アスラの作戦
野営地から少し離れた場所で俺とゼティ、カイルとリィナちゃんは軽く腹に食い物を入れながら、今後の相談をする。
流石にドレガンを殴った後でドレガンの軍の野営地に居座るのは良くねぇってことは分かるんで、こうして、ちょっと離れた場所にいるわけ。
「信じらんない!」
パンを噛みちぎりながらリィナちゃんが俺に文句を言う。
ゼティの手伝いについていかせたけれど無事に帰れてよかったね。
「戻って来てみれば、代官を殴って追い出されただなんて何を考えてんの!?」
さぁなぁ、何を考えて生きているかって聞かれてもちょっと難しい話だな。果たして、俺は何を考えて生きているんだろうか?
「ギド達を助けに行くのはいつなんですか?」
カイル君も俺に文句があるようで睨みつけてくる。そっちの方も心配するなよ、なんとかしてやるからさ。
俺の知り合いだから野営地にいられなくなっちまったんだし、そもそもドレガンを頼るってこともできないカイル君を助けてやらなきゃな。
「どうするんだ?」
ゼティが野営地から失敬してきた食い物に手を付けながら、俺に尋ねる。
食い物はザワークラウトみたいな漬け物に干し肉とパンって組み合わせで、それが適当に盛り付けられた皿が俺の前にも置いてある。
「どうするって、荷物を取ってこないと」
リィナちゃんが口を挟んできたんだけど、なんだろうね。
そういえば、リィナちゃんは随分と身軽だな。もっと荷物とか入れる鞄を持っていた方が良いと思うぜ?
そんな感じのことをリィナちゃにアドバイスすると──
「持ってたんだよ! お前のせいで置きっぱなし」
あぁそういうことね。
俺が野営地から慌てて逃げ出してきたから、リィナちゃんの荷物が置きっぱなしになってしまったのか。
まぁ、良いじゃねぇか。人間、身軽が一番だぜ? 俺とゼティを見てみろよ、着の身着のままで、荷物なんか何一つ持ってねぇぜ。ラザロスの町のそばのテントとか生活用品も放ってきたしな。
俺とゼティはメシを食わなくても良いし、寝なくても平気だから、そんなに荷物が無くても良いんだよ。その気になれば皮脂とか垢とかも制御できるから服だって着た切り雀でも、そんなに汚れないしな。
「お前と一緒にすんな!」
怖いなぁ、反抗期かよ。
こういう時は黙ってメシでも食ってよう。
女の子と下手に口喧嘩をすると状況を悪化させるだけだしな。
見ろよ、ゼティもおとなしくメシ食ってるぜ。カイル君は食事に手がつかない様子だけだどさ。
「いや、早く今後の方針を言えよ」
「なんだよ、俺待ちなのか?」
「お師匠様! こいつの言う通りにするのは私は嫌です!」
「早くギド達を助けに行きましょうよ!」
色々と混沌としてきているが、まぁアレだ──
「とりあえずシウスをぶっ飛ばしに行こうぜ」
「何で!?」
リィナちゃんが真っ先に反応したけど、俺の方がどうして「何で」って言ったのか聞きたいくらいだぜ。
この土地の問題は脇に置いといても、シウスは俺とゼティのことを知っていたようだし、色々と怪しいから、ぶん殴って話を聞こうと思うんだけど──
「何かおかしいことを言ったか?」
言っていないよな? ゼティは問題ないって感じで頷いているんだけど、どうですかねリィナちゃん。
俺はリィナちゃんにゼティの方を見るように促すとリィナちゃんの顔が絶望に染まっていく。そんなに辛いなら、色々と身の振り方を考えたほうが良いと思うんだけどな。
「ぶっ飛ばしに行くって、一体どうやって?」
カイル君が食いついてきた。どうやら興味があるようだ。
興味があるというなら教えてしんぜよう。
「俺とゼティで真正面からぶん殴りにいく」
「は?」という顔になるカイル君とリィナちゃん。
そんな顔をするなよ、俺とゼティだけじゃなくキミらにも活躍の場所は用意してあるからさ。
「俺達が真正面で戦っている間に二人でギド達を助けに行ってこい」
更に「は?」という顔になる二人。
そんなにおかしいことを言ったか?
「え、なんで私も行くことになってんの?」
なんで行かないことになってるのか、そっちの方が分かんねぇんだけど。
俺らとリィナちゃんは、もうマブダチじゃん。マブダチなんだから助け合わねぇとな。
「なんだよ、もしかして嫌なのか?」
カイル君だけじゃ、領主の城に忍び込んで仲間たちを助けるのは無理そうだし、リィナちゃんが助けてくれないと困ると思うんだよ、それにリィナちゃんも困ると思うぜ?
だって、リィナちゃんって密偵か何かだろ? 手助けしてくれないなら、それをゼティにバラしちゃうかもしれないなぁ。
正式に密偵かどうかは分からないけど、俺の勘がそう言っているんだよなぁ。ゼティの監視とかをしてたんじゃない? ゼティはリィナちゃんを冒険者として働いていた時にできた、只の取り巻きだって言ってたけど、その割には色々と動きが機敏だと俺は思うね。
ゼティがベーメン村で姿を消して俺の所にやって来た時にリィナちゃんだけはすぐにゼティに追いついた。他の取り巻き連中の姿は全然見ないのにね。
それとギースレインにカイルたちが捕まった時だって一人だけ逃げのびていたし、それ以外に青蛇を捕まえる手伝いもしてくれた時点で、普通の人って言うのは無理じゃねぇかな。毒を取り扱う犯罪組織ってだけで簡単に推理できる時点で色々と怪しいよな。
「リィナちゃんはカイルの手伝いをするのは嫌か。そうなると俺はゼティに色々と相談しなきゃなぁ」
何を相談するかは決めてないけど、何を相談しようかなぁ。
「ちっ、分かったわよ。カイル君のお仲間を助け出しに行けばいいんでしょ」
「そういうこと、じゃなよろしく頼むね」
「死ね!」
本当にムカつくなら自力で殺す努力をしようぜ?
死ねって言った程度じゃ人間は死なない……こともないな。死ねって言っただけで相手を殺せる奴は結構いるしな。
「なんだか話がとんでもないことになってきているんですが、ちょっと質問良いですか?」
「どうぞ、カイル君」
「真正面からぶん殴りに行くって言ってましたし、それで騒ぎを起こすと言っていたと思うんですけど、相手がどれくらいいるか分かってます? 騒ぎになる前に二人がやられて終わりなような気もするんですが?」
うーん、それはあるかもな。でも数次第な気もするぜ。
「ちなみにイクシオンに詰めている兵士の数ってどんくらい?」
「2000はいるんじゃないかと」
2000人かぁ。2000を俺とゼティで何とかする、それはまぁ……
「余裕じゃないか」
どう思いますゼティさん?
「俺は一つの戦場で1億人までなら斬ったことがある」
「俺は62億人」
俺の方が多いぜ。つまり俺の勝ちぃっ! イエーイっ!
「冗談を言うのはやめてください! 僕の仲間の命がかかっているんですよ!」
「冗談なんか言ってないって。俺らは本気だぜ?」
色々と言いたいことがあるみたいだけど、議論はもう良いだろ?
「さぁ、行こうぜ」
シウスをぶっ飛ばしに行こうじゃねぇか。
「今から!?」
今以外にいつ行くって言うんだよ。
イクシオン側はまだ戦いが終わったと思ってねぇから、戦闘準備は整えてくれてるぜ?
ドレガンの率いる兵と戦うための本気モードって奴だ。そいつらと戦わねぇでどうすんだよ。
もしかして、戦いが終わったと思って油断している相手と戦えって言うのか? そんな相手となんか戦いたくないぜ? 俺は本気の連中と戦りたいんだからさ。
「いや、今はマズいですって、本当に! というか本気で二人で乗り込むつもりですか!?」
「馬鹿野郎、お前らも乗り込むんだよ! あ、お前らは乗り込むんじゃなくて忍び込むんだった」
俺らで2対2000をやるからお前らはコッソリ忍び込めばいいんだから楽だろ?
「やっぱり無理だと思うんですけど……」
うるせぇ、テメェの仲間だろ。テメェが積極的になって助けに行くんだよ!
仮に失敗しても仲間と一緒に死ぬだけなんだから、心配すんなよ。お前らの魂は俺が預かっといてやるから、あの世で再会できるからさ。
ほら、見ろよカイル君。文句を言っているのはキミだけだぜ? リィナちゃんは絶望顔でも立ち上がってるし、ゼティは普段通りだぜ? グダグダ言っているのはテメェだけなんだから、覚悟を決めやがれ!
「おいおい、何を騒いでいるんだ? 遠くからでもキミたちの声が聞こえてくるぞ」
俺がカイル君を無理やり立たせようとした矢先、背後から声がかけられる。
人が来る気配は感じていたので俺は特に驚くことも無く声の方を振り向くと、そこにいたのは金髪碧眼の美少女と、その侍女だった。確か数日前に会った──
「久しぶりでもないな灰色」
俺のことを灰色野郎とか呼んだ錆び女だ。錆び女って言っても錆びているわけではなく、自分の事を錆びって言っていただけだけどな。
どうしてここにいるんだって聞いたところで、偶然通りがかっただけだと言われるだけだろうから、わざわざ聞くことはしない。
「ラスティーナ……」
リィナちゃんが錆び女の名前らしきものを口にするが、この場にいる男連中は誰もピンと来ない。
その言葉に反応したのは呼ばれた当人とその侍女だけで、錆び女はリィナちゃんに視線を向ける。
「なるほど、多少の事情通もいるのか」
リィナちゃんはその視線に殺気のこもった眼差しを返す。すると、それを遮るようにラスティーナの侍女が主を守るために前に出る。
その間、俺も含めて状況が分からない男性陣は傍観しているだけだった。これはちょっと情けねぇな。
「やめろ」
ラスティーナが止めると侍女は下がり、リィナちゃんも殺気を抑える。
どうやら色々とあるようだが、今はあんまり興味がねぇな。
俺が興味ない感じで、女性陣のやりとりを眺めていると、ラスティーナが物騒なのはそこまでと手を叩き、話を変えてくる。
「ところで、話が聞こえたのだが、シウスの所に乗り込むそうだな」
「うん」
素直に頷いたのは隠しても仕方ないし、言っても困らないからだ。話を聞かれているのは間違いない。けれどもラスティーナがどういう立場の人間かは知らねぇが、俺達を止められるわけでもないしな。
すると、ラスティーナは笑みを浮かべ喜びを顔に出して俺達に言うのだった。
「それは好都合だ。乗り込むついでに私からも頼みがあるのだが━━」
どんな頼みだよ。
俺が、そう聞くより先にラスティーナは言う。俺達の都合は無視してるパターンですね。俺も良くやるんで分かります。
「イクサス伯爵の身柄を生死を問わず確保してきてほしい」
……どういうわけかヤバそうな話が絶え間なく転がり込んで来やがるぜ。まったくたまらねぇなぁ。俺にとっては最高の世界だぜ、この世界はよ




