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悪名高き男

 

「はぁ、ミスったなぁ」


 結局、俺はシルヴァリオを逃がしてしまった。

 斬り飛ばしたシルヴァリオの首を探しにいったものの、その首は見つからなかった。おそらく誰かが持ち去ったんだろう。

 俺もそうだが、首を刎ねたくらいじゃ殺し切れないのが困るんだよね。残機が残ってりゃいくらでも復活するわけだし、首を持ち去られて俺の追跡できる範囲の外で復活されたらどうしようもない。


「王都から逃げ出したとは思わねぇから焦る話でもねぇんだけどさ」


 あの野郎は準備が済んだら俺を倒せるみたいなことを言っていたし、王都で機会を狙ってるんじゃないだろうか?

 そう考えると、別に俺の方から仕掛けなくても良い気がするね。ただ、それって相手の思惑に乗ってる感じがして嫌じゃない? すくなくとも俺は嫌だね。

 誰かの思惑に乗って生きるのは俺の生き方じゃない。誰かの思惑に乗らなかった結果、俺自身が損をするとしても誰かの敷いたレールに乗っかっていくのは御免だぜ。


 いつだって俺自身を支配できるのは俺だけ。

 そんでもって、いつだって俺が状況をコントロールする側だ。


「そういうわけで、俺はキミらのお誘いに乗るのは断るぜ」


 さて、ここで話は変わるが、俺が今いる場所は王都のとある酒場。

 革袋にいっぱいの金貨を渡して店主に買ってきてもらった高い酒を、教会から盗んできた杯に注いで俺は飲んでいた。


 そんな俺の周りには完全武装の兵士達。

 そいつらは剣や槍を構え殺気立った様子で酒場のカウンター席にいる俺を取り囲んでいた。

 こんな奴らがいたらお客さんなんか寄り付かないよね。なので、酒場の中に客は誰もいない。


「どなた様からのお誘いなのかは知らねぇけど、俺はお招きにあずかるより、勝手にお邪魔するのが好きなんだよね」


 だから、キミらのやってることは無駄だから帰って良いよ。

 そう言おうとした矢先、酒場の中に更なる客。


「千客万来、繁盛してて良いお店だね」


 俺はカウンター下に隠れている店主に話しかけたが、店主は何も言わずに震えている。

 ま、酒場の客じゃなくて、俺への客だしね。


「アッシュ・カラーズだな!」


「違いますぅ。ゼルティウスですぅ」


「嘘を吐くな!」


「さーせん、アッシュ・カラーズです」


 なんだか楽しくなって「あははは」と声をあげて笑ってしまう。

 馬鹿らしいぜ、なんもかんも。いやいや、楽しいよ、うん。

 グイっとお酒を飲んでしまうくらい楽しい。


 おっと、舐めすぎた?

 槍の穂先が目の前に突きつけられてしまったぜ。


「ところで、キミらはどなた?」


 俺は目の前に突きつけられた槍の穂先を指先でずらしながら訊ねる。

 おっと、答えなくていいや。


「真っ先に俺の所に来たのは王都の衛兵かな? 騒ぎを起こしてる奴がいるって聞いて来た感じ。で、次が教会勤めの騎士かな? まぁ、大司教とりあって、首を刎ねたしな」


 俺の言葉を聞いて、俺を取り囲んでいた兵士が俺の事をドン引きした目で見る。


「大司教閣下は御健在です」


「そりゃ良かった。じゃあ、そのうちぶっ殺しに行くって伝えといてくれよ」


 カウンターの下に隠れている店主が俺のことを見る目が狂人を見る目になる。

 まぁ、殺害予告をしてりゃ、そういう目にもなるわな。


「でもさぁ、御健在なら俺の所に来る必要はなくない? 俺と大司教が喧嘩をしてた事実を認めることにならない?」


 俺の問いに答えることもなく教会勤めの騎士達は剣を抜き放ち、衛兵たちと一緒に俺を取り囲む。


「我々は貴方を連行するように命令されているだけです」


 シルヴァリオがそういう命令するとは思えないけどね。

 さて、俺を囲んでいた先客はどうするのかね。


「待ってくれ! こいつは王都の治安を乱したのだ! まずは我々がコイツの身柄を預からせてもらう」


 衛兵の隊長が教会の騎士に訴える。

 けれども、教会の騎士は取り合う様子も見せず──


「いいえ、この男は教会が身柄を預かります」


 モテモテで困っちまうぜ。


「俺が魅力的なのは分かるけど──私のために争わないで! 喧嘩は駄目よ!」


 あぁ、ウケる。あははは。

 ふざけた言い方をした瞬間、俺に全ての殺気が向けられる。


 そうそう、そうだよ。

 俺を蚊帳の外にしないでくれ、いつだって俺は俺が中心じゃなきゃ嫌なんだ。

 俺の敵同士の潰し合いなんか、俺は嫌だぜ?

 俺の敵は、俺だけを見て、俺だけに挑んでくれなきゃ、俺は嫌なんだよ。

 とはいえ、まだまだ敵が足りないね。


「──ここにアッシュ・カラーズという男はいるか!」


 酒場の入り口を壊す勢いで鎧を纏った騎士の集団が飛び込んできた。

 さて、今度は──


「アウルム王家の近衛騎士かな?」


 装備の豪奢さで俺は判断する。

 俺の言葉を聞いてギョッとしたのは衛兵と教会勤めの騎士達。

 俺はそいつらに聞かせるように──


「実はこの国の王子をぶちのめしたみたいでさ」


 俺を取り囲んでいた連中が、みんなして「コイツ何やってんの?」って言いたげな顔になる。

 ちなみに逃げ遅れた酒場の店主はカウンターの下で失神していた。

 うーん、このままだと店主が巻き添えを食いそう。それは可哀想だね。


「この店は満席みたいだし、外でお話をしようか」


 俺は革袋いっぱいの金貨を床に転がっている店主のそばに放り投げた。

 ラスティーナから借りた金なんで、惜しむことなく人にあげられるぜ。


 王都の衛兵、教会の騎士、王家の近衛騎士。

 そいつらに囲まれたまま、俺は酒場の外に出る。


「王子殿下が貴様に出頭を求めている」


 俺はキミのところの王子に用は無いんだけどね。


「もう一回、殴ってほしいってお願いなら、本職の人を呼んだ方が良いよ。俺はこの国の王子の性癖に付き合う趣味は無いからさ」


 近衛騎士の人は俺の言葉を聞いてもすぐに反応を示すことができない。

 だが、やがて俺の言った意味を察したのか、顔を真っ赤にしながら──


「無礼者が!」


「おいおい、被虐趣味マゾヒズムが悪いと言ったわけじゃないぜ? 俺は個人の趣味嗜好に口を挟むような、お行儀の悪い真似はするつもりはないって。ただ、やっぱり専門の人に殴られたほうが良いと思うんだよ。王子様だからって、気にすんなよ。被虐趣味マゾヒズムは一般性癖だぜ」


 俺に会うってことは俺に殴られるってことだよ?

 そんなの進んでやるって被虐趣味以外の何があるんだよ。

 俺は人を痛めつけて喜ぶような趣味嗜好はないし専門性も持ってないんだよ。それなら、本職の人にやってもらう方が良くないかい?


「この場で殺してやる!」


「近衛騎士の方はお熱いこったね。熱血は嫌いじゃないけど、順番を守らないのは良くないね」


 俺は衛兵と教会の騎士を見る。

 最初は俺を連行すると息巻いていた連中が、俺を見て「コイツは関わるとマズい奴かもしれない」って眼差しで見てくる。


「順番的には殺すってのは最後だよね。殺したら話は聞けないわけだし、まずは連行するって奴がまともじゃない?」


 どう思うか訊ねたが、その答えを遮るように騎兵の迫る音が周囲を埋め尽くす。

 今度はなんだろうね。まぁ、想像はつく。


「実は色んな貴族の人たちもぶちのめしちゃったんだ」


 新たに現れたのは貴族の私兵たち。

 それも一つの家ではなく、いくつもの家の貴族が抱える私兵。


「困るぜ。みんな俺のこと好きすぎだろ」


 王都の衛兵、教会の騎士、王家の近衛騎士、貴族の私兵。

 そいつらがみんな、俺を求めて俺を取り囲んでくる。


「傾国の美姫になった気分だぜ。もっとも、お姫さまだったら、劣情と贈り物を向けられるんだろうけどね」


 俺が向けられるのは殺気と武器だけ。でも、それが良い。

 王都の大通りに俺を殺したい奴が集まってくるって気持ちが良いぜ。


「──!? 集まれ! アッシュ・カラーズだ! あのクソ野郎がここにいる!」


「手の空いているものをすぐに集めろ! 奴だけは殺す!」


 おっと、野次馬の中で俺のことを知ってる奴が、俺を見つけて殺気立つ。

 冒険者だったり、魔術師だったり、剣士だったり、まぁ色々いるね。


 いやぁ、この世界に来てからありとあらゆる奴に喧嘩売ってきた甲斐がある。

 この世界の全ての人間が俺の敵になったようだぜ。


 敵が増えるのを嘆くことは無い。

 それはつまり戦う相手が増えることであるし、倒してもいい相手が増えるってことだからね。 

男子家だんしいえずれば七人の敵あり』そういう諺もあるだろ?

 男ってのは敵がいて一人前なのさ。まぁ、積極的に敵を作れって話ではないんだけどさ。


「俺をぶっ殺したいのかい? じゃあろう! でも、俺は簡単に殺られるつもりはないぜ? 全力で俺に挑め! 本気でれ! 数を頼みでも何でも良いから、俺を殺して見せろ!」


 熱くなって来たぜ。敵は何人だろう?

 通りに溢れているし、百人じゃきかねぇか!

 どいつもこいつも俺に対して本気マジの目を向けてきやがる。

 こうじゃなきゃなぁ。戦うなら、こういう連中と戦わなきゃつまらねぇ、こいつらみたいに必死な奴が俺は大好きだ!


「──待て! 待て! 何をしているんだ、貴様ら!」


 白馬に乗った騎士が俺と俺を取り囲んでいる連中の間に割って入る。

 なに? 審判でもしてくれるのかい? いいね。そういうのがあってもいい。

 違う? じゃあ死ねよ。俺らはもう殺し合う雰囲気なんだぜ? 

 こいつらは俺は憎い。憎いから殺したい。俺はこいつらが憎くないけど、戦いたい。

 オーケー、ニーズが一致。Win-Win、ウィンウィンだよ。

 需要と供給のマッチング、誰も俺達を止められない。


「我々はラスティーナ殿下に仕える者だ! みな、落ち着け! 王都を戦場にするつもりか!」


 白馬に乗った騎士が叫ぶが誰も聞きやしねぇ。

 俺に恨みを持ってる奴や、俺の首を取ると見返りが貰える奴が興奮した眼差しで俺を見てくる。


「アッシュ・カラーズ殿! ラスティーナ様がお呼びです! どうか我々と共に王城へ!」


 何を言ってるのかねぇ、このお坊ちゃんは。

 俺のことをお探しだっていうなら、来るのがおそうございますぜ。

 つーか、そもそも──


「俺は自分が行きたくなったら、行くってラスティーナに言ってるんだよなぁ!」


 赤ちゃんじゃねぇんだから、誰かに連れていかれなくても自分の足で行くさ。

 そんでもって、今は行けないぜ。

 何故って? そんなの決まってるだろ。こいつらの俺をぶっ殺したいって想いに応えてやんのが最優先だからさ。


「さぁ、ろうぜ! 全員、ぶちのめしてやる!」





 ──それから数十分後。


「俺に用があるって?」


 俺はアウルム王国の王城──正確に言えばラスティーナの部屋にいた。

 そんな俺に対してラスティーナが放った第一声はというと──


「このゴミクズが!」


 お姫様の言葉じゃねぇなぁ、

 品が無くて涙が出るぜ。


 ──ま、王都を戦場同然にしてしまったことに文句がでるのは当然だけどね。







自画自賛のつもりはないけど、主人公の「頭のおかしさ」と「アクの強さ」では「小説家になろう」の中でも半分より上の方に来たのではないかという今日この頃。


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