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ゼルティウスの技

 

 騎士達による騎馬突撃。アッシュと並んで、ゼルティウスはそれを迎え撃つ。

 前に立つ相手を踏み潰そうとする馬と、それに騎乗し武器を振り上げる騎士達。ゼルティウスの横に立っていたアッシュは相手の動きに合わせて飛び出し、突撃してくる騎馬相手に臆することなく拳を叩き込んでいた。


 アッシュの動きに僅かに遅らせてゼルティウスも動き出す。

 地を這うような姿勢で駆けだし、その姿勢のまま突進してくる相手に向けて剣を振り、刃で先頭の馬の脚を薙いで転ばせる。

 倒したの最初の一頭だけであるので後続の騎士が馬を突進させながら馬上から槍を突き出して迫ってくるが、ゼルティウスは自分に向けて放たれた数本の槍の穂先を剣の一振りで同時に斬り飛ばす。

 そしてゼルティウスはその場で飛びあがり、馬上の騎士目掛けて剣を振り抜く。鉄の鎧を着た相手に対し、鎧の隙間を狙うようなことはせずにそのまま叩き込む一撃。普通に考えれば、剣は鎧に防がれそうなものだが、そんなことは全く無く、ゼルティウスの剣は鉄の鎧を容易く斬り裂く。


 傍から見れば鉄を斬るなと凄まじい技であるのだが、ゼルティウスにとって現状で使える斬鉄の技は、技と言うほどのものではない。

 アスラカーズの呪いのせいで手加減を強制されているためゼルティウスは、自身が使える技の殆どが使えなくなっている。そのため、技と自信を持って言える斬鉄の剣技は使えず、小細工に頼るしかなかった。


 馬上の騎士を一人斬り捨てたゼルティウスは、背に乗る者がいなくなった馬の背に駆け上がると、その背を足場に他の騎士へと飛びかかり、剣を振る。力も何も込めている様子は無く軽く振っているだけにも見えるが、その度に馬上の騎士達は斬り裂かれ、倒れ落ちていく。


 その理由はゼルティウスの剣にある。といっても、剣の質が良いわけではない。ゼルティウスの剣はこの世界で手に入れた安物である。では何がゼルティウスの剣の威力を増しているかというと、それはゼルティウスが自身の剣に纏わせている闘気にある。

 剣に闘気や魔力を纏わせて強度や切れ味を増すという技術は多くの世界にあり、ゼルティウスが用いているのもその一種。といっても、若干珍しい種類のものではあるが。

 ゼルティウスの用いる技術は剣に闘気を纏わせるだけでなく、纏わせた闘気を通して刃を震わせるという物。それだけ聞くと意味が無さそうに思えるが、その震えが超高速の振動となれば話は変わり、それはゼルティウス科学技術が発達した世界を訪れた際にも目にした高周波ブレードと同じ物となる。

 高速の振動によって物体を切削する高周波ブレードは金属を斬ることも不可能ではなく、ゼルティウスはそれによって騎士たちの鎧を容易く斬り裂いていたのだった。


 ゼルティウスは無言で馬上を跳び移りながら敵を斬り捨てていく。

 ふと、アッシュの方を見ると、アッシュの方も問題なく目の前の敵を叩き伏せているのが見えた。

 とはいえ、本気を出しているようにも見えないので、時間が掛かりそうな様子ではある。


「仕方ないな」


 ゼルティウスは馬上から地面の上に立つ。

 跳び回っていて動きを捉えきれなかった相手が地面に立ったことで、攻撃の機会を得たと思った騎士たちが馬を操りゼルティウスに迫ろうとする。だが、近づこうとした矢先、ゼルティウスの周囲十数メートルの範囲内にいた騎士たちの体が胴から真っ二つに断ち切られた。

 それはゼルティウスが剣に纏わせた闘気を伸ばし、更にそれに刃の鋭さを与えたことによるもので、ゼルティウスは攻撃の範囲を広げ、自身の十数メートル範囲内の相手を斬り捨てる。

 アッシュが数を稼がないのなら自分が数を稼ぐしかないだろうとゼルティウスは思い、容赦のない広範囲攻撃を行うことにしたのだった。


「貴様ぁ!」


 運良く当たらなかった騎士たちが剣を抜き放ち、自分の足でゼルティウスに駆け寄る。馬は先程のゼルティウスの攻撃でやられたようだった。

 ゼルティウスは闘気の刃を元の長さに戻し、近寄ってくる相手に向き直る。ゼルティウスに迫る騎士たちが剣を振り下ろす。真っ先に届いた刃をゼルティウスが軽く受け流すと、別の方向から僅かに遅れて剣が迫ってきたので受け止めて弾く。

 同じように数名の騎士の刃がゼルティウスに襲い掛かるが、ゼルティウスは襲い掛かってくる刃をそよ風のように軽く受け流す。その間、ゼルティウスの姿勢には一瞬の乱れも無い。

 位置はその場から動かず、腰の高さも上下することなく同じ高さでブレず。騎士たちの剣を受け止めても切っ先は決して揺れ動かない。その様子を見て、ゼルティウスに襲い掛かった騎士たちは剣士としての実力を差を理解し、理解した直後に終わる。

 攻める手が止まった瞬間、ゼルティウスの剣が閃き、ゼルティウスを囲んでいた騎士たちはゼルティウスの太刀筋を捉えることも出来ずに斬り捨てられる。


「ゼティ!」


 アッシュの声が聞こえ、ゼルティウスが周囲を見回すと、門の前にいた重装の兵たちがこちらに向かって来るのが見えた。

 ゼルティウスの周囲の敵も既に馬を降りている。小回りの利かない馬上からではアッシュとゼルティウスを捉えられないという判断し、このまま乱戦に持ち込んで数で押し込もうと考えているのだろう。


 どうする? ゼルティウスが癖でアッシュの方を見ると、アッシュは眼差しでゼルティウスにれと応える。命令が出たなら、そうするだけだとゼルティウスはやるべきことを定め、剣を構える。

 手加減の呪いはかかったままだが、幸運なことに敵が多いおかげで若干だが呪いが弱まっている。敵の弱さはともかく数が多いから手加減しなくても良いと呪いが判断したのだろうと思い、ゼルティウスは技を放つことにした。


魔鏖剣まおうけん、一の型……」


 手にした剣を逆手持ちに変え、剣の切っ先を近づく敵の集団に向ける。

 その様は槍投げの構えのようにも見え、剣の技を放つようには見えない。だが、これもゼルティウスの使う剣技の一つ。ゼルティウスが持つ剣の刃に莫大な量の気が集まっていき、そして──


「剣星一迅」


 ゼルティウスは全力で敵の集団に向けて、剣を投擲する。

 放たれた剣は闘気を迸らせ、前進する重装歩兵へと真っ直ぐ飛んでいく。

 相手との距離は二百メートルほど。投げるために作られたわけではない剣を投げて届く距離ではない。しかし、ゼルティウスの投げつけた剣は勢いを失うどころか加速し、流星のような勢いで集団の中心に着弾すると同時に大爆発を引き起こす。

 それは剣が溜め込まれた闘気の炸裂によるものであった。

 剣に纏わせた莫大な量の闘気はゼルティウスの手を離れると同時に、この世界の空気中に漂う魔力や気と反発を起こし、その反発によって加速した剣は敵へと向かい、接触すると同時に剣が纏っていた闘気が暴力的な力となって解き放たれ周囲を吹き飛ばす。

 それがゼルティウスの『剣星一迅』という技だった。


「狙いが甘かったな」


 ゼルティウスは倒した騎士の剣を拝借し、自分の物としながら自分の攻撃の結果を見る。

 投擲した剣が着弾した場所はクレーターとなっているが、範囲自体は大きくなく、向かって来る敵を全滅させるには至っていない。もっとも、戦意を削ぐことは出来ていたが。


「お先に失礼!」


 ゼルティウスが生き残っている敵を見ているとアッシュがゼティの横を駆け抜けて、城門へと走っていく。

 周囲にいた筈の騎士達はゼルティウスの攻撃を見て、呆然としている様子で走り出したアッシュに反応しきれていない。

 しかし、アッシュの動きを見て、何人かがアッシュを追おうとして動き出していたのも事実で、ゼルティウスはアッシュを追いかけようとする騎士たちの行く手を遮るために立ちはだかる。


「まぁ、足止めをする必要があるとも思えないがな」


 ゼティが肩越しに後ろに目をやると、アッシュはゼルティウスの攻撃で崩壊状態の敵集団を無視して、城門へ向けて走っていた。


「お邪魔しますってなぁっ!」


 そう叫びながら、アッシュは腕を大きく振りかぶって、その拳を城門へと叩きつける。

 それで門が壊せるわけが無いと普通に考えれば、そう思う。だが、直後に轟音がゼルティウスの耳に届いたことから、アッシュの拳が門を粉砕したことをゼルティウスは察する。


「後は任せた。俺はシウスをぶっ飛ばしてくるからよ!」


 百メートル以上、離れているはずだが問題なく届くアッシュの声。

 その声を聞いて、ゼルティウスは自分が嵌められたことに気付き──


「お前はここで雑魚の相手をしててくれ! よろしくな!」


 その言葉でアッシュが面倒ごとを全て自分に押し付けるつもりだったことを理解する。

 雑魚の相手はゼルティウスに任せ、自分は一番面白そうな相手とタイマンを張るという、そういう思惑のもとでアッシュはゼルティウスを利用していた。


「まぁ、そちらの方が好都合だがな」


 ゼルティウスはアッシュのように強い相手と戦いたいという願望は持っていない。だから、アッシュが雑魚狩りを自分に任せようと特に思うところはないし、好きにすればいい。

 むしろ、二人で大量の雑魚を相手にしている方が面倒であったので、いなくなってくれて、むしろ助かるくらいだ。

 それは味方が一人以上で戦っている場合だと、手加減の呪いが発動してしまうためで、一人になれば呪いは弱まり、ゼルティウスは更なる技の使用が可能になる。


「お前らはどうだ? 俺が一人になったから勝てるとか思っていないか?」


 だとしたら、大間違いだとゼルティウスは周囲の敵を眺め、そして動き出す。

 当初の予定では一人当たり千人の敵を狩るはずだったのだが、蓋を開けてみれば、ゼルティウスが千人以上を受け持つことになっていた。


 しかしゼルティウスにとってはその程度のことは日常茶飯事。ゼルティウスは気負うようすもなく、自分を取り囲む敵に向けて一歩を踏み出した。





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