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アイ ライク トラブル

 

 シルヴァリオと楽しく殺し合いをした俺ことアッシュ・カラーズ。

 どうせあの野郎は王都にいるだろうし、さっさと乗り込んでぶっ殺しにいこうぜと思っていたわけだが──


「話は聞いたぞ」


 宿屋に戻るとラスティーナが仁王立ちで俺を出迎えた。

 出迎えご苦労。熱いコーヒーを一杯もらおうか? コーヒーが済んだら夕食にしたいね。

 戦闘が終わったばかりなので野趣に溢れるジビエがいい。そうだな、鹿肉のローストにしよう。

 ソースは赤ワイン……いや、コクと深みが欲しいから、マデラ酒かマルサラの方が良いね。マデラとかマルサラは無い? じゃあ、ポートワインみたいな酒精強化ワインを使えば良いよ。そんでもってバターをたっぷり使って……


「ミルフィを投げとばしたそうだな?」


「そんなことあったかな?」


 俺の視線が宿屋の受付近くに向かうと、そこには泣いているミルフィの姿があった。

 うーん、キミも妹を大事にする気持ちがあるんだね。素晴らしいね。


「それとシルヴァリオ・ゴールドに会ったとも聞いた」


「あぁ、楽しくぶっ殺し合ったぜ? アイツの事は好きになれそうだ」


 好きになりそうって俺の言葉を聞いてラスティーナは目を細める。

 あまり良い感じではなさそうだ。でも、俺はラスティーナのご機嫌を取るために生きているのではないので、気にしない。


「シルヴァリオ・ゴールドは白神教会の大司教だ」


「本人から聞いたよ」


「要注意人物だ」


 だろうね。で?


「殺して欲しかったのかい?」


「そこまでは言っていない」


 言ったも同然だと思うけどね。


「奴は私が国内の巡察に出る直前に王都に赴任してきた。初対面から怪しげな輩だと思ったが、いま現在、王都の上流階級は奴に掌握されているという報告も届いている」


 ラスティーナは苛立たし気だ。


「俺にシルヴァリオをぶっ殺してほしいって言うなら、頼む必要はないぜ? 既に戦う予定があるからね」


 ラスティーナの気持ちを慮って言うとラスティーナは苦々し気な表情を浮かべる。

 あぁ、簡単に始末されると困る事情があるんだね。


「奴の始末はしかるべき時にしかるべき場でしかるべき手段で行う」


「ひゅ~、カァッコイイねぇ。ただ、俺の経験で言うとキミみたいに「いつか」って言ってる奴の大半は何もやらないんだけどね。「いつか」ってのは今でも良いんじゃない? 場も手段も後で全て片付いた後でキレイに整えりゃいいと俺は思うし、大事なのは殺る気になった時に殺ることだと思うけどな」


「貴様が取り逃がしたんだろうが」


 それを言われると辛いね。お口チャックしとこうか?

 余計なことを言って責められるの嫌だしね。


「そういえば、辺境伯の屋敷でキミの身柄を欲しがってたのってシルヴァリオだと思うんだよね」


 取引があって屋敷にいたみたいだし、その取引がラスティーナの身柄ってのはありえるよね。

 あぁ、ちなみにお口チャックはしませんでした。だって、別にラスティーナに責められたって何も感じないしね。


「なぜ、奴が私を欲している?」


「そんなの知らんよ。キミに惚れてんじゃないの?」


 ラスティーナはツラは良いからね。

 俺の嫁さんと比べると……そもそも比べようが無いほど差があるね。

 まぁ、この世界では五本の指に入るくらいには美人のラスティーナにシルヴァリオが懸想したってのも無くは無い話なんじゃない? でもまぁ、俺は違うと思うけどね。


 ラスティーナは俺の軽口に反応するそぶりは見せず、何かを考え込んでいた。

 そして、独り言のような呟きが口から漏れる。


「やはり、王選の儀の関係か……」


「王様を選ぶ儀式でもあるのかい?」


 俺の地獄耳はどんな呟きも逃さない。

 ラスティーナの呟きから何があるのか推理して口に出す。


「知っているのか?」


「いいや知らないよ。ただ、言葉の響きからそういうものなんじゃないかなぁって思っただけ」


 ラスティーナが俺を見て「コイツめんどくせぇ」って顔になる。

 最高だね。俺は人から厄介だとか面倒な相手だって思われるのが好きだからさ。


「俺の推理だと、今度、王様を選ぶ儀式みたいなものがあって、キミが候補に挙がってる。だけど、シルヴァリオはキミに王様になられたら困るから拉致ってしまおうと考えてるんじゃないかな? でもって、辺境伯とかはキミ以外の王族の派閥に属していて、自分達の派閥の頭を王様にしたいから、キミを排除したい。シルヴァリオと辺境伯は利害関係の一致で協力してるんだと俺は思うね」


 さて、どうだろうか?


「……貴様はこの国の出身だったか?」


「違うけど、なんとなく予想はつくよ。人間の思考なんて、いつの時代もそんなに変わんねぇからさ」


 それは良いことでもあるし悪いことでもあるよね。

 人間の考え方がそんなに変わらないから、俺達は1000年以上前の人が書いた物語とかにも共感できるけど、何度だって同じ間違いを繰り返す。

 でもまぁ、それが人間の愛おしさであると思わないとね。それさえ許せなくなったら、人間が嫌になりつづけるだけだよ。


「貴様の推理は殆どが私と同じだ。しかし、一つ間違いがある」


 へぇ、何かな。

 キミが王位継承権を放棄しているとか言うなよ。そこら辺も予想してるからな。


「私は王位継承権を放棄している」


「そんなのキミが言っているだけじゃないか」


 こういう場合、当人の言葉なんて誰も信じないって。

 アイドルのオーディションで「家族が勝手に応募したんです」って言った時くらい誰も信じねぇよ。


「ま、なんでもいいけどね。とりあえず敵がハッキリして俺は気分がいいよ」


 何か言いたげなラスティーナを無視して俺は敵を明確にする。


「まずはシルヴァリオ・ゴールド。そんでもって、キミを始末しようと考えているアウルム王国の王族かな」


 ラスティーナには世話になってるし、ラスティーナに危害を加えようとしている奴らを倒すくらいはやってやろうじゃないか。


「自分が白神教会とアウルム王国を敵に回そうとしていることを分かっているのか?」


 宗教団体と一国を敵に回すんだぞって心配しているのかい?


「そいつは最高だね。国を敵に回して戦うのって最高に気持ちいいんだぜ?」


 地球で人間として生きていた時の話だけど、議会の中継で名指しで俺をぶっ殺せと全会一致で決定する瞬間とか、俺を殺すために特別予算を組んだとかいうニュースを見たら絶頂するぜ?

 毎日のニュースで俺の事を見つけ次第、通報するか殺害してくださいってなったら、もうたまんねぇよ。

 何億人もの人間が本気マジで俺に向かってくる、その時の俺の喜びといったらないね。


「貴様に常識的なことを聞いた私が間違っていた」


「自分の間違いを認めるのは大事だね」


「いつか機会が来たら処刑してやる」


 嬉しいね。俺をぶっ殺せるのなら望む所だぜ。

 でもまぁ、それは今じゃないし、今はというと──


「──酒場で暴れた奴がこの宿にいるんだな?」


 宿の外から声が聞こえてくる。

 どうやら、俺を追っているようだ。


「冒険者さん達、奴をしっかり捕まえてくれよ」

「いや、勘弁してくださいって、アイツはマジでヤバい奴なんですから」

「高い金払ってんだからビビらないで何とかしてくれよ」


 さてさて、人が集まっているようだね。

 こうなっては宿にいるのは無理かな? となれば──


「では、さっさと王都に向かって俺らの敵を倒してこようじゃないか」


 俺はラスティーナ達を連れてコッソリと宿を抜け出し、そして俺達は王都へと旅立った。






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