アッシュ対シウス
他の敵をゼティに任せて、俺はシウスと戦いにイクシオンの街中を城へと向かって進んでいく。
街中の兵士の動きはまだ門の付近にいるゼティの方に向かって流れているようで、少しルートを工夫すれば、兵士達とかち合うこともなく順調に領主の城へと向かうことが出来た。
城に向かって走っていると通りに立ち並ぶ建物の窓から、外の様子を窺っている住人の姿が目に入った。どうやらイクシオンの住人は避難していないようだが、家から出るなとは命令されているようだ。それなら家を巻き込まなければ一般人に被害が出ないだろうし、ゼティもやりやすいだろう。
まぁ、並みの腕の奴が何人いてもゼティには敵わないだろうし、やりやすいも何もないけどな。
数は強さって良く言われるけど、俺らくらいなると本気を出したら雑魚が何億人いようが変わんねぇし。
なので俺がいようがいまいが、ゼティは困らないと思うぜ。むしろ、俺がいない方が良いくらいだ。俺の呪いの影響のせいで味方がいない方が力の制限がなくなるからな。
変な話だけど俺らは2対2000より、1対2000の方が楽だし、もっと言えば1対10000とかの方が力の制限がなくなるから楽に勝てたりするんだよね。
だからまぁ、ゼティは問題無いし、ゼティを置いていったのだって悪い選択じゃなかったと思うんだ。って感じに自己弁護してみたが、どうだろうか?
「ツッコミしてくれる奴がいないのはつまんねぇぜ」
そんなことを考えている内に俺は領主の城の前に辿り着く。
イクシオンの街中が騒ぎになっているせいもあって、誰にも邪魔されずにこの場に辿り着くことが出来た。
いや、シウスが手をまわしてる可能性もあるな。誰にも邪魔されずに俺と戦いたいとか、そんなことを思っている可能性もある。
「だとしたら何よりだぜ」
向こうも戦る気充分で相思相愛とか、たまんねぇなぁ、おい。
俺は期待に胸を膨らませ、城の中に入ろうとすると同時にイクシオンの市街の方から轟音が届く。どうやら、ゼティも派手にやっているようだ。
この調子ならリィナちゃんとカイルも手筈通り、イクシオンの混乱に乗じてギド達を救出するとかもできるだろう。イクサス伯爵に関してはリィナちゃんの判断に任せるけどさ。
「お邪魔しまーす」
俺が城の門をくぐって中に入ってみると、城内に人の気配はあまり感じられなかった。
いなくはないようだが、必要最低限の人数だし、それもメイドとかの使用人で兵士がいるような感じは無いい。
どうやら、誘っているようだ。余計なことはせずに自分のもとに来いってな? 堪え性の無い野郎だよなぁ。
そういう歓迎も嫌いじゃねぇが、ボスの城に来たからには立ちはだかる敵を踏み潰してボス部屋に辿り着くってのも面白いんだがね。でもまぁ、相手がそういうのを望んでいないなら仕方ないよな。
俺はこの間、連れてこられた時に覚えたルートを通って謁見の間へと進んでいく。その間も俺は誰とも会うこともなく、何の邪魔も無く謁見の間へと辿りつく。
謁見の間の大扉は閉じられていたが、扉の向こう側に濃密な気配を感じる。
シウスは間違いなく扉の向こうにおり、それを確信した俺は扉を蹴破り、ゆっくりとした動作で部屋の中へと入っていく。
「ようこそ、邪神アスラカーズ」
部屋の中にはいった俺の目に入ったのは玉座に座るシウスの姿。
金色の髪の精悍な青年が笑みを浮かべて俺を出迎える。
いいね、笑ってるくせに全身に戦意が満ちてやがる。戦る気満々の奴は好きだぜ。
「来たぜ、ぶん殴りにな」
「怖いなぁ、もっと平和的にいかないか? そもそも僕が君たちに何をしたって言うんだ? こんな襲撃を受けるようなことをした覚えがない……いや、キミたちを拉致したりしたな。そのことはすまないと思うが、それにしたって仕返しでこんなことをする必要は無いと思わないか?」
白々しいことを言いやがるぜ。
仕返しのために来たわけじゃないってことはテメェにだって分かってるだろ?
俺達はテメェに話があるから、ここに来たんだよ。
「俺のことを邪神アスラカーズって呼んだ奴に話を聞きに来ないわけはねぇだろ? そうして聞きに来たら、テメェは兵士を使って俺らの行く手を遮りやがる。こいつは怪しくてたまらねぇよな」
俺はシウスに一歩ずつ近づき、俺が近づくのに合わせてシウスも玉座から立ち上がり、俺の方に近づいてくる。
「実際、お前は何者で、どこまで知ってるんだ? 俺達をこの世界に閉じ込めてる奴らの仲間か、それともお前自身が俺達をこの世界に閉じ込めた黒幕なのか?」
聞いたところで答えるわけはねぇと思うけどさ。
「素直に話すと思っているのか? 僕から情報を聞き出したいというなら、殴って聞きだすしかないな」
シウスが羽織っていたマントを放り捨て、構えを取る。
いいね、素直に話されたら面白くなかったから、この展開は願っても無いぜ。
「なるべく殺さないように注意するぜ。話を聞き出さなきゃならないからな」
「弱体化してるのにそんなことが出来るのか? 僕は殺すつもりで行くぞ」
言ってくれるじゃん。じゃあ、俺も多少は本気で行こうか?
シウスの構えに応じて、俺も拳を構える。
俺とシウスは互いに間合いをジリジリと詰め、そして戦闘を始める上で最高の間合いに辿り着くと同時に互いに動き出す。
闘気や魔力で強化した脚力の踏み込みの衝撃によって謁見の間の床が爆発する。
その勢いも乗せて、俺とシウスはお互いに向けて小細工なしの突進を行い、全ての勢いを拳に乗せて放つ。
俺とシウスの拳が激突し、謁見の間に衝撃波が吹き荒れる。
「良いパワーじゃねぇか!」
初撃は互角。相当に鍛えてやがる。
俺が次の一撃を放とうとした矢先、シウスのジャブが俺の顔面を捉える。
とんでもない速さだった。音速を軽く超えているようにも感じるが、実際はどうだろうか。
とにかく受けてばっかりは良くねぇよな。俺は放たれたジャブを手の甲で受け流すと、空いている手でシウスに向けて縦に構えた拳を放つ。
ジャブは横に構えた拳なんで、図らずも逆のスタイルになったわけだが、そんな俺の拳をシウスはボクシングスタイルのガードで防ぎながら、ダッキングで俺の懐に潜り込み、肝臓を狙ったパンチ──リバーブローを放つ。タイミング的に腕で防御することは不可能。となれば、防御する手段はこれしかない。
「ふぅっ!」
発勁によってシウスのパンチが当たる箇所に運動エネルギーを集め、シウスのパンチの衝撃と相殺させる。
その瞬間、生身と生身がぶつかったとは思えないような爆音が轟き、衝撃波が再び部屋の中を奔り、耐えきれずに壁が崩れる。
「チッ」
シウスが再度の攻撃を放とうとするが、次は俺の番だ。
俺の懐に入ったシウスに対し、俺はその場で静かに踏みしめるような震脚を行いながら、拳をシウスの胸元に添える。何をしようとしたのか、察したシウスが咄嗟に後ろに飛び退こうとするが、ちょっと遅い。
「ふっ──」
僅かに息を吐き、そして放つ零距離での崩拳。
大きな動作は用いない。それでも充分な威力を持った拳がその衝撃でシウスを弾き飛ばす。
俗に言うワンインチパンチって奴で、寸勁とも言われる発勁の技法だ。
打撃を食らったシウスが胸元に手を当て、大きく息を吐く。
さっき戦った程度の連中なら一発で仕留められる威力の筈だが、シウスは平気な様子で再びファイティングポーズを取る。
「ウォーミングアップは充分か?」
「勿論。ここから本番だ」
良いね。こいつは楽しくなりそうだ。
俺も身体が暖まって来たし、さぁ本番と行こうか!




