アスラの目論見
「あーあ、刃こぼれしてるよ」
イストヴァン辺境伯の屋敷から脱出した俺達は、その足のまま国境の街を出て、アウルム王国の王都がある方へと走った。
俺としては、そのままラスティーナとミルフィーレを連れて、王都まで行っても、良かったんだけどね。
けれど、俺に担がれたまま運ばれるにしても、二人の体力が保たないようなんで、一旦、お休みを取ることにした。
俺達は街から王都の方へと伸びる街道そばの森の中で野営することにした。
火を焚き、その周りに俺とラスティーナ、ナターシャが座っている。ラスティーナの妹のミルフィーレは疲れて、ラスティーナの隣に座りながら眠っているので数には数えなくていいだろう。
「やっぱ咄嗟に刀で防ぐのは良くないね」
俺は刀を抜いて、刃の具合を見る。
屋敷から脱出する時にされた狙撃を防いだら、刃こぼれしてしまったようだ。
まぁ、俺の刀はそもそも刃こぼれだらけなんだけどね。ただ、前には無かったなぁって所に刃こぼれがあるんで、狙撃された時にできたんだと判断している。
「砥石でも買って適当に研ぐか」
日本刀の研ぎってのはそれ専門の研師に任せるべきなんだろうけど、それって刃紋を綺麗に出すとかの見た目を良くするためでもあるから、別に俺の刀は研師とかに任せなくてもいいんだよね。だって、俺の刀って刃紋消えてるしさ。
「そんなナマクラを眺めていないで、私の話を聞け」
ヒデェなぁ、ラスティーナちゃん。
人の持ち物を貶めるとかさぁ。まぁ、実際、見ただけで分かるレベルのナマクラ刀だけどね。
だって、元は俺が人間だった頃から使ってる模造刀に無理やり刃をつけたシロモノなわけだしさ。
切っ先は欠け、刃はこぼれ、身は痩せ……ってこのくだりは前にどっかでやったな。
ただまぁ、それでも俺はこの刀で何百、何千、下手すりゃ万を超える神様を叩き切ってるんだよね。
「それで? 何の話をしてるんだっけ?」
俺はスッと刀を鞘に収める──ことは出来なかった。
刀身が歪んでいるせいで、スムーズに鞘に入らないんだよね、俺の刀。
俺は鞘の途中で引っかかった刀身を強引に鞘の中に押し込む。
「私とミルフィの兵はどこだと聞いている。いつ合流するつもりなのだ?」
おっと、ラスティーナちゃんが睨みつけてくるぜ。怖いなぁ。怖すぎて泣いちゃいそうだぜ。
でも、俺は強い男の子なんで、泣かずに正面から向き合うよ。
「いや、合流しないよ?」
俺は当然のことを当たり前の事を言うように自然に言葉にした。
「は?」
ラスティーナとナターシャが目を丸くしているのはなんでかな?
だって、当り前じゃないか。なんで、わざわざ大所帯で行動するのって話さ。
「キミらの兵や騎士は俺らとは全く別の方向に移動しているよ。あいつらを屋敷から脱出させた時はこことは別の場所で合流するように言っているから。今もそこでキミらを待ってるんじゃないかな?」
俺の言葉を聞いてラスティーナ達が絶句している。
まぁ、分からなくはないぜ。だって、キミらからしたら身内を囮にしたようなもんだしね。
つーか、囮以外のなにものでもないんだけどね。
「……どういうつもりだ?」
おっと、眼が据わってらっしゃいますね、お姫様。
駄目だぜ? 女の子がそんな顔をしたらさ。
おっと、女の子だからってのはジェンダー的によろしくないね。これは俺の失言だったぜ。
「どういうつもりって言われてもなぁ。一緒に行動してる方がリスク大きいから、別行動ってことにしただけだぜ? 大勢でいるってのはそれだけ、追いつかれやすくなるんだし、逃げる上では少人数の方がいいだろ?」
「……貴様の言っていることは分かる。だが、それを私に何の相談も無くしたのはどういうことだ」
「うーん、俺とキミって報連相をしっかりしないといけない関係だったかな? 俺はキミの手下じゃないし、キミのご機嫌を伺う必要も無いよ。俺が正しいと思って行う行動を止める権利もキミには無いんじゃないかな?」
なんか勘違いしてないかなぁ?
俺はキミのことが嫌いじゃないけど、最高に好きってわけでもないんだよなぁ。
好感度の度合いで言えば、クソの役にも立たない弱者のミルフィーレの方が俺的には上だぜ。俺は弱い奴は大事にしてやりたくなるんでね。
結局の所、俺はラスティーナをそこまで大事にしたいとも思ってないんだよね。あまり面白みが無いからさ。
「……彼らはどうなる? 貴様のしでかしたことが原因で彼らは命を落とすかもしれないんだぞ?」
「それ本気で言ってる? 俺に反省を促すために言っているだけなら、俺はキミの評価を下げざるをえないぜ? 安っぽいヒューマニズムに訴えるなんてつまんねぇ真似をする奴は好きじゃないんでね」
なんかマジギレしてる感じがあるけど、付き合いきれねぇなぁ。
キミにとってもこうするしかないと思って、俺は助けてやったんだけどな。
「言わなくても分かってると思うけど辺境伯の狙いはキミだけだぜ? それでも戦争にまではしたくないから、人知れず拉致って事が済むまで監禁してようって腹積もりなんだと思うね。基本的に秘密裏に事を進めたいのに、キミや妹ちゃんの手下を何十人もぶっ殺したりしたら隠せないだろ? だから、キミの手下に危害を加えるってことは無いと思うね」
お分かりかしら? まぁ、推測なんで今頃、皆殺しにされてるかもしれないけどさ。
その時は申し訳ないと素直に謝るしかないね。
「……もういい」
そりゃ良かった。
納得はしてないようだけど、別に俺は他人の納得を求めて生きていないんでね。
「もういいんなら、さっさと寝た方が良いね。明日は朝からやることがあるからさ」
ラスティーナとナターシャは俺の言葉に不機嫌さを隠さないが、それでも疲労のせいか、座ったまま目を閉じると、すぐに寝息が聞こえてきた。
さて、俺は寝なくても問題ない身体なんで、このまま朝まで見張りでもしてようかな。
──それから夜通し見張りを続けて、朝を迎える。
ラスティーナ達は疲労の色が濃いが、あまりそれを気にしてやるわけにもいかない。
なにせ、すぐに出発しないといけないからね。
「お疲れのようでしたら、おんぶいたしますよ、お姫様」
俺はミルフィを気遣って言うが、言い方が気に食わなかったようで──
「馬鹿にしないでくださる? わたくしは一人で歩けますわ」
「そいつは失礼いたしましたわ。一人で歩けるんですのね。頑張り屋さんですわ」
「やっぱり馬鹿にしてますわね!」
ははは、いやぁ元気があって良いね。これくらいの感じの方が俺は好きだぜ。
それに対して、ラスティーナとナターシャは俺に対して疑うような眼差しを常に向けている。
嫌だねぇ、俺がキミらを害すると思ってんの? アホくさぁ、その気があったら、とっくにやってるっての。
まぁ、文句はあっても口には出さず、俺の後をついて歩いているから良いけどさ。
とりあえず俺達は王都の方に向かう街道を普通に歩いて進んでいる。
その間、俺とミルフィはというと──
「ほら、俺って凄く目立つじゃん? キミだって、俺から目を離せないだろ?」
「確かに、そうですわね。特別、綺麗な顔をしてるってわけではないのに、なんだか目が離せなくなるとは思います」
「自分に自信を持ち、自分の道をひたすらに歩んでいけば、こういうツラになるのさ。他の奴らはどっかで引く。けど、俺は引かなかった。その生き方が顔や雰囲気に現れてくるんだろうと思うなぁ」
「でも、イストヴァン辺境伯には道化と呼ばれていませんでしたか?」
「言ってたねぇ。でも、道化ってのは俺が目立つからそう思うんだぜ? 取るに足らない奴だったら、なんとも思わないだろ?」
「わたくしも人から注目を浴びるのは好きですけど、道化などと言われて馬鹿にされるのは嫌ですわ」
「俺のことを道化っていう奴は大抵、見る目が無いか、コンプレックスを抱えてる奴だから、俺は気にならないね。凄い奴だから目が離せないんじゃなく、変な奴だから目につくって自分の中で認知を構築してるわけだし、その時点でそいつは俺に敗けてんだよ。俺を特別な奴って認められない時点でな」
「ふむふむ、なるほど」
「キミも目立つのが好きなら良く考えてみた方が良いぜ? その目立ちたいって感情が他人に興味を持たれていたいっていう承認の欲求から来てるのか、それとも、常に物事の中心に立つ自分でいたいって自己実現の欲求から来てるのかってのをさ。そもそも承認の欲求ってのは、本来は所属の欲求が満たされた状態でこそ充分に満たされるものであるわけで、なんらかの社会的組織またコミュニティと呼ばれる集団に充分な所属感が無いと満たされにくいものなんだぜ? それを踏まえるとキミはどうなんだろうね? 王族という集団の中にキミの居場所はあるんだろうか? 何かに所属したいという欲求が満たされない状況で承認される欲求だけを満たしたいと考えるとキリがないぜ?」
「うーん、良く分かりませんわ?」
「うーん、100点の答えで素晴らしいね。俺はキミのことがますます好きになったぜ」
──とまぁ、こんな感じで俺とミルフィは話しながら歩いている。
そのすぐ後ろを歩いているラスティーナが何か口を挟みたそうにしているが、キミもいい歳なんだから、話を振られるのを待つんじゃなくて、自分から口を挟みに来てよ。
流石に、そこまで俺に気を遣わせないで欲しいね。まぁ、そこまでって言うほど──というか、そもそも欠片も気を遣ってないんだけどさ。
「このまま歩き続けるつもりか?」
ようやくラスティーナが挟んできた口はその程度。
追手が来るぞって言いたいんだろうけど、それくらいは俺も分かってるっての。
こんなにタラタラ歩いている俺の狙いはって言うと──
「そろそろ休憩にしても良いかもね。だって、目的地が見えてきたし」
俺は目的地を見る。
そこは街道の脇にポツンと佇む一軒の宿屋。
街道を歩いていれば、そのうちに見つかるだろうと思っていた店だ。
「……承認しかねます」
俺の視線の先を確認してナターシャが呟く。
この状況で宿に行くのは良くないって?
まだ日も高いし、休むのは早いから?
それと、ラスティーナ達の顔を見られるのを避けるべきだから?
追手に情報を与えることになるから?
「俺の行動の許可を出す権利ってキミにあるんだっけ?」
無いんじゃないかなぁ?
つまりは黙ってろってことだよ。
「……ことごとく感じが悪い方ですね」
「そんな風にハッキリと言ってくれた方が俺はキミのことが好きになれそうになんだけどね」
まぁ、俺の好き嫌いの問題はさておき、とにかく宿屋にはいかないとね。
街道脇の宿屋なんて、どこもそれなりには繁盛しているだろうし──
「やっぱり先立つものを調達しないとな。それと、キミらの服もなんとかしないといけないからね」
俺は言いながら、懐から革袋を取り出す。
三人の目がその袋に向けられたので、俺は袋の中身を掴み取り、手のひらに乗せて見せる。
「これは……」
ラスティーナが目を見開いて見ているのは手のひら一杯の宝石だ。
「辺境伯の屋敷で盗んできたんだよ。路銀の足しにしようと思ってね」
これで俺が辺境伯の屋敷で行った犯罪行為が暴行、放火、窃盗だと明らかになったわけだ。
「……家宝と言っても良さそうなものが混じっているようだが?」
「高そうな物を盗ってきたもんでね、でも、あの屋敷が本宅ってわけじゃないだろ? あの街での屋敷があそこってだけで、宝と言っても、もっと良いものを持ってるだろ」
これを売り払って、路銀を調達しようじゃないか。
「これを売れるのか?」
「本物だって言って高く売ろうとしたら売れないだろうねぇ」
だからまぁ、どうするかと言えば──
「邪魔するぜ」
俺は目的地にした宿屋に入るなり、大声で言う。
宿の一階は酒場になっているようで、客が一斉に俺の方を見る。
「泊まりじゃねぇんだけど、一休みさせてくれよ?」
俺は宿の受付にいた女将さんにそう言うとラスティーナ達を連れて、受付から酒場の方へと向かい適当なテーブルに座る。すると、女将さんの娘さんか何かか給仕の女の子が水の入ったコップをトレーに乗せて俺達の方にやってきた。
「注文は?」
「軽く食えるものが欲しいね」
給仕の女の子は俺の言葉を聞いているのか怪しい感じだ。
何せ、ラスティーナ達の方を好奇心にあふれた眼差しで見ているからね。
そりゃあ気になるよなぁ、だって三人とも滅茶苦茶美人だからね。そんでもって服も多少カジュアルだが庶民からみたらドレスみたいなシロモノわけだし、色々と勘繰りたくなるよね。
いやぁ、興味津々な女の子の期待に応えなきゃ男が廃るし、ここは教えてやるのも良いんじゃない?
だから、俺は給仕の女の子にこっそり耳打ちすることにしたんだ。
「実はこの二人ってラスティーナ王女、ミルフィーレ王女本人なんだぜ?」
「えぇ? 冗談でしょう?」
おっと、耳打ちしようと思ったけど普通に喋ってしまいました。
でも、しょうがなくない? 初対面の女の子に耳打ちするなんて俺みたいな奥手なシャイボーイにはハードルが高いからさぁ。だから普通に言ってしまったのさ。それはもう、酒場中に聞こえるくらい普通の声でね。
「おい!」
えぇ、なんだかラスティーナちゃんが怒ってるんだけど?
なんなんだろうね? もしかして、何かトラブルが起きた時にそれを素性隠して解決しつつ、最後には実は自分が王女だったんですって明らかにする展開をやりたかった?
だったら、すまないねぇ。キミの思惑から外れることをしてしまって申し訳ないぜ。
「えーと、本当に王女様なんですか?」
「違います」
「違いません」
さて、どれが誰の発言でしょう。
まぁ、それはともかくとして、俺は給仕の女の子との会話を続ける。
「まぁ、キミが信じるかはともかくとして、実は今って王女様が変態の貴族に言い寄られて逃げている途中なんだよね。とはいえ、逃げるのも限界が近くて一休みしようと思ってここに来たんだよ」
「……はぁ?」
おぉ、給仕の女の子は良い感じにあんまり信じてないね。
「で、申し訳ないんだけど、急な逃避行で俺らはお金を持ってないのよ」
おぉ、金が無いって言った瞬間に剣呑な眼差しになったぞ。職業意識が高くて素晴らしいね。
金が無い奴は客じゃないって感じ? うーん、困ったぞ、金はないけど、金目のものはあるんだよなぁ。
「金が無いから悪いんだけど、これで何とかならないかな?」
俺は給仕の女の子に大きな宝石がついた金のネックレスを見せる。それはラスティーナが家宝と言っても良いと言っていたものだ。
ここまでの会話で俺らの信用度はかなり低い。ラスティーナが王女だなんてのは殆ど信用していないだろうが、それでも──
「ふぅん、まぁ良いけど。お母さんには話をつけてあげるわ」
給仕の女の子は素直に受け取ってくれたし、喜んで食事を出す雰囲気になった。
そして、ほどなくして食事が俺達のテーブルに並ぶ。
「ちょっとサービスしてあげたわ」
「悪いねぇ。お小遣いが無くなっちゃうんじゃない?」
俺達はお金を持ってないわけだし、誰がこの食事の代金を払うのかと言うと、この給仕の女の子が代わりに払ってくれる。
「別にいいわよ。お小遣いで、このネックレスを買ったと思えば安いものだから」
偽物の安物でも見栄えは良いし、食事代程度の金で買えたと思えば儲けものだと思ってるんだろうね。
でも、実際はキミが身売りしても買えないような、辺境伯の屋敷においてある本物なんだけどね。
「あのさ、ついでに頼みたいことがあるんだけど、いいかい?」
「なに?」
うーん、給仕の女の子は俺の事を王女の関係者だなんて全く信じていないようだ。
でもまぁ、それが狙いではあるんだけどね。
「俺達は変態の貴族から逃げてるって言ったじゃない? だけど、この格好のままじゃ逃げるのが大変だし、ちょっと服を用立てて貰えないかな?」
俺の言葉を聞いて給仕の女の子がラスティーナ達の服装を見る。すると、納得したように頷いてくれた。
「協力したいけど、私にもあげられる服は無いのよね。お客さんの中にはもしかしたら服が余っている人もいるかもしれないし、聞いてきてあげようか?」
「そいつは助かるね。じゃあ、お願いしてもいいかい?」
俺が頼むと給仕の女の子は他の客の方に向かって歩き出していった。
ラスティーナ達が何か言いたげな眼差しを俺に向けてくるが、俺は無視して席を立つ。
そして、受付の女将さんの方に向かうと──
「実は俺達はアウルム王国のラスティーナ王女殿下一行なんだよ。でも、ちょっと貴族と揉めて、追われるんだわ。だから、少し休ませてもらってるんだけど良いかい?」
俺は普通の声の大きさで言う。すると、自然と宿屋の中に声が響く。
女将さんは何となく察したようで頷くと、俺に向けて手のひらを差し出してきた。
俺はにこやかな笑みを浮かべて、女将さんに宝石を渡すことにした。
「コイツで内密に頼むよ」
「しょうがないねぇ」
女将さんは辺境伯の屋敷から盗んできた宝石をそこら辺の石ころのようにぞんざいに扱って懐にしまう。
「何を考えているんだ」
それから女将さんと世間話をしてから席に戻るとラスティーナが俺のことを睨みつけてきた。
どうやら、俺が遊んでいると思っているみたいだね。まぁ、見ていてくださいよ。これからどうなるかをね。色々と説明したいことはあるけど、お客さんも来たし、ここら辺にしておこうか。
「アンタらが王女を騙る芸人一座かい?」
「そうだよ」
給仕の女の子に声をかけられたのか、商人風の男が俺に話しかけてきた。
まぁ、俺は商人ではないんで、価格交渉はしません。
「服をご所望だとか?」
「なるべく地味なのが良いね。これで適当に用立ててくれよ」
俺はそう言って無造作に商人の手に宝石を置く。
「贋物の割には良い出来だなぁ」
「おいおい、王女殿下の宝石だぞ? 贋物のわけがあるか」
失礼なことを言った商人を俺はニヤニヤした表情で咎める。
すると、商人も失言だったことに気づいたのか、ニヤニヤしながら俺を見ると──
「そりゃ失礼いたしました。お代にこんなもんはいかがでしょうか」
商人は服を3着、差し出してきた。地味な村娘の服って感じだが、断る理由も無いんで、俺は宝石と交換でそれを受け取る。
「しかし、本物にしか見えないな」
商人は宝石をしげしげと眺めると懐に収め、真面目な顔で俺に忠告してきた。
「この国はそこまで厳しくはないが、悪ふざけはほどほどにしておいた方が良いぞ? 確かにそこの二人の嬢ちゃんは王女様に似ているけど、だからって限度はあるからな?」
「こいつらは本物の王女様だぜ? 何に気を遣う必要があるんだよ」
俺は真実を場所もわきまえずに高らかに宣言してるってのに誰も信じてくれないぜ。
「はいはい、わかったわかった。それじゃあな」
商人は苦笑しながら俺達のテーブルから離れていく。
俺は辺境伯の宝石と交換で、テーブルに置かれた服を見ると、それは売り物になるか怪しい質の服。
それを売るよりも王女を騙る奴から話のタネに贋物でもいいから宝石を貰っておく方が得と感じたんだろうね。
「……何を考えている?」
ラスティーナが俺を訝しげに見てくる。けれど、申し訳ない。
どうやら、俺らと話したい人がまた来たようだし、そっちの相手をしないとね。
というわけで、ネタバラシは少し待ってて頂戴ね。




