ひえー怖い
アウルム王国の至宝と言われるほどの美貌を持つ、全ての異世界を含めた上では顔面偏差値55くらいのラスティーナ姫は俺を見るなり──
「ゴミクズ、クソ虫、カス、チンカス、バカ、アホ、マヌケ、死ね、死ね、死ね!」
後半は死ねばっかりだね。
ワンパターン過ぎてつまんねぇけど、とりあえず反応はしてやんないとさ。
「ひえー、怖すぎぃ! すいませんでした! 許してください!」
おっと、ティーカップが飛んで来たんで優しく受け止めておこう。
「殺してやる!」
更に刃物を持ち出してきたんで、とりあえず振り下ろされたナイフの刃をつまみとる。
「なんか用があるって聞いたから来たんだけど」
「誰が! 忍び込めと言った!」
言われてないね。
そう言えば、王城内に警報が鳴り響いている。
侵入者がいたら鳴る魔道具だろうか。俺は道具に興味が無いから良く分からんね。
「貴様の行いでどれだけの人間の首が飛ぶと思っている!」
「何百人は無理だし、数十人かな? まぁ、確実に首が飛ぶ人に他の人の責任まで被せて十数人程度に収めるんじゃない?」
首が飛ぶ人は物理的に飛ぶんだろうなぁ。
首切りはゼティが上手だから、ゼティに頼んだら良いんじゃなかろうか。
痛みも何も無く逝けると思う。その後の魂に関しては俺に任せて貰えば何とでもしてやるよ。
「貴様は何も責任を感じないのか」
「責任を感じるほど、首ちょんぱ、される人のことを知らないので」
数字のカウントの話をしてるだけでしょ?
責任を感じて欲しいなら、キミがそいつらのことを今この場で全て教えてくれれば良い。
それが出来ない時点でキミも、俺のせいで死ぬ奴らを書類上の出来事として処理するつもりなんだろ?
見てりゃ分かるんだよなぁ。この出来事もラスティーナは利用としてるってことがさ。
……なんか、どいつもこいつも俺の事を馬鹿だと思ってるようだけど、どっかで言った気もするが生憎と俺は人間時代は学業の成績は優等生だったんだよね。
日本の首都の名前が冠されている大学はどこの学部も余裕だったし、海外の大学も全て間違いなく合格したレベルだし、バイトで何回か替え玉になってやったこともある。
ちなみに作者の気持ちを答える問題は地球上の誰よりも得意です。
「……まぁ、とりあえず。楽しい気分にはなってるから、キミのお願いの一つくらいは聞いてやってもいいよ」
「王都の治安を壊滅的な状態にしておいて一つだけか」
「俺がケチだと本気で思ってるなら、今後は仲良くできないと思うぜ」
脅しのつもりはないよ。
俺の知ってる奴の中には、同じ流れで『このケチクソ野郎がぁ! 二つくらいよこせやぁ!』とキレた奴もいる。
文句を言って良いんだよ。不満があるなら声をあげろ。その声を聞き届けられないほど狭量のつもりはないぜ。
そんで、もしも、聞き届けられなかったなら、俺の情けなさを嗤って、世界に広めればいい。俺は雑魚だと思われるのが我慢ならないからね。そんなことをされると思ったら、思わず言うことを聞いちゃうかも。
……ちなみにあんまり調子に乗る奴がいたら、その世界を消し飛ばすけどさ。
忘れられると困るんだけど、俺は何百、何千も異世界を生み出せるんだよね。
そんな俺からすると世界一つ一つにはこだわりが無いんだよ。俺がこだわるのはそれぞれの世界に生まれる、俺を楽しませる個体だけ、極論それ以外はどうでも良い。
もっとも、そこまで無慈悲にはなれないのが困ったところなんだけどさ。
「で、何をしてほしいんだい?」
俺は、ラスティーナに『お願い』を訊ねた。
別に何でもいいぜ? 人殺しは好きじゃないからやりたくないけど、半殺しにするくらいなら構わないし、盗みも脅しも得意分野だからやってるよ。
「……考える時間を貰っても?」
「構わんよ。権利の失効日は無いんでね。いつでも、好きな時に俺に『お願い』すればいい」
俺ってば、なんて心が広いのかしら。
キミもそう思うだろ? まぁ、睨んでるし、思ってないようだね。
ラスティーナは俺を親の仇を見るように睨みつけながら、部屋のソファに腰をおろす。
さて、城内に響いていた魔道具の警報の音も鳴りやんだ。
「──なぜ、大司教を襲った?」
少し冷静になったようだ。
まぁ、こっちが本題だったんだろうけどね。
「襲っちゃまずかったのかい?」
「質問を質問で返すな」
お互いに問いを繰り返すことで問題の本質を探っていくのも良いと思わない?
でも、ラスティーナはそういうのは嫌いのようだね。
「俺よりキミの方がシルヴァリオを始末したいように見えるけどね」
俺は肩を竦めてわざとらしくおどけてみせる。
「アウルム王国と白神教会は良好な関係を築いている。王都で教会の大司教が襲われたなどという事態はあってはならない」
「良好な関係を築いていても、それを維持したいかどうかは別じゃない? そもそも良好ってなんだろうね。国家レベルの大組織同士の良好な関係ってのは戦争してなければそれだけで十分に満たせるような気もするけどね」
ラスティーナの俺を見る眼差しが更に鋭くなる。
視線が刃となって突き刺さるなら、俺は今頃、ハリネズミみたいな有様だろうね。
「王都を見て回ったんだけどさぁ。白神教会の連中、随分と好き勝手やってるね。キミとしてはそういう連中は面白くないんじゃない? 街の中の様子がアレだと、色々と厄介な話も押し付けられてるんじゃないかな?」
「貴様には関係ない」
「関係ないから好き勝手に話をさせてもらってるんだけど?」
関係ないんだから、邪魔をしないでくれると嬉しいね。
おっと、キミのお部屋でやってるのはマズいか。そこはスマンね。
「ま、話を戻すなら、俺がシルヴァリオを襲ったのはアイツと喧嘩をしたかったからってだけだよ」
「喧嘩だと?」
「アイツは強そうだったから喧嘩を売ったのさ。だけど、逃げられてしまってね。俺はこれから王都の中をほっつき歩いてあの野郎を探そうと思っているんだ」
ラスティーナの瞳に僅かに思案の色が浮かぶ。
どうするのが利益になるだろうか考えているんだろうね。
「……それは容認できない」
ラスティーナが鋭い目で俺を見る。
「今はってだけでしょ。キミがいつ頃シルヴァリオに死んで欲しいのかは察しがつくよ」
「改めて言っておくが、王国と教会は良好な関係を築いている」
「それも今はって言葉が頭につくでしょ?」
白神教会はあっちこっちで偉そうにしてるみたいだし、不満を抱えている国とかもあるんじゃないだろうか? いろんな国のお偉いさんたちも集まれば愚痴を言いあうってこともありそうだよね。
おっと、そういえば今度、魔族の軍勢を撃退したことの戦勝祝いとかをアウルム王国でやるそうじゃないか。
良いね、王都ではお祭りとかやりそうだし、楽しそうだ。でも、お祝いしてたら、お酒の勢いでとんでもないことを言ってしまいそうだし、酒の席でマズい約束をしてしまうかもね。いやぁ、恐ろしいぜ。
「アウルム王国は教会を害そうとする輩を許さない」
「そりゃ怖い。じゃあ、キミとも戦わないといけないかな?」
それはそれで望む所だぜ。敵は多ければ多いほどいいからね。
「それが嫌ならば、よく考えて行動することだ」
まるで、俺が何も考えていないみたいな言い方だね。
俺はいつも色々と考えて生きてるってのに。
「脅しかけてるつもりかい? うわぁ、怖いなぁ。それじゃあ、よく考えて動かなくちゃ」
わざとらしく言うとラスティーナが顔をしかめる。
何かお小言でも飛んでくるかな? そう思った矢先だった──
「お休みのところ、失礼いたします。ラスティーナ殿下」
部屋の扉が外からノックされ、ラスティーナの侍女の声が聞こえてきた。
その瞬間、ラスティーナは真っ当な王女の顔になる。
やだねぇ、俺的には澄ました顔より、俺の事をぶっ殺したいって顔をしてる方が好きなんだけど。
「テオバルト殿下がお見えです」
おっと、ここに来て聞いたことのない名前。
誰ですか?って視線をラスティーナに向けるとラスティーナは小声で──
「私の婚約者候補の一人だ。レイディアント王国の王子で……待て、何をしている?」
何をしているって、服を脱いでるんだけど?
俺はおもむろに上半身裸になると、扉の方に向かって歩き出した。
「待て、何をするつもりだ」
「いや、こうした方が面白いかなと」
婚約者の女の子の部屋に来たら、上半身裸の男が扉を開けてきたとか、すごいサプライズじゃない?
色々と想像するだろうし、そもそもとんでもないスキャンダルだよね。ヤベェ、トラブルの匂いしかしなくて、興奮してきたぜ。
「何も面白くない! やめろ!」
別に惚れてる相手でもないだろ?
キミが慌ててるのは政治的な問題があるだけでしょ?
キミが好きな相手に誤解されたくないっていうなら俺は絶対にやらないけど、そうじゃなきゃ俺はやる。俺はそういう男だ。
「悪いね、すぐ開けるよ」
ラスティーナが慌ててソファから立ち上がるが、悲しいことに俺の方が素早い。
俺は扉に手をかけ、扉の向こうにいるテオバルト殿下に俺の裸を見せつけてやろうとして、そして──
「あ──?」
扉に手をかけた瞬間、扉を突き破り、何者かの拳が俺の胴体をブチ抜いた。
一発で心臓を粉砕され、俺は即死──次の瞬間に蘇生。
俺は反撃しようとするが、それよりも早く扉が吹っ飛ばされ俺の体も吹き飛んだ。
「礼儀がなってねぇなぁ」
攻撃を受けた瞬間に感じた気配。そして──
「それは失礼した。ならば、改めて礼儀正しく挨拶をしてやる」
聞こえてきたのは聞き覚えのある声。声の主が部屋の中に飛び込んでくる。
俺は全ての内力を防御に回し、防御の構えを取った。だが、声の主が放った拳は──
「死ね」
全力で防御をしたのにも関わらず、拳を受けた瞬間、そのあまりの威力によって俺の上半身が消し飛び、トマトが弾けたように、鮮血が室内に飛び散った。
そして当然、即死した俺は復活し、俺は俺を殺した相手を見る。
感じた気配、聞き覚えのある声、とんでもない威力の拳、そして見知った姿。
俺を殺し、部屋の中に佇むそいつの名は──
「ルクセリオ・エル・バヴェル」
使徒の序列八位、使徒の中で最高の攻撃力を持ち、使徒の中で最強の業術使い。
「礼儀として挨拶ついでに殺してやったわけだが何か不満でもあるのか?」
「ねぇよ」
挨拶の度に殺されるとか殺伐としすぎ?
そうでもねぇよ。俺は嬉しいね。俺を殺せるくらい強いままだってのが分かればそれでいい。
「な、なにをされているのですかルクセリオ殿! ここは城内です!」
「やめろ、アッシュ! 状況を考えろ!」
部屋の外から品の良い顔立ちの少年が部屋に飛び込んでくる。おそらく、こいつがテオバルト王子だろう。さて、俺のパトロンの御嬢さんも叫んでいるが、何を慌てているのか。
俺とこいつは上司と部下の関係だぜ? よそ様には分からねぇ身内のコミュニケーションがあるんだから気にすんなよ。
「黙れ」
おっと、ルクセリオがテオバルト君の顔面に手の甲を軽く当てる。
裏拳だったら、顔面が吹っ飛んで即死していることを考えたら、相当に優しいぜ。
しかし、こいつってレイディアント王国の食客とかじゃなかったっけ?
王子に酷いことしてるよなぁ。
「乱暴な奴だなぁ。穏やかに行こうぜ?」
言いながら、俺は腰に差した刀に手を伸ばす。
ルクセリオも拳を構えており──
「己は二度とツラを見せるなと言ったはずだ」
「見せたらマズいみたいだね」
「あぁ、言ってはいなかったが、次に顔を見せたら殺すと言うつもりだった」
じゃあ、俺を殺すのかな。
うーん…………いいね!
「キミがどんだけ本気か知らねぇけど、殺し合いをしないとおさまらないみたいだ。いいね、いいね、望む所だぜ」
「私の部屋だぞ!」
ラスティーナが叫んでるが、もう止めらんねぇよ。
偶然で出会っただけでも、気分次第で殺し合いになる。それが俺と俺の使徒の関係さ。
さぁ、お話はここまで、俺が気に食わないなら、俺と戦ろうぜ?ぶっ殺してやるからさ。
さぁ、喧嘩をしよう。互いに難癖つけ合って殺し合おうじゃないか。




