に困惑しているようだ。


「あ、ドアが開く」


 コリスが扉を簡単に開く。なんか魔力的な物で俺達を閉じ込めてた女の子が消滅したから扉も明けられるようになったんだろうね。

 まぁ、理屈はどうでもいいや。こんなところ、さっさと出ようぜ?


「なにがなにやら……」

「気にすんなよ、俺も分かってねぇからさ」


 数日間、宿でゾンビどもと暮らしていたわけだけど、奴らに全く興味が無かったから何も調べてないし、当然だけど何も分かってないぜ。

 まぁ、知らなくても何も困らないだろ。旅人を閉じ込めてゾンビにしていた邪悪な宿屋が消滅したってだけ分かってれば充分じゃないか?


「……こんな何もないところで、どうしてアンデッドが?」


 クロエちゃんがブツブツと何事かを呟いている。

 おそらく何か重要なことなんだろうね。でもまぁ、わざわざ聞かなくてもいいや。なんとなく見当はつくし、それよりもなによりも今は大事なことがあるからな


「さぁ、それじゃあフェルムってところに案内してくれよ」


 さっきの約束は忘れてないだろ?

 いつまでも、こんなところに長居しててもしょうがないしな。






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