金が力を持つ
「俺に勝てると思ってんのかい?」
俺はシルヴァリオに訊ねる。
業術が使えるってことは俺が何者なのかも知ってるだろうし、その上でどう思ってるか聞きたいね。
さて、どんな答えが返ってくるだろう?
期待しながらシルヴァリオを見ると、シルヴァリオは肩を竦め──
「アンタに勝てるわけないやろ」
はぁ? 最初から勝つ気無しかよ。そういうの萎えるなぁ。
最初から勝てると思ってない奴が俺に勝てるわけねぇだろ。
あぁ、つまんねぇ、気合いの入らない奴と戦るのはつまらねぇんだよなぁ。
もう、戦闘しなくても良くねぇか? 一方的にぶち殺しても良いんじゃねぇの?
「邪神アスラカーズ──俺が知る限り最強の神や。俺も色んな世界を渡り歩いてきたけど、こと戦いにおいてはアンタ以上の神はおらん」
そういうの良いから。
はなから負け犬根性の奴の言葉なんて聞きたくないね。
「単純に神としての能力ならアンタ以上はごまんといるが、どういうわけかアンタが負ける姿が想像できへん。俺はアンタの創った世界の生まれだから、アンタの武勇伝は幾つも知っとるし、アンタが戦ってる姿も見たことがある。だから、アンタの強さは良く知っとるんや」
「だから、最初から諦めてんのかい?」
御託は充分だぜ。
俺は話し合いよりも殺し合いをしたいんだよ。
最初から勝つ気が無いような奴と戦っても面白くねぇし、殺すか?
俺は戦闘になった場合は色々と能力に制限がかかるけど、戦いじゃない一方的な殺しなら、制限はかなり緩くなるんだぜ?
草を刈るように、首を刈ろうと思ったら、それは俺にとっては容易いことだ。
そう思って一歩踏み出そうとした、瞬間、シルヴァリオを眼差しが俺を射抜いた。
「へぇ?」
俺に勝てないとぬかす負け犬の眼じゃねぇな。
問答無用で殺すのは、ちょっと待ってやるか。
「勘違いせんで欲しいなぁ。俺が言いたいのは今はまだアンタに勝てるわけないってことや」
それって、いつかは俺に勝てると言ってるのと同じだぜ?
いいじゃん、いいじゃん。戦る気はあるんだな。だったら、戦ろうぜ、今すぐにさぁ!
俺は即座に足を踏み出した。その動きに合わせるように、シルヴァリオは指を弾いて金貨を撃ち出す。
真っ直ぐ飛んでくる金貨を刀で弾き落とし、俺は距離を詰める。
「単発で止められるとは思ってねぇだろ?」
もっと、キミを見せてくれよ。
キミの腹の中まで、全部ひり出したものを見たいんだ。
出せないんなら、キミの腹を掻っ捌いて中身が無くなるまでほじくり返すしかなくなるぜ?
「まだ俺が話しとる途中だったやろ」
言いながら、シルヴァリオは懐から硬貨を一掴みして取り出す。
そして、その効果を無造作に俺に向かって投げつける。俺は直感で危険を察知し横に横に跳ぶと、俺の真横を散弾となった硬貨が駆け抜け、背後にあった大木を貫き、薙ぎ倒した。
「上等、上等、良いじゃねぇか。俺を殺すのに十分な火力かい?」
改めてシルヴァリオを見ると俺が詰めた距離のぶんだけ俺から遠ざかっていた。
接近戦を苦手とするタイプか? そう考えるのは良くないね。
拳の感じを見る限り、人間を殴るのを得意としているタイプだ。そもそも、攻撃の威力が持続する距離と得意な距離を同じと考えるのが良くない。
例えば俺の使徒のルクセリオは数光年先の奴を一発で消し飛ばす威力の攻撃ができるけど、本人の得意とする戦闘距離は密着状態に近い接近戦だ。シルヴァリオがそういうタイプだったら接近戦は危険が大きい。
……じゃあ、接近戦じゃねぇか。なんで敵の苦手な距離で戦わねぇといけねぇんだよ。
相手の得意な距離で相手をぶっ殺す。それこそが俺の生き方だろうが。
相手の土俵で勝たなきゃ生きてる意味がねぇよ。
「……どいつもこいつも勘違いしとるんや」
俺は刀をだらりと持ちながら、ゆっくりと歩いて距離を詰める。
「アンタは挑戦者やなくて、王者や」
俺が距離を詰めるのに合わせてシルヴァリオも俺の方に近づいてくる。
そして近づきながら、指で金貨を俺に向かって弾き、撃ち出す。
「アンタのこの世界での立ち位置や、普段の言動のせいで勘違いしてしまうが、アンタは本来、挑戦する側ではなく、挑戦される側や」
俺は飛んでくる金貨を刀で弾きながら、ゆっくりと歩きシルヴァリオに近づく。
良いウォーミングアップだね。キミも温まってきたかな?
俺は温まるのを通り越して沸騰しそうだぜ。
「アンタはこの世界にいる誰よりも格上の存在や。それを俺以外の誰もが忘れとる」
「だから?」
気付けば一挙手一投足で首を刎ねることのできる間合い。
素敵だね。抜き打ちの速さを比べるのも好きだぜ。
「こっちは格下なんやから、どんな手段を取っても許されるということや」
俺は刀をシルヴァリオの喉元目掛けて振り抜く。同時に至近距離でシルヴァリオが金貨を弾いた。
俺の振るった刃はシルヴァリオの首を僅かに掠め、シルヴァリオの放った金貨の弾は咄嗟にガードした俺の左の掌に受け止められた。
受けた弾の衝撃で俺は吹っ飛ばされ、再びシルヴァリオとの距離が開く。
「こっちは挑戦者や。一度の勝負でアンタに勝とうなんて思ってへん。俺の持ってる全てを使ってアンタを倒させてもらう」
「良いね、その心意気! そういうの大好きだぜ!」
「アンタに勝つためなら一回や二回の敗北なんて必要経費や。最後にアンタを倒すことができるなら、俺は何回ぶっ殺されたって構わへん」
「その一回、二回の敗北で殺し尽くされないって思ってる考えが俺を舐めてるんじゃねぇかなぁっ!」
「見極めさせてもらうで、アンタの強さを!」
いいね、いいね。好きになったぜキミのこと。
そんなに必死で俺を殺しに来てくれる奴を好きにならないとか嘘だろ。
「顕現せよ、我が業。果てなき天に至るため」
「顕現せよ、我が業。金貨玉条、万民之従」
俺の内力が熱を帯び、刀が真紅の光を纏う。俺の刀は俺の手に馴染みすぎてて勝手にこうなるんだよね。
こうなると普通に斬るだけで俺の『プロミネンス』なんたら級の威力が出る。通常攻撃が素手の時の必殺技と同じ威力になるとか、おいそれと使えないだろ? でも、シルヴァリオ相手には使えるんだよなぁ。
そんで、そのシルヴァリオはというと、改めて業術を発動したようだ。既に発動してるのに意味は無い──ということは無い。やっぱ詠唱すると気合いが入るしね。
その気合いが大事なんだよ。俺達の戦いってのはさ。
「さぁ、楽しく戦ろうぜ!」
俺は衝動のままに駆け出す。だが、そうして踏み出した直後、俺の足元が爆発し、俺の足が吹き飛び、俺の体が宙を舞って地面を転がる。
地雷でも仕掛けたのか? そう思い、俺は爆発した地面を見るとそこには見たことも無い色の硬貨が置かれていた。それを確認したと同時に俺は足を再生し、その場から跳ぶ。
一瞬だって足を止めていられない。
シルヴァリオは攻撃の手を止めず、指先から金貨を俺に向かって弾いてくる。
俺は距離を詰めることはせず、態勢を立て直すためにシルヴァリオから距離を取ろうと走り出す。するとシルヴァリオは俺を追いながら、金貨を指を弾き、撃ち出す。
俺は振り向きざま刀で弾こうとすると、俺の刃が帯びた熱で金貨は弾くまでも無く触れた瞬間に溶け散る。
「やっぱ、これじゃ駄目か。なら──」
俺の耳は地獄耳──ってことはなく、戦闘中の俺は相手の独り言も絶対に聞き逃さない。
そして、その呟きの直後、シルヴァリオは懐から一枚の硬貨を取り出す。俺の眼が捉えたその硬貨は日本円の500円硬貨。
シルヴァリオは500円玉を構えると俺に向かって放つ。俺は変わらず、刀で防ごうとしたが、受け止めた瞬間に凄まじい衝撃を受けて、体勢が崩される。
「金の種類によって威力が違うのかな?」
俺の問いに答えるより先にシルヴァリオの手元から硬貨が撃ち出される。
一瞬でも俺の足が止まったタイミングを狙って放たれた攻撃だ。さっき以上の威力があると考え、俺は備えるが、硬貨は俺に届く前に勢いを無くし、空中に留まる。直後、その硬貨を中心にして雷撃が迸り、俺の体を貫いた。
──脳まで焼かれる威力じゃない。とはいえ、体が痺れて動きが鈍る。
工夫してるなぁ。そういうの好き好き、ぶっ殺すって気分になってきて、内力が更に熱を帯びる。
おっと、熱くなる前に考えなくちゃ駄目だな。
『業術使いと殺し合うなら、そいつの業術の構成概念を掴むのが最優先だ』
そう言ったのは業術使いが、ごまんといる国の出身のルクセリオの言葉だったか。
アイツの生まれた──というか、アイツが支配していた国は業術使いが業術士って名前で呼ばれる程度にはポピュラーな世界だったんで、業術使い相手の戦闘に関しては俺より経験が豊富なんだよね。
業術は割と何でもありな能力だけど、どんな業術にもコンセプトがある。
そのコンセプトを読み解けば対処も楽になるってのがルクセリオの言葉だったが、さてシルヴァリオの業術は──
「『想いが力になる』──それがアンタの業術の根底にあるコンセプトやろ?」
俺が読み解くよりも先にシルヴァリオが俺の業術を読み解いたようだ。
あぁ、そうだ。俺は人の想いこそが全てを凌駕する力だと信じてる。そして、その力がやがて人を天に輝く星へと至らせると心の底から信じてる。
「キミの業術は『金が力を持つ』かな?」
そっちがばらしたんだから俺もぶっちゃけるが、文句はねぇよな?
その質問に対する答えとして、赤みがかった金属の硬貨を放物線を描くように俺に投げつけてきた。それも大量に。俺は直感で危険を察し、後ろに跳ぶと、シルヴァリオの投げた硬貨が爆発し、辺りを吹き飛ばす。
絨毯爆撃みたいだね。
爆発の直撃は受けなかったものの爆発直後の煙に覆われて視界が奪われる。
この煙に乗じて奇襲を仕掛けてくるだろう。そう予期してた俺は一瞬の危険も見逃さず、直感に従って首を傾ける。すると、俺の頬を何かが掠め、一筋の傷から血が垂れていく。
「硬貨じゃねぇよなぁ」
金が力を持つなら──予想をつけると同時に煙の向こうから俺に向かって無数の刃が飛来する。
それは、目を凝らさずとも分かる1000円札。硬貨も武器に変えられるんだから、紙幣も武器に変えられておかしくないよな。
俺は納得しつつ刀を振るい、飛んでくる紙幣を斬り払う。そして、攻撃を放った先にいたシルヴァリオに向かって駆け出した。
シルヴァリオは向かってくる俺に向けて、掌にのる硬貨の山を投げつけてくる。
よく見れば、それは1円玉の山でショットガンの弾のようなそれを俺は横に跳んで躱しながら、前へ進む足を止めない。
「威力が出るのは日本円で──」
シルヴァリオとの距離は目前──そう思った瞬間、地面から青みがかった硬貨が勢いよく舞い上がり俺の眼前に現れる。
「特殊な能力を持ってるのは硬貨は異世界の金ってか?」
俺はその硬貨を既に見ている。
先程、俺に雷撃を放った硬貨だ。俺は雷が生じるより先に目の前の硬貨を斬り払う。
「御名答」
俺に正解を伝えるシルヴァリオの手には札束が握られている。
それが投げつけられるよりも先に俺はシルヴァリオを斬り捨てることができる。
そう思った瞬間、シルヴァリオは札束をその場に放り捨てた。直後、宙を舞った五千円札は意志を持ったかのようにシルヴァリオを守る壁となる。
「100万円分の五千円札の壁や! もったいなくて斬り捨てられへんやろ?」
生憎と俺は金に困る生活をしてなかったもんでね。金を斬ることも燃やすことも躊躇いが無いのさ。
俺は眼前に現れた紙幣の壁に真紅の刃を叩きつける。たかが紙の壁だ、何とでもなる──そんな判断は俺はしない。実際、俺が感じた手応えは分厚い鉄板をぶっ叩いたのと同じ感覚だ。
「だからなんだっていうんだよ!」
俺は刀で切り裂いた紙幣の壁の隙間に手を突っ込むと、力任せにそれを開いた。
首を斬り落として、ぶっ殺さなきゃ俺は止まらねぇぜ。
壁を突き破って俺は突き進む。だが、俺がそうするのは予想済みだったのか、紙幣の壁を越えた瞬間を狙ってシルヴァリオが俺に飛び掛かる。
「斬り合いが望みかい?」
シルヴァリオの指の先──中指と人差し指の間に一万円札が挟まれていた。
シルヴァリオは指先に挟まれていた一万円札を振り抜き、俺に斬りかかる。
俺は刀でその一撃を受け止めるが、斬撃の威力が俺の背後にあった無数の木を斬り捨てる気配を感じた。
良くねぇな。森で戦ってるのを忘れていたぜ。あんまり木を切り倒すと村の人が困るかな?
「まぁ、どうでもいいよなぁ!」
俺は返す刀でシルヴァリオに斬りかかる。すると、シルヴァリオは指先に挟んだ一万円札で俺の刀を受け止める。そして、それだけではなく、俺の一撃を受け流し、反撃に指先の紙幣を振り抜いた。
「斬り合いもできるとか嬉しくなるね」
俺は刀を放り投げ、左手に持ち替えると、シルヴァリオの右手の紙幣を刀で叩き落とすように防ぎ、押さえつける。直後にシルヴァリオが左の袖口から新たな一万円札を出し、左手の指先に挟むが、俺はそれより先に右手でシルヴァリオの手首を掴み、攻撃自体を許さない。
「この間合いなら俺の方が上かな?」
そう言った直後に俺はシルヴァリオの顔面に頭突きを叩き込んだ。
シルヴァリオの鼻っ柱がへし折れる気配を額に感じ、俺は続けて前蹴りを鳩尾に叩き込んでシルヴァリオの体を吹っ飛ばす。
「予想通りや」
地面から無数の銀貨が舞い上がり、俺の周囲を取り囲む。
対して俺はズボンのポケットに手を突っ込み、真っ赤なハンカチを取り出し──
「天之縒絹紅衣」
名前を唱えた瞬間、ハンカチはマントよりも大きく広がり、俺は広がった紅色の布を握りしめる。
同時に俺を取り囲んでいた銀貨の弾が俺に襲い掛かるが、俺は紅色の布を振り抜き、360°前周囲から飛来する銀貨を薙ぎ払い防ぐ。
だが、その攻撃を防いだ直後、シルヴァリオを見るとその攻撃も防がれて当然のように次の攻撃を準備しており──
「確かに俺の業術は金に力を与えるっていうチンケな能力や。ただ、力を与える際、その威力は金に込められている想いで変わる。効果はその金に対する俺のイメージで変わるが、威力は金に込められている想い次第ってのは絶対に変わらへん」
シルヴァリオの指先にセットされているのは100円玉。だが、その金に込められた想いは今まで以上であるのがハッキリと分かった。
「金銭での取引は共通理解に基づく。俺の業術は相手に理解させることで性能が増す。そして、この100円は俺が生まれて初めて稼いだ金や。その想いを叩き込んだる」
何よりも最優先で防御態勢。
直後、シルヴァリオの指先から弾かれた100円玉は音速を突破し、俺の体を貫──かなかった。
俺は広げていた紅衣を腹巻のように巻きつけ、硬貨の直撃を受け止めることに成功していた。
俺は受け止めた硬貨を握りしめると、その重みを確かめたうえで左手で持っていた刀を地面に突き立て、紅衣から糸を一本引き抜いた。『天之縒絹紅衣』の布地は伸縮自在で自己再生持ち、糸を一本抜いたところで問題はない。
俺は引き抜いた糸を刀の鞘の鯉口と先端付近に引っかけて弦として、即席の弓を作り上げる。そして、弾をシルヴァリオの放った100円玉にして、引き絞り撃ち放った。
『金が力を持つ』
それがキミの業術の構成概念だとしたら、この一撃は防げねぇよなぁ?
だって、キミが『力を持つ』として撃った物を撃ち返してんだからさぁ!
果たして、俺の放った弓の一撃はシルヴァリオの腹をブチ抜いた。けれど、シルヴァリオは膝をつかず、俺を戦意に満ちた眼差しで見据えている。
勘弁してよぉ、そんな眼で見られるとぶっ殺したくなるじゃん。
キミは様子見だったり、俺の実力を見極めるためにやってるのかもしれないし、それを許した方が後々、楽しいのは分かるんだけど我慢できねぇんだよなぁ!
「まだ俺は負けとらん!」
「まだ俺も勝ってねぇ!」
地面を炸裂させるような勢いで蹴りだし、俺はシルヴァリオとの距離を詰める。
シルヴァリオは懐から、俺の見たことも無い紙幣を取り出すと、それをばら撒いた。
直後、紙幣が炸裂し、煙幕が俺の視界を奪う。
俺は躊躇わず、視界を覆う煙を刀で薙ぎ払ったが、それが良くなかった。
煙は可燃性のガスのようなものだったようで、煙を払った瞬間、俺の刀が帯びた熱に反応して爆発する。
俺の体が爆発の勢いでよろめくが、気合いで体幹を整え、次の行動に移る。
俺は左手に握った刀の真紅に染まる刃を右手で握り締める。
当然、刀の刃が俺の右手を血に染めるが、それも承知の上で、俺は右手を刃の上で滑らせた。
右手が刀身に斬られ切れて血が零れるが、それだけではない。この行為の結果、俺の右手に刃の真紅が宿る。
俺の右手に真紅が宿り、俺はシルヴァリオの気配を直感で把握し、その方向に向けて右腕を突き出した。
「プロミネンス・ブロゥ!」
俺の必殺の右拳。対してシルヴァリオは金貨を握りしめ、拳が黄金の輝きを放つ。そして放たれる黄金の一撃。
俺とシルヴァリオの拳は激突し、互いの体が吹き飛ぶ。俺の右拳は粉砕され原形を留めていないが、シルヴァリオの右拳も消し飛んでいる。
「まだや! 俺はまだ負けとらん!」
「知ってるよ」
──遠くの俺に向けて放たれたシルヴァリオの言葉に対して、俺の言葉は間近のシルヴァリオにささやくような呟き。
吹き飛ばされても、俺は身を翻し、速やかに着地すると一瞬の迷いもなく駆け出しシルヴァリオとの距離を詰めていた。
シルヴァリオが無事な左腕を俺に伸ばすが、俺は息をするように自然な動作でその腕を斬り飛ばす。けれど、それが良くなかった。俺が飛ばすべきだったのは腕ではなくて首だった。
「判断ミスや」
直後に聞こえた言葉と同時に俺の眼が捉えたのは真っ赤な硬貨を口に咥えたシルヴァリオ。
そして、視界を覆う閃光。
──何も理解できなかったが、俺が死んだのは間違いない。
再生した瞬間、俺はシルヴァリオの姿を探し、そして一瞬よりも素早く運命のように相手の姿を見つけている。
シルヴァリオも死んだのだろう。再生のタイムラグはあるが、俺も奴もお互い想いあっている。
絶対に殺すという崇高な想いで、この時間の俺達は繋がっているのだから離れるはずはない。
俺達は相手に向かって殺意をもって駆け出し──
「取引開始、我が黄金。金貨玉条、万民之従」
シルヴァリオの失われた腕の輪郭をかたどるように紙幣が舞い、直後に紙幣がシルヴァリオの腕の実物に変わる。そして詠唱しながら紙幣の刃を振るうが、俺はその刃を刀で受け流し、その顔面を殴りつけた。
「駆動せよ、我が業。遥かな天に至るため」
僅かながらでも間合いが離れた瞬間に修正のように俺が詠唱を開始する。
俺の詠唱を察したシルヴァリオが金貨の弾丸を放つ。
それを刀で受け止めるが、衝撃まで受け止めきれず、俺はたたらを踏んで後ずさった。
「──支配の話をしよう。原初、人は大地に支配されていた。そして神に支配され──」
「──見上げた星の輝きに地上の人は夢を見た。果てなき旅路が今始まる──」
詠唱の妨害は間に合わない。つーか、する気もねぇよ。
本気でぶっ殺し合うのに邪魔する奴はいねぇよなぁ?
「駆動──星よ耀け、魂に火を点けて」
「駆動──金世界秩序、新枝篇」
お互いの業術が上位段階に移り、同時に俺の体に今のモチベーションに応じた内力が溢れ出す。そして、キミの方はどうだいとシルヴァリオを見ると、シルヴァリオは懐から取り出した金貨を捨てるように周囲にぶちまけていた。けれど、その姿を見た次の瞬間、俺は頭をシルヴァリオの手に掴まれ、地面に叩きつけられていた。
頭蓋が砕けて脳味噌が零れ落ちる感覚があるが、それが俺を逆に興奮させて爆発的な内力量の増加が一瞬にして傷を癒す。
「楽しくなってきたね」
さぁ、ここからだ。そう思って俺は体を起こすが、起こした瞬間、寝起きの俺を狙ってシルヴァリオが蹴りを放ってきた。
俺は咄嗟に腕でガードするが蹴りを防いだ瞬間、俺の腕が千切れ飛び、更にその蹴りの勢いのまま上半身が吹き飛んだ。同時に意識も吹き飛ぶが、俺の体は秒で再生し、意識も元通り──
「勘弁してほしいんやけど」
復活した俺を見てウンザリしたツラを見せるシルヴァリオ。
まぁ、それもフリだってのは分かってるんだけどね。
俺をこの程度で殺し尽くせるわけはないことなんてシルヴァリオは知ってるはずだ。つーか、シルヴァリオ自身、この程度の回数殺しても復活するだろう。
「続けるかい?」
「冗談きついわ」
俺が言うのに合わせてシルヴァリオは懐から金貨を取り出し、無造作にばら撒く。
「俺はこれですっからかんや。金もなしにアンタとは付き合いきれん」
それはつまり、この場は俺から逃げるってことかな?
次も俺と戦ってくれるなら見逃してやってもいいけど、逃げ切り決め込むつもりなら、地の果てまで追いかけてでもぶっ殺すぜ?
「殺気をぶちまけるのはやめてくれんか?」
え? 何か言った?
そんな言葉が口に出るより先に俺はシルヴァリオの首を刀で刎ねていた。
とはいえ、そんな簡単に死ぬ奴では無いので──
『言ったやろ、今回は様子見や』
どこからともなく声が聞こえてくる。
俺が首を刎ねたシルヴァリオの死体を見ると、その体はこの世界の銅貨となって崩れていた。
『最後は俺が勝つ。そう言ったやろ?』
言ったかな? どうでもいいよ。ただ、一言いいかな?
──最後を決めるのはいつだって俺だぜ?
俺が最後を決める以上、キミの求める最後は訪れない。それを忘れないでくれよ?
では、今後とも俺と楽しく殺し合おうじゃないか。
キミが俺の命を望むなら俺にとっては最高の展開だぜ。




