星よ耀け
「俺の見立てじゃ、お前の能力は制御じゃない。能力的には、そう言っても良いのかもしれないが、お前の能力を表すキーワードとしては相応しい物じゃない」
俺はシウスとの間合いを測りつつ、シウスの業術の正体を明らかにしようとするが、シウスは俺の好きにさせるつもりはないようで、遠い間合いでジャブのモーションを俺に向けて行う。
その動きから俺は攻撃を予測し、横に飛ぶと直後に俺のいた場所を空気の塊が高速で通り抜けるのを感じた。
「それも一見すると、空気の操作のように見えるが違う。操作するにしては、お前の手の動きと連動しすぎている。本当に操作できるなら、わざわざ殴る真似をして見せなくても良いわけだしな」
横に飛んで着地した先の足場が崩れるが、俺はそれを予測していたので体勢を崩すことはない。
シウスの方は俺が体勢を崩すと予測していたようで、既に俺の方に突っ込んできていた。
距離を詰めて放たれるシウスの拳。業術の段階上昇によって身体能力は上がっており、今の俺の業術の段階だと反応をしてガードをするのが精一杯だ。俺は腕を上げて両腕を交差させるようにしてシウスのパンチを防ごうとしたが、シウスの拳が俺の腕に触れた瞬間、シウスの拳の衝撃によって俺の片腕が千切れ飛ぶ。
衝撃の伝わり方が当たり前の物じゃなく一点で止まって爆発するような打撃だった。衝撃ってのは基本的に拡散し、弱まるのが宿命といっても良いのだが、シウスの打撃にはそれが無かった。
「さっきから変なことばかりが起こるよなぁ」
腕が千切れ飛ぶのも織り込み済みだ。業術を使っている時は……まぁ、使ってない場合でも、手足なんかは放っておいても生えてくるんで、腕が吹っ飛んだ程度で騒ぐ気はない。
俺はパンチを放ったシウスに向けて蹴りを放つ。
「当たり前だったことが当たり前に起きなくなっている」
話ながら放った俺の蹴りはシウスの頭を捉える軌道を取ってシウスに迫るが、やはり空気が邪魔をする。
空気は今まで俺が何をしても基本的に素通りさせてくれていたのに、今回に限っては反抗的に俺の行く手を遮ってくる。
「──つまりは、それがお前の業術なんだろうな」
蹴りを止められ隙だらけになった俺の腹にシウスの拳が突き刺さり、その衝撃で俺の身体が吹っ飛び、壁に叩きつけられる。普通に考えれば、壁を簡単にぶち抜く勢いだったのに、その普通のことが起きずに俺は壁に激突し、そのまま壁に体を預けることになる。
「それと一緒に考えるべきは、お前の業術の詠唱だ。『顕現』にも『駆動』にも叛逆という言葉があり、『駆動』に関しては王に反旗を翻すような詠唱がなされている。このことからお前の業術を構成する重要なキーワードは『叛逆』と考えられ、それに関係するような能力が発現しているのだろうと俺は推理している」
俺は壁に背を預けながら、シウスに自分の推理を語る。
シウスはというと、俺の言葉に耳を傾ける様子は見せないものの、俺に警戒する様子を見せながら、俺のとの距離をジリジリと詰めてくる。
ゆっくりとやりたいなら好都合だ。この隙に説明させ貰おうじゃないか。
「叛逆というキーワードと、お前が『駆動』を発動させてからの減少を関連させて考えてみると、さてどうなるか──」
叛逆ってのは支配する者がいなければ起きない。
支配ってのは権力による従属関係だけ使われる言葉じゃなく、色々な事柄に使われる言葉でもあり、その意味の捉え方も様々なんで、詳しく説明は出来ないけれども、とにかくシウスの業術は叛逆って言葉がキーワードである以上、支配ってのも関係してくるし──
「──おそらくは『支配からの叛逆』ってのが、お前の能力を説明するのに一番いい言葉なんじゃないか?」
俺はよろめきながら立ち上がり、シウスを見ると、シウスの表情が僅かに動いたのが見えた。
当たりか外れかは分からねぇが、まぁ間違ってても良いさ。正解したからって何があるわけでもないし、間違えて何があるわけでもない。能力を知ったからって冴えた打開策があるわけでもないしな。
「支配ってものをどう捉えるかが問題だ。例えば、俺達は空気に囲まれて過ごしているわけだが、考えようによっては空気も人間に支配されていると思えなくもないか?」
空気は人間のすることを邪魔できない。人間に必要不可欠なのに、人間からは対して感謝されたりせずに呼吸の度に食われているとも考えられ、そういう状況は人間に支配されているとも考えられるよな。結構無理くりだが、その無理を何とかするのが業術だからなぁ。
「どういうプロセスで能力を発動しているのかは分からないが、お前の業術は、お前が支配されていると仮定した物に対して発動し、叛逆という要素でもって特殊な事象を起こすとか、そんなところじゃないか?」
空気が支配されていると仮定した場合、それが叛逆を起こすとどうなるかってことだよな。
いつも無遠慮に人間が行き来するのを面白くないと思った空気は人間の行く手を遮るとかするだろう。それで俺の拳がシウスに届くのを防いだりとかしたのかもな。
空気を飛ばして攻撃してきたのは何だろうな? 物理法則という支配に対する叛逆か?
俺達が当然と思う事柄も、それを物理法則とかが支配している影響であると考えれば、シウスの『叛逆』は適応されるのだろうか? 法則による支配は当然として、運命や宿命だって支配の一つであるわけだから、シウスの『叛逆』は適応される可能性はある。
妙に硬くなった壁も、壁のような物質は『やがて壊れる』という宿命に支配されているとシウスが思い込んだ結果『叛逆』の対象となり、そうした結果『壊れない』という形でシウスの能力である『叛逆』が現れたってことも考えられるよな。
「僕の能力を推理した所で、僕が答えを言うと思っているのか?」
そうは思ってねぇよ。
ただ、相手の能力を知っているか知っていないかで戦い方が変わるわけだし、分析ってのは大事だぜ?
キミは図星を突かれてイラっとしたのかもしれないし、俺を黙らせたくなったのかもしれないけどさ。
俺がそんなことを言ってやろうと思った矢先、シウスは一気に距離を詰めながら、拳を突き出してくる。
先ほどと同じ攻撃であるならば受けた瞬間、俺の身体は吹っ飛ぶよな。
物理法則による支配からの『叛逆』ってことで、衝撃は散らずに打撃面に全て集まるってことにしてるんだろう。つっても、そこら辺の感覚は俺が予想なだけで、シウスがどう考えてるかは分からない。
『叛逆』が本当に奴の能力だとしたら、シウス自身の中でどういう理屈をつけて、その能力を発動しているのかはシウス自身の感性の問題だからな。
例えば、重力が逆転して俺が天井に叩きつけられた瞬間があったけれど、俺にはどういう思考過程を経て『叛逆』を起こしたのか分からない。俺は重力が下に向かっていることを『支配されている』とは思えないからな。
だけど、シウスは重力が下に向かっているのは何らかの物や存在による支配のせいだと思ったから奴の『叛逆』が発動し、重力は下に向かうっていう常識に『叛逆』して上に向かったかもしれないって推理することくらいしかできない。
俺はシウスの右ストレートを躱しながら、シウスの顎先にアッパーを放つ。その一撃をシウスは身をのけ反らせて躱すと、即座にバックステップで俺から距離を取りつつ、右腕の鎖を振るう。
シウスが振るった鎖の先端が部屋の壁に突き刺さり、シウスが力任せに引き寄せると石を積み上げて作られた壁がまとまった状態で外れて、俺の方に飛んでくる。
これも『叛逆』だ。わりとズルい能力だよな。シウスが何かに『支配されている』って認識したら、『叛逆』が発動する。
壁がまとまって飛んできたのは『崩れる』ってことに対する叛逆で、そんでもって、その壁に俺が全力の拳を放っても砕けないのは『壊れる』ってことに対する叛逆だろう。
『崩れる』も『壊れる』も自然の摂理だが、シウスはそれを支配と認識し、その支配に叛逆するって形で壁は『崩れない』し『壊れない』。
俺はシウスが投げつけてきた壁を壊すことも出来ずにその下敷きになる。だが、それも一瞬で俺はそれを払いのけ、シウスに飛び掛かる。
「能力が分かったんじゃないのか? それで対策はあるのか?」
シウスの顔が俺を嘲笑うものに変わるのが見て取れたが、それもしょうがない。だってなぁ──
「対策なんか思いつくかよ」
だって、わけわからんからね。
業術ってのは使用者の感覚に影響される部分が大きいから規則性も大まかにしか把握できないからな。
シウスの『叛逆』だって、理屈は滅茶苦茶だぜ? 従属関係が無いものに対して支配の関係を見出し、シウスの勝手で叛逆を起こしているんだからな。
能力の概要はなんとなくわかっても詳しく説明するのは無理だし、そんなもんに対策も何もないだろ。
「──だけどなぁ、テメェの能力を食らってて一つだけわかったことがあるぜ」
足元の床が『人を乗せる』という役割に『叛逆』し、俺の足が床に沈み、俺の体勢が崩れる。そこへシウスのジャブが連続で俺の顔面を捉えるが、その程度の攻撃じゃ俺は倒れない。俺は足が沈んだ床を業術の熱で溶かし、そのまま足を跳ね上げ、シウスの顔面を蹴り上げる。
「お前の能力はやっぱり弱い方だってな!」
シウスの周りの空気が『叛逆』する。今まで勝手に自分たちの中にいたのを許さないって感じに、空気が炸裂し俺を吹っ飛ばすが、それだけだ。
俺は問題なく受け身を取ると、息を整えシウスを見る。見たところダメージは全く無さそうだ。もう少し揺さぶりをかけたいところだ。かけたところで何があるわけでもないけどな。
「僕の業術が弱いだと?」
「あぁ、弱いね。クソ雑魚だ」
負け惜しみじゃなくて実際に弱いよ。
シウスの業術は何でもできるように見えるけど、見えるだけだからな。
「能力の発動過程が複雑すぎるし、攻撃性が低すぎる」
ここら辺はちゃんとした奴に教わらないと分かんねぇことだから仕方ないんだけどね。
業術ってのは基本的にシンプルな方が強いんだよ。ついでに、業術自体に攻撃性が感じられる方が良い。一方的だったり、問答無用な感じがあった方が強いんだ。
シンプルでないと能力がブレるし、攻撃性が強くないと業術自体の威力が低くなる。
駆動の時点で能力がブレると『駆動』より上の段階に行きづらくなるし、攻撃性ってのは威力もそうだけど、業術の構造の頑丈さでもあるから、それが弱いとやはり上の段階に行きにくくなる。
「『駆動』を出しておいて、俺を一回も殺せてないんだから、弱いとしか言いようがないよな」
俺の知ってる他の業術はもっと殺意が強い。
『駆動』が発動した瞬間、こっちが『顕現態』だと何もできずに一方的に殺されるってことも多いんで、こうして『顕現態』と『駆動態』で戦いになってるって時点で、業術としては弱いとしか言いようがないんだよなぁ。
「負け惜しみにしか聞こえないな」
「そう聞こえるのはテメェが物を知らねぇからだよ」
俺の言葉にイラついたのかシウスが再び俺に向かって来ようとするが、それに対して俺は先手を打つために口を開く。そうして俺がシウスに投げかけた言葉は──
「──まぁ、落ち着けよシリウス・アークス」
それはシウスの魂が知っている名前だ。
俺が口にした名前がシウスの耳に届いた瞬間、シウスは即座に足を止め、俺の動きを警戒しつつ──
「思い出したのか?」
その言葉と表情に俺は確信を持つ。
やはり、シリウス・アークスで間違いないという確信だ。
そして、その名は俺の使徒の名でもある。
「お前自身のことは、たいして思い出してねぇよ。業術の能力と戦闘スタイルを見て、そんな奴もいたかなぁって記憶があるだけだ」
俺の言葉を受けてシウスの表情に怒りが浮かぶ。
その様子から見て、どうやらシウスの本当の名──転生する前の名はシリウス・アークスで合っているようだ。自分の名前を憶えていないって言われたらイラつくのも当然だしな。
でもまぁ、シリウス・アークス──つっても、この名前も偽名だったよな。
本名と若干変えていたはずだ。なんで本当の名を捨てたかって言うと、シリウスは一回、人間として死んでから俺の使徒になったから、人間だった頃の自分と決別するってことで、名を変えたんだよな。
思い出してないのに、どうしてここまで知ってるかって? そりゃあ思い出してないのは嘘で、全部思い出してるからだよ、憶えてないって言ったのは、そっちの方がシウスがいらつくと思ったから。
「なるほど、僕のことは憶えていないか。だったら、忘れないように刻み込め。僕の名はシリウス・アークス。アスラカーズ72使徒、その序列56位だ」
やっぱり俺の使徒だったか。どうして俺の使徒が──
「よもや、自分の使徒が──なんてことを言うつもりはないだろう?」
──そりゃあそうよ。だって、恨まれている自覚もあるしな。
そもそも使徒ってのは俺の遊び相手であり、俺のパシリでもあるけれど、俺を倒せるほど強くなることを期待している連中でもある。
そんな連中であるから、俺を倒すために敵対していることも使徒の在り方としては間違ってはいないし、俺は使徒を強くするために色々と酷いことをしてきたりもしたんで、殺されても文句は言えないんだよな。
「僕のことを碌に憶えていないのだから、こうして敵対する理由も分からないだろう」
「そうでもないぜ。だいたい分かるよ」
だって、憶えていないわけじゃないしな。
「お前の業術の『叛逆』ってキーワードから考えるに、俺に従う状況が嫌だったからだろ? それで俺と戦うチャンスがあるとか吹き込まれ、俺を倒そうとか考えた結果、転生して、領主の息子に収まったとか、そんなところだろうよ」
シリウスの精神性を考えると、そんな経緯だと思うんだが、どうだろうか?
人間時代のシリウスは本当に人に上に立つべき人間ってのは平等な条件で競争に勝ち残った者でなければいけないってことで既存の政治体制を破壊して、価値観を崩壊させ、全員が何も持たない状態で戦国乱世の世の中を作り、その中で全ての人間が戦い最後に生き残った奴こそが王に相応しいとか言って、行動してたからな。そんな奴が神になんか従うわけねぇよ。
全ての人間は己の才覚以外の全てを同じ条件にして己の才覚だけを武器に競うべきだと思ってる奴が、神なんていう最初から特別な奴の下について我慢が出来るわけないってのは当然で、俺を倒す機会があれば、俺を倒そうとするのも自然だよな。
「その通りだ。僕は貴様と戦い、殺すチャンスがあると聞かされ、手を貸すと言うなら、そのお膳立てをしてやると言われたんだ。僕は喜んで、その申し出に応じたよ。邪神アスラカーズを倒すチャンスなんてそうあるものでもないからね」
転生もお膳立ての一環なんだろうな。
そういう過程を挟むことで、俺が使徒に施す呪いやらなんやらを軽減できると、この状況を作った奴は考えたんだろう。実際にそれは成功し、シウスには俺が使徒に施している呪いが軽くなってもいる。
もっとも、転生したせいで肉体的な強さは落ちたようだが。
「誰に言われたんだ?」
良い機会なんで、もう少し情報を探っていこう。
せっかく、シウスが話してくれているんだから。
「さぁ、誰だったかは分からないな。とある世界を旅していた時に偶然出会ってね、顔を隠していたから何も分からないし、興味もなかった。僕としてはアスラカーズと戦うための準備をしてくれるというだけで、十分だったからな」
「そいつは神か?」
「それも分からないな。ただ、僕に業術の基礎を教えてくれたのがそいつだったってことを言えば、なんとなく察しはつくだろう? 貴様は自分の使徒に嵌められたんだよ」
業術は基本的に俺の使徒しか使わねぇから、それを教えられるのだって俺の使徒に限定される。
となれば、シリウスに俺と戦うことが出来ると吹き込み、その場所として、この世界を選んだのも俺の使徒になるんだよな。
ただ、業術について知ってる神はいるんだから、そいつが教えた可能性も否定できないわけで、結局のところ、何もハッキリとはしていない。
「もう、お喋りは良いだろう? 続きをやろうじゃないか」
シウスが両腕を広げ、悠々と俺の方に近づいてくる。
「転生し、この世界の人間となった以上、僕はシリウス・アークスではなく、シウス・イクサスだ。使徒でない以上、邪神アスラカーズに容赦もする必要はない」
そいつは嬉しいね。本気でやってくれるって言うなら何よりだ。
もともと使徒にするつもりが無かった奴が、こんなにも俺の使徒らしく敵対してきてくれるとか、嬉しくて涙が出ちまいそうだぜ。
本当はシリウスの弟の方を使徒にしたかったんだけど振られちまったから、その弟の方は諦めたけれど、手ぶらで帰るのもつまらないかと思って、その弟に殺されたシリウスを使徒として勧誘したんだが、思っていた以上に良い拾い物だったようだ。
「良いねぇ、本当に良いぜ。俺をぶっ殺したくてたまらないって気概が感じられて凄く良い」
いかにも怪しげな奴の言葉に乗り、この世界で俺に出会えるかも分からないのに転生までして俺を待っていたんだ。
どういう目的であれ、そんなに懸命に俺のことを想っていた奴を好きにならないわけないだろう?
ヤベェなぁ、好きになっちまったぜ。
「そういう奴にはもっと全力を出さねぇとなぁ!」
つまり『顕現』じゃあ駄目だ。その上を出さなければいけない。
ただ。現状ではそれが難しい部分もあり、それを理解しているシウスが俺を嘲笑う。
「全力を出せるほどの余力があるのか?」
正直に言うと厳しい。
呪いで力を出し切れないのに『顕現』を長く続けすぎた。
シウス相手でも俺の手加減の呪いは解けないんで、力は制限されているから出せる力の量にも限度があるのにだ。
『顕現』は発動中は俺の力を消耗し続ける。それは闘気だったり魔力だったり、精神力だったり体力だったり、とにかく色々な力を使って俺は業術を維持しており、そのせいで『駆動』を発動する分の力は心もとない。
ダンジョンでドラゴンと戦った時はテンションや気分の高揚で『駆動』の発動段階まで持っていけたが、シウスとの戦いでは多少、頭を使ったせいで、そこまで気分が高揚していないのも良くない。
だけどな──
「その備えもしてあるんだよ」
俺は小細工が出来ないわけじゃないぜ?
こういう時のための準備はしてある。
「──ところで、話は変わるが、お前のこの世界での親父ってこの城にいるのかい?」
俺の突然の質問を受けて、シウスの瞳に僅かに困惑の色が芽生える。
この状況で何を聞いているんだって言いたいんだろう。俺も別に答えを聞きたいわけじゃないから、気にしなくていい。そもそも、答えを知っているしな。
「実は、俺の仲間が領主を救いにこの城に潜入しているんだよ」
カイルとかリィナちゃんのことね。
あの二人にはギドと領主の救出を任せているっての忘れてないかい? 俺は忘れてたよ。
「それで思うんだが、はたして俺の仲間はこの状況で生きているんだろうか?」
俺は周囲を見回す。
俺とシウスは平然としているが、俺達の周囲は火の海だ。なにせ俺が業術で高熱を放ちながら城のあちこちで戦ってたからな。俺達の周りだけでなく城内はどこもかしこも火の海だろうよ。
壁も床もぶち破り、柱も何本も折っている。そのせいなのか城の何処からか崩れる音も聞こえてくる始末だ。
はたして、こんな城内の状況でカイルたちは生きているんだろうかね?
「何の話をしている?」
さぁ、何の話だろうなぁ。
ただ、俺は思うんだよ。きっとカイルたちは危機的状況にいるだろうし、そうなればもしかしたら神に助けを求めるんじゃないだろうかってね。
その時に助けを求めて祈る神は誰なのか? この世界の神様か? まぁ、カイルたちはそう思って祈るだろう。だけど、その祈りが届いている相手は実の所、違う神なんだよなぁ。
だって、懐にその違う神の像を入れてるんだもん。それに真っ先に祈りが届くのは仕方ないじゃない?
ちなみに、その像ってのは以前にゼティが彫ってリィナちゃんとかに渡した像で、つまりは俺──邪神アスラカーズの像にカイル達は祈りを送り届けていたってことになる。
どんな形であれ俺に祈りを捧げた以上はカイル達は俺の信徒だ。他の奴が違うって言っても俺はそう思う。どさくさ紛れで詐欺臭い? 気にすんなよ、大半の宗教は詐欺で成り立ってるんだからさ。詐欺でも信じる者が救われるならそれでいいじゃない。
「貴様、何をした?」
シウスが俺の変化に気づいてくれたようだ。まぁ、気付くのは当然か。
どんなに少ないとはいえ世界の中に信徒がいる神といない神では力の量はまるっきり違って来るからな。
祈りや信仰を通して、神と人間の間には力を伝達する経路が築かれる。それを通じて神は信徒に加護を授け、代わりに神は信徒の魂から力を吸い上げさせてもらう。
ギブアンドテイクの関係だ。まぁ、大半の神はそんな風にハッキリとは言わねぇけどさ。
「こっちも奥の手を切らせてもらったぜ」
カイル達を騙して俺の信徒にすることで経路を構築し、カイル達の魂から力を分けてもらってる。魂から力を貰うって言っても、カイル達に影響がない程度。
そのため分けてもらう力は僅かだが、それでも魂自体が莫大な資源の塊なんだから、僅かでも充分以上に俺の力を回復し、業術の『駆動』を発動できる状態までに戻すことができる。
「さぁ、ここからだぜ!」
回復した俺の様子を見て、シウスが俺の業術の発動を阻止しようと動き出すが、もう遅い。
シウスの言葉が届くより俺の詠唱が始まる方が速い。
『駆動せよ、我が業。遥かな天に至るため』
詠唱を始めた瞬間、抑えきれない衝動と渇望が、腸を食い破り、世界にぶちまけられる。
『見上げた星の輝きに、地上の人は夢を見た。果てなき旅路がいま始まる』
自分の輪郭が崩れ、世界に対して異物である自分が現れる。だが、それがどうした。その程度のことで俺が足を止めると? 誰も俺の歩む道を止めることはできない。全ての存在から否定されても俺は足を止めない。
俺は星を見た。それが人の目指すべき夢だと知った。そこに至るためには俺はどこまでも進み続けなければならない。
『恐れを振り切り一歩を踏み出せ。勇気を掲げて走りだせ。共に無限へ駆け出そう。世界はお前を待っている』
『天に輝く綺羅星が我らの道をその身で照らす。魂さえも燃料に、全てを燃やし、光となって輝く道を駆け抜けろ』
遮る全てを踏み潰し、俺はこの道をひたすらに進む。その先に目指す星があると信じて。
『我らは流星。地を駆け、やがては天へと至り、燃え尽きる』
これが我が業。
『駆動──星よ耀け、魂に火を点けて』




