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業術戦

 

 業術使いとの戦闘はだいぶ久しぶりだ。

 俺は注意しながらシウスの手足から生えた鎖を見る。鉄のような金属の光沢を帯び、鎖の先端には鉤爪のような形状の刃がついている。

 俺とは違う型の物体型の顕現態だ。それを見て俺はシウスの能力を推測する。業術というのは個人の正確やら何やらが極端に反映される物であるから、鎖が顕現することには何らかの必然性があり、その能力も鎖という物体が持つ性質や意味に近い物となる。

 もっとも物体型の顕現は能力を持ってない方が強い場合も多いんで、能力ばかり警戒するのも良くないんだけどな。つーか、そもそも物体型の顕現の時点で業術としては完成度が低いけど。


「行くぞ」


 シウスが拳を構えながら、俺との距離を一気に詰めてくる。

 速度はさっきまでの数倍の速度だ。業術の発動によって生物の枠をはみ出ている。業術ってのは世界を自分の都合で作り変える術であるから、自分の身体能力だって自分の思い通りに出来る。もっとも顕現アライズの段階では、そこまで自分や世界を都合よく作り変えることは出来ないんだけどな。


 俺は腕を交差させ、シウスの拳を受け止める。

 俺が防ぐと同時にシウスの手足から皮膚を突き破って生えている鎖が生きているかのように動いて俺に襲い掛かる。

 鎖の動きは操っているように見えないから自律型だろう。その時点で、特殊能力を持つ物質型の顕現態だっていうのが分かる。その時点で業術としては最弱の型だ。こういうタイプは突き抜けた性能は持っていない。


「甘いんだよ」


 俺は迫る鎖を全身から闘気を放ち近づけさせない。

 俺の熱と闘気で俺に届かない鎖を無視して、俺はシウスに蹴りを入れる。

 こっちも業術の発動で身体能力は上がっているから防げるような威力じゃない。シウスはガードを固めるが、蹴りの衝撃を防ぎ切れずに吹っ飛んでいき、謁見の間の壁を突き破る。


「おいおい、何処へ行くんだよ」


 俺も壁を突き破ってシウスを追いかけると、シウスは謁見の間を出てすぐの通路に平然と立っていた。いいね、そうじゃなくちゃな。

 俺は闘気の熱で空気は爆発させ、推進力を得ると一気に加速してシウスに迫る。俺の動きに合わせてシウスの手足の鎖が自動で動き、俺を狙って伸びてくる。

 どうやら、鎖は何処までも伸びてくるようだ。ついでにシウスは鎖の重さを感じていないようで、どこまで鎖が伸びてもシウスの身軽さは変わらず、今まで以上の速度で俺に向かって来る。

 俺とシウスは互いに相手に向かって突進し、お互いに防御などするつもりもなく、相手に向けて拳を叩き込む。


 俺の拳がシウスの腹に突き刺さり、シウスの拳が俺の顔面を捉える。

 だが、その直後にダメージは回復する。業術の発動中は傷なんて簡単に治る。もっとも、治せる上限はあるけどさ。


「効いたぜ」


 俺は床を踏みしめ、その場で耐えながら、もう一度の攻撃を繰り出す。

 だいぶ興奮してきてるのか、闘気を帯びた拳が熱で発火する。気づいたけれど、足元の絨毯も燃え上がっているし、その下の石材の床が赤熱化している。

 しょうがねぇよ、楽しくなってきてんだからさ。

 気持ちの高ぶりに応じて闘気や魔力が熱くなるのが俺の業術だから、楽しくなってくりゃ色んな物が燃えるのもしょうがない。簡単に発火点を越えちまうんだ。

 俺は熱い気持ちのまま拳を繰り出そうとするが、俺の腕にシウスの鎖が巻き付き、拳を出させない。

 直後にシウスのジャブが俺の顔面に突き刺さる。

 いいね、気持ちよくなってきちゃうぜ。もっと殴ってくれませんかね。

 俺の気持ちが届いたのか、シウスはジャブから続けてストレートを放つ。俺は防ごうともせずに、その拳を食らって頭が砕け散り、脳味噌が周囲に飛び散るが即座に回復。

 俺が足に力を入れて、その場で堪えるとシウスがもう一度俺をぶっ殺そうと拳を放つが、俺もやられっぱなしでは済ませられない。


「フッ──」


 俺は頭だけを動かして俺に殴りかかるシウスに向けて唾を吐く。

 ただの唾じゃねぇよ。唾液に俺の闘気を混ぜ込んだ、超高温の唾だ。どれくらいの温度かって?

 1000度くらいあるんじゃない? 測ったことないけどさ。


「ひゃははははは」


 俺の唾が目玉に入ったのかシウスは攻撃の手を止めて、眼を押さえてその場でのたうち回る。

 そのザマがどうにも面白くて俺は笑いをこらえきれない。

 すると、それが気に障ったのかシウスの鎖が俺の足にからみついて、俺を転倒させる。


 俺が倒れると同時に起きあがったシウスが手足の鎖を全て俺に巻き付けて、俺の体を拘束すると、俺を近くの壁に滅茶苦茶に叩きつける。だけど残念ながら、その程度じゃ俺にはダメージが無いんだよね。

 俺が十数回叩きつけられた壁がぶっ壊れて、俺は壁の向こう側に吹っ飛ばされる。その時に鎖も解けたので反撃のチャンスだ。

 俺は受け身を取ると同時に駆け出し、一瞬前に突き破った壁を、自分で突き破ると、その勢いのまま壁の向こう側にいたシウスに体当たりを決める。


「はははははは!」


 糞楽しくなってきたぜ!

 俺は体当たりと同時にシウスの体を抱えたまま突き進み、城内の壁を滅茶苦茶にぶち抜いていく。

 シウスの鎖が俺を捕まえようとするが、俺の走る速度が速すぎて中々捕まえられずに、城内の壁を十枚ほどぶち抜くまで、俺は止まらなかった。

 そんでもって止まったのは鎖に止められたわけじゃなく、宝物庫の入り口らしき、鉄扉にぶつかったからだ。鉄の壁にシウスを叩きつけると俺は密着状態からシウスを滅茶苦茶に殴る。俺が殴る度、シウスの背中が押し付けられた鉄扉が陥没していくのが分かる。


「反撃しろ、オラァッ!」


 一方的じゃつまんねぇぞって言った矢先、シウスの鎖が背後から俺をに絡みつき、俺をシウスから引きはがす。俺は力任せに絡みついた鎖を引き千切ろうとするが、その矢先に俺の首に鎖が巻き付いて絞め上げてくる。


「この程度で何とかなると思ってんのか?」


 舐め過ぎだろうと俺が言うと同時にシウスの拳が俺の腹に突き刺さる。

 全然効かねぇ! 全然だ! 気分は最高潮なんだぜ、そんな俺をちょっと殴っただけで止められるかよ!

 俺は、俺の動きを止めようと絡みついている鎖を無視して力任せに腕を動かして、シウスの頭を掴むと、そのまま床に叩きつけた。

 そして、全力で足を一回二回と振り下ろすと、シウスの体が床にめり込む。


「この野郎……」


 シウスがなんか言ったような気がするが、俺は無視してジャンプすると、床にめり込んだシウスに対し、落下の勢いも加えながら両足で踏みつける。ついでに業術の熱で空気を炸裂させた勢いも乗っけるのを忘れずに。

 そうして俺が渾身の力で踏みつけると、その勢いに耐えきれず床が崩れて、シウスともども落下していく。ただし、シウスは俺の踏みつけを直接食らったために、その勢いは一つ下の階に落ちただけでは止まらずに、複数回をぶち抜いてシウスは落ちていった。


「どうした! どうした! そんなもんじゃねぇだろ!」


 鎖を自由に動かすだけがテメェの業術の能力じゃねぇだろ。

 つーか、それだけが能力だったら、もっと強いはずだ。まぁ、そもそもの話、自由に動かせてねぇけどさ。おそらく使い慣れてない武器なんだろうってのが良く分かるぜ。

 今まで、素手以外はマトモに使ったことが無い奴が業術で武器を出したところで使いこなせるわけねぇだろ!


「ほら、早く本気を出せよ。まだまだれんだろ?」


 俺が挑発すると床を突き破って、鎖が真下から俺に襲い掛かってくる。

 シウスが何回まで落ちたかは知らねぇけど、鎖はどこまでも長さを伸ばせるのか、俺を追尾してくる。

 いいね、まだまだる気があるってことだろ。その気持ちには応えなきゃ。


 そう思うと同時に俺の業術の熱量はさらに上昇し、その熱で空気が発火を始める。俺の熱は闘気や魔力であるので、それをコントロールする技術を用いれば、熱もコントロールでき、それを推進力に変えることだってできる。


 足裏に集めた熱を纏った闘気と魔力が空気に反応し、爆発を起こす。

 俺はそれを推進力に飛翔し、追いかけてくる鎖を躱す。

 狭い城内だ。少し飛べば天井にぶつかるが、俺がぶつかった瞬間、天井が俺の熱で溶けるので俺の進む邪魔にはならない。俺を追う鎖も似たようなもので、障害物に何があろうと関係なく、ぶち抜いて俺を追ってくる。


「ははははははは!」


 なかなか楽しい追いかけっこじゃないか!

 空間を縦横無尽に追いかけまわし、逃げ回るとか、なかなか体験できないぜ。

 でも、これで終わりじゃないだろ? 

 十回くらい壁とか天井を抜けて俺は後ろを振り返る。俺の熱にやられて城内は火の海だった。そりゃあそうだ、空気が燃えるんだもん。もっと燃えやすい物は更に早く燃えるよな。

 俺が自分のしでかしたことを理解したその時だった。どこからか不意に声が聞こえてきたのは──


『制限する。我らは等しき高さに立たねばならない』


 それは何らかの詠唱だった。どこの誰がカッコをつけてやがるんだ?

 そう思うと同時に空間が歪み、その歪んだ空間から鎖が現れ、俺の脚に巻き付く。

 避けられなかった? 避けようと思えば避けられそうな気もしたが、おそらくそれは無理だっただろう。

 これは確実に作用する力だと俺の勘が告げており、躱そうとした所で無駄だと判断した俺の直感が甘んじて受けることを選んだ。

 そうして、それを選んだ結果、俺は鎖によって引きずり落とされた。力で抗うことは不可能で、俺は鎖に引っ張られ、俺は宙に浮かんでいた状態から床に叩きつけられ、更に床下へと引っ張られ、城内を床をぶち抜いて下へ下へと引きずり落とされていく。


「同じ高さに立つ気分はどうだ?」


 そうして落ちた先に待っていたのはシウスだった。

 シウスは汚れた衣服を破り捨てて、半裸になって俺の前に立っていた。

 手足からは変わらず、皮膚を突き破る形で鎖が伸びているが、今はそれとは別に脚に鎖が巻き付いている。そして、その鎖の先端は不思議なことに床から生えている状態だった。もっとも、俺の脚に巻き付いている鎖も同じ状態で、床から生えて巻き付いているんだけどな。


 まぁ、シウスについてはこんなもんか。

 さて、この場所はどこだろうか? 確か城のエントランスホールだったような気がするね。まぁ、それはどうでもいいか。今は絶賛炎上中だし、放っておけば燃え落ちるんだから、関係ねぇよな。


「どんな気分かって? 最高に良い気分」


 質問されたから答えてやったぜ。

 久々に回避不可能な攻撃を食らってテンション上がってるからさ。

 ついでに、どういう能力かも想像がついたしな。


「それは良かったな」


 シウスが拳を構えながら俺の方に近づく。

 変わらずボクシングのフットワークだ。鋭く間合いを詰めてくる。

 俺はそれを迎撃するため、右の拳を振り上げるが──


『制限する。我らは右腕を使ってはならない』


 また詠唱が聞こえ、直後に俺の右腕に鎖が巻き付き、動きを封じる。

 向かってくるシウスを見ると、シウスも俺と同様に右腕が鎖で封じられている。だが、これはシウスが起こした現象だ。右腕が使えなくなるのは織り込み済みで動いているのだから、俺より早く動ける──わけねぇだろ!

 俺はシウスの攻撃が届くより先に、シウスの顔面を左の拳で打ち抜く。シウスも左の拳を握りしめていたから、ジャブでも繰り出す気だったんだろうが、遅いんだよなぁ。


「たぶん、俺はお前より、お前の能力が分かってるよ」


 俺がそう言いながら距離を取るために後ろに跳躍すると、足に巻き付いた鎖が引っ張られ、俺を床に叩き落とす。これで検証は終了した。シウスの能力について分析は出来たと思う。


『制限する。我らは離れてはいけない』


 再び詠唱が聞こえてきて、俺とシウスの胴体が一本の鎖でつながる。すると、俺の体がシウスの方に引き寄せられ、無理やり立たせられ、そこにシウスが左の拳で殴りかかってくる。

 鋭く放たれた拳が俺の顔面に突き刺さり、俺の動きが一瞬止まる。直後にシウスのハイキックが俺の頭に叩き込まれる。俺は意識が吹っ飛びそうになるのをこらえると、そこでシウスはローキックを何度も叩き込んでくる。

 けれど、多少食らった程度じゃ俺は倒れない。俺が蹴りを食らいながら手を伸ばすとシウスは──


『制限を解除する』


 その言葉が聞こえた瞬間、シウスと俺の胴体に絡みついていた鎖が消え去り、シウスは後ろに飛び退いて俺から遠ざかろうとする。それで俺から逃げたつもりなんだろう。だけど、それは予想通りなんだよなぁ。

 俺は手を伸ばした体勢のまま、手の先に闘気を集中させ、気弾として撃ち出す。放たれた気弾がシウスに向かって飛んでいくと──


『制限する。我らは遠隔の攻撃ができない』


 詠唱が聞こえると同時に空間を突き破って現れた鎖が俺の気弾を掻き消す。それも予想通りだ。

 俺は気弾を放つと同時に既に駆け出しており、シウスとの距離を詰めている。


 さて、今度はどう制限するんだ?

 詠唱の際に言葉にした行動を制限する能力だってことは確実だ。鎖って形状を取っている時点で、そういう能力になるってことは想像がついていたけどな。形ってのは意味を持つ物だし、鎖のイメージは何かを繋ぎ止めるものであったり、拘束するものであるから、そういうイメージから能力を想像できる。

 物体型の業術の弱さってのは形状から能力を推測されやすいってせいもあるんだよな。


「ちっ」


 シウスは業術の能力を使うこともせずに、苛立たし気な表情で、そのまま迎撃の構えを取る。

 何を制限すればいいか判断に迷ったんだろうな。

 シウスの能力は一方的な物じゃなくシウス自身にも作用する。それはシウスの心の根っこの部分では対等な勝負を望んでいるからだ。業術ってのは心を表す物だからな。

 自分には影響が無く、一方的に相手に影響を与えるって能力にすることも出来るはずなんだが、シウスはそれをしなかった。それをしたくないって気持ちもあったのかもしれないが、そんなに都合よくいかないだろうって思ったんだろうな。

 能力の発動条件を厳しくしないと効果が弱くなるとか思うのは業術を習得したばかりの奴にありがちなんだよな。自分にもデメリットが無いと強力な能力にならないとか、業術に関して、そんなのは思い込みだ。

 どこまでも自己中心的に、どこまでも自分に都合良く、そんな思いが強ければ強いほど、業術は強力になる。


「遅いなぁ!」


 俺は鎖が巻き付いた右腕側に回り込みながら、シウスに飛び掛かる。

 直後にシウスが制限を解除し、俺とシウスの右腕が自由になり、俺の繰り出した蹴りをシウスは右腕で受け止める。

 シウスの能力の強みは制限をかけることと解除することがシウスの好きなタイミングで出来るってことだが、ぶっちゃけ弱いんだよな。

 実の所、俺はシウスと似た能力の奴をこれまでに何十人も倒してるんで、その対応方法なんかも把握しているしさ。


 重要なのはこっちがペースを握り続けることなんだ。

 蹴りを受け止められた俺が即座に右の拳を突き出そうとするとシウスが右腕の使用に制限をかける。けれども、その右腕を出した瞬間に俺は左の拳をシウスの脇腹にねじ込んでいる。

 ダメージを受けたシウスが俺との距離が一定以上離れるように制限すると、俺とシウスの胴体に後ろから鎖が巻き付き、お互いの距離を離すために引っ張ろうとする。


『制限を解除する』


 詠唱が聞こえたのと同じタイミングで俺は気弾をシウスに向けて放つ。

 このタイミングで解除する制限は遠距離攻撃についてだ。だって距離が離れちまったわけだし、その状態で俺と戦うためにはシウスも遠距離攻撃をしなければならないんで、制限を解除する必要がある。

 シウスの四肢から生えた鎖が俺の方に向かって来るより早く俺の気弾がシウスに直撃する。俺達の体に巻き付いている鎖とシウスの手足から生えている鎖は別の用途の物で、手足から生えている方は攻撃用なんだろうな。


「だから遅いって言ってるだろ?」


 俺の気弾が直撃し燃え上がるシウスを見ながら俺は言う。俺の業術によって、俺の気は高熱を帯びているから、当たれば良く燃えるんだよなぁ。


「俺はお前と似たような業術使いと何回も戦っているから、対処法だって分かるんだよ。いやぁ、経験ってのは大きいねぇ」


 焼け焦げたシウスの体が再生する。それと同時に俺は前に出る。

 距離を一定以上取るって制限を解除するのは予測がついていた。シウスは遠距離では分が悪いって判断するだろうからな。その予測通りにシウスは制限を解除するが、予測して動き出していた俺の方が速い。

 俺はシウスが体勢を整えるより先に、間合いを詰め攻撃を繰り出す構えを取ろうとするが──


『制限する。我らは四肢で攻撃できない』


 攻撃を繰り出そうとした瞬間、俺とシウスの四肢に鎖が巻き付き、拳を放とうとしていた俺の腕を押さえつけ、俺の動きを止める。対して、シウスの方は攻撃をしようともしていなかったため、鎖に動きを止められておらず、すぐにでも動けそうな様子であり──


『制限を解除する』


 制限の解除と同時に俺への攻撃に即座に移れる状態であった。だが、シウスの攻撃は俺に届かない。

 なぜなら、シウスが攻撃するより早く、俺の頭突きがシウスの顔面に叩き込まれたからだ。

 四肢で攻撃できないだけで、頭で攻撃するのは有りなんだよなぁ。制限のかけ方を間違えたよなぁ。まぁ、間違えなくても、その時もシウスの次の行動を予測して先手を取っていただろうけどさ。


「俺がお前の動きの先を行けるのも経験の差って奴さ。俺がどういう動きをすれば、お前に俺が望んだとおりの動きをさせられるのかってのも分かるんだよ」


 俺は頭突きを食らってけ反るシウスの鳩尾みぞおちにつま先を蹴り入れる。


「まぁ、必ずしも経験こそが全てってわけじゃないけどさ。本当に経験の差ってのが力の差になるなら、プロ野球とかでルーキー以下の成績になる選手なんかいなくなるわけだしさ。おっと、これは地球人以外には分からないかな?」


 思っていた以上には楽しい相手だったけど、思っていたよりは弱くて、俺のテンションが下降気味になる。

 テンションが落ち込んでくると戦いに集中することが出来なくなってくだらないことを言いたくなってくる。


「才能があれば、経験を上回ることなんて容易いってのは言い過ぎかな? でもまぁ、俺はそう思っているってことだけは知っててくれ。キミが違う考えを持っているなら、それを否定するつもりはないからさ」


 俺の考え方だと、俺の経験を上回ることができない程度の才能しかシウスは持っていないって言っていることになるんだが、そのことは理解しているかな? うん、理解してくれているようで何よりだ。


「こんなに舐めた態度を取られたのは人生で初めてだ」


「初めての体験ってのは楽しいだろ?」


 俺は楽しいって思うんだが、シウスはどうだい?

 シウスも笑っているようなので、楽しいのは間違いないようだな。まぁ、そんなわけはないだろうけどさ。蹴られた鳩尾を押さえて、膝をついている状態が楽しいわけもないよな。


「けれども、そんな態度を取られても仕方ない程度には僕とアンタの力の差は開いているようだ」


 シウスはよろめきつつも立ち上がり、俺に対して不敵な笑みを浮かべる。

 どうやら、まだまだるようだ。いいね、そうでなくちゃな。


「こうなっては僕も奥の手を出すしかないな……」


 シウスの身体から更に闘気と魔力が溢れ出してくる。

 その莫大な量のエネルギーからシウスが何をしようとしているのか、俺は察することが出来る。

 業術を顕現させた状態で俺に勝てないというのなら、その上の段階に至るしかない。シウスもそう考えた上で、未完成と言いながらも使うことにしたんだろう。

 シウスは俺を見据え、詠唱を始める。それは業術の第二段階の詠唱に違いなく──


咆哮せよ(ドライブ)、我が叛逆カルマ──」


 ──顕現したシウスの業が駆動を始める。



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