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全力戦闘

 

 最高の気分だぜ。

 久しぶりの『駆動』に胸が高鳴ってくる。

 俺と向き合っているシウスの表情は強張っているけれど、どうしたんだろうなぁ。もっと楽しそうな顔をしようぜ。ここからが楽しいんだからさ。


 シウスが腕を上げてボクシングの構えを取る。

 いいね、る気があるのは好きだぜ。そういう相手には俺も現状で出せる全力を出してやりたくなる。

 業術の段階が上昇したせいで興奮しやすくなってるのかシウスを見てるとドキドキしてくる。どうやって俺と戦ってくれるのか期待が胸を高鳴らせる。


「いくぜ」


 様子見は終わりにして戦おうか。

 俺が拳を構えると、それに合わせてシウスが腕を上げてガードの体勢を取る。

 まだ、殴り合いの間合いじゃないってのに、そんなにビビらなくても良いじゃないかと思いつつ俺は、その場で拳を突き出し──


 その瞬間シウスの上半身が消し飛ぶ。

 何をしたってわけじゃない。単に闘気を叩きつけただけ。それだけでも一撃でシウスを倒すことくらいは出来る。

 俺に上半身を消し飛ばされたシウスだったが直後に消し飛んだ上半身が元に戻る。『駆動態』になっている俺達は人間じゃないんで、一回くらい死んだところで問題なく復活するし、数十回死んだって平気だ。


「何をしたんだ?」


 冷静な顔で俺に尋ねるシウスに対し、俺は包み隠さずに自分の手の内を明かすことにし、そう決めると同時に俺の身体から()()()に溢れ出す闘気と魔力。

 つまりは、これが俺の業術の『駆動』段階の第一の能力だ。


「闘気を気弾にして放っただけさ」


 ただ一発に込める闘気の量が多いだけ。

 俺の身体から出ている闘気や魔力の量から、シウスもそのことを察し、俺の能力を推理する。


「闘気や魔力が無限になるのが貴様の能力か?」


 シウスの顔は大したことがないなと言いたげだが、本当に大したことが無いかは自分の体で確かめてもらおうじゃないか。

 俺は業術によって生み出された莫大な量の闘気を身に纏いながら、足を踏み出し、前に出る。

 たった、それだけの動作だが、闘気によって強化された肉体の動作により、俺は一瞬にしてシウスの前に辿り着く。

 シウスは全く反応できていない。その視線が向く先は一瞬前まで俺が立っていた場所で、俺の動きを目で追うことすらできていない。

 無限に溢れ出す闘気で強化された俺の身体能力は軽い踏み込みでも超音速に達し、それによって衝撃波が生み出され辺りを薙ぎ払おうとするが、それが生じるより早く、俺は拳をシウスの腹に叩き込む。

 踏み込みだけで音速を超えるのだから、拳の速さはそれ以上。俺の動きを見切ることも出来なかったシウスが俺の拳を見切れる筈も無く、俺の拳は容易くシウスの腹に突き刺さり、その衝撃でシウスの上半身を再び吹き飛ばす。


「遅い遅い! 殴られてから気付くとか、遅すぎるぜ!」


 俺の移動と拳が巻き起こした衝撃波により、周囲の火が掻き消えると同時に、周りある全ての物が吹き飛び薙ぎ払われる。柱が折れ壁が崩れ、続けて城内のどこかが崩落するような音が聞こえてくる。

 そんな中、俺に上半身を吹き飛ばされたシウスの下半身はその場で踏ん張っており、次の瞬間再生した上半身が俺の顔面にパンチを叩き込んできた。

『叛逆』を使っているのか、パンチの衝撃が拡散せずに打撃点だけに収束され、俺の頭を吹き飛ばす。


「僕を舐めるんじゃねぇっ」


 頭が吹っ飛んでいるのにシウスの声が聞こえるのはどういうことなんだろうな? まぁ、どうでもいいか。

 俺の頭が再生しようとしている隙に、シウスのボディーブローが俺の腹部を貫通し、俺の腸をぶちまける。

 だが、その間に俺の頭は再生が終了。俺は、俺の腹をぶち抜いたままのシウスの右腕を掴み、握りつぶそうとするが──


『叛逆しろ。壊れるという宿命に!』


 シウスの詠唱が聞こえた瞬間、シウスの右腕は異様な硬さになり、握る潰せる気配が無くなる。

 これは絶対に無理だと判断した俺は握りつぶすことをやめ、シウスの右腕を肩口から力任せに引きちぎる。

 そうなってもシウスは驚愕を顔に表さない。即座に俺の太腿にローキックを叩き込むと、僅かに体勢の崩れた俺のこめかみに左のフックパンチを叩き入れ、続け様に顎先に飛び膝蹴りを叩き込んできた。

 その衝撃に思わず仰け反る俺に対し、シウスはなおも追撃を仕掛けてこようとするが、俺は引きちぎった右腕でシウスを殴りつけて、弾き飛ばす。


『叛逆しろ。その宿命に!』


 再びのシウスの詠唱。俺に弾き飛ばされたシウスだったが、空気が壁となってシウスの体を受け止めると同時にシウスは空気の壁を蹴って、俺に再び飛び掛かってくる。だが、その程度の動きじゃ、今の俺の動きには追い付けない。

 俺は飛び掛かってくるシウスに向けてハイキックで叩き落とそうとするが、空気が壁となって邪魔をして、俺の蹴りは届かず、逆にシウスの飛び蹴りが俺に当たって、俺が後ずさる。


「やるじゃねぇか!」


 シウスが俺に追撃をかけようと距離を詰めてくる。

 迎撃のために放った拳がやはり空気の壁に阻まれる。その間にシウスのジャブが俺の顎先をかすめる。だが、俺には効かない。闘気で自分の体に強化をかけてるんだから、多少の攻撃なんかダメージにはならねぇよ。

 ジャブからの右フックが俺の頬を抉る。直後に左のアッパーカットが顎を叩き割ってくる。そして、渾身の右ストレートが俺の頭を粉砕し、俺を殺す。

 その瞬間、体が再生を始めるが、シウスの手足から生える鎖が俺の体を縛り上げ、鎖を振り回してシウスは俺の体を滅茶苦茶に叩きつける。俺を叩きつける先の壁はシウスの『叛逆』によって壊れるという自然の摂理の支配から逃れて『不壊』の性質を持っているので、俺を何度叩きつけても、壊れたりはせずに永遠に俺を叩きつけることができる。


「ははははは!」


 再生途中の俺の頭が潰され、手足が千切れ飛ぶ。

 これでも死に切らないんだから、とんでもない生き物になったもんだぜ、俺もシウスもさ。

『駆動態』になってる俺らは残機制に近い。命を終わらせるってより、『駆動』によって生じた相手の世界を削りきらなきゃ相手を殺しきれない。まぁ、再生する度に残機は減っていくんで、やることは大して変わらない。

 再生しなくなるまで、殺し続けるだけだ。そう考えると今の状況は悪くないね。

 いや、もしかしたらピンチか? いやぁ、まいったね。ピンチとか楽しくなってきちまうなぁ!


「ははははは!」


 俺はこの状況から脱出するために、俺自身を燃やし尽くす。

 無限の闘気を業術で熱に変えて、自分の体をその燃え上がらせる。『駆動』段階でも『顕現』段階で発動した能力は問題なく使える。

 気分の高揚で闘気が熱に変わり、俺の体を燃やして、一瞬で塵にする。

 自殺みたいな方法だが、瞬時に再生するんで問題ないし、塵になって崩れたことで俺の体は鎖から脱出することに成功したので問題はない。

 再生する姿は『駆動』を発動した時の姿なんで、服も問題なく再生してくれるから、全裸で戦うってこともない。


「あぁ、楽しくなってきちまうぜ」


 鎖から逃れた俺にシウスが向かってくる。

 シウスの方もまったく戦意が衰えていない。

 いいね、もっと好きになってきちまうじゃないか。


「アスラァァァァァッ!」


 シウスの速度が上がる。今までとは比べ物にならない速度だ。

『叛逆』を使って加速しているんだろう。何に能力をかけているかは分からねぇけどさ。筋肉繊維に『叛逆』をかけて『不壊』の性質を与えて、限界を超えた動きを可能にしているか、全く別の物か。

 分かんねぇけど、パワーアップしているなら俺的にはどうでもいい。相手が強いってのは最高に楽しいからな。


「来いよ! シウスッ!」


 俺の感情の高ぶりに合わせて闘気の放出量が更に上昇する。

 自分の周囲に収まりきらない量の闘気と魔力が周囲に広がり、城を呑み込んでいくのを感じる。

 そして高ぶる感情に比例して俺が放つ闘気と魔力が帯びる熱が更に熱くなっていく。俺の闘気の届く範囲全ての物が燃え上がり、城全体がドロドロに融け始める。

 だけど、それも仕方ないよな。だって、俺の業術のせいで俺の周囲1000メートル以内の空間は1000度程度になってるわけだし、溶けるのも仕方ない。もしも人間がいたら何らかの防御手段がいないと即死だね。でも、俺の見えない所で勝手に死んだ奴なんか、俺はどうでもいい。

 俺にとって大事なのは、シウスとの戦いだけだ。でも、なんでシウスと戦っていたんだっけ? まぁ、理由はどうでもいいよな。目の前に俺と戦いたい相手がいて、俺もそいつと戦いたいってのが理由の全てでも俺は構わない。


「うぉぉぉぉぉ!」


 シウスの足が自分の踏み込みの強烈さに耐えきれずに千切れ飛ぶ。だが、千切れたと同時に体が再生する。いいねぇ、『駆動態』の戦い方を分かってきてる! 『駆動態』の時は体なんか使い捨てだ。使い潰して即座に再生をすればいい。

 足を使い潰して加速したシウスが一瞬、それを超える速度で俺の前に飛び出し、その勢いのまま右ストレートを放つ。音速を遥かに超えた一撃にシウスの右腕を破壊されるが、その拳は俺に届き、その衝撃が俺を粉砕し、周囲にあるものを吹き飛ばす。

 液状化した城の建材が飛び散り、城が崩れ始めるが、俺の体はそんなヤワな城とは違うので、即座に再生し、その場にこらえて反撃の一撃を放つ。


「うらぁぁぁぁ!」


 シウスが『叛逆』をかけるのを感じる。

 だが、俺の拳は問答無用で、邪魔をする空気の壁を蹂躙して、ぶち抜く。


「分かってねぇなぁ! 叛逆したっていうなら、もう一度、力でねじ伏せりゃいい!」


 ちょっと粋がって空気が叛逆した所で、限界まで闘気を乗せた俺の拳を防げるわけねぇだろうが!


「テメェの能力の攻略法は力押しだぁぁぁぁぁっ!」


 城を呑み込む量の闘気を全て拳に乗せて俺は、シウスに一撃を叩き込む。

 その一撃を受けたシウスの体が一瞬で消し飛び、その背後も俺の一撃によって生み出された衝撃波を受けてて城の一角が粉砕される。一瞬で俺の視界が開け、城の中なのにも関わらず、青空が見える。


「まだだ!」


 俺の拳で消し飛んだシウスが再生し空中を走っている。

 いいね、空中戦か? ワクワクするぜ!

 俺が飛翔しシウスに迫ろうとすると、シウスが城を投げつけてくる。


「ははははははっ!」


 城を投げてきたって急になにを言っているのかと思うかもしれないが、シウスはマジで城を投げてきた。つっても、流石に城の全体ではなく一角だけどな。

 シウスの鎖が城の片隅にある塔に絡みつき、それを力任せに引っ張り上げ俺に投げつけてきたんだ。大きさが直径15メートルに加えて、高さが30メートルくらいある塔だ。

 そんなもんを簡単に投げつけてくるとか楽しいことをしてくれるじゃない。普通に考えりゃ自重で放っておいても壊れるだろうが、それを『叛逆』で壊れないようにして俺に投げつけてきてる。


 だが、悪くない攻めだ。。

 俺は『不壊』に関しては全力で殴っても壊せる気がしないしな。そういうこと瞬時に判断して攻撃に使ってくるとか、いろいろ考える奴は好きになってくるぜ。

 だけど、そんなの防ぐのは簡単なんだよなぁ!


「無駄だ!」


 俺は闘気を全力で乗せた拳で、飛んできた塔を殴り飛ばす。

 何処へ飛んでいったかは分からねぇ。城下町の方かもしれないけど、今はそんなのどうでもいいや。

 途中で『叛逆』も切れるだろうから、町の方へ吹っ飛んでいっている最中にバラバラになるだろ。

 今はそんなことよりもシウスで──


「隙を見せたな!」


 塔の陰に隠れて、俺に接近していたシウスの拳が俺の脇腹に突き刺さり、そのまま俺の上半身と下半身を力任せに引きちぎる。

 俺は即座に千切れ飛び宙を舞う上半身の方に下半身を再生させると、即座に足を跳ね上げシウスの頭を蹴り飛ばす。頭が吹き飛んだシウスだったが、その次の瞬間に頭は再生し、俺の足を掴むと俺の体を床に叩きつける。

 床はドロドロに溶けているので叩きつけられてもダメージなんかは無い。俺はすぐさま立ち上がるが、そこにシウスの拳が襲い掛かる。

 立ち上がった瞬間にシウスの右ストレートで頭を吹き飛ばされるも、俺は体勢を崩さすに拳を突き出している。


 ──崩拳。

 頭が再生すると同時に放った俺の中段突きの一撃が、シウスの上半身を文字通り粉砕し、下半身もその勢いに負けて吹き飛ぶ。


「まだだ!」


 吹き飛んだ下半身から消し飛んだ上半身が再生し、シウスが立ち上がる。


「あぁ、まだだな!」


 無限の闘気と魔力が俺の体の修復を永遠に続ける。

 スタミナ勝負でも、パワー勝負でも、スピード勝負でも俺は負けない。

 俺達は闘気や魔力で身体能力に補正をかけているわけだから、その補正に使える闘気と魔力が無限にある俺は、無限に自分の身体能力なんかを強化できる。ついでに、闘気や魔力を使った技や術も無制限に使いたい放題だ。

 消耗戦になったら、俺には絶対に勝てないってシウスは理解しているだろう。それでも必死に俺と戦うとか、そういう心意気はスゲェ好きだ。

 そんな奴には全力を出さなきゃな。呪いのせいで本来の力は出せねぇけど、いま出せる全力を出してやる。


「必殺の一撃を見せてやる」


 つまりは必殺技だ。勝負をつけようぜ、シウス!

 俺の言葉に対して、シウスはそれを防ごうと走り出す。諦めた様子は感じられない。いいねぇ、スゲェ良い。

 シウスの戦意を感じて俺の気持ちも更に昂る。この瞬間、俺の業術の第二の能力が発動条件を満たす。


「アスラァァァァァっ!」


 叫びながら突進してくるシウス。

 無策じゃないはずだ。何か策があるんだろう? それを俺に見せてくれ!

 お前の今の精神状態だったら出せるはずだ!


「来いっ!」


 俺がシウスを迎え撃とうとした瞬間だった。不意に俺の視界に映る全てがスローモーションに変わる。


『叛逆しろ! 時の支配に!』


 シウスの言葉が聞こえる。

 ここに来て時間を操るかよ! そうだよなぁ、全ての人間は時間に支配されてるもんなぁ! お前の能力が『叛逆』する対象にも出来るよなぁ!

 良いぜ、良いぜ! 最高だ! ここに来て覚醒するとか最高じゃねぇか! 

 そんな奴には俺も全力だ! 全て見せてやる!


星よ耀け(スターレイジ)──願いよ届け(ウィッシュスター)


 俺の業術『駆動』段階の第二にして本来の能力が発動。

 その瞬間、シウスの能力がシウスの意思に反して突然停止する。


「何を──」

「奇跡が起きただけさ」


 それが俺の業術の能力。奇跡を起こすっていうそれだけの能力だ。

 発動の条件さえ満たせば、それ以外のありとあらゆることを無視して、俺は俺の望む結果を出すことができる。それを説明するとしたら奇跡を起こすとしか言いようがないだろ?

 発動条件は俺の気持ちの昂ぶりがある一定の段階を超えると使用回数が増えるっていうもので、俺が使えたのはシウスが頑張って俺と戦ってくれたからだ。だからまぁ、シウスに御礼を言うべきなのかもしれないよな。

 まぁ、その御礼に関しては俺の必殺技をその身で味わえるってことで勘弁してくれ。


「荒れ狂え──」


 自分の能力が消えたことでシウスの動きが僅かに精彩を欠く。


 明らかな隙を見せたシウスに向けて、俺は必殺の構えを取る。

 無限の量の闘気が右手に集まり、極限まで収束し圧縮された闘気は業術による熱との相乗効果で超高熱に達する。

 右手に集まった超高密度、超高熱の闘気は変質し、鮮やかな紅炎の色を帯びる。


「プロミネンス・ランページ!」


 紅炎を纏った右手をかぎ爪のように構え、振り抜く。

 その瞬間、右手の紅の闘気が放出され、闘気によって形成された巨大な紅炎の爪がシウスに襲い掛かる。

 防御の構えを取るシウス。だが無駄だ。

 紅炎の爪は、その熱で全てを蒸発させながら、その巨大な爪は城もろともシウスを呑み込み、その余波によって生み出された熱風と衝撃が全てを破壊し、俺の必殺の一撃に耐え切れず城が崩壊を始める。


「ははははははは!」


 瓦礫が降り注いでくるが、俺は最高の気分だった。

 自分の中に溜まっていた全てをぶちまけたことによる、最高のカタルシスとエクスタシー。

 全て燃え尽きろ。これが俺の必殺だ。


 ──荒れ狂う紅炎の爪が過ぎ去った後、そこには何もなくなっていた。

 城が崩れた時に俺を押し潰した瓦礫をどけて周囲を見回すと、そこに城は無かった。

 先ほどまで戦っていた城は俺の技で蒸発し、辛うじて城の土台だった部分が残っているだけだ。

 辛うじて燃え残りはあるが、生きている人間の気配はない。

 町の方は無事だが、城内に人がいたとしても並みの人間は誰も生きていないだろう。

 だが、並みの人間でないなら生きているはずだ。そうだろうシウス?


「さぁ、まだまだれるだろ! 来いよ、シウス!」


 俺をぶっ殺すんだろ? だったら、もっと戦れるだろ! 俺はまだまだ死なねぇんだから、俺が死ぬまで戦ろうぜ!

 俺の声と想いに応えてくれたのか、俺の視界の端で瓦礫が動き、その中から人間が這い出てくる。


「あぁ、まだだ。まだ僕はれる!」


 それはシウスだ。やっぱり生きていてくれたかと、俺は更なる戦いに胸を高鳴らせ、シウスの方に駆け寄るが──


「あぁ、クソっ」


 シウスの姿を間近で見た瞬間、俺の期待は容易く打ち砕かれた。

 瓦礫の下から這い出したシウスの体は右腕が失われており、その再生が止まっていたからだ。いや、良く見れば再生はしているが、その速度は話にならないほど遅い。


「再生限界か」


 再生が追い付かないほど、シウスの残機は減ってしまったってことだ。

 体を再生させるだけの力の残りが無いんだろう。だから、再生も遅くなる。放っておけば、残機も回復するんだろうが、この場で回復するってのは無理だ。


「ガッカリだぜ」

「僕に失望するのではなく、自分の技を誇れよ」


 俺の技がシウスの残機を削りきったんだろうな。もしかしたら耐えるんじゃないかと期待してぶっ放したら、こんな結果になるなんてな。こんなことになるなら使わなかったぜ。


「悔しいが、勝負はついたな」


 そうだな。

 思いもがけない決着に俺のテンションが下がり『駆動』が解除される。

 勝手に期待して、勝手に失望するってのは良くないってのは分かっているのに、同じことを何度も繰り返しちまう。これも俺の業だよなぁ。


「どうするつもりだ?」


 さぁ、どうしようかねぇ。

 当初の目的はシウスをぶっ飛ばして話を聞くってことだったけれど、別に聞きたい話も無いんだよな。

 この世界のためには殺しておいた方が良いのかな? 殺したとしてもシウスは使徒だから、別の世界で復活するだけなんで、殺しても俺は特に問題が無い。


「殺しとくか」


 急にテンションが下がったため、気分の落ち込みのせいで適切な判断ができなくなってる感もあるが、まぁ良いだろう。

 とりあえず殺そうと思い立ち、俺は瓦礫の上に倒れ伏すシウスに向けて拳を振り上げる。だが、その時──


「待て!」


 背後に気配を感じたと同時に俺を止める声がした。

 俺は拳を下ろし、声の方を振り向くとそこにいたのはラスティーナとその侍女。それに加えて、ボロボロの姿をした、カイルとカイルの仲間たちに、リィナちゃんと地面に転がされた初老の男だった。

 どうやらカイル達は無事に仕事をやり遂げたんだろう。地面に転がされているのがイクサス伯爵だろうか?


「その男を殺すのは待て」


「なんで?」


「その男はアウルム王国の法で裁かれなければならないからだ」


 伯爵に毒を飲ませて家を乗っ取ろうとしていたし、領民を苦しめていたりもしてたからか?

 俺が私刑で殺すよりも、国がシウスの罪を明らかにして罪人として処刑する方が法治国家の在り方としては正しいってのは分かる。

 ついでに、城を消し飛ばした俺に向けて、臆することなく俺を咎めることができる度胸も良いね。好きになりそうだぜ。

 たださぁ、気になるのは──


「言いたいことは分かるが、俺の行動に口を挟む権利がアンタにはあるのかい?」


 無いんじゃない? どこの馬の骨ともしれぬ一般人が余計な口を挟むんじゃねぇよ。

 しかし、俺の言葉を受けてもラスティーナは平然としているどころか、むしろ胸を張って答えるのだった。


「あるとも!」


 ラスティーナの侍女がやめるように小声で言っているのが聞こえてくるがラスティーナはそれを無視して、俺に堂々と言い放つのだった。


「私の名はラスティーナ・アウルム。アウルム王国の第三王女だ」


 アウルム王国ってのは今いる王国のことだったよなって俺がぼんやりと考えていると、侍女とリィナちゃん以外の面々が一斉に驚愕の表情に変わる。

 俺も特に驚かないね。なんとなく普通の身分の人間ではない気がしたからさ。

 まぁ、そもそもの話、王族なんて見飽きているからって理由で驚かないんだけどね。


「王族としてこの国の法を無視して、罪人を罰することを看過するわけにはいかない。それに今ここでシウスを始末されれば、イクサス伯爵家の継承で厄介が生じる。伯爵の後継者を決めるまではシウスを生かしておき、シウスの了解を得たという体で、王国としては次のイクサス伯を決めたいと考えている」


 それって俺に関係ある話か?

 ラスティーナがお忍びでイクサス伯爵領を調査してたってのはなんとなく察することができるし、その調査の結果、シウスが伯爵に相応しくないってことも分かったんだろう。

 ただ、相応しくないってことで暗殺するわけにもいかない。伯爵領を平和的に統治していくためには円満に家督相続をする必要があるからだ。

 なるべく伯爵家の人間を生かしておいて、そいつらの了解を得る形で王国は自分たちに都合の良い奴を次の領主に据えようとしていないかい? 伯爵の身柄を確保しようとしていたのも現伯爵の消息不明の状況でで、次期伯爵を決めたりしたら問題しか生じないしな。

 ──まぁ、ここまでのことは全て想像なんだけどね。


「どうだ? 私の言いたいことは分かるか? 私の頼みを聞いてくれるなら、褒美は用意する」


 まぁ、断る理由もないか。

 シウスが生きようが死のうがどうでもいいしな。ただ──


「殺す以外でこいつを止めることはできないと思うけどな?」


 俺の殺意が弱まったと同時にシウスが駆け出す。

 蒸発した右腕の再生は終わっていないが動くだけの体力は回復したようだ。

 俺以外この場の誰もが反応できず、シウスは一瞬で俺から距離を取ると、ラスティーナ達は完全に無視して俺だけを見る。


「次は必ず倒す」


「いいね。だったら次はもっと強くなっててくれよ」


 まだまだ戦意が衰えていないようで何よりだ。

 次はもっと楽しく戦えるように祈ってるぜ。


「追え!」


 ラスティーナが声をあげ、侍女が速やかに動き出し、カイル達もノロノロとだが動き出す。

 だが、その時には既にシウスは俺に背を向けて走り出しており、その背中は遥か遠くにあった。

 やっぱり、敵は見逃すのが一番だぜ。

 生かしておけば俺に復讐しに来てくれるしな。ついでに強くなってくれていれば言うことなしだ。


 俺がシウスの背中を見送っていると、視線を感じたのでラスティーナの方を見る。


「この惨状について聞きたいことがあるのだが。何があったか聞かせてくれないか?」


「勿論だとも」


 本当かどうかは知らねぇけど、ラスティーナは王女様らしいからね。

 高貴な身分にある方のお願いは聞くしかないよな。


「ただ、疲れてるから明日以降にしてくれないか?」


「構わない。何をどうしたらこんなことになるのか話してくれさえすればな」


 そう言ってラスティーナは俺が蒸発させたせいで土台しか残っていない城跡を見回し、そして俺を見る。

 その眼には僅かだが俺を責めるような色があった。



 ──その翌日、俺はラスティーナとは会わずにゼティと一緒にイクサス伯爵領から逃げ出した。





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