アロンデイルの物語(2)
……今日も俺の話を聞きに来たのかい?
キミらも暇だねぇ。他にすることないの?
え? 俺が逃げ出さないか監視してるって?
あ、そう。別に逃げる気は無いんだけどね。だって、そもそも捕まってるって感覚無いしさ。
まぁ、それはそれとして差し入れとかは持ってきたかい?
こういう牢獄の中にいる奴には甘いものとか、煙草を差し入れするのが常識だろ?
……俺にあげるものは何も無いって? 冷たいねぇ、悲しくて涙が出ちゃうよ。
──しかし、ラスティーナも俺らの扱い方が分かってきたね。
俺達は食事も睡眠も必要ないから、牢屋に入ってから一度も食事を出されてないぜ?
俺だからよかったものの、人権問題になるぜ。まぁ、人権なんて考えはこの世界にはまだないだろうけどさ。
ところで、人権って考え方ができたのって、いつ頃だか知ってるかい? 所説あるんだけど、俺が思うに──なに、そういう話はいらないって?
セッシーはアロンデイルで何があったのかだけを知りたいのね。まぁ、いいでしょう。
俺のありがたいお話はまた今度にしましょうか。
──さて、昔の俺はそこらにいる源神に喧嘩を売って、ぶち殺しまわっていたって所までは話したよね。まぁ、今も喧嘩を売ってぶち殺して回ってるけどね。
とある世界の源神を倒した俺達は、そのままアロンデイルのある世界まで移動したんだよ。
まぁ、そこら辺は何の障害も無く、何も面白い話もなく、スムーズにアロンデイルに到着。で、俺達はアロンデイルに到着すると、その足で酒場へとくり出した。
『祝勝会+決起集会だってのに集まりが悪いなぁ』
アロンデイルに来た目的は面白いものがあるっていうナっちゃん──ナハトセーレって源神からの情報提供があったから。そんで、その面白いものを見つけるために頑張ろうぜって集まりを開いたのに、俺の使徒は殆ど集まらなかったんだよ。一応、神を一人ぶっ殺したので、そのお祝いも兼ねてたんだけどね。でも、来なかった。
『そんなクソみてぇなイベントに集まるかよ。どうせ、またクソみたいなことをするんだろ』
クソクソ言っているウンコマンのマー君は当然いる。
俺のお目付け役気取りだからね。
『……奴がここにいるという話は本当か?』
荒んでいた頃のゼティも俺に騙されて、その席にいた。
いや、その世界にいたかもしれなかったし、騙してたとは言えないかな。
まぁ、ここまでは良いよね。セッシーも知ってるからさ。
問題はここからで──
『ねぇねぇ、お兄ちゃん。セラも頑張ったから、ご褒美くれる?』
銀髪に漆黒のゴスロリドレスを着たロリ美少女もいたんだよ。
マー君、思い出して「オェッ」ってならない。同じ使徒の仲間だったんだからさ。
『なんだい、セラちゃん。欲しいものを言ってごらん?』
俺は優しく訊ねたんだ。そしたらね──
『えっとね、セラねぇ、この『竜殺誉』っていう、お店で一番高いお酒飲みたいなぁ』
『いいよぉ、お兄さんが奢ってあげる』
ロリの頼みだからね。俺は二つ返事で了承でしたよ。
まぁ、俺は別に小さい女の子は好きじゃないけど。つーか、子供がそこまで好きじゃない。
『……その姿でそれは流石にキツイぜ、婆さま』
マー君は俺の左隣にチョコンと座っていた銀髪ロリに苦言を呈していたね。
ぶっちゃけ、俺もきつかった。だって、見た目はロリでも中身は千歳越えのおばあちゃんだもん。
『──うるさいのぅ、儂がどんな姿をとろうが、どんな言葉を喋ろうが、貴様に関係なかろうが。儂は今はとても可愛い純朴な美少女のセラちゃんなのじゃ。文句をつけるつもりなら、ぶち殺すぞ』
『クソキモいんだが、このババア』
俺もセラちゃん──セラ婆はきついと思っていたよ。まぁ、口には出さなかったけど。
セラ婆──イセラ・ヴェルドリン・大龍は使徒の最古参。まぁ、現在は俺の使徒をやめて、あちこちの源神の用心棒をしてる人だよ。
『酒だけじゃ物足りんし、つまみも欲しいのぅ。おい、小僧、なんぞ食い物でも注文せんか』
『……俺に言ってんのか、クソババア。そのクソ偉そうな態度は喧嘩を売ってると思って良いんだよな?』
『……なんじゃ、その口のきき方は? 生意気じゃなぁ、こりゃあ、お仕置きされても文句は言えんぞ』
ウンコマンとロリババアは相性が悪くてね。よく揉めてたよね。
まぁ、戦闘の相性も良くなくて、喧嘩になったら毎度マー君が半殺しになってたんだよ。
……セラ婆を半殺しにしたことも多いって? まぁ、距離を取ったらマー君の方が有利だったしね。
逆に言うと接近戦になれば、マー君はセラ婆に絶対勝てなかった。だって、接近戦の技量だけでいえばセラ婆はゼティより上だったしさ。
『まぁマァ、お二人とも落ち着いてくだサイ。お祝いの席でスヨ』
二人の間を取り持ったのは白髪赤眼のアダム・アップルシード。
俺の右隣りに座ったアダムの言葉を二人は素直に聞く。俺が何を言っても聞かないのにアダムの言うことはみんな聞くんだよね。まぁ、その代わりアダムは俺の頼みを最優先で聞いてくれるんだけどね。
『アダムがそう言うなら……セラちゃんやーめた。セラちゃん、乱暴なの嫌いだもん』
『ぶりっ子クソババア、今回はアダムの顔に免じて許してやるが、次はねぇぞ』
そんなこと言って、マー君。次にセラ婆と喧嘩した時、ぶっ殺されてたよね。
『食事も来たようでスシ、食べながらお話をしまショウ』
まぁ、こんな感じで俺達は仲良くやってたんだよ。
セッシーも、この世界を無事に脱出できたら、こういう連中の仲間入りだからね。
覚悟しといた方が良いぜ?
『……デハ、食べながらで良いノデ、この国の第一印象について、皆さんお願いしマス』
アダムがいる時、俺は仕切りは全部アダムに任せる。
それを不満に思う使徒はいないし、アダムがいる時に俺が仕切りをすると、みんな文句を言うんだよね。
『アスラが求める面白いモノ、それに繋がる情報を優先してお願いしマス』
俺は面白いものを探してアロンデイルに来たんだ。
ナっちゃんが俺にわざわざ連絡してくるんだから、相当だぜ?
その情報を欲しがるのは当然だろ。
『セラは強い人が多いなぁって思ったよ。……儂の見た所、儂らには及ばずとも他の源神の使徒級の奴がゴロゴロしとるわい』
『強さの平均が高すぎる気がする。俺の所感も刀自と同じだ。それも単純に生物としての性能が高いのではなく、明確な目的があって技量を高めた感じだな』
刀自ってのは年配の女性に対しての敬称ね。ゼティはセラ婆を達人として純粋に尊敬してんだわ。
『やだぁ、ゼティくん。セラのことお婆ちゃんみたいに呼ばないで』
『これは失敬』
『セラ婆のことをどう呼ぶかはともかくとして、強いのが多いのは俺も気になるところだね。まぁ、俺としてはそれは望む所なんだけどさ。それで、マー君はどんな感じ? 魔術系の専門家としては?』
『ぶっちゃけ、この街というか、この世界自体がクソヤベェ。何がヤベェって、魔力の流れがクソだ。一応言っておくが、悪い意味じゃなくて、良い意味でクソなんだ』
何言っているか分かんないよね、このウンコマンはさ。
でもまぁ、魔術とかの方面は俺は全部マー君に任せてんのよ。だって、俺が知る限りでマー君以上の魔術士はいないしね。
『魔力に限らず、全ての力が整いすぎてる。全ての力が一つの方向に向かって流れ込んでいる。それも引き寄せてるんじゃなく、大気中の魔力とかが自分の意思で望んで、一つの方向に向かって生きやがる』
『どこに流れ込んでいるんだい?』
『この街の王城だ』
マー君の言葉を聞いて、俺以外の全員が城の方に意識を向けた。けれど、直後にそれをやめる。
なぜかって、ヤバいって思ったからだ。
おかしいよな、この場にいる全員が神様をぶっ殺した経験があるってのに、そういう連中ですら、ヤバさにビビって自分の行動にストップをかける奴がアロンデイルの城にいたんだぜ?
……まぁ、それが俺の嫁さんだったんだけどね。
『……これはアカンじゃろ』
『確かにこれはマズいな』
『な、クソヤベェだろ』
『フム、関わりあうのは避けた方が賢明だと思いマス』
『キミらのその感じを見ると最高に面白い奴がいそうだね』
俺はワクワクが止まんなくなったね。
だって、ゼティとマー君がビビッて関わりたくないって思う相手だぜ? 最高じゃねぇか、セッシーもそう思うだろ?
『最高、最高、最高だぜ。とんでもねぇのがいるんだな! 興奮してきたぜ』
『アスラが喜んでいると私も嬉しいでスネ』
俺が楽しんでいるのを見るとアダムは喜ぶけど、それ以外連中はウンザリとした顔になるんだよね。
まぁ、それでも、どいつもこいつも、俺につき合ってくれるんだけどさ。
『城にいるんだろ? じゃあ早速、会いに──』
俺が席を立とうとした時だった。
酒場の中が俄かに騒がしくなったのは……あの時のことは今も覚えているぜ。
なにせ、俺が嫁さんの顔を初めて見た時のことだったからね。
……マー君が『クソみたいな思い出だぜ』って顔をする理由も分かるけどさ。だって、俺の嫁さんの顔を見た瞬間に、俺以外の全員が死んだからね。
『女王様が顔を見せてくれるそうだぜ!』
『働きが足りなかったからかな? 今年はいつもに比べて3%しか国内総生産が増えてないから、応援してくれるんだろう』
『応援してくれるんなら頑張らないとなぁ。女王様が国を豊かにしたいって言ってるし、俺達は命をかけて頑張らないと。俺達の命はどうなっても良いが、女王様の望みが叶わない方が辛いぜ』
『でも、女王様は俺達が死ぬのも嫌がるぜ?』
『じゃあ、俺達は死なないようにしねぇとな』
『そうだなぁ。おっと、話をしてる場合じゃねぇや、女王様がお顔をお見せになるんだから、さっさと広場に行かねぇと』
酒場の客はそんなことを話ながら酒場から慌てて出て行った。
その会話を聞いていると、マー君の顔色がみるみるうちに変わっていく。
『気付いたか? アイツらが会話しているだけで、莫大な量の魔力が流れ込んでいた。特に女王のためにって言った時がクソヤバい。とんでもねぇ強化がかかってるぞ』
マー君の話を聞き流しながら、騒がしい雰囲気の方に心惹かれていた。
だって、マー君の話は後でも聞けるし、それよりも何かイベントがある方に興味が行くのは仕方ないだろ?
『ちょっと、外に出てみようか』
俺が立ち上がると、酒場を出ようとした客が俺達を見つけ──
『おい、兄ちゃんたち余所者だろ? これから、女王様がお顔を見せてくれるらしいから、早く行った方が良いぜ』
客は俺達を強引に連れ出す。
女王の顔を見るのが、そんなに凄い事なのか、俺には良く分かんなかったけど、酒場を出ると街中が大騒ぎだった。
『おい! この兄ちゃんたちは余所者なんだ! せっかく女王様がお顔を見せてくれるんだから、良く見える所に──』
余所者って言葉に反応したのか、街中の人間が俺達の背中を押して、城の前の広場まで連れていく。
余所者にこそ見せたいって感じなんだろうね。街の御自慢だからだろうかって当時の俺は思ったし、今の俺も純粋な善意から俺達に見せたかったんだって思うね。
彼らは純粋に女王様の顔を見ないの人生の損だって思ってだろうしさ。
『──これはちょっと、異常じゃろ』
『ちょっとではなく、明らかに異常でしょう』
『歓迎されるのは楽しいでスネ』
『クソヤバい。クソクソクソ』
『いやぁ、楽しみだねぇ』
それぞれ口を開きながら、街中の人間に押されて、俺達は城の前の広場に連れてこられた。
『女王様の御尊顔を見られるなんて、これ以上の幸福は無いからねぇ』
『そうなの、お婆ちゃん?』
俺は広場に着くと、近くにいたお婆ちゃんと話す。
ちなみに、俺の知り合いのお婆ちゃんは幼女のふりをして、そこら辺にいたおじさんから飴を貰っていた。
そのうちに、騒がしかった広場が静まり返る。
どうやら、女王様が姿を現すんだろう。そう思って俺達も城のバルコニーに目を向ける。そこから姿を見せる感じだったからね。
いやまぁ、その時点でヤバいってのは分かってたよ。
俺の直感が人生、神生のどちらにおいても最大の危機だって警鐘を鳴らしてたからね。
でも、危機だからって逃げるって選択肢は俺には無かった。むしろヤバい時こそ俺は燃える男だったからさ。
そして、俺が危機感を抱いていると、ほどなくしてアロンデイルの女王が姿を見せる。
その瞬間、俺のそばにいた使徒──アダム・アップルシード、イセラ・ヴェルドリン・大龍、ゼルティウス、マーク・ヴェインは死んだ。
まぁ、正確には全員でお互いを殺し合ったんだけどね。
セラ婆がゼティの頭を拳で砕き、ゼティがマー君の首を剣で刎ね、マー君がセラ婆の頭を魔術で消し飛ばした。そして、アダムが自分を含め、全員の体を分子レベルまで分解して殺した。
なんで、そんなことをする必要があったかって?
そりゃあ単純に、アロンデイルの女王の姿を少しでも見てしまったからだよ。
女王を見た瞬間に神殺しを成し遂げた筈の俺の使徒たちは屈服しかけた。だから、完全に屈服するより先に自分達を殺した。死ねば、女王を見ることは無くなるからね。
そして、死んで、女王が見えない離れた場所で復活するつもりだったんだろう。
……なんで屈服しかけたのかを話してないって?
そういえばそうだね。セッシーは細かい事にも気付く良い使徒だねぇ。
でも、細かいことに気が向くと使徒としては大成しないから気を付けた方が良いよ。
そんなことは無いって? マー君はそう言うけど……まぁ、実はそうで、そういう話も俺が今、思いついただけだよ。
──話を戻そうか、どうして女王に屈服したか。
それは単純な話だよ。単純に女王が美人だったから、それに尽きる。
アロンデイルの女王は美しすぎて、その姿を見た奴は誰であろうと見惚れて心を奪われる。
脳や精神が本能的に女王の美に負けるんだ。そして強制的に脳に上下関係が刻まれる。あまりの美しさにね。
何を言っているか分かんないと思うけど、直接見たら分かると思うよ。ここに写真が一枚あるから、セッシーもチラッと見てみなよ──って、マー君、殺すなよ。
俺の嫁さんの写真を見せた奴を問答無用で殺すのはやめてくんないかなぁ。まぁ、それしか方法が無いのは分かるけどさ。
……さて、セッシーも復活したから分かると思うけど──写真をチラつかせるだけでビビるのはやめてほしいね。
俺の嫁さん──アロンデイルの女王を見ると心を奪われるのが分かってるからって、そこまで警戒されるとショックだわ。
まぁ、セッシーも死んで分かったと思うけど、女王を見て心を奪われないようにするためには、完全に心を奪われるより先に意識を奪うしかないわけで、だからアダム達はお互いを殺したんだよね。
この時に救いだったのは、それを即座にできる達人しかいなかったってことだね。反応の遅い奴がいたら、そこで終わり。俺がその後、アロンデイルの女王と結ばれることはなかったんだよ。
……俺が殺されてないって?
……それはまぁ、そうだね。危険を察知したアダムが俺を真っ先に殺そうとしてくれたんだけど、俺は俺を殺そうとするアダムの攻撃を防いだからさ。
源神だから、魅了はされないのが分かっていたんだろうって?
……まぁ、そんな感じかなぁ……うん、そんな感じ。いやぁ、俺って神の中でも実はクソ強いからね。
マー君のクソを奪って悪いけど、俺はクソ強い邪神だから、美人を見た所で心を奪われるなんてことはないのさ。そこにいるウンコマンみたいな使徒と違ってね。
…………おいおい、落ち着けってウンコマン呼びしたからって怒るなよ。
クソクソクソって口からクソを漏らしてるからウンコマンって、みんな言ってるぜ。
……いやまぁ、俺とセラ婆しか言ってる奴は知らねぇけど。陰ではみんな言っているんじゃないだろうか……ルクシィとか、ジェナとか……ガイは言ってねぇと思うけど……ジロちゃんも言ってそうかも……
まぁ、そんな話は置いておいて、アロンデイルの女王の話をしようか。
俺が見たアロンデイルのは女王はどんだけ美人かと言うと…………………………うーん、言葉では説明しづらいなぁ。なんていうか、全ての存在にとっての美の理想形って感じ?
とにかくなんでもいいから、綺麗だなぁ……とか、見て感動したと思うものを思い浮かべてみな。
──で、その綺麗なものをみたなぁって感動の数億倍を絶対に与える存在ってのがアロンデイルの女王だ。
……数億倍じゃなく数兆倍? マー君からの訂正があったんで数兆倍の感動ってことにしておこう。
夫じゃない奴の方が評価が高いってのは気にしないでね。まぁ、俺の言うことなんて、誰も気にしないだろうけどさ。
まぁ、とにかくどんな生物というか存在でも感動するくらいの美人が、その後に俺の嫁になるアロンデイルの女王だったんだ。
………………話も長くなったし、もう良くないかい?
ここまでを文字数にしたら7000字を超えてると思うし、もう良いだろ?
10000字を超えるまでは頑張れって?
だったら、冒頭にした人権の話をしようと思うんだけど……あぁ、聞きたくないって?
なんか気が乗らなくなってきたなぁ。いやまぁ、別に話しても良いんだけどさぁ。
世界中のどんな存在も魅了されて頭がおかしくなるような、俺の美人な嫁さんの話を続けるのは良いんだけど、明日でも良くない?
──まぁ、あと少しくらいはしてもいいかな。
アロンデイルの女王を見た瞬間、アダム達がお互いに殺し合った後だけど、それには誰も気づかなかったんだよね。だって、人が死のうがどうしようが、誰も彼も女王を見ることにしか意識が向いてなかったからさ。
そんな中で俺は……まぁ、なんというか、女王を見ながらこう思ったのよ。
誰も彼も崇拝する存在を自分の手中に収めることができたら、どんなに面白いだろうかってさ。
ナハトセーレはつくづく俺の趣味を理解してやがるよね。流石、親友。
ナっちゃんは女の子だけど、性別を超えても友情ってのは成り立つものって事例の教科書にしてほしいくらいだぜ。
誰も達成できないことだからこそ、俺は面白いと思う。それを理解しているから、俺にアロンデイルに行くことをナっちゃんは勧めたんだろう。
『ねぇねぇ、お婆ちゃん。女王様のお名前を教えてくれないかい?』
俺はアロンデイルの女王が城の中に戻るのに合わせて近くにいたお婆さんに話しかけた。
『女王様のお名前かい。アイリフィリア様だけれど──』
『アイラちゃんね。OK、覚えたぜ』
俺は勝手に愛称を決めた。
──セッシー、ドン引きするのはやめてくんない?
せっかくファンタジーやってんのに、リアルな女性の感覚を持ち出すのはルール違反だぜ。
ま、女性的には勝手にあだ名をつけるのは嫌だよね。それは俺も分かるぜ。
でも、嫌がるからこそやる奴もいるのさ。例えば俺みたいにね。セッシーとか、マー君とか、セラ婆とか本人が嫌がるからやってる感はあるよね。
──余計な話が多いって? こいつは失礼。
実は面白おかしい話が無くてさぁ。時間稼ぎの話をしてんのさ。
おいおい、時間稼ぎの卑怯姑息も、時と場合で讃えられるだろうに、俺がこのタイミングでやったらマズいのかい?
困るねぇ、キミの都合や世間の都合で正しいや間違ってるのを決められるのは本当に困る。
時と場合で正義と悪が入れ替わるのなら、絶対の正義と悪はこの世に無いということじゃないかい?
絶対という基準が無いのなら正義と悪はどこで入れ替わるんだい?
俺みたいな卑小な存在は入れ替わる正義と悪、正しさと間違いの中で、何を選べばいいのかしらって──
それはともかく昔の話に戻ろうか。
まぁ、俺を主役にしたら面白い話じゃねぇけどさ。でも、俺が嫌いな奴には面白い話。だって、俺が大失敗する話だからさ。けれど、世界全体を考えたら、楽しい話じゃないだろうなぁ。
だって、アロンデイルが──というか、アロンデイルがある世界全体が滅ぶという結末に至る話だしさ。
まぁ、そんな先の話をしても仕方ないし、アロンデイルがというか、直後の話をしようか。
俺はアイラを見た。
アイラってのは、後に俺の嫁さんになるアロンデイルの女王のアイリフィリアに対して俺が勝手につけた愛称ね。
それはともかく、ビビッと来たね。何がビビッと来たかってのは放っておいて、ちなみにどこがビビッと来たかも放っておいて欲しいね。
……俺が思うに男女で、興奮の値を示すための肉体の器官の外見的反応が違い過ぎる気がするんだよね。男はまぁ、興奮すると大きくなるっていう外見的な変化が有るけど、女子にはそういうのがないじゃない。こういう肉体的な外部から見て顕著に判断できる要素がある限り、男女の性的な平等は不可能だと思うんだよね。
……あぁ、はいはい。こういう話で時間を潰して俺が逃げようとしてるってセッシーは思うわけね。
マー君も目を逸らしてるけど、同じ意見なわけね。俺に素直に昔の話をしろってさ。
いやまぁ、分かってるさ。
だって、俺自身が話をしないといけないと思ってセッシーを呼んだわけだしさ。
でも、なかなか言い辛い話もあるわけで──
……まぁ、いいか。話すことは決まった。
俺が話すことを決めた以上はマー君も文句は無いよな。俺が何を言おうが文句はないはずだ。当事者である俺が話すことを否定するつもりは無いよな。
まぁ、マー君も当事者だけど、キミは当時の事を話す気は無いだろう?
俺に遠慮してるんだろうけど、そういう気持ちが少しでもあるのなら──黙ってろ、口を開くんじゃねぇよ。俺のご機嫌伺いをするゴミに俺の物語を口にする資格はねぇんだよ。むしろ、俺の感情なんか無視して、好き勝手にほざきまくる奴の方が好感が持てるね。
……まぁ、後でそういう奴はぶち殺すけどさ。蘇りたいなんて気持ちが欠片も起きなくなるくらい徹底的にね。
──では、アイラを見てからのことを話そうかな。
俺はアイラを見て、ビビッと来たんだよ。
俺の仲間はアイラを見た瞬間に死んだが、俺だけはアイラを直接見たんだ。そのせいだろうか、俺は凄まじく興奮してしまったんだ。でも、この気持ちは誰も共有できなかったんだよ。
だって、復活したアダム以下、誰も彼も、アイラを直視はできないと物陰に隠れて、様子を伺っていたからね。
情けない奴らだよなぁ。
見た瞬間、屈服すると分かっていたから見ないということを選択した。
俺の使徒──セッシーはゼティもマー君も強いって分かってるだろうけど、そんな奴らが為す術もなく隠れて、直視しないという選択しかできなかった。
で、そんなヤバい存在に俺はどんなことを思ったかというと──
『良いじゃないか。夜這いでもかけようか』
俺は犯りたくてたまらなくなってしまったんだよね。
だって、その世界にいる存在の全てが、美しさだけで屈服する存在だぜ?
そんなの組み敷く以外ないだろ? でもって、犯すしかないだろ。
性欲じゃねぇんだよ。
誰も挑戦して成し遂げていないことに挑戦したくなる。そんな俺の欲望にアイラ──アロンデイルの女王はピッタリだったんだ。
そして、俺はアイラに夜這いをかけたわけだが……まぁ、その結果は、マー君も知ってるように大失敗。
でもまぁ、この話はまた今度にしようか。
字数でいえば、この辺りで9000字を超えてるだろうし、これ以上、俺に話して欲しければ甘いものか煙草でも持ってきて欲しいね。
獄中生活をしている奴には煙草と甘いものの差し入れが定番だろ? それを怠ったキミらのミスだし、出直してきな。
ほら、物欲しげな顔をしないで、さっさと帰れって。今日はもうおしまいだからさ。
……まぁ、俺は煙草も甘いものも好きではないんで、持ってこられたら逆に文句を言うんだけどね。
※人物
『イセラ・ヴェルドリン・大龍』
銀髪ゴスロリのロリババア。口調が安定しない。
過去のアスラカーズの使徒の中で『最高の〇〇』を持ち、『最も〇〇〇』
純粋な接近戦だと、過去のゼルティウスでは敵わず、現在のアスラカーズですら殴り合いでの決着を諦めるレベル。
『アダム・アップルシード』
白髪赤眼のイケメン。現在の使徒序列六位。語尾がカタコト。
過去、現在ともにアスラカーズの使徒の中で『最大の内力量』を持ち、『最も内力の扱いに長けている』。
過去話にしか登場しない予定。一応、戦闘だけならば、相性をものともせずダントツで最強の座に収まる使徒。
『アスラカーズ』
主人公。問答無用のクソ野郎。
頭はおかしいが、頭が悪いわけではないので他人の心の機微は分かるし、世間一般の感覚も察することができて、一般人を装うこともできる。そのうえ、他者の繊細な心の動きを論理的な視点で分析し、観察できる。だが、それを他者との生産性のあるコミュニケーションに生かすことのできないゴミ。
読者視点だと、状況も周囲の人物の気持ちも推理していると分かるが、自分にとって最高の状況になるまで何もしないクズ。
その気になれば、どんな状況に置かれても英雄や例外を必要とせず、物語を己の力だけで、問題や事件が起きる前に解決できる才覚を持つが、それをせず、例外利用し、本来の英雄の立場を奪って、その立場に収まりつつも、英雄の責任や例外の使命を果たさないカス。
とにかく、みんなに嫌われる生き方しかできないが、それでも何も思わず、結局、自分のことしか考えられない最低野郎。




