これからの話と昔の話
──激闘の末、赤神イグニルフスを倒し、イグナシスの街を赤神の苛烈な支配から解放した俺ことアスラカーズもとい、アッシュ・カラーズ。
ちなみに赤神を倒したのはゼティで、それに加えて赤神もイグナシスの街に対して、実際は支配しているってほどの影響力はなかったし、極端に酷いことをしているわけでもなかったんだけどね。それに住民も赤神に支配されていたとしても、それはそれで良しとしていただろうしさ。
だからまぁ、俺が言ったことは殆ど嘘だね。
ぶっちゃけ大義名分らしいものは、取って付けなわけだが、イグニルフスは俺に喧嘩を売ってきていたし、そこら辺はきっちりカタに嵌めないとってことで、ぶっ殺すことにしたわけです。
さて、そんなこんながあってイグニルフスを倒した俺だが、今は何故か拘束され、監禁中です。
手枷足枷を嵌められ、牢屋の中に閉じ込められた俺。
鉄格子を挟んで目の前にはアウルム王国の王女であるラスティーナが立っている。
牢屋の汚れた床の上に手足を拘束された状態で胡坐をかいている俺をラスティーナは見下すように睨みつけていた。
「おいおい、俺が何をしたっていうんだい?」
ゼティを背負って闘技場の地下から脱出した俺は赤神の喪失で混乱しているイグナシスから脱出するために身を隠していたわけだが、ほとぼりが冷めるより先にマー君やセッシー、その他大勢に見つかって捕まってしまったわけだが、こんな風に牢屋に入れられる理由が分からないね。
「俺がやったことって言えば、キミの名前を使ってツケで飲み食いしたり、良い服を買ったりしたことくらいだぜ? まぁ、たまにアウルム王国の王家の関係者ですって言って、タダで物を貰ったり、お遊びで街中のチンピラに脅しをかけたりもしたことはあったかな? でもまぁ、俺とキミはこうしてお喋りをするくらいの仲だし、全く無関係でもないから、それはいいよな」
いやぁ、他人の金を散財するのは楽しかったぜ。
持つべきものは金持ってて権力のある有名人の友達だね。
「……ほぅ、そんなことをしていたのか」
ラスティーナの顔が引きつり、こめかみがピクピクと動いている。
俺は相手の気持ちが分かる男だし、空気も読める男なんで、ラスティーナが怒っているのは当然わかる。
でも、理解できるのと寄り添えるってのは別の話なんだよね。
「おいおい、そんなに怒るなよ。美人が台無しだぜ?」
おっと、うっかりと余計なことを言ってしまったぜ。
まぁ、ラスティーナはスゲェ美人だし、それは間違いないんだけど──
「あぁ、美人って言っても勘違いしないで欲しいね。キミの美人度を表現すると、この世界で一番くらいだと思うんだ。そんでもって世界ってのは、それこそ星の数くらいあるわけで、それぞれの世界の一番の美人と比べると、まぁキミは並みの美人かなぁって思うんだよね」
勘違いされても困るから本当のことを伝えておかないとね。
まぁ、こんなことを言えば、どうなるかは分かるんだけどさ。
「……貴様のことを本気で殺したくなってきたんだが?」
ラスティーナが睨みつけてくるが、正直、全然怖くねぇんだよなぁ。
「殺れるものならご自由にどうぞ。まぁ、無理だろうけどさ」
俺をぶっ殺せるくらいの奴がいるなら、そっちの方が俺にとっては嬉しい限りなんだけどさ。
生き死にで俺に脅しをかけるのが効果的だと思ってんなら、キミはまだ俺を理解できてないね。
「まぁ、いいや。そんなことより、どうしてキミは俺を閉じ込めているんだい?」
ラスティーナの顔面が怒りのせいで紅潮を始めている。
まぁ、それでも必死で冷静さを保っているようで、ラスティーナは俺の疑問に答えてくれた。
「どうして? 貴様は自分が何をしたのか分かっていないのか! 貴様は赤神を滅ぼし、イグナシスの象徴でもある闘技場を破壊したと噂されているのだ!」
赤神をぶっ殺したのはゼティで、闘技場が崩れたのは赤神の力が無くなったからなんだけどね。
「わかっているのか? 貴様が普段からアウルム王国とのつながりを吹聴していたせいで、赤神の殺害と闘技場の破壊はアウルム王国の陰謀であり、貴様はそのために送り込まれたアウルム王国の工作員だと思われているのだ。そのせいで、アウルム王国とレイランド王国の関係は最悪の一歩手前まで来ているのだぞ!」
ラスティーナは俺に怒りをぶつけてくる。
まいったなぁ、俺のせいでそんなことになってるのかぁ。赤神を殺したのはゼティなんだけど、俺が首班になってるのね。
確かに俺の行動でもアウルム王国の皆さんには迷惑がかかってるんだろう。でも、俺にも言い分はあるし、言わせてもらうぜ。
「そんな! 全てアナタの命令でやったことなのに! どうして、そんな言い方をするんですか!」
ラスティーナの言い方だと、俺がやったことで自分達が被害を被っているようだけど、命令したのは貴方たちですよね。俺にレイランド王国にあるイグナシスの街で暴れて来いって言ったのはさぁ。
──まぁ、そんな命令は受けてないんだけどね。
つまり、俺は普通に嘘です。
「人聞きの悪い事を言うな! 誰が聞いているか分からないんだぞ!」
ラスティーナが鉄格子を引っ掴みながら、牢屋の中の俺を怒鳴りつける。
おいおい、お姫様らしくねぇなぁ。もっと、お上品にいこうぜ。
まぁ、気持ちは分からないでもないけどね。俺のせいで他所の国との関係が悪化してんだろ?
それで、俺をとっ捕まえて、ほとぼりが冷めるまで大人しくさせようとしてんだろうね。
俺の予想だと、ラスティーナは俺をレイランド王国に突き出すって解決策を取る気はないんだろう。
そうする理由で分かりやすいのは二つ。
一つ目、俺に利用価値があると思ってるから。
二つ目、俺があることないこと喋りそうだから。
ま、ラスティーナちゃんにも色々と考えがあるんでしょう。
「ところで、気付いたんだけど、いつものお付きの子がいないね」
ラスティーナにはメイドの女の子がついていたと思うし、忠実な手駒っぽいジェイクとかいう名前の若い騎士もいないね。
「……貴様に会うと言ったら、二人とも体調不良を訴えてきた」
「俺に会ったら意地悪されると思ってるのかなぁ? それで代わりに護衛の騎士を連れてきたんだね」
ラスティーナの背後に目を向けると若い騎士が二人いて、俺に対して「コイツ、マジかよ」ってドン引きした眼差しで俺を見ていた。もはや「無礼者」なんて言葉で収まらないほどの俺の無礼っぷりに絶句って感じだね。
王族相手にこんな舐めた態度を取る奴なんて見たことが無いんだろう。でも、俺は誰に対してもこんな感じだぜ? みんなに対して平等に舐めた口をきいてんのさ。
いやぁ、頭のおかしい奴って感じで見られんのはたまんねぇぜ。俺はそんな風に見られんのは好きなんでね。ラスティーナの新しい護衛の眼差しは俺にとって非常に喜ばしいぜ。
「──もういい」
おっと、どうしたんですかね、お姫様?
怒りが限界を超えたのかラスティーナは無表情で俺を見る。
「貴様をこのまま野放しにしておけば、何をしでかすか分からない」
ってことは、俺を殺す感じかな? とうとう覚悟を決めてくれて嬉しいぜ。
やっぱり、権力持ってる奴とは仲良くするよりも戦わなくちゃ、面白くねぇからさ。
「貴様をアウルム王国に連れていく」
「はぁ?」
「状況が落ち着くまで私の近くにおいて監視させてもらう」
なんだよ、俺と戦らねぇの? つまらねぇなぁ。
アウルム王国に連行して、ほとぼりが冷めるまでラスティーナが直接監視するって?
「おいおい、拉致監禁とか、お姫様の癖に男を囲う趣味でもあるのかい? それとも逆ハーレムでも狙ってるのかい? まぁ、手始めに俺ってのは悪い趣味ではないと思うけどね」
──呆れるぜ、この期に及んで俺に利用価値があると思って、打算的に動いてやがる。
もっと衝動的に動いてくれなきゃ、面白くねぇよ。俺はラスティーナが嫌いじゃないが、ちょっと興ざめだぜ。
もっと感情的に俺を殺しに動いてくれれば、俺はラスティーナに協力するのもやぶさかじゃないんだけどね。俺は俺の事が嫌いな奴が好きだからさ。
「出立は間もなくだ。それまではここで頭を冷やすんだな」
「結構、クールなつもりなんだけどね」
ラスティーナは俺の返答を無視して、伝えることだけ伝えると、さっさと立ち去ってしまった。
ま、イグナシスから出るのは決めていたし、ラスティーナと一緒に出て行くのも悪くは無いだろう。
犯罪者みたいに連行されるのも、新鮮で面白いしね。
ラスティーナが去るとほどなくして、マー君とセッシーが牢屋にやってきた。
ゼティがいないのは、赤神相手にちょっとマジになった反動で動けないからだ。
「呼んだかよ、クソ野郎」
開口一番、マー君が悪態を吐く。
「良いザマだな」
セッシーがニヤニヤしながら牢屋の中にいる俺を見てくる。
お喜び頂けたようでなによりです。ただ牢屋の中にいるだけで相手を楽しい気持ちにさせるなんて、俺ってば、おもてなし上手のエンターテイナーだね。
まぁ、二人は素直に来てくれたから良しとしよう。神として俺は自分の使徒に呼びかけたつもりなんだけど、ルゥ゠リィ・ヘイズは来ていないんだが、まぁ二人いればいいだろう。
「ちょっと話があったんだよね」
「脱獄したいという頼みなら断る」
「出たけりゃ勝手に出ろ。クソみてぇな用件で呼ぶんじゃねぇよ」
手助けしなくても、俺なら牢屋から出られるという、俺の能力への信頼が凄まじいね。感動しちゃいそうだよ。
「別に脱獄したいわけじゃないんだよね」
俺は話しながら、嵌められていた手枷と足枷を外す。
ちょっと力入れれば簡単にぶっ壊せるんだよね。
「話ってのはこの世界での俺の敵についてだ」
白神教会が敵なのは間違いない。そんでもって──
「仙理術士だろ?」
マー君が分かり切ったことを言うなって感じで答える。
でも、そう簡単じゃないんだよなぁ。
確かに仙理術士は俺と俺の使徒で滅ぼしたけどさ。その生き残りだけじゃないと思うんだよ。
「──敵はアロンデイルの生き残りだ」
俺の言葉にキョトンとするセッシー。
対して、マー君は険しい表情を俺に向ける。
「ありえねぇよ。アロンデイル──いや、あの国があった世界の連中は誰一人として生きていない筈だ」
「俺もそうだと思ってたんだけどね」
俺は白神教会の教皇のイザリアがアロンデイルの武術を使ったことをマー君に伝える。
すると、マー君はハッキリと驚きを顔に出し、自分の推理を口にする。
「アロンデイルの生き残りがお前を、いや俺達に復讐しようとしてるってことか?」
まぁ、敵のボスがアロンデイルの関係者だったら、そう考えるのが普通だよね。
アロンデイルの生き残りだとしたら、俺達を恨んでいるのは間違いない。そして、偶然やって来た世界で俺らに因縁があり、俺らを恨んでる奴が、偶然にも俺らの敵となる組織のボスだとか全部を偶然で考えるのは難しいよな。
「……質問をしてもいいか」
セッシーが手を挙げて俺とマー君に訊ねる。
「私はアロンデイルという国? そこであったことを知らないんで教えて欲しいんだが」
あぁ、そうだったね。こいつは失礼、セッシーは何も知らなかったよな。
さて、どうしたもんか。何も知らないと、ちょっと話についていけないよね。いい機会だし、教えておくべきだろう。
「……いいのか?」
何がだい、マー君?
まぁ、最後は後悔しかなかったけど、アレはアレで悪い思い出ばかりではなかったぜ?
ただ、進んで話す気分にはならないだけで、必要があれば話すさ。
「ま、これからも長い付き合いになるだろうセッシーには話しておかないとな。アロンデイルで何があったか。アロンデイルで俺達が何をやらかしたか。アロンデイルの生き残りがいるとしたら、どうしてそいつらに恨まれているのか。色々と知っておいてもらいたいことはあるんだよ」
楽しく話せるところと話せない所があるが、そこら辺は俺が我慢するとしよう。
「──とはいえ、どこから話したものかな」
始まりはどこにしようか悩む所だね。
まぁいい、時間はあるんだし、ノンビリいこうじゃないか。




