アロンデイルの物語(3)
アイリフィリアを見た俺はこれが一目惚れかって思ったね。
寝ても覚めてもアイリフィリアの事しか頭に思い浮かばなくなってしまうくらいだったからね。
まぁ、一晩も経ってないので寝てもいないし、目を覚ましてもいないんだけどさ。
『夜這いをかけようと思うんだけど、どう思う?』
俺はアイリフィリア──まぁ、後で俺の嫁になるのは知ってるだろうし、アイラで良いか。
俺はアイラを見た瞬間に危険を察知し、即座にお互いを殺し合うことで、アイラを直視することを防いだ使徒たちを見ながら訊ねたんだよ。
『どうやら、惚れてしまったようでね。一発ヤらせてくれないかと頼みに行こうと思うんだけど──』
女性にこんな気持ちになるのは初めてだったんだよ、当時の俺はね。
本気でアイラに惚れてしまった俺は恥を忍んで、アダム達に聞いてみたんだよ。
一応言っておくけど、俺は女性経験がないわけじゃないぜ? 人間時代から来るもの拒まずだったし、人間時代もモテる方だったんでね。
『貴様、アタマおかしいじゃろ』
『あんなクソみたいな化け物のどこに惚れる要素があるんだよ』
『顔しか知らん相手を惚れたなどと、よくもそんなふざけた台詞を吐けるな。貴様の言動は女を顔だけで選んでいるように聞こえるぞ』
『私は良いと思いまスヨ。お手伝いは遠慮させていただきまスガ』
いやぁ、アイラの評判の悪いこと悪いこと。
おっと、俺の話を聞いている内にマー君もアイラの事を思い出したようだね。
頭の中にアイラの顔が思い浮かんで──って、自分の頭を自分で吹き飛ばして自殺しなくてもいいじゃないか。
……さて、マー君も復活したことだし、話を続けようか。物理的に頭を消し飛ばすことで、思い浮かんだものも消し飛ばせたろうしね。
とにもかくにも、俺がアイラに惚れたって言うと、どいつもこいつも俺の頭がおかしいってさ。
『儂は坊が女に興味を持ったこと自体は悪いとは思わんが、相手がアレなのはアカンと思うんじゃ』
『俺も同感だ。あんなクソヤバい生き物に関わんのは絶対にやめるべきだ。仮にテメェがヤバい女が好みだっていうなら、ここにいるクソババアでも良いじゃねぇか。クソロリから少し成長した体でも用意してもらうんだよ』
『おいコラ、儂のどこがヤバいと抜かすんじゃ? 1000歳越えて、のじゃロリやっとんのが、そんなにヤバいことだと思っとるんか? まぁ、坊が女を知りたいというなら、儂が一肌脱ぐのもやぶさかではないがの』
なんで、みんなアイラのことをヤバいって言ったかセッシーは分かるかい?
理由は単純。こいつらはみんなアイラを一目見た瞬間、アイラに負けたんだよ。
『……俺は貴様がどういう理由で、どんな女を愛そうがどうでもいい。だが、ハッキリと言わせてもらうが、俺はあの女には、絶対に関わりたくない』
『私もゼティに同感デス。彼女は我々にとっては危険ですノデ』
ゼティもアダムもアイラにガチでビビってたんだよ。なにせ、負けたからね。
アイラを見た瞬間、アダムもゼティもイセラもマー君も誰も彼もが価値観を揺さぶられた。
その価値観を揺さぶられたってのが決定的な敗北なんだ。
生きていくうえで持っていた目的、例えばゼティにとっては復讐が生きる上で最も価値のあることだったんだけど、アイラを見た瞬間、そんなゼティの価値観は揺さぶられたというか崩された。
アイラの絶対的な美貌を前にしたゼティは復讐よりも、目の前にいる絶対的な存在に尽くすことの方が価値があるのではないかと思い込みかけたんだよ。
その時点でゼティにとっては自分の人生の目的を奪われるって敗北の寸前まで追い込まれたわけだし、そこまで追い込まれた時点で、ゼティはアイラに負けてたんだよね。
アイラを見た使徒の全員がゼティと同じ感じでアイラに敗北感を抱いていたわけ。だから、アイラの事を散々ヤバいって言ってたんだよね。
まぁ、顔を見た瞬間、それまでどんな強い想いを持っていても、一瞬で魅了されて、人生の価値観をぶっ壊してくるような女とは関わりあいになりたくないし、関わるのはやめろって言うよね。
──でも、どいつもこいつも忘れてたよな。
俺はヤバい相手にほど、立ち向かいくたくなる男だってことをさ。
『キミらがそんなにビビるなんて最高じゃないか』
俺は相談をしたかったわけじゃないんだよ。
俺以外の奴がどんだけビビってるか知りたかったのさ。
そうして俺は俺の使徒の忠告を最後の後押しにして、アイラを見たその日の晩にアイラのいる城へとの乗り込んだってわけ。
それで一発ヤったって?
いやぁ、初回は顔見せをしに行っただけだし、そこまで事に及ぶことは無かったよ。
まぁ、実際は半殺しにされて、寝室からゴミのように放り出されたんだけどさ。
……俺が痛めつけられたって話を聞いて嬉しそうにするのは性格がよろしくねぇなぁ。
俺を可哀想とか思えないのかい、キミたちは? 日頃の行いを考えろって? おっと、それを言われると俺の方が不利だね。じゃあ、この話をは無かったことにして──そんなことより、さっさと俺が半殺しにされた時の話を聞きたいって?
まぁ、待てよ。順を追って話すからさ。
俺は使徒の奴らの忠告を無視して、闇夜に乗じてアロンデイルの城に忍び込んだんだ。
まぁ、忍び込んだって言っても、空を飛んでいったんだけどさ。
だけど、そう簡単には行かなくて、城の中に入ろうとしたら城を囲んでいた結界に引っかかってしまったんだよ。
そしたら、俺の侵入に気づいた城の警備をしていた──宮廷魔術師長とか言ってたかな?
結界を張っていた、強めの魔術士に見つかって、そいつの魔術で地上に引きずり降ろされたんだ。
俺はそいつのことは、あまり覚えてないけど、マー君は覚えているようだね。記憶にあるぞって顔してるしさ。
どういう顔でどんな名前だってのは憶えてないけど、使ってた魔術は珍しかったから憶えてるぜ。
基本の四大元素系の魔法に加えて、相手を引き寄せるような魔術を使ってたよね。
それと、戦闘には関係ないけど、若くて顔が良い奴だった気がするなぁ。宮廷魔術師長って肩書きの割に二十代前半くらいだった気が……
まぁ、そいつがどういう奴でもどうでも良いよな。
とにかく、そいつと俺は戦いになったんだよ。王城に侵入してんだから、問答無用で殺しにかかるのは当然だよな。
──で、戦闘になったけど、当然、俺の勝ちで終わり。そいつの両手足を吹き飛ばして達磨にしてやったぜ。つっても、次に会った時には治癒魔術で元通りになってたけどさ。
あぁ、言ってなかったけど、アロンデイルの人間ってのは女王アイリフィリアにイカレてるから、アイラを守るために命を懸けてんだよ。この宮廷魔術師長って奴もそんな感じだったね。
さて、魔術師を倒した俺はその足でアイリフィリアの寝室に向かった。
でも、俺が侵入しているのはバレてたから、次には近衛騎士団長って奴が俺の前に立ちふさがった。
こいつも若くて顔が良かったのは憶えてるよ。確か、こいつに関してはセラ婆が詳しかったような記憶があるなぁ。まぁ、俺も戦ったんだけどね。
近衛騎士団長は線の細い感じの男だったけど、戦ってる最中に俺に剣をへし折られると、アロンデイルに伝わる格闘術で俺に挑んできた。
近衛騎士団長は『グレカン・アロンディオ』っていうアロンデイル式レスリングの名手だったようで、タックルで俺を転ばせたりしてきたんだけど──まぁ、普通にぶん殴って勝った。
そうして、俺は立ち塞がる奴らをぶっ倒して、アイラの寝室に辿り着いたってわけ。
うん、ここまでで俺が半殺しにされる要素はなかったよね。
強そうな肩書きを持ってる奴に楽勝かましてるわけだし、いったい俺は誰に半殺しにされたんだろうか。
まぁ、答えは察しがついているだろうけど、俺を半殺しにしたのはアイラ。
夜這いをかけにいった俺は、無様にもその相手に半殺しにされてしまったというわけさ。
あの時は完敗だったね。全く手も足も出ずに負けてしまって、俺はゴミのように城から放り捨てられしまったんだよ。
さて、それじゃあキミらも聞きたいだろうし、俺がアイラと初めて会って、どんなふうに負けたのかって話をしようか──と思ったけど、時間切れのようだね。
ラスティーナのお迎えが来たようだし、俺はこれからラスティーナに連行されてアウルム王国に行くから、この続きはまた今度ってことで。
それじゃあ、アウルム王国でまた会おうか。




