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逃がさない男

 

 シルヴァリオ・ゴールドの居場所はすぐに分かった。

 つーか、顔と名前と住所と職場が分かってりゃ、すぐに見つけられるっての。

 個人情報の取り扱いには気をつけよう。


 シルヴァリオが大司教として働いていると聞いた大聖堂は地下でカジノを開いていたようでシルヴァリオはそこの支配人オーナーもしているらしい。

 信者という字を繋げて儲かるとはよく言ったもんだね。宗教と金儲けは切っても切れない間柄らしい。まぁ、教会で賭場を開いているってのは、なかなか聞かないけどね。

 いや、でも寺銭てらせんって言葉もあるし、日本ではお寺の境内に賭場を開いていたこともあるし、珍しくは無いのかな。


 それはともかく、大聖堂の地下にあったシルヴァリオのカジノはとても立派なもので、そこの客には一目見てお偉いさんと分かる人がチラホラと。

 そういう人たちに喧嘩を売って回るのも悪くは無いんだけど、今日の俺の狙いはシルヴァリオ一人。つまみ食いは控えることにして、俺は客に紛れ込む。


 普段の様子から誤解されがちだけど、俺は潜入工作ステルスプレイの方が得意なんだぜ?

 大っぴらに暴れまわる方が好きなんだけどね。まぁ、好きと得意は別のものだからさ。

 つーか、ステルスプレイが苦手だったら、人間時代に大暴れなんて出来ないって気付いてほしいね。

 魔法とかの無い21世紀の地球で、単独犯のテロリストとして世界中に指名手配されるくらいまで悪事を働くには隠密行動ができなきゃ無理だろ?


 俺は客に紛れ込むとシルヴァリオが姿を見せるまで待つ。

 すると、ほどなくしてシルヴァリオがホールに姿を現した。

 シルヴァリオは客に声をかけると、やがてホールの中央に立ち、カジノの客全員に対して挨拶をしようとする。


 ぶっ殺すなら、どのタイミングが良いだろうか?

 そんなことを考えながらシルヴァリオを眺めていた俺はそこが狙うべきところだと直感した。

 衆人環視の場。誰もが俺の姿を見ている。逃げ場はない。


 うーん、最高だぜ。ここで殺すしかない!

 そう思った瞬間には俺は反射的に紛れ込んでいた客たちの中から跳躍し、シルヴァリオの背後に降り立っていた。顔も何も隠してないけど関係ない。つーか、そんなことは最初から考えていない。


「ここは神の目も届かぬ──」


 油断しているボケが無防備な背中を晒している。

 神の目も届かぬ? 何を言っているんだろうね?

 あぁ、確かに神の目は届いてないね。でも──


「残念だけど、邪神おれの目は届いたぜ」


 俺はシルヴァリオの背中を刀で貫いた。

 致命傷の手応えだ。シルヴァリオはそれでようやく俺の存在に気づいたようで、何かを言おうとしたが、あまり聞く気も無いんで、背中を蹴飛ばした。その勢いで刺さっていた刀が引き抜かれ、シルヴァリオが床を転がっていく。


「もうアンタは終わりや」


 ようやくといった感じでシルヴァリオが立ち上がり、俺を見て言う。

 それ以外にも何か言っていた気がするが、どうでも良いかな。どれもこれも俺には関係ない話さ。

 つーか、こいつも勘違いしてやがるなぁ。


 俺が終わり? 望む所だぜ。

 こちとら、終わりを求めて生きてんだぜ?

 終わりだっていうなら、この上なくありがたいね。まぁ、俺の望んでいる終わりとキミの言う終わりは違うようだけどね。


「この、イカレ野郎が!」


 シルヴァリオとゴチャゴチャ話をしたけど、まぁ内容はどうでも良いよね。

 結局の所、俺にとって大事なのは言葉よりも命のやり取りなんで、言葉なんて薄っぺらいものでのコミュニケーションなんて気にも留めない。


「俺が正気かはともかく、さっさとろうぜ?」


 せっかく会いに来てやったんだからさぁ。

 キミも準備はしてたんだろ? だからろうじゃないか。


 けれども、シルヴァリオは俺の提案には乗らず、というか俺の言葉を聞くこともなく俺に背を向けて逃げ去って行った。


「逃げんなよぉ」


 シルヴァリオ追いかけようとすると、カジノの客が護衛と一緒に立ちふさがってきた。

 誰も相手がいなけりゃ遊んでやっても良いんだけどね。今はシルヴァリオって御馳走があるんで、つまみ食いはする気が無いから、立ちふさがる奴は問答無用でぶちのめして進む。

 途中で王子だとかいう肩書きの奴をぶん殴ったけど、それだってどうでも良いことだよな。


 シルヴァリオはけっこう必死で逃げている。

 俺を殺す準備をしておくみたいな話じゃなかっただろうか?

 それなのにあのザマはなんだろうか? 焦らしプレイか何か?

 だったら、素敵だね。たっぷり期待させて、それ以上のものをお見舞いしてくれるとか、そういう感じなら、逃げてもいいぜ?


 俺はしっかりと追いかけてやるからさ。

 とはいえ、追いかけっこも飽きるし、時間と場所の制限はつけないとね。


「貴様……何が目的だ……」


 俺のパンチをくらって歯と鼻がへし折れたハンサム君がシルヴァリオを追いかけようとした俺の足を床にへばりついた状態で掴んできた。

 確か、王子とか言われていたような。まぁ、どうでも良いよね。


 すまんけど、俺はキミに興味が無いのだ。

 キミが本当にこの国の王子だったとしても、だからどうしたのかって感じ。

 王子だったら、この国を敵に回すことになるけど、結局その程度のことだしね。


「邪魔しないでくれるかな」


 俺は石ころを蹴飛ばすように王子さまの顎先につま先をぶつける。

 すると、王子の意識は簡単に途切れる。


 うーん、ちょっとだけ時間を取られてしまったぞ。

 仕方ないなぁ、俺は意識の無い王子と、王子と一緒にいた偉そうな奴の襟首を掴んで引きずり、シルヴァリオを追いかける。

 このままだと逃げられてしまうかも。そんなことを考えながら、地上へ向かう階段を上っていると、ほどなくして、外の光が見えてくる。


 もう、地上だ。さて、どうしたものだろうか。

 俺は王子たちを引きずったまま地上へ出ると、すぐさまシルヴァリオの姿を探す。

 そして、ちょうど人ごみに紛れようとして動き出したシルヴァリオを見つけ──


「シルヴァリオ君、遊びましょ!」


 ──王子と呼ばれた男をシルヴァリオに向かって投げつけた。

 地面に水平に真っ直ぐ飛んでいった王子だけれど、俺のねらいが良くなかったのか、シルヴァリオには当たらずに落ちて、シルヴァリオの横の地面を転がっていく。


 そこで、ようやく観念したのか、シルヴァリオは俺の方へと向き直る。

 それでもゴチャゴチャ言ってくるが、もう俺は会話に興味が無いモード。

 とはいえ、俺がぶん投げた方が王子ではなかったってことだけは、シルヴァリオの言葉から分かった。

 そういえば、もう一人引きずっていたけど、これが王子か? でも、だから?


「どうでもいいから、そういうの。そんなことより、戦ろうぜ? 今すぐにさぁ!」


 シルヴァリオにぶん投げる球として引きずってきた王子だけど、もういらないからポイ。


 俺は代わりに刀を抜き放つ。

 同時にシルヴァリオも戦闘の構えを取り、それを合図にして俺は駆け出した。

 問答無用、情け無用で一撃必殺、これが俺スタイル。


 走り出した俺の動きに合わせて、シルヴァリオの袖口から無数の小銭が零れ落ち、それがシルヴァリオの左手に収まった。

 その動作を捉えた俺は即座に紅衣べにごろもを取り出し、マントの大きさまで広げると、その端を握りしめ紅い布を振り抜いた。


 直後、シルヴァリオは左手に握った小銭を俺に向かって投擲。それは散弾銃の威力でもって俺に襲い掛かるが、俺が振るった紅衣のマントがそれらを受け止める。


 とはいえ、防御行動のせいで、一瞬だけ俺の動きが止まる。

 そこを狙い、シルヴァリオは右手で銀貨を弾いて撃ち出す。

 小銭の散弾に対して、今度は銀貨のライフル弾といったところだろうか。

 俺は刀を振るって、銀貨弾を弾き飛ばす。刀を使わなければ防げない威力だ。


「チマチマとやるのが好きなのかい?」


 遠くから相手を撃ち殺すのがお好み?

 俺は嫌いだね。だから、キミのやり方には付き合わないよ。

 俺は銀貨弾を防ぐと同時に、躊躇なく前へと踏み出した。


 その直後だった、一歩踏み出したと同時に俺の足元が爆発し、俺の体が吹っ飛んだ。

 吹っ飛んでいく最中、俺は地面に埋まっていた一枚の金貨が俺と同じように吹っ飛んでいくのが目に入った。おそらく、シルヴァリオが金貨を地面に埋めておいて爆発させたんだろう。


 さて、吹っ飛ばされたことで、俺とシルヴァリオの距離が開いたかというとそうじゃない。

 そもそも、俺はシルヴァリオがこういうことをすると予想していたので、事前に吹っ飛んだ時のことを考えており、実際に爆発で吹っ飛ばされた俺はその勢いをシルヴァリオの方に向け、そちらの方へと飛んでいた。


 俺は空中で体を翻し、シルヴァリオの方へと飛ばされながら、刀を振り抜く。

 同時にシルヴァリオは懐から取り出した紙幣を右手の指先に挟み、振り抜いた。

 俺の刀とシルヴァリオの金が激突し、鍔ぜり合う。


「良い業術だなぁ! ただの千円札を俺の刀と打ち合えるほど強化できるんだもんなぁ!」


「アホか、金ってのは大量に流通してるものの方が強いんやで」


 拮抗状態から俺とシルヴァリオは互いに刃を引き、瞬時に態勢を立て直すと、刃を翻し、相手に向かって振り抜いた。俺の刀とシルヴァリオの金がぶつかり合い、今度は互いの刃が弾かれる。けれど、俺もシルヴァリオも即座に武器を切り返し、相手に向かって振るう。そして、再度の激突。互いの武器と武器が弾き合う。


「──二流とは言えないが、一流半って所かな?」


 幾度の打ち合いを経て、俺はシルヴァリオの評価を決める。

 呟きの最中にも俺は刀を振るい、シルヴァリオは俺の刀を紙幣の刃で受け流す。

 俺は勢いを殺された刃を即座に翻し、再び振るうとシルヴァリオも同じようにして受け流す。


「段々と守勢に回ることが多くなってきたね」


 俺の攻めを防ぎ切れなくなってきたシルヴァリオの口から舌打ちが漏れる。

 この程度じゃないだろう。そう思いながら、俺は刀を振るうと、その刃もシルヴァリオに受け流される──と同時にシルヴァリオは至近距離から空いていた左の指先で銀貨の弾を撃ち出した。刀の間合いでの戦闘の最中に不意の銃撃をするようなもの。シルヴァリオの場合、指で弾くだけで済むのだから、相手の不意を突くのは容易い。


 ──とはいえ、そういうのが来るだろうなと思っていた俺は回避行動を取る用意も出来ていた。

 もっとも、ここで回避しようと後ろに下がると、それこそシルヴァリオの狙いに嵌まりそうなんで、俺はあえて前に出る。

 銀貨の弾は俺の頭を狙っており、俺はそれを首を振って躱すと、そのまま刀を振るうことも難しいゼロ距離へ踏み込む。そして、首を振った勢いのまま、頭をシルヴァリオの顔面に叩きつけた。


 頭突きをくらって体勢が崩れたシルヴァリオは、接近戦を避けるために後ろに跳び、同時に俺に向かって紙幣を投げつけてくる。

 銀貨の弾と同じように紙幣の刃も刀を使わなければ防げないだろう。けれど、俺は防御を考えず、後退するシルヴァリオに向かって、刀を投げつけた。


 その行動は予想外だったのか、シルヴァリオの表情にわずかに驚きが浮かぶ。

 俺の投げた刀はシルヴァリオの胸元に向かって真っ直ぐ飛び、シルヴァリオの投げた紙幣はそれよりも早く俺に届き、俺の肩口を切り裂いていた。対して、俺の刀はというと──


 刃が迫る寸前、シルヴァリオは、懐から大量の紙幣を取り出しばら撒く。すると、紙幣が宙を舞い、シルヴァリオの守る壁となり、俺の刀を弾き飛ばした。


「得物を捨てるとは判断を誤ったな」


 俺から距離を取ったシルヴァリオが俺に金貨の弾を向けてくる。


「そうでもないよ」


 俺は指を軽く動かす。すると弾き飛ばされ、中を舞っていた俺の刀が急に方向を変え、シルヴァリオの胸元へ吸い寄せられるように突き刺さった。

 それでもシルヴァリオは体勢を崩さず、俺に金貨の弾を向け、撃ち出そうとする。けれど、俺が指を動かすと、その手が斬り落とされ、撃つことは不可能となる。


「やっぱ、遠距離型の相手と戦るのはつまんねぇな。間合いが開くから、内力の張りが甘くなりやすいし、それはつまり──」


 俺が指を動かすと、シルヴァリオの首にうっすらと紅い線が浮かびあがり、そこから血が滴り落ちる。

 けれども、そこまで。手とは違い、斬り落とすまでには至らない。


「内力の張りが甘いと防御力が低くなるから効くんだけどね」


 シルヴァリオは残っている左手で首に巻き付いているものを引き千切った。

 それは紅い糸であり、その糸の端は俺の指に巻き付いていた。


「──紅糸こうし、それは俺の紅衣から引き抜いた糸さ」


 俺はハンカチサイズまで小さくした紅衣から糸を一本引き抜く。

 すると、その糸は元々の紅衣と同じ性質を持ち、俺の意思に従って伸びていく。


「アンタがそんな小細工をするとは思わんかった」


「馬鹿を言うなよ。小手先、小細工、俺は何でも得意だぜ」


 俺は伸ばした糸を放り捨てる。

 その動作すら、シルヴァリオの警戒を誘う。


「こういうのも色々と使って、楽しんでいかないとね」


「楽しいのはそっちだけやろ」


 シルヴァリオは胸に刀が刺さったままの状態で立ち上がり、俺を見る。

 ……少し周囲が騒がしくなって来たね。まぁ、真昼間に街のど真ん中で殺し合いをしてるんだから、騒ぎにはなるか。騒がしくなってきたけど、邪魔は入ってないし、問題は無いかな。


 シルヴァリオは無事な左手を俺に向ける。金貨の弾を構え、射撃の準備をする。

 体の再生をしている様子が無いってことはダメージの回復よりも残機の消耗を軽減する方が良いって判断なんだろう。


「……キミの業術はかねが『力』を持つってルールなのかな?」


 俺が指を動かすと放り捨てた糸が動き出し、宙を舞ってシルヴァリオの方へと向かう。

 すると、シルヴァリオは攻撃を中断し、回避行動に移る。


「金が銃や爆弾、ナイフの代わりになったりするのは面白いね。とはいえ──」


 俺は逃げようとしたシルヴァリオの動きを先読みし、距離を詰めている。

 既に踏み込めば拳の届く間合いだ。さて、どうするだろうか?

 そう思った矢先、シルヴァリオは俺に斬り落とされた右手を再生させ、そちらの手で前に踏み出した俺を殴りつけてきた。


「おっと」


 でもまぁ、単純な殴り合いだったら、俺の方が技量が上。

 俺は突き出された拳を掌で叩き落とし、反撃にシルヴァリオの脇腹に右の拳を叩き込む。

 体がくの字に折れ曲がるがシルヴァリオは左手を俺に向けて突き出してきたので、俺はその手首を掴んで即座にへし折る。直後、あらぬ方向へと曲がった手の先から金貨の弾が撃ち出されるが、当然、俺には当たらない。


「この──」


 シルヴァリオが何とか右手を振るうが、その手が届くより先に俺の下段蹴りがシルヴァリオの体勢を崩し、続けて俺の拳がシルヴァリオの顔面を捉えた。


「このまま終わらねぇよな?」


 俺はシルヴァリオの胸に突き刺さったままだった刀の柄を掴むと、刺さった状態のまま刀を真上に振り上げた。その結果、胸から脳天まで、真っ二つ引き裂かれるシルヴァリオ。

 それを見て、周囲から悲鳴が起きる。


「もうちょっとマジになってくれてもいいんだぜ?」


 俺は死体になったシルヴァリオを蹴飛ばしながら言う。

 死体は地面を転がると、光の粒子となって消え、直後に無傷のシルヴァリオが俺の前に姿を現す。

 その表情は俺にウンザリとしているのがハッキリと分かり、その顔でシルヴァリオは──


取引開始ドライブ、我がカルマ金貨玉条きんかぎょくじょう万民之従ばんみんこれにしたがう──」


 俺に対して業術の詠唱を始める。


「──支配の話をしよう。太古、人は自然に支配されていた。そして神に支配され、王に支配され、法に支配され、そして今、世界は金に支配されている──」


 さて、シルヴァリオも少し本気。であるならば、俺も本気を出さないとね。

 さぁ、続けようぜ。



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