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一騎当千×2

 

 俺とゼティはイクシオンへと続く街道を並んで歩いている。

 道を歩いているのは俺達だけで他の人の姿は見えない。まぁ、戦が起こりそうな話になっているんだから、仕方ねぇよ。イクシオンからちょっと離れた場所ではドレガンの軍が野営しているわけだしさ。


「それでどうするつもりなんだ?」


 ゼティが腰に帯びた安物の剣の柄を撫でながら俺に訊ねてくる。


「お前は最近いつもそれだよなぁ。『どうする? どうする?』って聞く前に自分で動くとかしねぇの?」


 ゼティが聞きたいのはイクサス伯爵のことだろうな。だけど、そっちのことは俺達にはどうしようもねぇよ。俺達は俺達でやることがあるわけだし、ギドのついでにリィナちゃんが何とかしてくれるんじゃないか? 

 まぁ、しない可能性もあるけど、そこら辺はリィナちゃんの判断に任せようと思う。

 あんまり一方的にこき使うのも悪いしな。リィナちゃんが自分の得になるように好きに動いてくれれば良いと思う。


「こっちだって好きにやりたいが、そうしたらお前が邪魔するだろ」


「そりゃそうだろ。自由に動くのは良いけれど、その行動が俺の気に入るかどうかは別の問題だろ?」


 好き勝手色々とする許可は出すけど、それが俺にとって面白くなかったりすれば、俺は当然、邪魔するよ。当たり前じゃねぇか。


「どうせ邪魔されるし、口出されるなら最初からお前に従ってた方が面倒が無くていいだろ」


 まぁ、その気持ちは分からなくもない。


「そういうところが無ければ、お前も、もう少し人から好かれるんだろうけどな」


 別にお前らに好かれたいわけじゃないですし、構わねぇよ。

 俺は、俺のことを好きな奴より、俺のことを嫌いな奴の方が好きだからね。

 だから、俺は自分の周りには俺を嫌いな奴を置いておきたいのよ。その方が厄介なことになりそうだしな。


「そういうところだぞ」


 どういう所だよ、詳しく述べてくれませんかねぇ。

 俺が追及しようとすると、ゼティが剣を抜き放つ。

 そんなに追及されたくないことなのか?って、そんなわけはなく、ゼティはその場で剣を振り抜くと、俺達に目掛けて何処からか飛んできた槍のような大きさの矢を叩き落した。


「気づいていたな?」


 さぁ、何のことですかね?

 顔を前に向けるとイクシオンの城壁は目と鼻の先にある。ゼティと話している内にだいぶ近づいていたようだ。城壁の上に備え付けられた弩砲バリスタも見えるぜ。


「次はお前も防げよ」


 仕方ねぇなぁ。

 最初の一発は威嚇のつもりで、ここからが本格的な攻撃が来るだろう。

 城壁のバリスタが俺達の方に向けられ、山なりの射線で槍のような大きさの矢が何本も放たれる。

 射手達は随分と良い腕のようで、続けざまに放たれる十数本の矢の内、数本は俺達のいる場所に飛んでくる。


「こんな気も魔力も乗らねぇ飛び道具で、俺らを殺せるかよ」


 俺とゼティは飛んできた矢を拳と剣で叩き落し、何事もなく城壁に向かって歩き続ける。

 俺達が一歩一歩と近づくにつれて、射手は焦り、狙いが雑になっていく。

 相手が近づいてきているのに逆に当てられなくなるって気分はどうだい? ちょっと聞いてやりたかったが、声は届きそうも無いので思うだけにして、俺達はイクシオンの中に入るための門へと近づいていく。

 イクシオンの門はしっかりと閉じられていたが、俺達が近づくにつれて門の向こう側が慌ただしくなり、雑然とした音が聞こえてくる。


「どうやら、待ち伏せされていたようだな」


 ゼティが門の向こう側の気配を察知して俺に言うと、直後に閉じられていたイクシオンの門が開き、そこから兵士達が駆け出してくる。いや、ちょっと違うか?

 兵士だけじゃねぇな、騎士もだ。金属鎧でガッチガチに身を固めた騎士が馬に乗ってイクシオンから出てきたし、馬に乗ってはいなくとも全身鎧を身に付けた重装兵もいる。

 そいつらが機敏な動きで門から出てくるなり、門を背にして隊列を組んで俺達の行く手を遮る。


「アッシュ・カラーズ!」


 敵の集団を前にして、足を止めた俺達を呼ぶ声が上の方から聞こえてくる。

 俺達が声の方を見ると、城壁の上にギースレインの姿があった。どうやら奴が俺を呼んだようだ。


「シウス様が言っていた通り、ノコノコとやってくるとはなぁ! 兵を揃えて準備していた甲斐があったというものだ!」


「思ったより元気じゃないかギース君! お漏らしまでしちゃった割にはさぁ!」


 俺がギースの言葉に応えると俺達の前に並ぶ兵たちの間からクスクスという笑い声が漏れる。

 あらら、随分と馬鹿にされるようになっちゃって可哀想になぁ。でも、人間ってのは笑われた回数の分だけ強くなれると思うから頑張れ。かくいう俺も人間だった時は良く笑われててさぁ……


「黙れ! 貴様が私に与えた屈辱は死をもって償ってもらう! 目の前の兵を見ろ! その者たちはイクサス伯爵領が誇る精鋭500人だ! 仮にその者たちを倒したところで、1000人以上の兵が残っている。貴様たちに生き残る道などは無い!」


 最高じゃねぇか!

 精鋭だって? 良いねぇ、ぶっ殺される可能性があるくらいじゃないと楽しくねぇぜ。


顕現せよ(アライズ)、我がカルマ。遥かなそらに至るために」


 敵の数が多いんで、雑兵相手でも手加減の必要は無いと俺を縛る呪い(ルール)が判断し業術カルマ・マギアが解放される。俺が業術を使えるってことはゼティも同じ程度の力は使える。


「業術を使えよ」


「知ってて言ってるだろ。俺は業術が苦手なんだ」


 そうだったね、ゼティは業術が使えないんだった。

 使えるようにしとけって言っているのに、一向に使えるようにならねぇからなぁゼティ君は。

 まぁ、業術は性格とかで向き不向きがあるから、仕方ねぇんだけどさ。


「何を話している! この数を前に虚勢を張ったところで無駄だと分かっているだろう。我々に喧嘩を売ったことを後悔して死んで行け!」


 俺は生まれてこの方、喧嘩を売って後悔したことはねぇんだよなぁ。

 おそらく、これから先もねぇけどさ。


「御託は良いから、かかって来いよ。数だけ揃えて出来るのは口喧嘩だけってこともねぇだろ?」


 俺の言葉にギースは怒りで顔を真っ赤に染める。

 どうやら、俺が余裕な顔をしているのがよっぽど気に食わないようだ。

 俺はギースのことが結構好きだけどね。やりくちはともかく必死に生きている感じがして、そういう奴が俺は好きなのよ。


「かかれぇ!」


 ギースの号令に従って騎士が俺とゼティに向けて突撃を開始する。

 土煙を上げながら向かって来る敵に向かって、俺達は聞こえてはいないだろうが、戦の礼に則って名乗りあげようとして──


「伝わらないのは名乗りにならないぞ」


 ゼティに水を差されたので、当初考えていた名乗りを止めて、俺は仕方なく適当に名乗ることにした。


「そこら辺を放浪しているアッシュ・カラーズ」


「アスラカーズ七十二使徒序列七位ゼルティウス」


 テメェ! 一人だけカッコつけてんじゃねぇ! 俺にもカッコつけさせろや!


「そんなことをしている場合じゃないぞ」


 前を見ると武器を構えた騎士たちが傍まで来ていた。

 名乗りは良いや、どうせ聞こえてねぇからな。

 俺は気を取り直して、拳を構える。隣に立つゼティも剣を構え待ち構える。


『おぉぉおぉぉぉぉ!』


 騎士たちの雄叫びが聞こえ、馬を突進させながら騎士たちは武器を振り上げる。

 二人相手だからって手を抜かない、その姿勢は素晴らしいね! 俺達も応えてやらなきゃなぁっ!

 騎馬が俺達を踏み潰そうと眼前に迫り、馬上の騎士が振り上げた武器を振り下ろそうとする。


 さぁ、戦闘開始だ!


 普通に考えりゃ二人相手に完全装備の騎士による集団騎馬突撃とか一方的な結果にしかならないだろう。

 手を抜かなかった騎士たちもそんな結果になると思っていたに違いない。だけど、実際の結果はそうはならなかった。


「うぉらぁっ!」


 俺が先陣を切って突っ込んできた騎士を馬ごと殴り飛ばすと、その衝撃で後続の騎士たちが薙ぎ倒される。

 前を走っていたら騎士たちが倒れるのを見て、それより後ろを走っていた騎士たちが馬の脚を止めると、俺はその隙を見逃さず、高く跳躍し、落下の勢いを乗せて集団の中に突っ込んだ。

 落下と同時に拳を地面に叩きつけると衝撃が発生し、同時に業術の熱が周囲に撒き散らされ、騎士たちは落馬すると同時に火傷する。


「戦争だからなぁ! 今は優しい気分じゃねぇから、普通にぶっ殺すぜ。死ぬのが嫌なら逃げるんだな! 逃げる奴を追って殺す気分でもねぇから、生き残れるぜ?」


 慈悲で生かす時もあるけど、大半は生かしておいた方が楽しいことになるかもなぁって程度の考えで生かしているだけだから、生かしておかなくても良いかなぁってなれば容赦なく殺すぜ、俺はな。

 そのせいで善人は死んで悪人は生きているって時もあるけど、そういうのも仕方ねぇよなぁ! だって気分でやってるだけだからさぁ!


「それでもりたい奴はかかって来いよ! 楽しくはねぇが、苦しまねぇように殺してやるからさ!」


 落馬した騎士達が立ち上がり剣を抜き放って俺に斬りかかってくる。

 上等、上等! 上等だなぁ! ビビらねぇよ、こいつら! 言うだけあるぜ、精鋭だ!

 斬りかかってきた奴の顔面を殴りつけて、体勢を崩し、そいつを蹴飛ばして、他の騎士達にぶつける。


「そいつは熱いぜ?」


 色んな意味でなぁ!

 俺が蹴り飛ばした奴を受け止めた騎士が燃え上がる。蹴飛ばした時に俺の気を纏わせておいたからな。業術で俺の気や魔力は熱を帯びるんで、気を纏わせた奴も熱々ってわけ、熱すぎて発火するくらいにさ。


「貴様!」


 騎士達が剣と……色んな武器を持って四人がかりで俺に襲い掛かってくる。

 いいね! 一人じゃ勝てねぇんだから、皆でかかって来いよ、そういう努力は好きだぜ! 好きになっちまいそうだ!


「はははっ!」


 突き出された槍の穂先を躱して柄を掴むと、持ち主を俺の方に引き寄せそいつの胴体を鎧の上から殴りつける。

 発勁──勁(運動エネルギー)をコントロールする技術を用いて叩き込んだ衝撃は鎧を貫通し、胴体の中に入り込んで心臓に打撃の衝撃が直接伝わり、膝から崩れ落ちる。

 仲間がやられたのを見て、メイスを持った騎士が殴りかかって来たので、腕で受け止める。その際も発勁。全身の動きから生じた運動エネルギーをメイスを受け止めた場所に、メイスを受け止めたのと同じタイミングで集めると、運動エネルギーと打撃の衝撃がぶつかりあい相殺される。

 生身の体で鈍器を平気で受け止められたのに驚いてメイスを持った騎士の動きが止まったので、その隙に足払いをすると、思った以上に勢いがあったせいで、宙を舞ってその場で四回くらい回転して頭から地面に落っこちた。

 大丈夫かい? 無事かどうか聞こうとしたら後ろから戦斧を振り回してきた奴がいたので、振り向いて斧の刃を指で掴み取ると、発勁の技術で力を指に集めて斧の刃を砕き、顔面に掌底を叩き込む。

 色々と勘違いされそうだけど、オカルト的な技じゃないぜ?

 闘気とか普通に使ってるけど発勁はそれとは別の技術だからさ。人間だった時からある程度は使えた技術を人間やめてからの長い時間で磨き上げたから、トンデモ技に見えるだけだよ。


「あぁ……」


 俺に襲い掛かろうとした四人の騎士の最後の一人が剣を手にビビった感じで俺を見てる。

 その間にも他の奴らが態勢を立て直して俺に攻撃しようと近づいてきてるから、放っておくわけにも行かないんだよね。

 俺はビビってる騎士の懐に飛び込むと、震脚──中国武術の技法である足で地面を強く踏みつける動作を行い、それによって勁を生じさせ、脚から腰、腰から肩、肩から肘、そして肘から拳まで勁を淀みなく伝え、騎士の胸へと拳を突き込む。

 崩拳ぽんけんと呼ばれる一撃。その衝撃が鎧を貫き一撃で騎士の命を奪う。


「調子出てきたぜ」


 だいぶ気分が良いぜ。技も問題なく使えるみたいだしな!

 発勁が使えるのはかなり良い。トンデモ技に見えるけど、理屈の上ではそんなに大したことじゃないんだけどね。

 実際の所は生じた勁(運動エネルギー)を狙った場所に上手く伝えるだけの技術だしさ。野球のピッチングと同じさ。

 あれだって投げる時に全身を躍動させて、運動エネルギーを生じさせて、それを指先のボールに上手く乗っけてるだろ?

 あんな感じに全身のパワーをどんな時、どんな状態でも狙った場所に生じさせるのが発勁の基本的な考え方。

 まぁ、俺のはアメリカン中国武術っていう怪しげな武術だから、ちょっと違うのかもしれないけどさ。


「おっと」


 余計なことを考えていたら剣で斬りかかられてので反撃で相手の頭に蹴りを叩き込む。

 良いね、戦う以外の余計なことを考えている場合じゃないってのはさ。

 それでも色々と考えちまうのは俺が集中していないからか? もっと集中するべきか? でも、そうなると業術の熱量がなぁ。周りにいる敵がけるまで気合い入れちゃう? それはそれで面白くないよな。殴ってるのが楽しいんだからさぁ!


「ゼティ!」


 楽しんでるか?って近寄ってきた敵を殴りながら、近くで戦っているだろうゼティに声をかけ、そちらの方を見ると、そこは屍の山だった。

 どうやら、あんまり楽しくないようだけど、まぁ仕方ないよな。アイツはあんまり殺し合いは好きなじゃないからな。


「余所見をするな!」


 じゃあ君を見れば良いのかい?

 俺のことを注意しながらメイスを振り回してきた奴の頭を掴んで地面に叩きつける。

 敵はまだまだいる。それに馬に乗っていた騎士だけじゃなく、歩きの連中も俺達の方に向かってきている。


「やべぇな、お代わりし放題じゃねぇか」


 できれば、もっと強い奴が出てきて欲しいけど戦う相手が尽きないってのは良いよな。

 さぁ、もっと戦おうぜ。でもって、もっと楽しくろうぜ! 





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