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無礼者

 

 ようやくアウルム王国に辿り着いた俺を待っていたのは、軍勢を率いて待ち伏せしていたラスティーナの妹だった。おっと、ちょっと悪者扱いしすぎな表現だね。実際は国境の街に入ると同時に俺達を出迎えただけだし、敵意の有る無しは分かんないんで、待ち伏せって言い方は良くないよな。


 まぁ、どういうつもりでラスティーナを待っていたかは知らないけど、とにかく俺達を待っててくれたってのは間違いないんだし、そこら辺は御礼を言うべきだよね。だから、俺は出迎えの苦労をいたわるように、ラスティーナの妹の肩をポンポンと叩いたんだが──


「っ無礼者!」


 ラスティーナの妹は即座に俺に平手打ちを放ってきた。

 つっても、素人の女の子の攻撃が俺に当たるわけもなく、俺は簡単に避ける。


「人をぶん殴りたいなら、もっと鍛えた方がいいと思うよ」


 打撃の技術を上げるのは大変だから、単純に体を鍛える方をオススメするぜ。

 まぁ、そんなの聞きたいわけではないだろうけどさ。


「……はぁ」


 俺の後ろから溜息が聞こえてくる。

 それも一人や二人じゃなく、俺とここまで旅をしてきたラスティーナとナターシャ、ラスティーナの護衛の騎士の全員が溜息を吐いている気配がする。

 俺のやったことが悪いとか思うよりも先に、「またやらかしたか」とか「めんどうくさい」とか、もう俺と関わりたくないって気配が凄まじく感じる。


「貴様、何をしている!」


 対照的にラスティーナの妹が連れてきた騎士や兵士連中は俺の振る舞いにマジギレしてる感じ。

 ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ、やぁ──いいね、騎士や兵士は百人くらいいるかな。

 マズいなぁ、すっげぇマズいぜぇ、百人に襲い掛かられるとか、怖くて小便ちびっちゃいそう。まぁ、冗談だけどね。


「お、なんか文句ある感じ? 俺の国じゃあ、相手の肩を叩くとか、最高の感謝の気持ちの表し方なんですけど? 他所の国の文化が気に入らないからって、マジギレするとか文明国としてどうなんだろうね? ちょっと恥ずかしくありませんかねぇ? キミらって国の恥を晒してる自覚ある?」


「え? そうなんですの?」


 おっと、変な展開。妹ちゃんが俺の言うことを信じてしまったぞ。

 俺は一応、国籍のうえでは日本人にだったんで、俺の国にはそんな文化は無いんだけどね。

 ちなみに日本国籍は剥奪されてるんだけどね。人間だった頃にヤンチャをしすぎて、国連総会で俺の人権停止が満場一致で可決され、その時に国籍も無くなったのよ。


「そうなんですよ、だから怒らないでね」


 異文化コミュニケーションって大変だよね。だから、気を遣おうね。でも、実際はそこで譲ると良くないんだよね。

「はぁ? 知らねぇよ、ふざけんな、ぶっ殺すぞ」ってノリで相手が自分のルールを通そうとするのを初対面の時に防がないと、それ以降ずっと気に食わない相手のルールを認めないといけなくなるからね。


「ほら、俺の国ではこうやって謝るんです」


 俺は妹ちゃんの頭を撫でる。もう、ほんとに申し訳ございませんってね。

 どこの国かは知らんけど、謝る時に頭を撫でる国だってあるだろうし、どっかの国の文化を尊重してね。


「え? え?」


「お嬢さん、頭の形良いね。顔面偏差値はお姉さんに負けてるけど、頭の形は辛うじて勝ってるぜ。まぁ、ラスティーナの方もこの世界レベルでは顔面偏差値が高いんだろうけど、全世界レベルでは、まぁまぁくらいだから、大差ないから、顔も気にしなくて良いと思うよ」


 いやぁ、頭を撫でやすいキャラっているよね。

 妹ちゃんの頭って俺の手を置くのにちょうど良い感じ、猟奇的スプラッタだけど、首から上を斬り落として、俺の椅子のひじ掛けに置いておいてもいいかなぁって思うくらい。まぁ、実際に置いたら気持ち悪くて速攻で捨てるだろうけど。


「おっと、ごめんごめん、また失礼なことを言ってしまいました。お詫びに高い高いしてやろうか」


 俺は妹ちゃんが答えるより先に、妹ちゃんを抱え上げ、高い高いしながら、その場をクルクル回る。


「うわっ、軽っ。背は低いし、胸も尻もお姉ちゃんより薄かったから、予想はしていたけど、ちょっと軽すぎない? もっとご飯食べた方が良いよ」


 ナチュラルにセクハラをしていくスタイル。

 流石にキレるかと思って試しにやってみたんだけど、妹ちゃんは状況が呑み込めず、目を回している。


 うーん、なんだか可哀想になってきたぞ。

 ラスティーナと違って、この妹の方はあんまり強くないね。

 ちょろいし、いろんな面で弱そうな気配がするし、ちょっかいはほどほどにしておこうかな。


「……いい加減にしてくれ」


 ラスティーナが眉間を抑えながら言う。

 言われなくてもやめるつもりだったよ。

 キミと違って、妹の方はちょっかい出しても、俺が楽しめる展開にはならないだろうしね。楽しくならないなら、意地悪する理由もないし、優しくするだけさ。──まぁ、からかうけどね。


「ミルフィーレ、その男の言っていることは、全て悪ふざけだ」


「悪ふざけとはひどいなぁ。俺はいつだって本気だぜ?」


 遊びだろうとなんだろうと本気マジでやってるのさ。


「え?」


 キョトンとしているミルフィーレちゃんを俺は地面におろし、「ごめんね」と言う。

 すると、ミルフィーレちゃんは顔を真っ赤にして──


「無礼者!」


「ごめん、ごめん。謝るから許して」


 俺は素直に頭を下げる。

 弱い相手に意地を張っても仕方ない。強い奴だったら意地を張ると、揉め事に発展して楽しくなるから、謝らない選択肢もあるんだけどね。

 まぁ、お姫様だから権力はあるし、権力も強さの一つとは捉えられるけど──


「隊長! この男を捕らえて!」


 ラスティーナの妹のミルフィーレちゃんは顔を真っ赤にして自分が連れてきた兵士に命令する。

 すると、兵士達が一斉に動き出し、俺を取り囲む。でも、あんまり俺はあんまり楽しくない。だって──


「あのさぁ、やる気が無いの丸見えなんだよ」


 兵士達はラスティーナとミルフィーレの二人の顔色を伺っている。

 一応、俺を取り囲みはしたが、ラスティーナが俺の行動を強く咎めていない様子を見て、俺をどう取り扱うべきか決めかねているようだ。

 兵士達はアウルム王国の王族に仕えており、ミルフィーレの命令でここにいるわけだが、同じ王族のラスティーナにも従わないといけない。つっても、二人の関係は同格じゃないだろうけどね。

 だって、ミルフィーレが俺に高い高いされてても、兵士達は何も言わずにその様子を見ているラスティーナの顔色を伺って、俺を止めようとしなかったしさ。

 兵士達にとってはミルフィーレの身の安全より、ラスティーナの機嫌を損ねないように注意することが大事って時点で、ミルフィーレの格ってのは何となく想像がつくよね。


 ミルフィーレに権力が無いわけじゃないけど、王族の中では下の方なんだろう。

 だから、権力を持っていても俺の中ではミルフィーレは弱い判定なんだよね。


「隊長!」


 ミルフィーレが可愛らしい声で手を振り上げながら怒鳴る。

 それでも呼びかけれらた兵士はラスティーナの方を見ていた。


「やめておけ」


 ラスティーナが疲れた様子で首を横にふる。

 俺としては兵士をけしかけられても良かったんだけどね。

 とはいえ、兵士達もミルフィーレの手前、簡単に剣を引くわけにもいかない。

 兵士達の隊長っぽい男はラスティーナにもう一度、強く言ってもらい、そこでようやく剣を引くという展開を考えていそうだ。

 ここら辺はラスティーナも理解しているようで、もう一度、何か言おうとする。だが、その時だった──


「これは何事ですかな!」


 また別の方向から完全武装の一団が現れる。

 街の奥からやってきた、その集団は貴族風の男に率いられており、数は間違いなく100は超えている。

 ミルフィーレの連れてきた兵士連中とは違って、見た瞬間に精鋭だってのが分かるような連中で、そのうえ殺気立っていた。


 いやぁ、楽しくなってきたぜ。


「──イストヴァン辺境伯」


 へぇ、辺境伯なんだ。

 俺はラスティーナが男を見て呟いた言葉から色々と察する。

 辺境って言葉を聞くと田舎っぽいし、辺境伯ってのも田舎を治めている人なのかなって思いそうになるけど、よく考えて欲しい。


 辺境ってのは国の中央に対して、国の端を表しているわけで、日本みたいな島国だと国の端っこに面しているのは海だからイメージが湧きにくいが、ヨーロッパとかで考えると国の端ってのは他の国と接している場所なんだよね。

 だから、辺境を治めている人ってのは国境付近を治めて守っている人のことなんだよ。他所の国が攻めてきた時の防壁の役割を果たさないといけないから武力を要求される。そして、他国との交易の窓口になっているから、豊かでもある。

 なので、辺境伯っていうのは国境の守りをしている人たちで、強くて金も持ってる、お偉い貴族さんなんだよ。


 いやぁ、そういう人とは是非ともお近づきになりたいもんだね。

 まぁ、俺の事を良く知ってる奴なら、俺がどういうつもりでお近づきになりたいかは想像つくと思うけどさ。


「これはどういうことか説明していただけますか。ミルフィーレ様?」


 おぉすげぇ、イストヴァン辺境伯って貴族、初っ端からミルフィーレちゃんを睨みつけてやがる。

 俺なんて眼じゃないレベルで不敬じゃん? でもって、気になるのは『殿下』って敬称がないことかな?


「ラスティーナ殿下も、何をしておられるのか。私にこの状況を説明していただけますか?」


 辺境伯はラスティーナにも問い詰めるような口調だ。まぁ、流石に睨みつけてはいないけどね。

 イストヴァン辺境伯ってのは30後半くらいの男だ。それなりに背が高く体格も良い。そういう奴に本気で睨みつけられたり、問い詰められたりするのは怖いよね。

 普通の女の子の感性を持っているミルフィーレちゃんは泣きそうだが、ラスティーナの方はシレっとしている。そういえば、ラスティーナは『殿下』呼びなんだね。

 うーん、色々ありそうで、楽しくなってきたぜ。他人の家の事情に首を突っ込むのが大好きな俺としてはたまらん展開だぜ。


「ミルフィーレ様。私はラスティーナ殿下をお迎えすると聞き、それだけならばとこのナザレアの街に兵を兵を入れることを許したのです。私は諍いを起こすなどと言う話は聞いておりませんが?」


 慇懃無礼ってのはこういう感じなのかな?

 辺境伯のミルフィーレを見る眼差しは完全に見下したものだ。

 嫌だねぇ、いい年をした男が女の子に威圧的に振る舞うのは。

 ちょっと、ぶん殴ってやろうかな? おや、俺の事を見たぞ? 戦る気かな? 

 だったら、望む所だぜ。キミの所の全戦力を出せよ。全滅させてやるからさぁ。


 ──まぁ、俺の望んだ感じになることはないわけで、辺境伯は俺をチラッと見ると興味を無くしてラスティーナの方を見た。

 ミルフィーレの連れてきた兵士達が俺を取り囲んで一触即発って感じになってるのを見て、とりあえず文句をつけに来たって感じで、辺境伯は俺にも、この状況にも興味は無さそうだ。

 とにかく、文句をつけるネタができたから、文句を言いに来たんだろうね。


「これは私の屋敷でゆっくりと話を聞かせていただく必要があるようです。構いませんか、ラスティーナ殿下?」


「構わない」


 おぉ、ラスティーナさん、男前。

 まったくビビらないで辺境伯について行ったよ。

 そんでもって、ミルフィーレちゃんは顔色を悪くしながら、肩を落としてラスティーナの後をついていく。


 さて、俺はどうしようか?

 おや、兵士さんたちは街の外へ追い出される感じ?

 そんでもって、ラスティーナの護衛は辺境伯の屋敷にラスティーナと一緒に行く感じ?


 となれば、俺の行く先は──辺境伯の屋敷だな。

 いやぁ、楽しみだねぇ。


 おいおい、護衛さん達、そんなに嫌そうな顔をしないでよ。傷つくなぁ。

 俺のせいでこんなことになった? 

 はは、そんなわけないじゃん。俺が何をしたかは関係ないと思うよ。

 あの辺境伯、最初からこういう状況にしたかったんだろうし、俺が何もしなかったら、キミらが俺の代わりになっただけだろうしね。

 辺境伯が王女二人を自分の屋敷に招く口実って奴にさ。


 ──さぁ、お屋敷では何が待ってるんだろう。楽しみだね。




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