指名手配
見上げると澄み切った青空が広がり、爽やかな風が頬を撫でる。
視線を下げれば緑の草原は視界いっぱいに広がり、草と土の匂いが風に運ばれ届く。
「平和だなぁ」
俺はぼんやりとしながら呟く。
何事も無く穏やかに過ぎていく日々、戦闘直後でダウナー入っている今の俺にとっては、こういうのも悪くない。
「よくもまぁ、この惨状を見て、そんなことを言えるな」
ゼティが俺に文句をつけてくる。
うるせぇなぁと思ってゼティの方を見てみると、ゼティの足元には武装した兵士が転がっていた。
身の程知らずの馬鹿が一匹突っかかって来た程度なら、何も問題ねぇだろ。
「周りを見てみろ」
言われて周りを見てみると、数十人の兵士や騎士が草原に転がっており、そいつらが苦痛で呻いていたり、失神していたりした。
「なんでこんなことになったんだ?」
ひでぇ有様じゃないか。
最近、気力が落ちてるせいで色んなことに関心が持てなくなってるんだが、こんなに兵士どもに襲われるようなことを俺達はしたか?
ゼティに問うような視線を投げかけるとゼティは無言で二枚の紙を俺の前に突き出してきた。
「なになに……手配書か。なんだか手配書に書かれている似顔絵が俺達に似ているんだが──」
結構、いい紙を使ってるな。この世界の製紙技術はそれなりに高いみたいだ。
まぁ、紙についてはどうでもいいか。それよりも手配書に書かれている名前は──
アッシュ・カラーズ(生死問わず)
傷害、殺人、窃盗、放火、器物損壊、建造物損壊、騒乱罪、国家反逆罪、不敬罪、賭博
シウス・イクサス殺害。代官に対する暴行。
ゼルティウス(生死問わず)
傷害、大量殺人、放火、器物損壊、建造物損壊、騒乱罪、国家反逆罪、不敬罪、身分詐称
「俺達だなぁ」
「そうだな」
身に覚えがないわけでもないから、手配書が出回っていても特に思うところは無いな。
俺もゼティも派手に暴れたし、それを目撃してる奴はいるわけだし、弁解の余地は無いな。もっとも弁解するつもりもないけどさ。
「しかし、シウス殺害の容疑までかけられるとは思わなかった」
ラスティーナ……っていうかアウルム王国はシウスを死んだことにして、次の伯爵を決めようってことなんだろう。
一応、伯爵の隠し子はジョンってことになってるが、それに関しては伯爵が認知するかどうかだし、ジョンが次の伯爵になるのは難しいかもな。つーか、そもそも伯爵が回復したかどうかも分からねぇからな、見かけたときは生きていたようだが毒でやられたまま意識が戻ってないかもしれない。
「王女と話していれば、この状況にはならなかったのか?」
この状況ってのは指名手配されて追われる状況のことか?
「どうだろうなぁ……俺達のやらかしたことを、もみ消す代わりに俺達を手駒にしようとか考えてたかもしれないぜ?」
罪を見逃す代わりに──って取引は良くあるしな。
世間一般の人間は犯罪者になるのを避けるから、そういう取引には応じるんだろうけど、俺達は別に犯罪者として扱われようが指名手配されようが特に何も思わんから、取引に応じなくてもいいんだよな。
それに指名手配って言ったって、この世界程度の文明じゃ怖くねぇよ。
俺なんか人間だった頃も指名手配を食らってたからな。CIAとかFBIに追われてたこともあるし、それと比べりゃ、この世界で指名手配されててもヤバいなぁって気持ちにはならない。
「別に王女の駒になろうと構わなかっただろう?」
まぁ構わないって言えば構わないんだけどね。
ただ、あの時は人に使われてもいいやって気分じゃなかったんだよなぁ。楽しく戦った直後にそれを責めるような眼で見られて少し面白くなかったしさ。
「さぁ、どうなんだろうなぁ」
実際の所、ラスティーナにとっても俺達がこうなってくれたのはありがたかったんじゃないか?
責任とか色んな物を俺達におっ被せることができるからさ。
とにかく悪いのは俺とゼティってことにして、俺達がイクサス伯爵領を混乱に陥れるために色々とやらかしたってことにしておいた方が後腐れがない。もしかしたら、そのうちイクサスの伯爵に毒を盛ったのも俺達ってことになるかもな。領主の息子が父親に毒を盛ったって言うのも風聞が悪いしさ。
「もう行こうぜ」
まぁ、全てどうでもいいことさ。
人の世の雑事にイチイチ腹を立てるのも馬鹿らしい。
犯罪者として俺達を追うならそれも構わない。捕まえに来るなら、追い返せばいいだけだしな。
「お前がボンヤリしていたせいなんだがな」
ゼティが倒した兵士達の懐から金目の物を取り出し、懐に収める。
そういうことをやってるから、罪が重なっていくんだよなぁ。まぁ、俺もそこらへんに転がってる兵士や騎士から金になりそうな物は貰ってくけどさ。
「これからどうする?」
兵士達を草原に転がしたまま俺達は出発する準備を整える。つっても、準備する物も無いんだけどな。俺達は手ぶらだし。
「どうすっかなぁ、シウスから情報は得られなかったしなぁ」
俺達の最終目的は変わらず、この世界を脱出することだ。
俺もゼティもそれに関しては一致している。
「とりあえず、この世界の神に会うのは変わらないかな。まずは何処に神がいるのか情報を集めたいところだが──」
この世界の神が俺達を嵌めて、この世界に閉じ込めたって可能性が一番高いしな。
シウスを転生させた奴がいる以上、偶然この世界に俺達はやって来たわけじゃなく、誰かの意図によってこの世界に来た。
俺達を嵌めたのが誰なのかまでは分からねぇが、シウスの話を聞いた限りじゃ、俺達に危害を加える意図があることは明白なわけだし、放っておいても何か仕掛けてくるだろうとも考えられる。
だがまぁ、待ってるだけってのも性に合わないし、可能性がありそうなことは少しずつでも調べていこう。
「それならばフェルムという都市へ向かうのが良いかもしれないな」
情報が集まるところという言葉に反応したゼティが都市の名前を挙げてきた。
この世界の地理について知らない俺は聞くしかできない。
「そこはどんなところだ?」
「俺も詳しくは知らないが、イクサス伯爵領の隣領にある都市で、この辺りでは最も大きく、アウルム王国でも有数の大都市だそうだ。そこならば情報も手に入るんじゃないか?」
ほぼ全て伝聞調なのが気になるところだけど、ほかに目的地が思いつくわけでもないし、そこに行ってみるのも悪くねぇな。
「じゃあ、そのフェルムって場所を目指すか」
何があるかは分からないが、それもまた面白いよな。
きっと、そこでも厄介ごとが山ほどあるんだろう。それだけでも新天地を目指す価値があるってもんだ。
さぁ、そうと決まれば出発だ。
この世界を脱出するため、ついでにワクワクする冒険のため。
さぁ旅を始めようか。
「──ところで、フェルムって何処にあるんだ?」
「さぁな、俺は知らない」
最初で躓いてんじゃねぇか。
じゃあ、まずは行き先を知っているやつを探すところから始めるとするかな。
いやぁ、幸先の良いスタートだぜ。




